番外片 「生徒会の仕事っぷりが見れますわ」
「おい、そこはもっと右に置け。そうだ、よし、そこだぞ」
桜浪高校。
体育館。
そこでは卒業式の準備がされていた。その卒業式の準備を指揮しているのは元生徒会長である愛美、俺であった。
なぜ高校3年生で自分の卒業式の準備をここまで本格的にやっているのか。
「なんで愛美先輩がこんなことしてんすかー?」
「お前のせいだろ・・・」
現生徒会長である柊筑紫という女の子が全く仕事をしないからである。
ちなみに推薦で大学はもう決まっているので準備をしてもいいわけだが、なんか腑に落ちない。
「お前仕事をマジでやったら本当にすごいのにやる気を出すベクトルを間違っているからな」
「なにがですか?」
眠り姫。
授業こそまじめに受けているもののその反動とも言うべきかこいつは放課後ずっと寝ている。
しかし本気で何かに打ち込むと必ず成功し、すばらしいものができあがるというところから俺はこいつを推し、そしてみごと当選した。
なのにこのありさま。
「まぁ、手伝うのは構わないけど、これ手伝うレベルじゃないだろう・・・」
「うーん、もう少し明日からがんばります」
「そういうやつは明日からも頑張らない」
とりあえずほかの委員会の後輩たちや、それに生徒会の後輩たちに指示をだす。
なんか徐々に体育館が卒業式らしくなってきている。
「お疲れ様ですわ。愛美くん」
「お、成宮。さんきゅ」
俺は成宮から飲み物を受け取る。大声出しっぱなしだったからのどが痛い。
「ひゅー、先輩たちアツアツですねー」
「うるさい」
俺は成宮からもらった飲み物に口をつける。
あとどれぐらいで準備が終わるだろうか。成宮はもう自分の持ち場に戻っている。
「もう卒業式だね」
「ん?」
飲み物のプルタブを開けるのに苦戦していると飯島が話しかけてきた。昨日爪切るんじゃなかった・・・。
「お前はえっといろいろ複雑なんだよな」
「うん、気持ち的にはもう大学生気分なんだけどね、1学年下がった感じがするよ」
飯島戸張。
詳しいことは知らないが誰かほかの人の記憶を共有しているらしい。その人が自分たちより1個上だったため、今混乱しているそうだ。
「だから正直愛美くんのことも後輩にしか思えない」
「それは・・・俺が複雑だな、なんか・・・」
でも飯島の浮かべている顔は笑顔だった。何がそんなに嬉しいのか。
「お前、なんかいいことあったか?」
「へっへっへー、わかる?わかっちゃう?」
「・・・・・」
気分が浮かれているやつ特有の笑顔を浮かべもったいつけてくる。くっ・・・イライラする。
「実はね、私、大学受験するんだー!」
「うちの学校は大体のやつが進学希望だろ・・・」
進学校とまでは言わないが、一応進学に力をいれている学校であり、それなりの実績を誇っている。
「ううん、ただの大学じゃなくて七実くんと同じ大学なの!」
「七実・・・って文系の先輩か」
彼がまだ卒業する前のこと、こいつは寮が同じなうえに、記憶を共有している相手もその七実先輩にかかわりがあったとかで親友以上の関係になっているらしい。
「お前七実先輩のこと好きすぎだろう・・・」
「好きだよ!数夏ちゃんとは違う好きだけどねー」
げっへっへとげすい笑いを浮かべる飯島。何かよからぬことを考えていることがばればれだ。なんのことかは分からないが数夏とかいう人に同情する。
「あーでもやきもちとか妬かれちゃうかなー・・・うーん、でもそっちの方が面白いしなぁ・・・」
「そういえば、そういえばなんだけどさ」
俺はふと思いついたことがあった。
「あじさい荘だっけ?お前が住んでる寮。あそこ高校直属の寮なんだろ?卒業したら・・・」
「うん、もういれないよ」
そう言った飯島の顔はどこかさびしげだった。
「七実くんも、ことりんも、数夏ちゃんもみみりんもいなくなった。残ったのは私とひいろんだけ。後輩も何人かいて面白くはあるけれど、寂しいよ」
その矛盾した気持ちは俺に刺さっていた。
会長や伊藤先輩、副会長が卒業したとき俺は心にぽっかり穴があいたような錯覚を覚えた。もちろん、後輩はいるし、1人じゃない。でも、それでは埋めきれない大きな穴があるのだ。
「・・・・・」
それの解消法はないのだろう。
でも、それでもその穴を少しだけ小さくすることなら可能だ。現に俺も後輩や成宮に支えられてその寂しさを小さくすることができた。成宮に至っては自分も寂しいはずなのに人のことばっか心配して。
「それでか・・・」
それで喜んでいるのか、こいつは。当然だ、なにせ寂しかった、会いたかった相手に会えるかもしれないのだから。
「てか進学先そんな理由で決めたのか?」
「違うよーたまたま同じだったんだよ。七実くんとは同じだけどことりんとかみみりんとか数夏ちゃんとは違う大学だしね」
「ばらばらに進学したんだな」
それは生徒会にも言えたことで誰1人同じ大学に通う人はいなかった。あの津神坂先輩とも別々。なぜかそれはすごく『らしい』ような気がするけど。
「てかお前ってどこの大学行くんだっけ?」
「一応国立。かなりギリだけど。教育学部なんだ」
「きょ、教育学部・・・」
なぜだろうか、不安な気持ちがあふれてくるのは。
「七実くんもだったりするんだよ、教育学部の教育国語。私は英語だけど」
「そうなのか」
以前進路で迷っているという話をきいたが、文系の道に進んだんだな。
「そんなこんなで私たちも来週卒業・・・感慨深いですなー」
「まぁ、な」
卒業式の準備は順調。前々日にはできて、前日に確認という流れになりそうだ。
「正直生徒会のみんなで遊びたかったりしたかったんだが・・・無理そうだな」
「ギリギリだもんねー」
でも卒業してからも機会があるだろう。今は目の前のことに集中だ。
「・・・・・・・・・先輩達、遊びたいですか?」
「え?」
後ろのそれも下の方から声が聞こえたので見てみたらそこには寝ころがっている柊の姿が。
「遊びたいですか?」
「そ、そりゃあ、まあ。飯島も明後日受験だからもうみんな受験終わるころには」
「ふーん、そうですか」
すると柊が立ち上がる。
「なっ・・・!筑紫ちゃんが立ち上がったよ!これは世界滅亡のカウントダウンが始まるかも!」
「いや、私はレッサーパンダでもクララでもないんで、立ったことに驚かないでください」
そうは言ったものの驚かざるを得ない。自ら、いやいやではなく自分から立つなんて。
「先輩たちは帰って勉強でもしてください。まだ4時ですし、いっぱいできますよ」
「え?でも・・・」
「いいから。愛美先輩は遊ぶ場所と日程を考えておいてください」
「あ、ああ・・・え?それってどういう・・・」
「いいから、はやくです!」
「お、おう・・・」
急に体育館を追い出される俺と成宮と飯島。
「な、なんなんでしょうね」
「さ、さぁ・・・?」
「んー、でも私は勉強するかな。せっかく勧めてもらったしね」
「じゃあ、俺は遊ぶ場所でも・・・ってなんでだ?卒業後のことをなぜ今から・・・?」
「わかりませんわね・・・」
〇
あの人たちは鈍い。後輩の粋な計らいもたぶん今でも分からないんだろう。でも、それでいい。だって照れくさいから。
「・・・・・」
生徒会ならやって当然のこと。なら、さぼってきた今までの分を今日一気に取り戻せばいい。
大好きな先輩方に私たちからのささいな贈り物です。
「さぁ、お前ら、私の指示に従え。今から今日だけで卒業式準備を終える」
そして・・・みんなで遊ぶんだ。
お久しぶりです。長いことあけてしまいましたが、番外編です。
内容的には後日談に近いですが、でもエピローグからは時間が遡っているので番外編ということで。
エピローグの数か月前ぐらいですね。七実が大学2年生になる直前といった感じでしょうか。
次回はまたもう少しだけ時間を遡るかもしれません。
ではまた次回。