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第満開 理系少女と文系少年の終わり

 思えば私は最初から七実さんに惹かれていたような気がします。

 懐かしいクラス替えの時、ただ、私が自分の名前を見ようとしていたのを手伝ってくれただけと言われればそれまでなのですが、計算だけしか考えてなかった私が初めて人を意識したのを覚えています。

 計算では求められないものを教えてくれた人。

 七実さん。

 七実さんだけじゃなく、あじさい荘の住人の人達と過ごす毎日は今まででは考えられないほど楽しくて、忘れられない日々でした。

 戸張さんは面白くて、小鳥さんは優しくて、緋色さんは楽しくて、柏部さんは可愛いかったです。香織さんは本当にお母さんのようでした。これを言ったら怒られそうですけれど。

 そんな皆さんとももうお別れです。

 でも、きっとまた会えますよね。

 必ず。

 また全員で遊びましょう。







「体育祭のとき、お前、あのなぞなぞを解けないってひどかったよな」

「しょうがないじゃないですか。私は計算以外何もしてこなかったんですからね、ふふん」

「いばるな」

 空港にて、俺らは2人で話していた。

 ひたすら思い出を話して数夏がいなくなる現実を見ないようにしている、のかもしれない。

「もうそろそろ、時間だな」

「・・・・・はい」

 そんな時間ももうほとんどなくなっていた。

「お前時差ボケとか大丈夫か?むこう行ったらみんな英語なんだぞ?あと、カロリーの高いものばかりじゃなくて、野菜を食べなよ」

「七実さん・・・あなたは私のママですか・・・」

 若干呆れられつつ、とりあえず心配なことをすべて言う。

 一人暮らしというわけではないのかもしれないけれどなんか心配になるんだよな。

「ふぅ、こんなもんか」

「ここぞとばかりにいろいろとダメなところを言われた気がするんですけれど・・・」

「気のせいだ。俺は誰よりもお前のことが好きだからな」

「きゅ、急に何を言っているんですか!」

 最後だからここぞとばかりにたたみかける俺。

 うん、楽しい。

「数夏。また必ず遊ぼう。絶対に」

「はい。必ず会いましょう」

 旅行カバンを引きながら一緒に歩く。

 こういうときに何を話せばいいのか分からなくなる。

 伝えたいことはたくさんあるのに、それを言葉にはできない。

「七実さん、本当にありがとうございました」

「何がだ?」

「あなたのおかげで毎日が楽しかったです」

「あ、あぁ、いや、それは俺だけじゃないし。それに俺も数夏がいてすごく楽しかった。ありがとう」

 お礼を言いたいわけじゃない。

 こんなことを言いたいわけじゃない、でも、でも俺は何を言ったら・・・。

「なんか、いざこうなると言葉がでてきませんね」

「そうだな・・・きっと俺もお前にまだ何も伝えられてない」

「それでいいんですよ、きっと。もう2度と会えないわけじゃないですし」

 そう、また会える。

 俺の世界では数夏は事故にあうことになっているけれど、それはもうきっと大丈夫だ。

 そうじゃなければ、あの津神坂先輩がわざわざお詫びをするわけがない。

 俺は世界を繰り返した俺じゃない。もうあの俺はいないのだから。

「次に会ったとき、思い出と一緒に話してください。それを楽しみに待っていますから」

「わかった。俺もアメリカについてききたいしな」

「もちろんですよ。約束です」

「あー、なんだ、その・・・数夏」

「はい?」

 俺は数夏を近くに呼ぶ。

 そしてゆっくり優しく抱きしめた。

「ななななな、七実さん!?」

「お前、驚くとなを連呼しすぎだ」

「で、でもその恥ずかしいんですけれど」

「俺も恥ずかしいよ。でも、こうしたいんだ」

「うぅ・・・はい」

 しばらくそうした後、俺は抱擁をとく。

「じゃあな」

「はい」

 俺が送れるのはここまでだ。

 これ以上はいけない。

 すると数夏が急に振り向いた。

 その目には涙。

 俺はそれを見て、泣かないと決めた。

 絶対に俺は堂々としてなければならない。

 しかしまた数夏は歩き出す。

「・・・・・・っ」

 駄目だ。

 落ち着け。

 泣くな。絶対に我慢しろ。

「七実さん!」

「数夏・・・・・・」







「未空さん、大好きだよ。じゃあね」









 初めて名前を呼ばれて、敬語もはずれてそんなことを言ってくれた。

 俺は手を振り続ける。

 そして数夏が俺の視界から消えた。

「・・・・・・・・行ったか」

 その瞬間我慢していたものが弾けたように、俺は崩れ落ちる。

 歩こうと思っても足が動かない。離れられない。

「・・・・・数夏」

 それから立つまでには少し時間が必要だった。









「お帰り」

 あじさい荘に帰ってきた俺を住人みんなが笑顔で迎えてくれた。

 ああ、そうだ、俺の居場所はここにある。

 くよくよばかりはしてられない。

「ただいま」

 俺もせめて精一杯の笑顔を見せる。

 少しだけ。

 少しだけ休もう。

 そうしたらまた歩き出すから。またお前に会えるように頑張るから。

 そして俺は小さい一歩を踏み出す。











「七実くーん!ってあれ?ことりん、七実くんは?」

「自分の部屋だと思うよ、戸張ちゃん」

「部屋で何をしてんのさ、それよりも私たちと遊ぼうよ」

「・・・・・・・・・・戸張。それは無理。というかあなたと私以外遊べない」

「な、なんで・・・世の中はいつの間にそんなつまらなくなってしまったんだ・・・・・」

「純粋に受験生だからじゃないかな・・・?戸張ちゃんと緋色ちゃんは2年生だけど、ほら、七実くんは3年生だしさ」

「じゃあ、ことりんはなんで勉強してないの?」

「私はもう推薦で決まったんだ。でも七実くんは行きたい大学があるらしいからすごい勉強してるんだと思うよ」

「・・・・・・・・・・・もう11月。普通なら追い込み時期。むしろ未空はつい最近まで普通に過ごしていたし心配」

「大丈夫だよ、七実くんなら。絶対に」

「まーそうだよね」

「・・・・・・・・・・・なら私も安心。みんながそういうならきっと正しい」

「あの男は無様に食らいつくことだけは得意なのだから心配するだけ無駄よ」

「おわぁ!?みみりん!?」

「だからその名前で呼ぶのはやめなさいと・・・・・・」

「・・・・・・・・・みみは大学どうしたの?」

「私も勉強してるわ。推薦ではさすがに無理だから」

「だ、大丈夫なの?」

「なぜそんな心配そうな顔をするの・・・?やるときはやるのよ」

「いや、部屋とかすごく趣味のもので荒れてなかった・・・?」

「さて勉強をやろうかしら」

「・・・・・・」

「でも、めでたしめでたしだねー」

「私とあの男はいま、困難の真っただ中だけれどね」

「・・・・・・・それも平和あってのこと」

「あ、な、七実くん」

「あ、七実くーん!遊ぼうぜー!」

「・・・・・・・・・・無茶言わない」

「では私は部屋に戻るわ」

「てか七実くんは理系と文系どっちに進んだのさー」

「・・・・・・・・・・・気になる」

「あれ?七実くん出かけるの?」

「いってらしゃーい」

「・・・・・・・・・いってらっしゃい」

「いってらっしゃい」





第満開の開は回とかかってるんですよ。とかそんなことはおいといて。


ついに最終回でした。最後にエピローグでこの作品の本編は完結とさせていただきます。


ただ番外編やらがほんとうに少しあるのでそれを終えて作品の完結となりますが。


没にしたものもありますので、クオリティは・・・いや、上げます。みなさんに読んでもらうものですしね。


読んでくださった皆さんへの感謝は本当の最終回で。


ではまた次回。

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