第32片 文系少年と妄想少女の改変②
「それは笑えない冗談ですよ、先生。数夏がなんだって?」
「いや、この前亡くなっただろ。先生も本当に悲しかった・・・お前も葬式にいただろう」
「俺が・・・?」
「確かにお前と岸島は仲が良かったからな。でも混乱するな」
意味が分からなかった。なくなったってどういうことだ・・・?死んだって事なのか?なんで?昨日までは普通に話せていたのに。そして今日も同じ日常だったはずなのに。
「おはようーっす」
「中丘。遅いぞ、もう終業式が始まる」
そう言って中丘という生徒は数夏の席に座ろうとする。それを防ぐように俺はそいつの胸ぐらをつかんで壁に叩きつける。
「なにやってんだ、お前」
「いっつー、いきなり何すんだよ、七実」
なぜ俺の名前を知っているんだろう。俺はこいつを知らない。そう、いなかったやつがいるんだ。
「そこは数夏の席だ」
「数夏?岸島なら死んじまったろうが」
「そんなはずねぇだろ!昨日まで俺はあいつと一緒にいたんだぞ!」
「はぁ?何言ってんだ?岸島はもう2か月前に死んでいるだろう・・・」
「なにいって・・・」
そこで気付く。まわりがおかしいんじゃなく、俺がおかしいと思われていることに。まわりのクラスメイトからは同情の視線をむけられている。そう、数夏の死を認めたがらない可愛そうな人だと思われている。
「なんなんだこれ・・・ちくしょう!」
「おい、七実!もう終業式だぞ!」
俺はどんな言葉も聞こえない。もう何も考えられない。考えたくない。廊下をひたすら走り、玄関まで行く。これからどこへ行くかなどは分からない。けれど、何かに集中しないとやってられなかった。死ぬしかないと思ってしまうように。
ドンッ
「つっ・・・」
「おっとっとごめんなさい」
俺は前を見ずに走っていたため誰かにぶつかってしまう。声からして女の子だろうけれど。俺は顔をあげた。
「す、すんません・・・」
「あ、こちらこそってなんだ七実くんじゃないか」
「え・・・?」
知り合いか?と目をこらす。
「なんで・・・?なんでだよ・・・・・」
「ん?」
「なんでお前がここにいるんだ!」
「なんでって今日遅刻しそうになってたんだよー、間に合うかな?終業式」
そこにいたのは俺の知り合いで、そして今日ここにいるはずのないやつ。
「山梨・・・」
「ん?なんだい?そういえばなんで七実くんはここにいるんだい?」
「お・・・まえ・・・・・熱は?」
「熱?なんの冗談だい?私はいつも元気だよー!」
「そんな・・・くっ!まぁいい!数夏を知らないか?」
「す、数夏ちゃん?」
「おう、あいつ俺にドッキリしかけてるのかもしれないんだ」
「そ、そうなんだ・・・でもね、七実くん・・・」
「死んだなんて言うんだぜ。ひどい冗談だな」
「七実くん・・・その・・・数夏ちゃんはね・・・」
「山梨・・・?」
「死んだんだよ」
「!・・・・・・・・・ちっ!」
俺は玄関から飛び出す。しかし山梨と話して少し考えることができた。次はちゃんと目標がある。
〇
「やっぱり無理だったか・・・」
俺が来たのは住宅街。数夏の親父の家があった場所だ。本当ならまだ残っているはずなんだが、そこはどでかい空き地になっていた。
「あの、すいません」
「?なんでしょう?」
「ここに住んでいた岸島っていう人はどこにいったんでしょうか?」
「ここには誰も住んでませんでしたよ」
「え?そんなはずは・・・」
やはりおかしい。あんなでかい豪邸、人が気付かないはずがない。ってことはなかったことになってる?
たまたまいた女の人にきいてみたが何かおかしい。
「でもこんな不思議な空き地、あやしくないですか?」
「え?普通の空き地でしょ」
「・・・・・そうですね。ありがとうございました」
「えぇ」
俺は寮に戻ることにした。
〇
「緋色・・・数夏は・・・」
「・・・・・・・私も分からない」
「高松も駄目か」
「うん・・・ごめんね」
俺は緋色と高松に全て話した。昨日まで山梨を看病していたこと。そして昨日まで数夏と一緒だったこと。しかし緋色も高松もやはり数夏は生きていないと言っている。ちなみに香織さんに話したところ泣きながら慰めてきたので諦めた。
「そうか・・・いや、いいんだ」
俺はある確信があった。さっきの住宅街での女の人は空き地を普通の空き地だと言っていた。あんなドームが何個も入るような空き地を。そう憶測だがあれは俺にしか見えていない。俺がおかしいと錯覚させるようなことばかりだが俺はおかしくなんかないはずだ。それを証明するためには・・・。
「おい、柏部」
俺は柏部の部屋の前でノックした。しかし返事はない。
「・・・・・・」
「入っていいわ」
返事があったので部屋に入る。しかしその前に数夏の部屋の前に行く。あいついつも勝手に俺の部屋入ってきてるし、俺も入っても・・・駄目ですよね。しかしドアが少し開いていてその隙間から中が見える。
「不可抗力・・・不可抗力・・・不可抗力」
そういいつつ見ると中には何もなかった。俺は少し残念に思い、閉じようとすると1つだけ物があった。
「ふふっ・・・」
俺が数夏の誕生日にあげた猫のコスプレ。
俺はそのままドアを閉め、柏部の部屋に入る。
「柏部」
「あなたが聞きたいことは分かるわ。だから大きい声を出さないで頂戴」
「お前・・・」
「まず、私は正常よ。それとおかしいのはあなたじゃない。おかしいのはこの世界」
「この世界?」
「私も時間がない。座って頂戴。1回で理解しなさい、低能な人間」
この世界がおかしい。そう言われただけでも救われた気がした。この世界で起こっている不思議。それを知らなければならない。
「説明するわ。これは全部『妄想』よ」
その一言とともに俺らの作戦会議が開始された。
いつもはこう、日常を書けばいいのですがこれは難しい。
自分で書いといてなんなんですけれど。
まだ改変編は続きます。
でわ