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後実談 文系少年と理系少女の奮闘 承章

 翌日。数夏が急に訪ねてくるというまさかの事態の翌日。大学は今日まで休みなため1日中暇、だったはずなのだが、そうにはならないらしい。嬉しいことだ。

「・・・・・」

 なかなか開かない目を無理やりこじあけ、時計を見る。日が入ってきていたのでこれはまさか昼まで寝たパターン・・・と思ったがそうではなく、まだ9時であった。

「カーテン・・・」

 閉めたはずのカーテンが開いている。だからこんなにも日が当たるのか。

「・・・・・・?」

 なぜ、開いている・・・?

 そこで俺は今からただよってくるいいにおいに気付いた。まさかと思い体を起こしてリビングの方へと向かう。

「数夏」

「あ、七実さんおはようございます」

 そこにいたのは数夏。俺の恋人だった。昨日あれだけ騒いだ宿についてだが、とりあえず予約分はホテルに泊まることにしたらしい。それからのことは後々考えるそうだ。・・・・・のんきすぎないか。

「おは・・・よう・・・」

 昨日、数夏には家の鍵を渡していた。俺が寝ていたら入ってていいからと。だからここにいることまでは納得できる、しかし。

「七実さん、ほっとくと昼まで寝そうだったんでカーテンあけちゃいましたけれど」

「いや、それはいいんだ。それよりも、お前何してんの?」

 数夏は料理を作っていたのだ。

 それも結構ちゃんとした感じの。

「冷蔵庫のものを勝手に使うのは気が引けたので買ってきたんですけど・・・やっぱりコンビニとかの方がよかったですか?」

「ぜんぜん!そりゃ手料理の方が嬉しいけどさ」

 話しながら買った分のお金を払おうとすると数夏が拒否する。せめて半分だけでもと渡そうとしても拒否された。とりあえず整理しよう。数夏は確か裁縫ができないぐらいの不器用さで家庭的ではなかったはずなのだが・・・。

「練習しましたから」

 そう答えが返ってきた。

「七実さんに食べてもらえるご飯を作りたかったんですよ。私、家のこと何もできなかったんでアメリカで練習してきました」

 ビバ、アメリカ。アメリカすげぇな・・・胸だけじゃなく、内面の成長も促すらしい。なぜか嬉しさと娘が育ったような感慨深さで泣きそうになる。

「・・・・・・」

 そしてなにより、エプロン姿なのだ。髪型は昨日と同じく、ぴょこんとした髪の毛の束が頭のななめあたりに1房。そして肩ぐらいまでの髪の毛。服装はふわふわした感じ、森ガールとかいうんだっけか?全体的にそんな印象。ロングスカートもふわふわしていて、足が隠れている。しかし微妙に見えるのはレギンスだろうか。

 ここまで1秒。その印象を一目見て得た。

 しかしエプロンがあまり似合わない・・・子供が背伸びしているようにしか思えないが、胸はぱっつんぱっつんでそのギャップが最高すぎた。そこでも涙が流れそうになる。

「すごい嫌な感じがするんですが」

「ソンナコトナイヨ」

 若干引かれていた。なんでわかったんだ。エスパーなのか、こいつは。

「ご飯できましたよ」

「お、おお・・・なんか新婚・・・」

「なんか旅館みたいですよね、朝ごはんとか出てくるなんて」

「・・・・・・・・・」

 新婚みたいと言おうとしたらセリフがかぶった。しかもかき消されたのは俺の発言。旅館ってこの状況で普通例えるだろうか・・・ここ俺の家だからまるでそんな気はしないんだが。

 本人は満面の笑み。旅館にきてはしゃいでる子供と同じ感じなのかもしれん。

「うまい・・・全然食える!」

「なんで食えるか食えないかを判断するんですか!」

 と、お決まりなことをいくつか言いあう。

 そこで俺は本題に入ることにした。こいつの悩みについて。そしてそのための行動について。

「で、あじさい荘の住人に会いに行くということなんだが」

「連絡がついたんですか?」

「いや、それがな・・・」

 そう言って携帯を見せる。そこには5人のメールが。

「香織さんはいつでもおいで、だとさ。それと戸張が今日、会えるらしい」

「えーと、残りの3人・・・」

「うん・・・」

 残りの3人。緋色、高松、柏部。その3人からはほぼ同じ内容のメールがきていた。ほんとに、裏で打ち合わせしてんじゃないかというシンクロ率。

「『今は会えない』・・・ですか」

「ああ」

 割とメールでのやりとりはしてきた。その時はなんら変わりない様子だったんだが、会おうと送った時からメールの様子は激変した。

 どこか冷たい感じがする。

「それを言うなら戸張のメールもそうなんだよな・・・何があったんだか」

 数夏の悩みを解消するために連絡をとったわけだが、気になることが他にもできてしまった。

「これは・・・明らかに何かありましたね」

「やっぱりか」

「えぇ、あまりこういう文章の区切り方や絵文字の使い方はしません。まず・・・この最初の絵文字、これは絵文字欄の最初の方にあり、文章と絵文字が合っていないにも関わらず使っています。その確率はかなり低いものなんです」

 と急に確率について話しだした数夏。忘れてた、数学大好きだったな、そういえば。

「もういいもういい。とりあえず戸張に会うぞ。今日午後1時に駅の大広場で待ち合わせだ」








 大広場。

 目立つほど大きなこの広場は待ち合わせ場所として使われるだけでなく、大きなお店もたくさんあり、たくさんの人々がいる人気の場所である。

「混んでるな・・・」

「はい・・・」

 特に春休みの最終日だからか人の多さは半端じゃなくなっていた。

「戸張さんがいるんですよね」

「そのはずだけど・・・」

「やっほー!七実くーん!数夏ちゃーん!」

 タイミングよく声がする。この元気さ加減相変わらず何も変わっていない。自然とこちらまで笑顔になる笑顔を浮かべながらこちらに走ってくるのは戸張だった。

「す、数夏ちゃん!?それはいったい・・・」

「これ毎回説明するんですか・・・」

「戸張、言いたいことは分かるが、今、胸のことは一度置いておいてくれ」

 会ってすぐそれだった。分からないでもないどころか完全に同意したいぐらいだが。

「髪切ったんだね」

 と、胸の話はやめたが、話をやめる気はないらしい。

「え、えぇ。そういう戸張さんは髪が伸びましたね」

 戸張の黒いきれいな髪の毛は長く伸びていて、後ろでひとつに結んでいる。高校の時はショートカットだったはずだが。

「・・・・・・・・・・」

 気付く。何かがおかしい。この髪型どこかで見たことがある。何か嫌な予感がする。

「おい、戸張・・・・・」

「七実くん」

「え?」

 話しかけようとしたときに逆に話しかけられる。今日は発言がさえぎられてばかりだ。

「七実くんは髪、短くなった?」

「あ、ああ。少しな」

「うんうん、やっぱり外見が変わっても中身は変わってないですな」

 笑顔でうなずく戸張。

「じゃあ、どこに行く?」

「え・・・・・っと」

 急な会話の変化についていけない俺。初心にかえろう。目的は数夏の悩みを聞きだすこと、だったはずだ。そのためにみんなで遊んで気持ちを楽に、話しやすい状況にもっていくこと。それが遊ぶ理由。

 でも、みんな一緒ではない。集まったのはこの3人だけ。

 だから3人で遊ぶとなると・・・。考えてなかった。3人であじさい荘に行くわけにもいかないし。

 それに遊ぶ理由は数夏の悩みを聞き出すことだけれど、遊んでる間は最高に楽しまないとな。

「お前らは行きたいところあるか?」

 事情を戸張にきいて協力してもらおうとしたがどうも戸張も普通じゃない。

 だとしたら俺がやるべきことは数夏の悩みではなく、数夏と戸張の悩みを聞き出すこと。もう、救うだなんて、助けるだなんてそんなことはできないかもしれないけど、でも。

『買い物!』

「やっぱエスパーいんだろ」

 シンクロして言う数夏と戸張。

 それが面白かったのかお互いに笑っている。

 助けることはできないけど、みんなが笑えるように精一杯努力することはできる。

「実はね、七実くんに数夏ちゃん」

「なんだよ?」

「なんですか?」

 歩きながら急に話しかけてくる。

「私はポッ〇ーの持ち手の部分の必要性について話そうとしてたんだよ!」

「くだらない!」

「くだらなくないよ!私は幼少のころからなぜあそこにはチョコがついていないんだ、と。なぜ無味なのかとずっと考えていたんだから!」

「いや、もっと有意義な生き方しろよ」

「戸張さん!私も一緒です!気持ち分かります!なぜプ〇ッツにチョコがついていないのかと疑問でした!」

「一緒じゃねぇ!チョコつける必要ねぇだろ!それならポッ〇ー食えよ!」

「さすが、数夏ちゃん・・・分かってるね!」

「なんで!?」

 俺シカトされまくっていた。なんか俺がイレギュラーみたいなんすけど。俺、ここにいるよね、見えてないとかじゃないよね!一応主人公なんだけど!

「しかし戸張さん・・・私は気付きましたよ。チョコがないならチョコを塗ればいいじゃない!とね。他のポッ〇ーを溶かし、持ち手にそのポッ〇ーのチョコをつける・・・完璧です!」

「なっ・・・・・数夏ちゃん・・・・・天才・・・・・っ!」

 馬鹿ばっかだった。

 溶けたポッ〇ーはどうすんだよ。持ち手にチョコついてないってレベルじゃないぞ、それ。マジでプ〇ッツみたいになんぞ、それ。

「ま、待って・・・!ってことは板チョコを溶かして塗れば・・・・・」

「と、戸張さん・・・・・!て、天才です・・・・・・これは賞受賞レベルのひらめきです!」

 なんの賞だよ。小学生でもこんなこと考えねぇよ。

 少しの不安を持ちつつ、俺は歩き続けた。





「すごい広いデパートですね」

 デパートに入るなりそれ、ではなかった。デパートに入り約2時間。そのあとに数夏が放った一言。お前ら買い物に集中しすぎな。

 その荷物持ちにされていた俺は特に何かを思うわけでもなくただひたすら機械のように動いていた。そのせいで全く描写するところがなかった買い物シーン。

「でしょでしょ。ここらで一番でかいデパートなんだ」

 少し特殊でこのデパートの中にさらにお店がある、というような構成になっている。商店街のような場所であるため、買い物好きなら喜ぶに違いない場所。買う物が何もないのなら苦痛でしかない場所。

 というのは言いすぎだが、荷物持ちで疲れている俺の身にもなってほしい。

 すると、数夏は飲み物を買いにどこかへ行ってしまった。お礼ですとかたくなに言い続ける数夏を説得することはできなかった。お礼されるほどのことはしてないんだが、疲れてるけど。

 というかあいつ1人で3人分の飲み物を持てるのか・・・?

「だ、大丈夫かな・・・」

 となりで戸張が不安そうな声を上げる。お前も心配なのか・・・。

 なんだか友達というより娘という扱い受けてるなあいつ。

「私も行きたかったんだけど・・・お礼なら私もしたいし」

「いや、数夏は頑固だからな、ああ見えて。たぶん納得しないぞ」

 戸張の手伝いさえ拒んだ。久しぶりに会ったことに気分が高揚していたのか俺達みんなものすごい高いテンションで過ごしたこの2時間。あいつも疲れていないはずがない。

 でも好都合と言わざるを得ない。ここはチャンスだ。ここで数夏の話をしよう。

「あのさ、戸張」

「なに?あー、やっぱり七実くんも心配なんでしょ」

「あ、ああ。いやそうじゃなくてだな・・・」

「だって数夏ちゃんたまにすごい思いつめていた顔してたし」

「そうじゃなくて・・・・・って、え?」

 あれ?飲み物の話じゃないのか。

 というか気付いていたらしい、数夏の悩みに。

「お前・・・知ってたの?」

「だって数夏ちゃんたまにすごい元気ないような表情するじゃん。本人は笑顔のつもりなんだろうけど」

 そこが数夏の不器用なところである。

 心配かけないように取り繕うのがさらに相手に心配をかける。そこがまた可愛い。ほんと可愛い。

「七実くん顔が気持ち悪い」

「たまにお前グサッとくるようなこと言うよな・・・」

 しかし気付いていたのなら余計な説明もしなくてすむ。

 単刀直入に言おう。

「戸張。数夏はその悩みを話そうとしない。心配かけないようにと隠してる。でも連絡もなしにいきなり日本に来たりとかおかしいだろ」

「サプライズっていう線もまだ捨てきれないけど・・・あの表情はさすがに気になるね」

「そう、思って俺は言わなかったんだ。サプライズという単語を」

 急に来た時にサプライズか?と言うと悩みを隠しているあいつはそう!それです!と便乗し、さらに悩みを隠すだろう。だからサプライズとは言わなかった。言わないで数夏がサプライズです、と言ったのならそれはサプライズなのだろう。

 でも。

「あいつはサプライズなんて言わなかった。国語が苦手だしな、咄嗟に出てきた言い訳は俺に会いたかったからだった。それは連絡なしで来た理由にはならない」

「七実くんって変なところで頭いいよね」

 絶対褒められてないだろう戸張の言葉を無視して話を続ける。

「だからあいつが悩みを言いやすいようにしてほしいんだ」

「なるほどね・・・・・うん、協力はするよ!」

「ほんとか!」

「でも無理強いはよくないよ。話したくなったら自分から話すと思うからさ。でも、でもあんな顔を見せられたら無理にでも話してもらって解決してあげたいとは思う!」

 戸張は微笑む。

「なんだかみんなで1つのことをするって昔に戻ったみたいで懐かしいなー」

「あじさい荘のころか?」

「うん、私はまだあじさい荘を出て少ししか経ってないけれど、七実くんとは2年会ってない。数夏ちゃんは3年かなー。だからどうにもあじさい荘よりもあなたたちに対して懐かしさを感じるよ!」

 それは俺も同じだった。

 懐かしい、思い出す。端午の節句に夏休み、海にも行った。それに色花先輩とも衝突したし、体育祭も学校祭も修学旅行も、全部が思い出だ。

 辛いことも悲しいこともあったけど面白かったことの方がはるかに多い。

 うん、個人的な思い出だが、数夏と入れ替わるとかそういうのもあったな・・・なんだそれ・・・。

「で、だ」

 俺は数夏がまだ帰ってきてないのとまわりに人があまりいないことを確認してから、本題に入る。

 そう、『本題』に。

「お前の悩みはなんだ?」

「え・・・・・?」

 戸張は心底驚いたような声を出す。いや、声を出そうと思って出したんじゃないのかもしれない。思わず声が出てしまったのかもしれない。それほどまでに驚いた顔をしていた。

 でもそれ以上に俺は少し腹を立てていた。なぜ、お前はそうまでして他人のことしか心配しないのか。

 お前は。

 お前のことは心配しないのか。

 その自分中心とは真逆の態度に腹を立てていた。それに自分にも。数夏にも戸張にも相談をさせるような空気を作れず、相談されるほどの信頼をまだ得ていない自分にも腹が立っていた。

 それともう1つ。

「数夏が今日心配していた。あとお前の顔。やつれすぎてる。それはさすがに何もないよ、というのは通じないぞ。あと、あと・・・だ。お前・・・その髪型どうした?」

「え?か、髪型って・・・七実くんが卒業したあたりから伸ばし始めたんだけど・・・」

 そう言って自分の髪をさわる。

「そんなに似合ってないかな・・・」

 そうじゃない。そうじゃないんだ。本当はお前も分かっているはずだ、その髪型がどんなことを意味しているのか。それが何を意味しているのか。

 似合わないんじゃない。似合いすぎているということに。

「そうじゃない。似合っている。でもそれはお前じゃないだろ」

「・・・・・・」

 黙る戸張。顔は下を向いていた。さっきまでの元気はどこへやら急に静かになってしまった。

 そうなるまでにデリケートな部分に俺は触れている。でも、これは俺が、俺らがやるしかないことなんだ。家族でも他の友達でもない、あじさい荘の俺らが。

 だから言う。『長い髪を1つに結った』戸張に言う。




「その髪型は『山梨』戸張のだ。お前は『山梨』じゃねぇだろうが!」




 核心。

 それ以外には表現できないその一言。

 久々にあった戸張の髪型は俺が見てきた、妄想少女のものだった。

「たまたまその髪型にしたんじゃないよな、どう見ても。それは模倣なんてもんじゃない、本物だ」

 まさにそっくり。顔が似ているから、とかそんな次元じゃない。

「なんで、そんなことをしたんだ・・・」

 一番恐れていたこと。それが今、起きている。山梨の記憶を持った飯島戸張。それはすごく不安定なものだと気付いていたはずなのに。

「私は・・・・・・」

「え?」

「私は・・・・・!私は誰なの・・・・・!」

「と・・・ばり・・・?」

 泣きそうな声で、でも泣かないそんな強い声だった。そんな強い悲痛の声。

「私は飯島戸張なの。でもね、七実くん、それにあじさい荘のみんなが好きだったのは山梨戸張。私じゃないの」

「・・・・・・・・・戸張」

「考えれば考えるほど私は誰なのか分からなくなった。私は飯島なのに、みんなは山梨として接している。そんな感じがするの。先生も先輩もクラスメイトも、みんな・・・」

「戸張、それはちが・・・・・」

「七実くん!」

 急に大声を出す。それに驚いた俺は少し後ずさる。

「七実くんは私をちゃんと呼んだことあったっけ・・・?」

「え・・・?」

「私を飯島って呼んだことあったっけ?」

「!」

 それは、本当にきついことだった。

 確か戸張と呼べと言ったのはこいつだが・・・俺は初対面に近い女子を呼び捨てにできるほどの男じゃない。それに・・・・・戸張と名乗ったこいつがもともと何者なのか。今までどうしてたのかと聞いたことがなかった。

 認められなかったから。

 山梨が消えたことを認めたくなかったから。

 その思いをこいつに押しつけていたのだ。

 ああ・・・・・悩み事をきく、だなんてなんて愚かしいことを考えてしまったのだろう。

 簡単なことだった。その悩み事の原因は・・・。

 俺ら、だったのだから。

「飯島、だとみんなは飯島として接してくれてるとそう思い込もうとした。でも無理なの。山梨さんの記憶が大きすぎる・・・思いが強いの。私よりも山梨さんの方があなたたちに会いたがっているの!」

「・・・・・」

「・・・・・・七実くんはどうして私をあじさい荘に誘ったの?下級生の私にくん付けため口で話されてなんで怒らないの?」

「そ、それは・・・・・・・」

「飯島として、じゃないよね、きっと。山梨として誘ったんだよね・・・・・」

「戸張、それは・・・・・」

「いいの・・・・・。仲良くしてくれるのは別に嫌じゃない。それにみんなにも感謝してる。責めるようなことを言ってごめんなさい。ただ、私はどっちなんだろう・・・って思って・・・悩んでたら・・・」

「・・・・・・・・・」

「ごめん。今の本当に忘れて。せっかく数夏ちゃん来てくれたのにこれじゃあダメだよね」

 俺は考える。

 山梨。俺の大事な友達。飯島戸張に彼女を重ねてしまっていただろうか。いや、こんなことは無意味だな。俺は確実に重ねていた。きっとみんなも。彼女は誰でもない飯島戸張なのに。

「もう数夏ちゃん、来るよね」

「・・・・・・・・・・数夏ちゃん、じゃないだろ」

「え?」

「数夏先輩、だ。飯島」

「な、七実くん?」

 俺は決意をかためる。

「飯島、すまん。俺はお前のことをどこかで山梨と重ねていた。お前はお前だ」

「七実くん!」

 飯島は立ち上がる。

「そんなこと言ってはだめ!私を飯島として見るってことは山梨さんのことを完全に忘れるということだよ!そんなのだめ!」

 そして俺につかみかかってくる。こいつがこんなに感情を露わにしたことがあっただろうか。

 それだけ山梨のことを思ってくれているのだろう。

「飯島!もう・・・・・・・もう山梨はいないんだ!ここにいるのは飯島戸張、お前だけだよ!」

「そんな!・・・・・そんなこと・・・・・・」

「飯島・・・・・」

「七実・・・・・・・・七実先輩・・・・・」

 飯島は崩れ落ちる。

「私としていていいの?山梨じゃなくても・・・いいの?」

「いいもなにもそれが普通だ。ほんと、ごめんな」

「七実さん、戸張さーん・・・・・・・・・・ど、どうしたんですか?」

 数夏には後で説明しておこう。

 しかし数夏は首を振った。そして「もうわかっていますよ」顔で俺を見る。

「お前・・・まさか気付いて・・・・・」

「えぇ・・・戸張さんトイレはあっちです」

 お前マジ待っとけ。あとで説明するから。







「いやーははははは!面目ない!私としたことが、もう大丈夫だよ!」

 帰り道。

 飯島は豪快な笑い声をあげていた。

「そうか・・・・・・・」

「うん、七実先輩には感謝だね!」

 ちなみに数夏はずっと首をかしげている。うん、分からないんだな。

 そこがまた可愛いと思い、見ていると、数夏が赤くなった。なぜ胸を隠す。そんな邪な視線は送っていないはずなんだが。

「ただ、ひいろんも助けてあげてほしいの」

「ああ」

 問題はもう1つ。

 郡里緋色。飯島と同じく、結露緋色の記憶を引くもの。

「彼女もまた悩んでいるはずだから」

「もちろんだ」

 同学年の緋色の呼び方はそのままらしい。しかし七実先輩と言われ慣れていない俺はむずがゆい。

「数夏先輩。七実先輩がすごいいやらしい目で見てるよ」

「こらこらこら!何を言ってんだ!」

「だっていま、すごいゆるんだ顔してたし」

「そういう意味の顔じゃないよ」

「お2人は顔で会話できるんですか・・・?」

 数夏が驚いて俺に変な顔をしてくる。いや、わかんねえよ。なんだ、その顔。

「で、あじさい荘に行くときは連絡ちょうだい。みんなそろったら行くんでしょ?」

「そうしようと思ってる」

「何かあったらいつでも呼んで」

「ありがとう」

 友達の大事さを改めて実感してから前を向く。あー忘れてたけど明日から大学あるんだったな。数夏にも言っておかなくてはいけない。

「数夏、明日から俺、大学だから」

「はい、家で待ってます」

「え?え?え?」

 飯島は俺らを交互に指さし・・・。

「同棲してるの・・・?」

「あ・・・・・・」

 余計なことを言ったと思った時にはもう遅かった。説明するのすごいめんどうだなぁ。

「飯島、あのな」

「ちょっと待ちなさい!そこの3人!」

 説明しようと思った矢先、声をかけられる。そこにいたのは。

「一緒に来てくれるかしら?」

 金髪。豪華なドレス。それに青い目。外人?・・・・・ではないな。顔は日本人だ。というかこの顔、どこかで見たことあるような・・・。

 不思議の国のアリスがそのまんま現実にでてきたかのような幻想的な空間。

「え・・・えっと・・・・・?その、どちら様で・・・」

「特にそこの七実未空!」

 名指し!?そこのってなに!?結構いんの、七実未空ってやつ・・・。

「あなた、今から私の部屋に来なさい!」

「なんで!?」

 急に美少女から部屋に誘われる俺。

 不思議な不思議なこの出会いはこの後も絶対に忘れることがないんだろうな・・・とのんきに頭が現実逃避していた。

だいぶ、前回の更新から時間が経ってしまいました。もう見てくださった方もいるかもしれませんが・・・えー、今回、いつもの話の4倍ぐらいの長さになっております。


わけようとしたら4話分ぐらい投稿できたのですが、あまりわけすぎても・・・と思ったらこんな長さに・・・。


なのでその分時間がかかってしまいました。


言い訳はここらへんにして後日談、読んでくれている人がいてありがたいです。というかアクセスが投稿してから大分たった今もなかなかの多さで正直びびってます。


話的には明るい中に少し暗さが・・・みたいな感じになっていますが・・・どうだったでしょうか。


もう少しで終わりの作品ではありますが、感想などをくれたら嬉しいです。


次回からはもっとはちゃめちゃで、それに少しグサリとくるような話になるかもしれません・・・。


ではまた次回。

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