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後実談 文系少年と理系少女の奮闘 転章

「さっそくだけれど私に協力してほしいの」

『・・・・・・』

「聞いているのかしら?それともその顔の横にある耳はただの飾り・・・?」

『・・・・・・』

 未だかつてない状況に俺、七実未空と岸島数夏、飯島戸張は声を一切だせないでいた。まず、落ち着いて前回のあらすじ、というかなぜこうなるに至ったかを簡単に説明しよう。

 知らん美少女にさらわれた。

 以上だ。

 なんだその状況。しかもここはその女の子の部屋らしい。あたり一面にアニメやら漫画やらそれ関連のグッズやらがきれいに整頓されて置いてある。

 ただ気になるのはそこではなく、部屋の大きさだった。普通の部屋のおよそ何倍か・・・いや何十倍かもしれないその部屋は俺にとっては夢でも見ているかのような光景。

 部屋というか家自体お城みたいな大きさだった。数夏の家もなかなかに大きかったが・・・これはそういう次元を超越してる。家の中に街があるみたいな不思議さも感じられた。

「あなたたち聞いているの?」

 顔は日本人、しかし目は青、髪の色は金、服は豪華なドレス。しかし顔、声は知っている・・・?なんだか他人のような気がしない。

 髪の金は少しくすんで黒みがかっているのを見る限りハーフとかではないのか。クォーターとかか。

「あ、あのー・・・・・」

 おそるおそる声を上げる。とりあえず突破口は開いた。

「なに、聞いていたの?」

「え、えっとその前にですね・・・あなたはどちらさまで?」

「は?」

 何言ってんだこいつみたいな顔をされた。

「大学に受かったからそれ相応の学力は身につけていると思ったいたのだけど間違いだったみたいね。あなたは本当に変わっていない」

 遠い目をされた。なんだろう・・・知らないところでどんどん話が進んでいっているような気がする。

 てか、数夏も飯島もなんか話せよ!なんでだんまりなんだよ!俺、緊張で手汗がやばいことになってるんだけど!

「あなたは1つ屋根の下一緒に過ごしてきた人間を忘れてしまうような薄情な人。そう思っておくわ」

 え?えぇええええええええええええええ!?

 ひ、ひとつ屋根の下!?いつ!?俺が!?

 やべーよ、数夏めっちゃこっち見てるよ。飯島も心底幻滅した目で見てるんですけど。

 知らん!知らんぞ、こんなやつ!

「あの・・・人違いかなんかじゃないでしょうか・・・」

「本当に覚えていないのね。なら思い出させてあげるわ・・・体を使ってね」

 えぇええええええええええええええええ!?

 そんな思い出すような甘い経験なんてないんですけど!なんでさっきからこいつ俺に対してこんな積極的なの!?

 数夏が首をかしげている。よかった・・・こいつが何も知らないでよかった・・・。ただ飯島は完全に敵の目で見ている。お前さっきまでの感動話を忘れるな。

「あなたは何か勘違いしているみたいだけれど、変な意味ではないわ」

 と異変に気付いた美少女が俺に一言。だろ!だって覚えてないし、そんな素晴らしい経験。

「あなたを呪い殺すという意味よ、黒魔術でね」

(じゅ、十分変な意味だったぁあああああああああああああ!!!)

 心の中で突っ込む。黒魔術ってなに!?

「って黒魔術・・・・・?」

 なんだ・・・この感じ。どこかで覚えがあるような。黒魔術を聞いたことがある大学生というのもなかなかにアレだが、しかし知っている。

 俺はこいつを知っている・・・?

「お前・・・・・もしかして・・・・・柏部か?」

「そうよ、それ以外に誰だというのよ」

『えぇええええええええええええええ!?』

 全員で絶叫した。







 家へと帰る途中の道。飯島と数夏をそれぞれ帰宅させたあと、俺は帰りながら考えていた。

「・・・・・・」

 柏部の頼みごとについて。

 柏部の正体が分かった時、俺ら全員で驚いた。

「な、なんで・・・お前・・・・・・」

 言葉が思うように出ない。それほどまでに事態は混沌としていた。あいつの髪の色は黒で、目はカラコンで真っ赤、それにドレスではなく、コスプレのゴスロリ服。それが俺の知ってる柏部。

「なにがよ」

「何がってお前・・・その格好」

「格好・・・?」

 そう言って自分の格好見る。しばらくの沈黙。何を考えているのかは分からないがわなわなと体を震わせている。顔が青ざめ、そして顔は・・・。

「!・・・・・・」

 しまった!みたいな顔をしていた。うん、なんか分かってはいたけれどこいつ基本どこか抜けてるよな。ドジっ子だ。威圧的で信じられないぐらい偉そうな中2病ドジっ子はちょっと勘弁だが。そんなピンポイントな需要があるとは思えない・・・。

「・・・・・・・・」

「あの・・・柏部・・・?」

「ふっ・・・」

「ふ?」

 口元がつりあがる。笑っているのかそれとも何かを完全に諦めたのか分からないが不気味の一言。美少女・・・というかフランス人形みたいな容姿をしているのにもったいない。

 その思いが届くはずもなく、柏部は普通にらしくその言葉を述べた。

「ふふふふふ・・・あはははははは!かかったわね、私の幻影魔術『霧の中の城ミスト・オブ・キャッスル』に!私はあなたに私の姿を誤認させる魔術をかけていたのよ!」

 どちらかといえばその幻影魔術はお前自身にかかっていたんじゃないだろうかというこの場にいる全員の疑問の方が間違っているかと思わせるような態度に俺達は驚愕する。

「えっと・・・一応協力だかなんだかするためにはそこらへんの事情も聞いておきたいんだけど」

「・・・・・」

 こわい!なんで睨むの!?

「まぁ、いいわ。特に隠すようなことでもないから」

 絶対嘘だった。隠しまくろうとしてた。自分のキャラまで使って。

「柏部・・・というのが私の名字だってことはあなたたちも知っているわよね」

 うなずく俺達。そんな確認に何の意味があるかは分からない。けれどきっと必要な確認なのだろう。

「だったら成宮という名字に覚えがあるかしら」

「・・・・・・」

 成宮・・・?どこかで聞いたことがあるような、ないような。うーん、と唸って考えていると横に変な緊張感からか正座していたことを忘れているかのような体育座りの飯島が。

「私たちの代にいた生徒会の会計だよ、七実先輩。お金持ちの」

「あー」

 そういえばいたな。すごい風格を持つ人が。生徒会の人々は飯島を始め、なぜかその様子に慣れきっているのか気にしていないみたいだったが、あの人の雰囲気というか態度はお姫様といった感じで近寄りにくかったりした。

 そう、まるで今の柏部のように。

「なんとなくわかったでしょうけれど、成宮グループというのはここらへんで1、2を争うほどのお金持ち。駅前の広場にあるほとんどのお店がそこのグループが経営しているものよ」

 で、と区切る。そして何かを決意したようなまなざしをして。

「そこと1、2を争っているのがうちの柏部グループよ。まぁ、他にも木野白グループとかもあるんだけど」

「なっ・・・!」

 こいつお金持ちだったのかよ!

「今までおごった飲み物とか返せ!」

「七実先輩、器が小さい・・・」

 俺が一定期間だけバイトしてためたお金を使ったんだぞ!小さいもなにもあるか!

「まぁ、返せと言われれば返すわ。100万倍とかにして」

 にやりとまた風貌に似合わない意地悪い笑顔を浮かべる。勝てねぇ・・・。

「とお嬢様ながらにそう言いたいのだけれどうちのお金は私が働いて得たものではないし、あまり使いたくなかったの。だから正直あなたのジュースはありがたかったわ」

 ・・・・・・。

 なんだか人間的に負けた気分だった。

 そんな気分はみじめで一刻もはやく吹き飛ばしたくなったため、俺は話題を変える。

「なんでそのこと隠してたんだよ」

「お金を使わないんじゃ家にお金があっても私はただの人間でしょ。言う必要がないわ」

 ただの人間かどうかは議論が必要だが、理にかなってたりしなくもない。俺にはもう何が何だか分からない思考放棄をしただけだが。

「だからバイトして趣味に使うお金をこつこつとためていたわけ」

「バイト!?」

 引きこもり状態でどうやってバイトしていたのか。学校休んでバイト行ってたのか・・・?

「家でできるものだった今ではたくさんあるわ。私は正真正銘の引きこもりよ!」

 なぜ偉ぶる。

 誇れるものが今の会話のどこにあったというのか。

「で、その容姿はどういうことなんだ?」

「これが私の本当の姿・・・いわゆる『トラスト』ね。私なりの幻影魔術を今まで使ってきたのだけれどまさか自分のドジでこの姿を見せることになるなんて思わなかったわ。あなたたちの中に対幻影魔術を使える『白魔術師』のジョブを持つ人間がいるのかと思ったわ」

「・・・・・・・」

 本編で出番があまりないからここで全力だった。

 話がまわりくどくて何を言っているのか分かりにくいがまとめると。

「今まではその姿を隠していて、それが今回たまたま俺達にお前のドジのせいで見られてしまったと」

「ええ」

 さっきの言葉のほとんどがいらなかった。

「なんでそれを隠してたんだよ」

 正直黒い髪のカツラに赤いカラコンという姿より今の方がすごくきれいだと思うんだが。

「目立つし、恥ずかしいわ」

「・・・・・・」

 お前に恥の概念があったことに驚きだよ。あと、普段のお前の方が万倍恥ずかしいぞ。

「あと、これもちなみにカラコンだけど」

 そう言って柏部は自分の目から青いカラコンを外す。それでも、なお、外国っぽさと人形みたいな可愛さは健在だった。

「おじい様がアメリカ出身なの。でもなぜか遺伝的に髪の毛の色以外はほとんどが純日本人。それが小学校のころ、少し恥ずかしくて変装して過ごしていたらそれが癖になったしまった」

 途中からはお前の趣味になってんじゃねぇか・・・。

「まぁ、それは分かった。でも何を協力してほしいんだ?」

 こう言ったら柏部は怒るかもしれないが将来有望なお嬢様。どこにも不安な要素など見当たらなく、庶民の俺としてはうらやましいぐらいに理想だ。

 しかしその話題を切り出したとたん、柏部は悲しそうな顔を浮かべた。

「執事を・・・執事を1人、説得するのを手伝ってほしいの」

 そう言った。今にも泣きそうな声で。

 そうして具体的な内容はまた明日聞くということで今日は解散になった。ちなみに数夏は緊張しすぎて会話が頭に入っていなかったようで柏部だということに最後の別れ際まで気付かなかった。

 どうりでおとなしかったわけだ。

「はぁ・・・」

 自分の部屋のあるアパートの階段を上がりながら思わずため息をつく。

 悩みがあるのなら確かに解決してやりたいが・・・いつの間にか七実未空相談教室、みたいになっていた。嬉しいんだけど、これでは当初の目的を忘れがちになる。

「数夏・・・」

 あいつの悩み。でもそのためにみんなで集まらないと話にならない。気持ちを切り替えて明日の大学の用意をしようと部屋の中に入る。

 正直もう眠すぎて意識は朦朧。忘れ物や宿題はないかとある程度見たあとすぐに布団にもぐりこんだ。







 翌日昼。

 大学を終えた俺は柏部の家に行こうと数夏と飯島を連れて行こうとしたのだが、しかし飯島は大学が長引くらしく、そして数夏は用事で遅れて行くということだった。

 俺が1人であの豪邸に入ることに気後れしないわけではないが、数夏が1人でここまでたどり着けるのかが心配だった。方向音痴というか子供みたいに土地勘がないのだ。

 でかい門の前にたつと自然に扉が開き、インターホンらしきものから「入っていいわよ」といったような柏部の声が聞こえる。俺はここで情けない姿を見せないためにも堂々とした様子で門をくぐる。

「いらっしゃいませ」

 俺の心意気はここで砕けた。

 きれいなスーツに身を包んだ男性。柏部の父親かなと思ったがどうやら違うらしい。この人は漫画とかでしか見たことのない執事、だった。

 そして補足。顔が恐ろしく怖い。結構な年齢だと思うのだが、それが気にならないぐらい元気そうな姿。最初極道かなにかかと思ったことは秘密である。言ったらコンクリートに詰められる予感がした。

「お嬢様に会いにこられたのですか?」

「え、えぇ・・・まぁ・・・」

 目を合わせられん。しかしその執事は笑顔でひたすら話しかけてくる。

「しかし生憎ですが、お嬢様は今、外出中でして」

「はい?」

 そんなはずはない。俺は確かにインターホンで彼女の声をきいた。そう言おうと思ったら後ろからきれいな姿をした金髪柏部が走ってきていた。

網走あばしり!何をしているの。その方は私の客人です」

「お嬢様」

 すると俺に話しかけていた網走とかいう執事は柏部のもとへ。

「お嬢様!なぜここに・・・?今は大学を終えた後のバイオリンの稽古のはずでは・・・?」

「そんなものサボったわ。いいから彼を通しなさい」

「で、ですが」

「網走!と・お・し・な・さ・い!」

 いつもの柏部だった。今日あらかじめ電話で聞いていた内容との違いに戸惑う俺。今日、柏部は俺に電話をかけてきて「お父様とお母様も外国に行っていていないの。それに大学に近いし、自由にできると思って実家に戻ってきたら執事がいたのよ・・・盲点だったわ。昔からいた執事なのに・・・」

 盲点すぎるだろと思った。

 お前忘れるなよ、と。

 しかしそこではない。こいつは「中2病、というかアニメ趣味全般執事やメイド達には内緒なの。だから決して言わないで頂戴」と。

 思いっきり負のオーラをまとっている柏部に唖然としつつ、あたりを見渡す。庭、のようなところなのだろうか、ここは。広すぎて実感がわかない。あちらこちらでは他の執事やらメイドさん(若い子ばかり)が庭いじりをしている。

「あ、おい、柏部、お前・・・・・」

 注意しようと思ったら途中で言えなくなった。他の執事が俺の目の前に現れて。

「お前・・・?今、あなたはお嬢様のことをお前呼ばわりしましたか?」

「・・・・・」

 ダラダラダラダラダラダラと汗をかく。こわい。美形の執事なのにこわい。というか慕われすぎだろ柏部。どんだけ大事にされているんだ。

「いい、お前は下がりなさい」

「ですが、網走さん」

「彼はお嬢様の友人です。できる限り最大のもてなしをしなさい」

「はっ、かしこまりました」

 俺にすごんだ執事は俺に申し訳ありませんでしたと言うとすぐに家に戻っていった。

「すみません。まだ若い執事なものでして、ご無礼を」

「いえ、別に気にしてないので」

 俺は男らしくそういうと、さっそく柏部の部屋へ行き、話を聞こうとする。

「じゃあ、行こうか、柏部さん」

 気にしまくりだった。かっこ悪いにもほどがある。

「あなたびびりすぎよ・・・。彼は執事の中で最も気性が荒いからあれ以上の人は他にいないと思っていいわ」

「あ、ああ・・・」

 未だにドキドキしてる。殺されるかと思った・・・。あの極道顔の網走っていう執事にも殺されるかと思った・・・。

 しかしどうも網走執事は俺をかばってくれたようだ。顔はこわくても心はきれいで優しい人、なのかもしれない。見かけで人を判断するなという言葉もあるし。

「さあ、入って」

「失礼しまー・・・す」

 やはり広さに驚く。きっと何度来ても同じ感じなんだろうな。というかこんなに堂々とアニメ趣味全開のものを置きまくっているがばれないのだろうか。

「私の部屋には私しか入れないわよ。掃除も自分でするし」

 そう言うと座布団を投げて渡してくる。なぜここで和・・・?

「で、説得してほしい執事とは網走のことよ」

 いきなり本題を話してくる柏部。

「何を説得するんだよ・・・網走さんすごいいい人だろ、何か説得しなきゃいけないことなんてないだろうに」

「私の趣味、について」

「?」

「私の趣味を認めてほしいの、網走に」

「お前の趣味・・・?」

 柏部の趣味といえばこの部屋を見渡す限りにオタク趣味、というものなのだろう。執事やメイドに隠しているとは言っていたが恥ずかしいから隠しているのかと思っていた。

「私の趣味に恥ずべき部分なんてないわ」

「でも趣味なんだし、認めてくれるだろ」

「私のこの部屋、掃除は私がほとんどやるんだけど、どうしても忙しい時は手伝ってもらったりするのよ。執事や、メイドに」

「?それがどうしたんだ?」

 いや、待て待て待て。こいつなんて言った?

 この部屋を掃除・・・・・趣味、隠してないじゃないか・・・。

「いえ、その時はこのグッズをほとんど隠して、ある程度大丈夫そうなものを置いておくの」

「そ、そうなのか・・・でも網走さんって優しそうじゃないか。言えば許してくれるんじゃないか?」

「ここにいる執事やメイドは私の母と父が雇っています」

 うん?話が飛躍した?しかし、そのまま話を聞き続ける。

「父と母は私を柏部グループの後継ぎにしようと思っているの。そんな雇い主である父母願いと雇い主の子供である私の我がまま。どちらが大切かは言わなくても分かるでしょう」

 そう言ってため息をつく。

「私は後継ぎにはなりたくない。・・・・・私には妹がいるの。その子は後継ぎになりたいと言っているわ。だからそちらに継がせればいいものなのに・・・」

 なるほどな。将来的には親を説得する必要があるが、まずは執事を、それも執事長的立ち位置である網走さんを見方につけたいというわけか。

 俺はそこまで思考を巡らせてからふと、思いついたことを口にする。

「あのさ・・・トイレどこ?」

「・・・・・・・・」

 氷も凍るんじゃないかというような目で見られた。いや、話聞いてたよ。聞いてたけどこれはしょうがないだろう・・・。

「部屋を出て右にいけば・・・・・」

「いけばあるんだな。すぐ戻る」

 俺は座布団から立ち、部屋を出るためにドアノブをまわす。

「右にいけば郡里緋色と出会うわよ」

「・・・・・・・・・・久しぶり」

「なんでだよ!」

 怒涛の展開すぎてついていけなかった。






「感情?」

「・・・・・そう。私も顔に出したい。笑顔とか、悲しみとか、感動とか」

「まぁ、びっくりするぐらい真顔だしな、お前」

 トイレを済ませ、柏部の部屋に戻る前に廊下で緋色と話す。ここにいる訳をきくために。

「・・・・・それでここにきた」

「いや、理由になってないぞ」

「・・・・・・・・未空、笑わせてくれるから」

「期待が重いわ!」

「・・・・・・・・それに」

「それに?」

「・・・・・・未海のことが気になる」

「緋色・・・・・」

 そこで俺は少しだけしにくい質問をする。

「お前は悩んでないのか?」

「・・・・・・・?」

「お前は郡里緋色だ。でも記憶の中に結露緋色がいるだろ、それでお前は自分が何者なのかわからなくなったりしていないのか?」

「・・・・・・質問の意味が分かりかねるけれど、私は私」

「・・・・・」

「だからね、心配はいらない。私は迷わない」

 初めてかもしれない。こいつは変な間をあけずにしゃべったのは。

「お前は強いな」

「弱いわ。だから強気にならないといけないの」

「そっか・・・・・」

 杞憂だったみたいだな。笑わす方はちょっと厳しいが・・・。

「おや、お2人様。どうなされましたか?」

「網走さん」

 2人で話していると網走さんが話しかけてきてくれた。もしかしたら迷ったとかそう思われているのかもしれない。

「・・・・・・未海が話し・・・・・むぐ」

「は、はははははは!いやいや、なんでもないっすよ!ははは!」

「・・・未空、なにするの」

「お前こそ何してんだ!柏部が自分から言わないと意味ないだろうが」

 小声でそう言うとなるほど、みたいな顔をして黙った。

 しかし網走さんには怪しまれているらしく・・・ごまかそうと話を変える。

「あ、あの、網走さんってどのぐらいからここの家で働いていらっしゃるんですか?」

「・・・・・そうですね・・・お嬢様方が生まれる前から務めております」

 方、とつけたのは先ほど言っていた妹のことなのだろう。

「柏部、やっぱ可愛いですか?」

「ええ、それはもう。あんなに素直でいい子はなかなかいませんよ」

「・・・・・・・・」

 そこはなぜか同意できない。いい子はできるけど、素直?

「そうですね、お嬢様方が生まれた時は僭越ながら親のように喜びました。ほんとうに・・・」







「あばしりー、おままごとしよー」

「はい」

 未海お嬢様は本当に昔からお優しい方でした。素直でかわいらしくて私達執事やメイドのことまでよく考えてくれるようなお方だったのです。

 しかし、それだけに私は心配でした。旦那様と奥様は確実に未海お嬢様を柏部グループの後継ぎにするでしょう。しかし、もし未海お嬢様が後継ぎになりたくないと思ったならばどうするのか。

 きっとお嬢様のことですから誰にも言わずに自分の中で感情をずっと抑えるのでしょうとそう思っておりました。

 私は旦那様と奥様に雇われた執事。所詮召使です。

 しかしもし、お嬢様が嫌だと言ったのなら私は差し出がましくても旦那様と奥様に意見しようとしていたのです。

 望まないことを無理やりやらすのはかわいそう。そういう気持ちもあったのですが。

 それよりも何よりも、未海お嬢様は柏部グループ以上のことをやってくれるとも思っていたからです。

「未海がもし、後継ぎになりたくないっていったら?」

「はい」

 私は旦那様がどうするのかを知りたくて思わず昔、質問をしたことがあります。

 どんな言葉が返ってきても冷静に、そう思って覚悟をした質問です。

「んー、そうだなー」

「・・・・・」

「別にいいけど」

「え・・・?」

 でも返ってきた言葉はまるで予想外のものでした。

 頑固なところもある旦那様だったので許さないとかそういう返事が来るものとばかり。

「無理やりやらせても意味ないだろ。それに未海はもっと上へいける気がするんだ。こんなグループに縛られなくてもね」

「旦那様・・・・・」

「それより、問題は後継ぎになりたいって言ってる有海あみの方だ。手に負えないおてんば娘でかなりの迷惑をかけているだろう」

「いえ、とてもいい子です」

 そのあと、私と旦那さまはしばらく話していたのですが、私はもう何を話していたのかは覚えていません。それだけ、先の話が印象的で嬉しかったのです。







「私はもう少しで執事をやめます」

「え・・・?」

 昔話の流れで唐突に告げられた。

「もうこのような年齢ですし、それに次なる執事長にふさわしい人材もいます」

「で、でも、柏部にそのことは?」

「まだ言っておりません。心配をおかけしたくないですし、お嬢様は私のような人間のことも心配してくれる優しいお方ですから」

 となりを見ると緋色が涙ぐんでいた。えー・・・?お前の悩みいち早く終わったじゃねぇか・・・。まぁ、だが、今はこの問題だ。

「はー・・・なんかすごい遠回りしちまったみたいだな・・・これじゃあ数夏来た頃には終わってんぞ、この話」

「?」

「思わず廊下で話しこんでしまったからな、さすがにトイレで30分はかかりすぎだぜ」

「何をおっしゃっているのですか・・・?」

「何かあったんじゃないかと部屋から思わず出てきてしまうよな、普通は」

 そう言って後ろ、柏部の部屋がある方向を向く。

「聞いてるんだろ、柏部。次はお前の番だ」

 すると部屋からそろりそろりと出てくる柏部。歩き方が妖怪みたいだが、金髪のせいで綺麗さ、可愛さを保っている。

「お嬢様・・・・・!」

「網走。あなた執事をやめるの?」

「はい」

「気持ちは変わらないの?」

「はい」

「・・・・・・あなたも私の父に似て頑固ね、ほんと」

「お嬢様・・・」

 柏部の口調は、いつもの、中2病全開の人を見下したような、自分が特別だと思っているようなそんな素晴らしく俺の大好きないつもの柏部に戻っていた。

「じゃあ、この屋敷の好きな部屋を使いなさい。そこに住めばいいわ」

「しかしそれでは・・・」

「網走。私に口答えするの?暗黒七柱のうちの一人、最強の幻影魔法使いのこの私に対して、あなたは何か言うことがあるの?」

「お嬢様・・・?」

 さすがにいつもと様子が違うことに気付いたのか、網走さんは不思議がっているようだ。

「この目を見なさい、網走」

「は、はい・・・」

 目に手をかざす、そして手を目からはなすと、そこには真っ赤の瞳。カラコンだ。というかなんだ今の技・・・はやすぎだろ、カラコン入れるの。

「これであなたは私と血の契約を交わしたわ」

「・・・・・?」

 不思議がマックスすぎて首をかしげている!でも安心、だって俺らも分からない!

「この血の盟約は永遠にとけることはない。つまり私とあなたはずっと一緒よ」

 契約なのか盟約なのかどっちなんだという突っ込みはこの際、仕舞い込んでおこう。

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます」

「最初からそうすればいいのよ。それとね、網走」

 カラコンを外し、そして恐らくこの家での口調に戻る。

「私、この家を継ぎたくない。私はやりたいことがあるの。だから私の味方をしてくれる?」

「はい・・・・はい!もちろんでございます、お嬢様」

 なんとか思いを告げられた柏部。

「よかったな・・・・・・」

「・・・・・未空。簡単だったのね」

 緋色を見ると目に涙を浮かべて笑っていた。

「感動できるものも、笑えるものも日常にこんなにもあふれてる。問題があったのは私の方。目を向けてみれば素晴らしいものばかりね」

「ああ・・・そうだな」

 俺と緋色は邪魔にならないように気付かれないように帰ることにした。









「えぇえええええええ!?もう終わっちゃったんですか!?」

 俺の部屋。数夏に俺の家へ来るようにメールしといた。ちなみに飯島はもうすでに家へと帰った。

「ああ、まぁ、そういうことになるかな」

「また七実さんがかっこよく解決したんですか?」

「なんだその言い方・・・・・いや、今回は何にもしてないよ。自分たちが勝手に各々行きたい道へ進んだだけだ」

「なんですかその言い方・・・詩人ですか、あなたは・・・」

「っと・・・」

 俺は携帯を開く。

「これが創作物とかだと、後は高松なんだが・・・」

 現実はそううまくいかない。

 高松からはなんの連絡もない。

「あ、そういえば、七実さん。私本屋でこんなものを見つけました」

「お前用事あったんじゃなかったのかよ」

 そう言いつつも数夏が見つけたという本を受け取る。

「小説・・・か?あんま本とかに詳しくないからな・・・・・」

「内容じゃなくて作者を見てください」

「作者?」

 高床祭たかとこまつり

 ・・・・・・・?

「なんかきいたことある雰囲気の名前だな」

「並び変えてみてください!」

「?」

 俺は言われるがまま、名前をひらがなで書いた。

 たかとこまつり。

「たかまつ・・・・・ことり・・・・・?」

遅くなってしまいましたが後日談3話目です。


サブタイトルからも分かるかもしれませんが後日談、あと1話で終わりです。


もしかしたら最後の最後にまとめ的は話をのせるかもしれませんが、大体次回で終わりだと思います。予定というか推測だらけで申し訳ありません。


ではまた次回。

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