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後実談 文系少年と理系少女の奮闘 結章

「あ・・・・・七実くん」

「よ、久しぶり」

 久しぶりに会った高松はとてもきれいになっていた。昔2つに結んでいた髪は結ばずにロングになっている。家の中だけかもしれないが、それでも大人びて見えた。

 俺は柏部の件があったあとに高松にメールを出した。もちろん、内容は本についてだ。

 やはり大学生になってから何かの賞を受賞したらしく、本を出したそうだ。それについて話したいとメールを送ると割とあっさりオーケーしてくれた。

 前に会えないと言ったのは俺が本のことについてまだ知らないと思っていたからなのだろうか。

「えっと・・・これ」

「あ・・・それ私の・・・」

 やっぱり数夏が持ってきた本は高松の書いた本だったらしい。ちなみにその数夏は寝坊である。あいつまだ寝ているらしい。

「やっぱり高松のなのか、これ」

「な、なんで七実くんがこれを・・・?」

「数夏が偶然見つけたんだ。で、だ。本題に入りたい」

「本題・・・?」

「お前の悩みを教えてくれ。俺はその手助けをしたい」

「・・・・・」

 高松が黙りこむ。いまさらなんで悩みがあることを知っているんだ、というような質問はしてこない。

 俺は高松から話すまで待ち続けた。そして・・・。

「し、シリアスなところ悪いんだけど、話のネタが思いつかなかっただけなんだ。締め切りが近くて」

「え・・・?」

 最後の最後。まさかの500文字で終わる・・・だと・・・?

「しかも、もう思いついたから・・・その・・・七実くん気持ちはありがたいけれど」

「い、いや、いいんだ・・・」

 なぜかものすごく恥ずかしかった。なんか主人公気取りで盛り上がっていたのは俺だけだったようだ。

「あ、あの・・・お茶飲む?」

「・・・・・そうする・・・」









「うん、いいよ」

 俺はお茶をもらい、数夏の悩みを聞き出したいこと、そのためにみんなあじさい荘に集まること、高松にも手伝ってもらいたいことを話した。するとすぐに返事が返ってくる。

「い、いいのか?」

「もともと断る理由なんてないよ。締め切りも乗り切れそうだし。それにわざわざ私の家まで来てくれたしね」

「ありがとう」

 俺は心の底からお礼を言う。これでお前の悩みは解決しそうだぞ、数夏。

「それにしても高松が作家になってるなんてなぁ・・・驚きだ」

「私が一番驚いてるよ。でも小さい頃からの夢だったし、親も許してくれてる。勉強との両立ができるなら、だけどね」

 苦笑いしていたが、高松のことだから勉強方面は心配いらないだろう。俺の方がやばいぐらいだ。自分で言っていて泣きたくなるが。

「で、いつ集まるの?」

「できれば、明日」

「あ、明日?急だね」

「いや、都合が悪いならいいんだけど・・・」

 数夏の悩みをはやく解決してやりたい、という気持ちからきたものだったのだがさすがに自分勝手すぎたと反省。相手の都合も考えなければな。

「ううん、全然大丈夫。でも大学終わってからでいいかな?」

「ああ。夕飯を食べに行きたいから集まるのは午後4時ぐらいだし」

「じゃあ、大丈夫だよ」

 そう言って俺が飲み終わった湯呑にお茶を注いでくれる。なんか、すごく緊張していた。なぜ女性が給仕をやる姿ってこうもドキドキするのだろうか。ちなみに数夏に任せてたらやけどしないかどうか気が気じゃないので違うドキドキが発生する。

「じゃあ買い出しもいかないとね」

「うん。久々だし香織さんを休ませてやりたい気持ちもあるしな。大分遅れてしまったけれど恩返しだ」

「今って何人ぐらい人数がいるんだろう」

「あー、それによって材料の量も変わるよなぁ」

 俺が携帯をひらいて香織さんに電話しようと思ったのだが高松に止められる。

「最後まで内緒にしよう。香織さん驚かせたいし。それに10人分作れば十分だよね」

「・・・・・・高松って意外と大雑把だよな」

 しかしその案のった、そう言って俺は高松の家を後にした。







「「「「「「こーんにーちはー」」」」」」

「あなたたち・・・もう大学生よね・・・・・」

 翌日。あじさい荘の入り口には俺、七実未空と数夏、飯島に緋色、柏部、高松が集まっていた。小学生風に尋ねてみたのだが。

「インターホンあるでしょう」

「香織さん・・・俺らをなめるな」

 インターホンを知らないわけではない。あえてそうしたのだ。

「余計馬鹿さかげんが増したと思うけれど・・・」

 香織さんはなぜかげんなりしていた。しかし心なしか少しいつもより上機嫌に見える。俺らもそれを見て久々のあじさい荘を前に喜びを表していた。

「いくぞ、せーの」

『ただいまー!』

「おかえりなさい。久しぶりね、あなたたち」

 玄関に入り、靴を脱ぐ。リビングに変化はない。しかしそこにいる住人に変化があったみたいだ。

「お兄ちゃん!?なんでここにいるの!?」

「なぜそんなに驚く神子ちゃん」

 俺の実家の近所の子供、神子ちゃん。妹同様に可愛がっていたのでお兄ちゃんと呼ばれているが、どうやらそれだけじゃなく、キャラ作りのためもあるらしい。

「お兄ちゃんがくるなら来た瞬間に抱きつくのに・・・」

「神子ちゃんが言うとなぜか素直に受け止められない・・・」

 「ちっ・・・キャラ作り失敗・・・」と呟いている神子ちゃんを見ていつか必ず津神坂先輩に一発言ってやろうと思う中、他の住人がいないのかと探してみるも神子ちゃん以外はいないらしい。

「なぜか気をつかってくれて・・・一緒にいていいのに」

「みんな優しいんですよ。香織さんが大好きで、しょうがないんです。まぁ、神子ちゃんは見なかったことにしましょう」

「香織さーん、台所使っていいですか?」

「あ、私やるわよ」

 高松が台所に入るのを追うように香織さんがいこうとするのを俺は止める。

「今日は俺らに任せてください」

「え?で、でも・・・」

「高松をリーダーに飯島が切り、緋色が味付け、数夏が火担当で柏部がレシピを読んで教える。どうです、完璧な布陣。こんなコンビネーション高校生のときと比べると信じられないでしょう」

「確かにそうね・・・1人引きこもりがいたし。で、君は何をやるのかな?」

「・・・・・・・香織さんの話相手です」

「そう」

 香織さんはそれ以上きかないでくれたが、きっと察したのだろう。俺が戦力外通告されたの。







「香織さん、七実先輩がー、なんかー数夏先輩といちゃいちゃしっぱなしなんだけど」

「してねーよ!飯島、何言ってんだ!」

「・・・・・・・・・でも未空。ずっとにやにやしてた」

「お前も味方ではないみたいだな」

「そ、そうですよ!してません!」

「あらー私はいちゃいちゃしてるように見えたけどなー」

「香織さんまで・・・」

「あ、あの・・・みんなそこまでにしたほうが・・・」

「戦慄するわ。あなたがそのようになるまで堕ちてしまうなんて。恐ろしいわね恋」

「お前あえてルビふらなかったが恋と書いてなんと訳した」

「ヘル」

「なんで地獄なんだよ!」

「あれ、七実先輩、それは天国といいたいのかな、数夏先輩との付き合いが」

「ヘブン」

「うるさすぎる・・・」








 食器を片づけ終えて俺はみんなに目配せする。みんなうなずき、準備はできた。

「数夏」

「はい?」

 数夏の悩みを聞き出すこと。いろいろとたくさんのことがあったけれど俺がやりたいのはそこであった。

「お前、なんで日本に戻ったんだ?」

「いえ、それは七実さんに会いに・・・・・」

 そこで止まる。みんなが真剣な顔になったことに気付いたらしい。数夏は「そういうことですか」と呟くと少し笑って真剣な顔に、泣きそうな顔になってから話し始めた。簡潔で短い言葉を。

「私は日本にいたいんです。みんなの近くに」

「・・・・・」

 とうとう聞き出せたそれは分かりやすくて心にぐっときた言葉であった。

「半ば逃げてきたようなものなんです。ホームシックではなく、フレンドシック。それにラバーズシック、ってやつでしょうか」

 少し照れてそう言う。

「私はここにいたい。今すぐ大学をやめて七実さんの・・・未空さんの近くに、みんなの近くにいたい」

「・・・・・なるほど」

 悩み、だなんてずいぶんと大きな言葉を使ってしまった。そうじゃなかった。もっと簡単なことだったんだ。みんなといたい、それだけだったのだ。

 しかし俺はこれに対する答えをすぐに思いついていた。それを口にする。

「嫌だ。俺は数夏とはいたくない」

「え、えぇ!?」

 数夏が驚いた顔をする。まさかこんな答えがくるとは思っていなかったのだろう。若干泣きそうになっている。

「私も同じく」

「・・・・・私も」

「あの・・・私も」

「私もよ」

「えぇ!?・・・そ、そんなぁ・・・」

 今度こそ辛辣な言葉に涙をためる数夏。この顔すらも可愛いと思ってしまう俺は本当に病気かもしれないと思ってしまう。

「今のお前とはいたくないって意味だよ、数夏」

「え・・・と。それって・・・」

「お前には夢があって目指す場所もある。それを捨てることはダメだ。俺はそれを捨てられたら俺のせいで諦めざるを得なかったって思うぞ」

「そんなことないです!」

「だとしても、俺はそう思うぞ。言葉ではなんとでもいえるからな」

「・・・・・」

「俺はお前といたいけれど、でもそれは夢を追うなってことじゃない。夢を追っていってアメリカに行った時俺は寂しかったけれど嬉しかった。嘘じゃない」

「・・・・・」

「俺の頑張る糧でもあるんだ。お前が頑張ってるから頑張れる、そういう風に」

「・・・・・・言葉ではなんとでも言えますよね」

「うっ・・・」

 まさかの返しだった。自分の言った言葉がまさかこんな威力を発揮するとは。「馬鹿じゃないの?」みたいな目でみんなが見ていた。否定できない。

「でもそれを信じてみたいとも思いました」

「数夏・・・」

「あなたを好きになってよかった、未空さん」

「そうか、俺もだよ」

「せんせー!やっぱりいちゃいちゃしてます!」

「なっ!おい!」

 飯島が香織さんに告げ口し始めた。「誰が先生よ」と言いつつ笑顔の香織さん。俺らは戻ってきたんだと深く、思った。







 玄関。俺たちは円陣を組んでいた。なんだこれ。

「よーし!みんな私の声に続くんだ!」

 飯島が叫ぶ。円陣には香織さん、俺、数夏、飯島、高松、緋色、柏部、神子ちゃん、それに帰ってきた新あじさい荘のメンツを加えていた。

「新メンバー!香織さんを頼むぞー!」

『頼むぞー!』

「た、頼むって何よ!」

「絶対また会おう!絶対に!絶対に!またここで!」

『おー!』

「ここ、シャボン・・・・・・」

「それ違うから!違う作品の2年後だから!」

『また会うぞー!』

『おー!』

 夜、遅いにも関わらず近所迷惑覚悟で叫ぶ。俺達がここにいたということを残すように。

「次来るまで待っとけ」

 俺は誰に言うでもなく呟いて、みんなの輪へと戻っていった。

遅くなりましたが、後日談最後の話です。


あと1話で完結です。


それもこの後投稿します。


あいさつなどはそちらのあとがきで。


ではまた次回、最終回で。

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