第3片 文系少年と新・寮生の引っ越し
「今日、例の子来るから」
「はい?」
4月下旬の日曜日。寮母である香織さん。まだ20代前半ぐらいでポニーテールの年上好きならたまらない人だ。しかもナイスバディ。日曜日なので思いっきり寝坊して今日は寮のみんなと朝食を一緒に食べられなかった。食事の時間は決まっている。遅れても香織さんは朝食を出してくれるのだ。なんて優しいお姉さんだろうか。
「話きいてた?」
「いえ、すいません。みそしるがうるさいもので・・・・」
みそしるに責任転嫁した俺。みそしると会話できる悲しいやつとは思われたくないが・・・・・。
「だから、今日は寮に女の子が入ってくるから」
「あぁーそういえば」
そういえば言っていた。始業式のときに朝言われたおぼえがある。
「確か可愛い子でしたっけ?」
「そこだけおぼえてるのね・・・残念な子・・・・」
なぜそんな目をしているんですか、香織さん・・・。なんか香織さんからの好感度が下がった気がするのは気のせいだろうか。
「なんでこんな中途半端なときに?」
そう、ふつうなら始業式の時にくればいいのだ。2年生とか言ってたし。その方がいいはずなのになんでこんな始業式から2週間後に・・・・。
「なんか休みの日にしたかったんだって。始業式当日も前日も平日だったでしょ?いくら春休みだからって平日は忙しいでしょう、ふ・つ・う・は!」
なぜか俺に言い聞かせるようにいっていた。ふ・つ・う・は!って・・・。ひ・み・つとかで使ってほしい区切りだ。俺だってやることぐらいあるさ!
「だから今日なんだって。で、女の子1人で引っ越しは厳しいでしょ?だから荷物がきたときに手伝ってあげてほしいの」
「俺だけでですか!?みんなは!?」
「その話をしたら用事があるとかいってみんなどこかにいったけど?」
逃げやがった・・・・!逃げたんですよ!そいつら!といっても信じてもらえそうにないので・・・。
「分かりました、手伝いますよ」
「ほんと!?ありがとう」
「えぇ、可愛い子なんでしょ」
「えぇ・・・・・・・・・・まぁ・・・」
「なんですか!?その間!」
「いや・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでもないのよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「香織さん!?香織さん!どこにいくんですか!?ねぇ!香織さぁああああん!」
〇
ピンポーン
下の階からインターホンの音が聞こえる。ここは俺、七実未空の部屋。ゲームやら何やらと少し汚いが寮にしては広いと思う。ベッドもついてるし。
「はーい」
香織さんの声だ。俺も暇だったので1階におりる。1階は食堂にテレビ、ソファがあるかなり広いリビングみたいなものになっている。みんなが夜や暇なときに集まる場所。みんなの部屋だ。香織さんにも一応部屋があるから深夜には無人となってしまう。
「香織さん誰ですかー?」
階段をおりながらきく。
「未空君!ちょうどいいわ。今日からこの寮に来る・・・・・」
「岸島数夏です・・・・・てっあぁああああああああああああああああああああ!!」
「あぁあああああああああああああああああああああ!!!!」
「あれ?なにあんたたち知り合い?」
なにこの展開。どこのラブコメ。よく今さらこんな古いことできたな、神よ。
〇
「クラスメイトだったんだー。へー、未空君に女の子のと・も・だ・ちねー」
「あ?ごめんなさい。ハウスダストと会話してまして。もう一度言ってください」
「七実さんはそんな特技があるんですか!?」
「いや、もういいわ。だから現実逃避するのはやめなさい。そして数夏ちゃん信じない」
というわけで3人で食堂の机をかこんでいた。どういうわけだこれ。
「数夏ちゃんの荷物は2回にもうあるから力仕事はお願いね」
「はいはい」
「七実さんが手伝ってくれるんですか?ありがとうございます。この間、堕天使と戦ったときとは別人なぐらい優しいですね」
「堕天使!?未空君、学校で何してんの!?」
「少なくとも堕天使とは戦ってねぇよ!!」
こいつのせいで会話が成り立たなかった。確かに戦ったけどあれは『ダニエル』じゃないの!?いやーそれにしても驚いたなこんな古典的なラブコメ展開があったとは。ただちょっと違うのは俺は別にこいつのことが好きなわけじゃないということだ。
「それにしても数夏ちゃん可愛いわね、ぷにぷにしてて」
「ほっぺをつつかないでください!」
「香織さんは可愛いもの好きだからなー」
「七実さんも何をそんな温かい目で見てないで香織さんを止めてください!」
〇
「さて、まずはこのタンスだな」
「あぁ・・・私のタンスがどんどん脱がされていく・・・・」
「やりづれぇな、おい!ただ包装されていたのを破いただけだよ!」
最初っからこれで今日中間に合うのだろうか・・・。
「さーて私は何をしたらいいのでしょうか?」
「は?石でも食べてたら?」
「私への指示が雑すぎます!!」
「と言われてもなぁ・・・・・・」
荷物はテレビ、ベッド、それに本棚、机など、主に重いものばかり。正直言って岸島の出番はないんだけどな・・・。でもなんだろうこのやる気に満ちた目は・・・・・・・・・・・・・・・。ふっ・・・分かったぜ・・・。負けたよ。お前の熱意にな。
「よし、分かったお前はその本を持て!」
「えーめんどくさいです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「分かりました!分かりましたからそのタンスを投げないでください!」
「ったく・・・・」
俺はタンスを持って部屋の中に入る。タンスの中にはまだ物が入ってなく、少し小さいので俺1人でも持てるぐらいだった。
「計算によると1mmぐらいのずれなら許せますね」
「は?」
「いや、私の部屋の構図ですよ。計算通りにおいてもらいます」
「無理だよ!俺人間!わかる!?機械じゃねぇんだよ!」
「いや、でもそうしてもらわないと夜な夜な出てきますよ」
「何が!?」
「桜高軽〇部」
「ぜひ出てきてほしいよ!」
大歓迎だった。食事だって出してやらぁ!
「あ、そこはあと2mm横ですね」
「・・・・・・・・・・・・・」
そしてやらされてる俺。何これ。俺手伝ってるんだよね?扱いがひどくないっすか。というわけで一応タンスを設置することができた。
「ふぅ・・・・・疲れましたね・・・・・・」
「俺がだよっ!!」
こいつは何もしていない。頼んだ本すらまだ終わってないのだ。どこで疲れたんでしょうか。それが気になります。
「ほら、次はベッドだ。俺1人じゃ無理だから2人でやろう」
「ベッドで何をするつもりですか!」
「何言ってんだ!ベッドでじゃねぇ!ベッドを!運ぶんだよ!」
「未空君・・・」
「香織さん!?」
「その・・・2人とも同意の上でじゃないとだめだよ」
「あんたは何をきいていたんだ!」
「七実さん。むしろきいていたからこうなったんじゃないんでしょうか?」
タンス1つ運ぶのでこんなに時間かかるとはな・・・。まだやることはいっぱいあるのに・・・。香織さんの誤解を解きベッドも設置成功。こいつ計算を事前にしてたんじゃなくてここでしてやがる。しかも全て暗算。驚くべき才能だよ、まったく。
「えーと、ここの幅が37cmと。だったら・・・・・・・」
「そろそろ休憩するか?」
「いえ、七実さんのせいで遅れているのでもう少しあとにします」
「俺の優しさが!!」
しかも責任転嫁してやがる。すまん、みそしる。こんなに理不尽なことだったんだな。すまん、ハウスダスト。俺はお前相手に面白い話の1つもしてやれなかった・・・・。
「なんかしんみりしているところ申し訳ないけどクッキー焼けたわよ」
「クッキーィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
「子供か!!あと遅れてるんなら作業続けろよ!」
3時のおやつに家に帰る子供みたいだった。それを見て香織さんはまたほっぺをぷにぷにしていた。ほんと、高校2年生には見えないよな。髪は長くて茶髪で大人っぽいかと思いきや、その後ろの髪のすごい下の方ででっかいリボンを結んでいる。あれが子供っぽさを出しているのだ。
「お前、今日のリボンは水色の水玉なんだな」
「はい!このでかいリボンは毎日変えていますからね!」
「ああ、一昨日は赤色だったな」
「なんでそれを!?もしかしてのぞいてました?」
「学校で会っただろうが!」
ちなみに昨日は土曜日なので会っていない。だから知らないのだ。なのにこいつは・・・まったく失礼なやつだな。そして俺も1階へ降りていく。
「あぁ、七実さんは引っ越しを続けてください」
「えぇえええええええええええええええええええええええ!!!」
思わず階段から落下したわ!
〇
「ようやく終わったな」
夕方6時。引っ越しは終了した。岸島もあの後は手伝ってくれた。軽いものばかりだったけれど、重いものを持たれたら俺の存在意義がなくなっちまうからちょうどよかった。
「なんか最近助けられてばかりですね。ありがとうございます」
「今回はそのお礼もらっとくぞ」
正直いって体中が痛い。主に階段落下の痛みが一番だ。でも感謝されて悪い気はしない。達成感さえある。
「未空君、大丈夫?」
「あぁ・・・・はい・・・・・むぐっ」
口にクッキーをつっこまれた。犯人は岸島だった。
「その・・・あの時、食べてなかったですよね?」
「あぁ・・・・むぐむぐ」
「その・・・それ今日引っ越しのあいさつに持ってきたんですが・・・」
「あぁ・・・そうなんか。ありがとう」
「未空君!」
「ん?」
なんか香織さんに怒鳴られてしまった。「まったく鈍感なのね・・・・」と呟く始末。俺は何か悪いことしたのだろうか?
「どうしたんだ?」
「いえ・・・・その・・・・・なんでもないです・・・・」
テンションが下がって部屋に戻る岸島。どうしたのだろ・・・・・・・・・・
「ツァイ!」
なんか変な声出してしまった。香織さんからのとび蹴りだ。
「なにすんですか!?」
「それはこっちのセリフよ!どんだけ鈍感なのよ!」
「何がですか!?」
「あんだけもじもじして女の子がクッキー渡すってことは手作りでしょうが!」
「どこの世界の常識!?」
「まったく。たとえ好きでもない人だとしてもクッキーを渡したら感想がほしいじゃない!具体的に言うとおいしい!っいう一言が!」
「好きでもない人から感想をほしがるんですか?女の子というのは未知の生物だな」
そうか・・・・それであんなに・・・・・・。
「岸島!」
俺は階段を上がる。それをニヤニヤした顔で香織さんが見ていた。
〇
「岸島ー」
「・・・・・・・なんですか?」
ここは岸島の部屋の前。さっきからなかなか入れてもらえない。
「さっきのクッキーさ。おいしかったよ。お前の手作りなんだって?」
「・・・・・・・・・・香織さんの焼いたクッキーの方がよかったんでしょ?」
「はぁ・・・ったく・・・・」
俺はためいきまじりにその場に座りこむ。部屋に入れなくていい。声さえ届けば思いは伝えられる。
「嬉しかった。本当に心の底から」
「・・・・・・・・・」
「ものなんてもらったことないんだよ、友達から。しかも手作りだなんて。本当に嬉しかった」
「・・・・・・・・・」
「香織さんのクッキーはおいしいがお母さんからもらったって感じだな!お前のはどっちかっていうとバレンタインにもらったって感じだよ」
「ぶふっ!バ、ッバアババババレンタイン!?」
「もちろん義理だろうがな」
「そっ!そうですよ!義理に決まってんじゃないですか!」
「若い味っていうのか同世代の子って感じがした。ほんとうに嬉しかった。ありがとな」
「・・・・・はい」
「いつもありがとうをもらってた。でも今その分だけ。いやそれ以上に感じてるよ。ありがとう」
「はい・・・・」
「そしてようこそ・・・・・・・」
「あじさい荘へ!」
「はい・・・ありがとうございます!」
元気が戻ったようなので俺は1階におりる。すると香織さんが笑顔で待っていた。
「香織さん。ありがとうございました。あなたのおかげで・・・・」
「だぁれが母親ですってぇ?」
「ひっ!」
「こう見えてもまだ22よ!お母さんって歳じゃあないんだから!」
「ぐわぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
女の子はやはり未知の生き物ですよ。
どんだけ更新すればいいのかと思っていませんでしょうか?
楽しくてしょうがないですよ!
ちょっと最後にシリアスを入れましたが基本は日常をテーマにやっていきますので。今回のもおまけみたいなもんです。
でわ