第36片 文系少年と妄想少女の改変⑥
「なぁ、数夏」
「はい?どうかしました?」
「いや、あのさー・・・ずっと気になってたんだけどお前って何から何まで名前書くよな」
「これはなくさないようにするためです」
えんぴつに定規、カバンからなにまで書いてあったのを見つけた俺は質問してみた。
「でもお前、ちょっとそういうの恥ずかしいみたいな年頃じゃあ・・・」
「え?」
数夏の顔はとても高校生には思えなく、背の低さもあり、中学生・・・小学生ぐらいに見えてしまう。
「うん、よしよし、偉いぞー」
「なんか失礼なこと思いましたよね、今」
「お兄ちゃん嬉しい」
「誰がお兄ちゃんですか!同学年ですよ!」
数夏無邪気に騒ぎながら・・・
「なんで無視してかってに地の文に入っちゃったんですか!?」
「お前こそ地の文を読むな!」
〇
あの話が本当だとするならば俺のみたものが妄想じゃなければ・・・
「ここは?」
「俺らの家、あじさい荘だ」
「それはなんとなくわかりますけど・・・」
「いいからこい」
俺はあじさい荘の中に入っていく。そして数夏の部屋の前に到達する。あじさい荘の中には人が1人もいなかった。どうやらでかけているようだ。
「ここに何かあるんですか?」
「まぁな」
俺は躊躇などしないで部屋に入る。そこには俺があじさい荘を出る前に見た・・・・・
「猫の・・・コスプレ衣装?」
「ふふふ・・・そうさ。これが証拠・・・」
俺は猫のコスプレの近くに行き、よく見る。絶対にどこかにあるはずだ。絶対に。探せ。俺!時間がない・・・って
「あれ?」
「どうかしたんですか?」
「俺ってここを出てからまだ1時間もたってないのにこんなに妄想の浸食が?」
「何を言ってるんですか。妄想の前に時間の概念なんてありません。時間はもう3日目に入ろうとしてます」
「なっ・・・」
そんな・・・もたもたしてらんねぇ!探すしかないのだから。
「あった!」
「まったく・・・あなたは一体何を探して・・・・・」
それを見た黒曜石もかたまる。そこにあったのは・・・・
「名前・・・ですか・・・」
「そうだ。確か山梨はこれをまだ数夏が持っていると思ってないからな。俺だってさっきというか時間で言うと3日前までは知らなかった。捨てたものだとばかり。だから妄想は消し忘れたんだ」
「そして・・・」
「そう。数夏には所持品に名前をかく癖があっただから・・・これは数夏のいた証拠になる!」
「なるほど・・・でこれをどうするんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え?」
「分かんない・・・・・」
「これはこれはとんだヘタレ主人公についてしまったものです」
「なんか・・・こう・・・掲げるとか?」
「コスプレ衣装を!?変態の所業なんですけど」
「他にどうしろってんだよ!お前妄想ならなんか知ってんだろ!」
「だから言ってるじゃないですか・・・」
その場で黒曜石は嘆息した。
「黒曜石を殺しなさいと。包丁で刺しても大丈夫です。痛みの方は苦手なんでなるべくすぐやれるやつを・・・」
「だからそれは却下だって。殺すんじゃなくて戻すんだよ、元の世界に」
「でも実際どうするんですか?」
「むー・・・誰に認めさせればいいのか・・・山梨とか?」
「今回の妄想に山梨戸張はあまり関係ないです。確かに意思はありますが、それを通して山梨戸張に話しかけるのは無駄ですよ。もう少し妄想の力が弱かったら別ですが」
「じゃあ、本格的にどうすっかなー」
しかしその瞬間さわやかな鈴の音が鳴り響く。
「なんですか?この音」
「これは・・・緋色のベル?」
ベルが鳴った瞬間、妄想の世界は壊れ出す。しかしそれも所詮まやかし。頭が正常に戻る時間もわずか。しかしその少しだけでいい。妄想が弱まった今なら妄想を通して伝えることができる。
「山梨。数夏はいるぞ。これを見ろ。名前だ。これがあいつがいたっていう完璧な証拠だ。そしてお前はもうちゃんと休め。下がる熱も下がらなくなるぞ」
バキバキっという音がする。この音はだいぶ前にもきいたことがある。
「世界が壊れる音・・・か」
「っていうことは黒曜石もこれまでのようですね」
「ん?あぁ、お前とはもっと別の会い方をしていれば仲良くなれたかもな」
「あなたは敵にたいして何を・・・」
「だってお前も数夏だったんだろ?代わりとはいえ他人のような気がしなくてさ」
「・・・・・黒曜石も。黒曜石ももっと違う出会い方をしたかったかもです。あなたのまわりは賑やかで面白そう」
「疲れるけどな」
ニッと笑う。こいつは会ったときから戦う意思みたいなのがなかった。殺されるのを待っていたんだ。こいつ自信だれかの代わりなんて嫌だったんだな。まぁ、憶測だけど。
「じゃあ、またな」
「うん、岸島数夏と仲良くね」
その瞬間、黒曜石はいなくなった。それと同時に世界が崩れる。俺は長い夢を見ているような感覚で。その夢が覚めたような感じがした。ただそれだけ。今回のは夢だったんだ。
〇
なんだろうか。この感じ。夢?妄想?なんだっけ?からだには力が入らない。なんだこの浮遊感。浮遊感とも違う・・・あれ?なんか気持ちわる・・・なにこれ。
「あ、目がさめた七実くん・・・」
「あ、あぁ、うっぷ・・・気持ちわる・・・・・はきそう」
「えぇ!?ちょっ・・・ひいろーん、袋!あの七実くんのカバンでいいや」
「なんで俺のカバンがエチケット袋!?トイレ行ってくる・・・」
目が覚めるとそこには山梨がいた。熱は下がったのか?というか俺は長い夢をみたような気がする。はて?なんだったっけな・・・。
「あれ?吐き気がおさまった」
なんだよートイレの中に入ったところなのにーとか文句を言いながらポケットからティッシュを・・・するとなにやら紙がでてきた。
「んだこれ?」
開いて見ると黒曜石という名前のやつから。なんかどっかできいたことあんなこの名前。内容はまとめると吐き気がするのは妄想汚染のせいらしい。軽く記憶がないんだけど妄想汚染っつーことは俺はまた妄想の世界に入ってたのかね。
「はー今度の妄想は数夏を消したのか・・・なんでまた・・・」
黒曜石という人の憶測によると、俺はあることをきっかけに誰とも話さず、元気のない日々があった。これは説明しなくても分かる高校1年生のころのことだ。まわりにはなんとかしてあげたいという人がたくさんいて手を尽くしたがどうにもならなかった。しかし岸島数夏は1日、2日で元気を与えた。それが羨ましかったらしい。この憶測は外れてるな。山梨はそんなことで羨ましがらない。
「記憶が消えてる理由は書いてないな・・・」
「・・・・・それは妄想の世界いすぎたせい」
「おぉわ!」
俺の後ろには緋色がいた。
「なんだ緋色か・・・ってここトイレなんだけど」
「・・・・・・大丈夫。私はあなたに興味がない」
「あそう・・・」
「・・・・・今回は少し妄想をあびすぎ。脳が上手く解釈できなくてなかったことになった」
「そんな長い時間妄想にいたのか・・・」
「・・・・・帰ってきてくれてよかった」
「緋色・・・」
「・・・・・明日から夏休みだからたくさん遊んでほしい」
「寝かせろ。ってか今日終業式!?」
「・・・・・もう用意しないと」
「やべぇ!」
俺は自分の部屋に戻り、制服を着る。もちろん夏服である。Yシャツの長袖をひじまでまくり学ランなのでネクタイはもともとないがボタンをあける。ズボンも薄いのを選ぶ。俺は急いでカバンに荷物をつめ・・・
「七実さーん、おいていきますよー」
「ま、待ってくれ!」
なぜだろうか口元がゆるむ。長い間きいてなかったかのような感じを覚える友の声。俺はその声が待つ方へ駆け足でいく。おいてかれないように。負けないように。
これで改変編終了とさせていただきます。
次からはじみーにたわいもない日常を書いていくのでよろしくお願いします。
でわ。