後実談 文系少年と理系少女の奮闘 起章
「な、七実さんの番号がない・・・!そんなバカな・・・!まさか留年とかですか・・・」
「んなわけあるか」
後ろから声をかける。
「え・・・?」
「よ、2年ぶりだな、数・・・・・・夏・・・・・・・」
大学2年生の春。クラス替えを見に来た俺の目の前に現れたのは、高校2年生のころの出会いとなんら変わりない岸島数夏だった。うん、なんら変わりない・・・変わりない・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
「お前・・・数夏か?」
「な、失礼な!自分の彼女を間違えるなんて!」
「いや、その反応ならお前数夏じゃないことになるんだが・・・」
驚きをかくせない。それはそうだ。だって数夏の髪の毛。長い長い足までありそうな髪の毛は短く切られて、肩ぐらいになっていたのだ。
頭の斜めのところにはリボンでしばってぴょこんと動物の耳のように髪の毛をたたせている。おじゃ魔女ど〇みのお〇ぷちゃんの結びをよこにずらした感じと思ってもらって構わない。
いや、問題はそこじゃない。その程度なら俺にだって髪を切っただけだとわかる。
ただ・・・・・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・なに見てるんですか・・・」
恥ずかしそうに身をもじる数夏。いや、しょうがないだろ、これ。
そう、胸。
胸なのだ。
こいつの胸が信じられないぐらい大きくなっていた。ほんと、巨乳と言ってもさしつかえないぐらいには大きくなっていた。
背があまり変わっていないから余計にこれはまずい。俺、捕まるかもしれん。巨乳小学生、いやギリギリ中学生か。
「お前・・・それなにつめてる?」
「へ?何がですか・・・?って・・・こ、これですか?」
そう言って自分の胸を指さす数夏。
「これは・・・その・・・単純に成長です。手術とかでさえないです」
「お前、背は変わってないじゃないか。なぜそこだけ・・・」
アメリカ・・・すごすぎる。アメリカの空気はこんなピンポイントで成長を促すのか。
「そ、それよりも私、話したいことがいっぱいあるんですが」
「あ、あぁ・・・」
あまりのおっぱい・・・もとい衝撃に忘れていたがこいつ、なぜ日本に・・・?大学はまだ続いているはずだろ?
「じゃあ、俺の家に行くか」
大学が本格的に始まるのは明後日から。今日、明日は休みである。
念願の一人暮らし(あじさい荘は高校所属の寮のため、ここにいたいと泣いて頼んでも追い出された、しかも香織さんに)なので人を呼ぶことにあまり抵抗はない。
「えーと、こっから少しかかるけど、歩きながら話すか」
「はい」
そう言ってとなりに並ぶ数夏。やはり少し背が伸びたような気がする。2年会わないだけでこんなにも変わるものなのだろうか。同じ感想を数夏は抱いているのだろうか。なんて、疑問ばかりがわいてくる。
簡単な話。俺は今、数夏再会できて単純に気分が高揚しているのだ。
「で、なんで急にこっちに?なんの連絡もなしに」
「それはですね、今私の通う大学が休みなんですよ」
「そ、それだけで来たのか・・・!?」
「い、いけませんか?」
「いけないことはないが・・・」
どうも、それだけじゃない気がする。俺に会いに来てくれたのは彼氏冥利に尽きるというか、なんというかだが、でもそれだけじゃない。こいつは今、何かを抱えている・・・。
「・・・・・・」
それをまだ隠している。打ち明けてはくれない。それはまだ信頼されていないということなのだろうか。メールでも電話でも悩んでいるそぶりを見せなかったから安心しきっていた。
「だめだな・・・」
「何がですか?」
「なんでも。っと、コンビニよってなんか買うか」
「あ、はい」
途中にあったコンビニに入る。
「七実さん意外と行動範囲広がってますね」
「大学がまぁまぁ遠いからね。あじさい荘なんかここからすごい時間かかるんだぞ。バスとか使わないといけないぐらいになったんだ」
「そうですか・・・」
昔の思い出にしんみりする。今まで住んでいた場所は手の届かない遠い場所となってしまっていることに。俺はそれにもう慣れたのだろうか。そんなことすら自分のことは分からない。
「みなさん何してるんでしょうね」
「メールでやりとりしてるんじゃないのか?」
「してますよ。でも、たまにですし、何よりメールじゃ長文になるぐらい聞きたいことがあるんですよ」
「そっか・・・」
「もちろん、七実さんのことも、ネ」
「どうも、ネ」
ふざけた口調で昔のように話しあう。懐かしい感じがした。みんなとは俺も2年間メールでのやりとりをたまにした程度だ。忙しくてそれどころではなかったのだ。
「じゃあ、行くか」
「はい」
・・・・・・・・・・・・・。
今気付いたが俺の家に行くのか・・・。彼女家に呼ぶってこれ、さりげなく言ったが結構なイベントではある・・・。
「ふーんふふーん」
横を見るとそこには数夏が。2年ぶりに会っていろいろと・・・主に胸が変わった数夏がなぜか鼻歌を歌っている。なぜ選曲が「森のくまさん」なんだよ。
まわりからは兄妹だと思われたりしてるんだろうか。それぐらいに小さい数夏。
「まぁ、なるようになるか・・・」
問題はこいつがどんな悩みをかかえているのか、だ。きっと連絡する暇もないぐらい大変なことが起こったのだろう。それを一緒に悩んでやる。それが俺のできることだ。
〇
俺の家。
決して広いとは言えないがせまいとも言えない。そんな普通の部屋だが、大学生活にかかせないものや、生活必需品はすべてそろっている。
「わー、これおいしいです!」
「お前は幼い子供か」
おいしそうにお菓子をほおばる。
「そうですよ、七実さんの好きな幼い子供です」
「誰がだ!」
腹ごしらえをしたところで、食っている間に考えていた案を出す。
「お前さ、あじさい荘の人たちに会いたくないか?」
「え?」
さきほど数夏からきいた話をもとに考えた。その結果またみんなに会った方がいいと思ったのだ。
俺も2年間会っていないしな。
「確か2週間近くこっちにいれるんだよな?」
「はい、そのぐらいは」
「2人だけで遊ぶっていうのももちろんしよう。でも最初の1週間ぐらいはみんなに会おう」
我ながら勝手に考えたと思っている。もしかしたら数夏は俺だけに話を聞いてほしかったのかもしれない。でも、それでも俺はこう言わざるを得なかった。
「みんなのこと、好きだろ?」
「は、はい!」
満面の笑みでこたえる数夏。これはさすがに偽りの笑顔とかではないだろう。表情や嬉しいという感情までかくされてはたまらない。
「みんなに会って、みんなにアメリカの話をしてやれ。どうせ、後で詳しく話さなきゃいけないのは俺だしな。だったらお前が直接言いにいけ」
「で、でも・・・ホテルの予約2泊3日分しかしてないんですけど・・・」
「・・・・・・・・」
ラブコメの王道、ここにきたれり。
「なら、俺の家に泊まるか?」
「あ、それはいいです」
「冷たい!お前ほんとうに俺のこと好きなの!?」
「好きですよ、それはもう。ほら、ちゅっちゅー」
「ふざけてんじゃねぇか!くそ・・・ラブコメの神様俺に力を・・・」
「七実さんがすごく気持ち悪いです・・・」
ん?そこで引っかかる。すでに気付いていてもおかしくないことに。
「数夏・・・敬語だし、俺のこと苗字で・・・?」
「いつもそうだったじゃないですか」
「けろっと何言ってんだ!最後!空港の別れ際!感動のシーン!」
「ああ、ありましたね、そんなこと」
「冷めてる!なんで第3者みたいな、傍観者みたいな対応なんだよ!」
「いえ、ノリとかってあるじゃないですか」
「あそこのシーンをノリとか言ったらダメだろ・・・」
付き合って少しは態度が軟化するかと思ったらまだこんな感じだった。いや、たまに素直なときもあるんだけど、なにこのツンデレ・・・。
「で、俺の家のあそこの部屋を使っていいぞ」
「どんだけ泊らせたいんですか!あそこの部屋ってそこにしか布団ないじゃないですか!」
「俺は玄関でも寝れるし」
「せめてソファとかで寝てくださいよ・・・」
「ほら、お金もかかるだろ。でもうちは安心。大丈夫」
「それはそうですけど・・・」
ふっ・・・俺をなめるなよ。いつまでもへタレみたいな扱いだと思ったら大間違いだ。
「じゃあ、七実さんのベッドの下で寝ます」
「どうぞ、お帰りください」
それはしょうがない。それはしょうがないよ。健全な青少年にとって大事なものがそこにある。
「やっぱりなんかあるんじゃないですか!帰りません!それ見るまで帰りません!」
「なんでそんなぐいぐいくるの!?」
「な、七実さんの好みとか分かるじゃないですか・・・」
「え・・・」
ラブコメの神様、ここにきたれり。
「もとい、七実さんがどんな女と一緒に寝てるのかが分かります」
「言い方に気をつけろ!」
「?」とはてなマークを頭に浮かべる数夏。そういえばこいつそういう知識がいっさいなかったんだったけか。箱入り娘というか大切にされてきたのだろう。
だからきっと俺の本も水着の巨乳美女がうつっている程度の認識のはず。
でも、でも違うんだよ、数夏。そういうものあるけれど、違うんだ。
「数夏、見たら後悔する、確実に」
「な、なんでですか・・・?」
俺のありえない迫力にたじろぐ。子供には脅しが一番きく。
「聞かない方がいい。きっと俺のことを嫌いになる」
「そんな・・・私はどんなことがあっても七実さんのことは嫌いになりません!」
ここでそんなセリフをききたくなかった!もっといい場面で使ってくれよ!
「それはわかってるけど・・・あ、そうだ。数夏、冷蔵庫にアイスがあるぞ」
「わーい!」
簡単。もので釣れるのかこいつ。今のうちに隠そう。
「おっとと、そういえばみんなにメールいれとかないとな。大学あっても午前だし・・・なんとか会えるかな?」
急なことだから事前に知らせておこう。すぐには予定が合わないかもしれないけれど。
「よし、送信。っておい!俺の分まで食うなよ、アイス!」
どちらが子供なのか分かりはしなかった。
〇
ある部屋。携帯が鳴る。それは着信音ではなくバイブ音で知らせた。
「・・・・・?」
女の子がその携帯を手につかむ。女の子の髪はぼさぼさで伸びきっていた。それにあたりには髪を結うためのゴムがたくさん散らばっていた。
「七実・・・くん・・・?」
そう呼んだ声はかすれていた。まるで何日も声を出していないかのように。
「・・・・・・・・・・・」
その女の子の名前は飯島戸張。かつての元気はどこえやら、やつれた彼女はまた引きこもり生活へと戻っていた。
〇
明るい部屋。その部屋は原稿用紙で埋まっている部屋だったが女の子らしい装飾品がちらほらと。
その部屋に机に置いてある携帯がなる。いまどきの着信音。
「七実くん・・・」
女の子は夢を追い続けていた。
そのせいか手は少し血がにじんでいる。きれいだったはずの手は黒く、赤くなっていた。
女の子の名前は高松小鳥。現在、人生を分ける大きな分岐点に迷い、絶望していた。
〇
「・・・・・・・・未空」
間のある話し方。その声はまぎれもなく女の子のものだった。
おそらくアパートである部屋の片隅で空を見ていた。自分が何者かも分からないそんな様子で空に浮かぶ雲を見ていた。
女の子の名前は郡里緋色。その彼女の顔にはいまだに笑顔が浮かんでいなかった。
〇
『ぴぴぴぴ』と音がする。明らかな着信音。
その女の子の部屋はアニメのグッズやらでいっぱいになっていた。そんな中でもひときわ目立つ女の子が1人。
「あら・・・七実・・・未空・・・」
きれいな金髪に白いドレス。まるでお嬢様のような姿をした彼女の部屋の大きさは異質。明らかに部屋という感じではない。1つの家のようだ。
女の子の名前は柏部未海。2人の自分に悩み、家との間に揺れる夢追い人は翼がもがれた鳥のようにおとなしくなっていた。
〇
そして最後に。
「メール?」
あじさい荘。そこの管理人である香織の元には1通のメールがきていた。
『七実未空:そちらに伺ってもよろしいでしょうか。』
という内容。
「大学生になってメールの文面だけ堅くなってるのかな・・・」
2年という年月は長い。そんな中、香織はみんなでパーティーをしたいと毎日のように思っていた。みんなに会っていないしパーティーとかぱっと明るいことをしてまたいろいろなことを話したいと、そう思っていた。
「でも、みんな忙しそうだし」
「お、なんですか!それ」
「神子ちゃん。お兄ちゃんからよ」
「お兄ちゃん!わーい!お兄ちゃんからだーって言えば高感度上がりますかね」
「神子ちゃん・・・」
残念な現在の住人とともに待つ。そんな彼女の元へ全員を連れていく少年少女の奮闘が始まる。
後実談開始。
というわけで後日談です。例によって後実談は誤字ではありません。
後日談なのにサブタイトルが奮闘・・・?再会とかじゃなくて・・・?という疑問はおそらく次の話から解消されると思います。
今回の話でも最後の方でなんとなくちょっとおかしいな?という感じにはしました。その感じが伝わればなと思います。
ではまた次回。
起章・・・とありますが、何話で終わるかはまだ分かりません。ですがもちろん長くはならないので最後までお付き合いしていただければ幸いです。