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第103片 文系少年と理系少女の非日常③

「お前・・・・・山梨か・・・・・?」

「ううん、山梨じゃない。戸張だけど山梨じゃない。私は飯島戸張だよーん」

「は?お前何言って・・・」

「詳しい説明は後。にしようかと思ったけれども空気読まずに今しよーっと!あ、つーちゃんはそこで待っててね。不意打ちとかはやだよ!」

「この突拍子のなさ、山梨だろ!どこをどうとっても山梨だろ!」

「てか、つーちゃんってわたしのことか・・・?」

「あは、やっと仏頂面をやめたね、七実くん」

 じゃあ、と山梨・・・じゃなくて飯島というらしい戸張が説明を始める。

「山梨戸張というのは妄想だったわけだけど、それは山梨さん、山梨黒雪の学生時代の友達、春川戸張が元になってできているというのは知ってるよね」

「ああ・・・」

 俺はうなずく。

 それはほかでもない山梨黒雪自身から聞いたことだ。

「でも、そんな10年以上昔の過去を、克明に何もかも覚えてられると思う?いや、黒雪さんはきっと覚えていたのかもしれないけれど、細かい細々としたところまでは無理だったんじゃないかな?」

「?」

「七実くん、妄想というのは結構難しくて、元にしたイメージが変わると妄想は保てなくなるんだ」

「だから春川戸張を元にした妄想には限界があったということか?」

「そゆことー。だから黒雪さんは焦っただろうね。山梨戸張が消えてしまう。でも思い出そうとしても何を忘れたのか、何が妄想に欠けているのかすら思い出せない。まぁ、妄想というのはあまり長時間するものじゃないから、そんな妄想の弱点があるなんて気付かなかったんだろうね」

「で、お前を元にしたと」

「そう。たまたま見かけた私を、飯島戸張を元にして妄想を作りなおした。それほどまでに切羽詰まってて、それでいて私はその春川であり山梨である戸張さんに似ていたんだろうね」

 そう、似ている。

 似すぎているほどに似ている。

 双子だといわれても分からないぐらいにそっくりなのだ。

 違いは髪の長さ。山梨戸張は髪がすごく長かったが、こいつは肩ぐらいまでしかないということか。

「で、山梨戸張が消えたことで私の中にその記憶が流れ込んできたわけ。信じてくれる?」

「信じるも何も俺と黒雪さんしか知らないことを知っているんだから信じるしかないよ」

「ったく、これだから七実未空は」

 とまたまた後ろから声がする。

「黒曜石か!?」

「そうですよ、みなさんの大好きな黒曜石です」

「でもお前、ここはまだ津神坂先輩の妄想世界のはずだぞ。さっきは出てこられなかったしどうやって・・・?」

「出てこれましたよ、さっきもね。ですがあなたに腹が立ったのでやめました。山梨戸張と結露緋色のことを忘れたふりをしていたあなたにね」

「・・・・・・・・すまん。でも数夏を救うにはそうするしかないんだ」

「まぁ、黒曜石はあなたが繰り返してきた世界のことなんて知りませんから何も言えませんけれど、でもまぁ、生きててよかったですね」

「いや、これ別に殺し合いじゃないから・・・」

「あ、えーと七実くん。大事なこと思い出したんだけど」

「どうした?山梨・・・じゃなくて飯島」

「戸張でいいよ。ややこしいし名前は一緒だし。あのさ、私まだ高校1年生なんだけど七実先輩って読んだほうがいい?」

「そんなことかよ・・・。そのまんまでいいよ。先輩ってお前に言われると気持ち悪い」

「にゃはは、じゃあ、七実くん、こんなところでもたもたしてないで現実に戻ろうか」

「現実に?」

 それは無理だ。

 この世界は完全に津神坂先輩のものである。出るには許可が必要だ。

「許可なんていらないよ。だって私、最近妄想少女になったわけだし・・・ねっ!」

 おもっきり拳を前に突き出す戸張。

 しかしその拳は空を切るわけでもなく、ただただ何かにぶちあたる。すると世界に亀裂が入った。

「さすが妄想少女だね。わたし驚き」

「七実くんを止めてくれたあなたには感謝するよ、でももう少しまわりを頼ったらどうかな。生徒会長候補、落ち込んでる。同じ生徒会だけにほっとけないよ」

「ああ、そうだな。わたしはいつも荒っぽいことしか思いつかない。それしか解決策がないかのようにふるまって考えることをやめているのかもしれない。現にこうして君が七実を無傷で止めたのだから」

「傷つけるつもりなんてあなたもないでしょ」

「わたしが言っているのは心の傷だよ」

 そこで少し戸張は笑う。

 そして津神坂先輩が何かを言おうとして世界は完全に崩れた。

 気がどんどん遠くなる。俺は現実に戻らなければならない。

 俺にはまだやることがある。








「うまくいったみたいだね。まだハッピーエンドではないけれど、でも、十分だ」

「先渕先輩ー、黄味たち呼び出されてから何もしてないんですけど」

「うーん、七実くん、もっと暴れるかと思ったんだけど、それほどまでに飯島戸張は衝撃的だったのか『無』」

「では私たちは帰らせてもらいますよ」

「待ってよ、色花ちゃん」

「色花ちゃん・・・?私は別になれ合いたくてここにきたわけではありませんので」

「私も帰らせてもらうわ。私は忙しいの。だからあなたにかまってる暇なんてないのよ」

「柏部ちゃん・・・まぁ、でもしょうがないね。僕がこれ以上君たちを止める理由もない。ただ七実くん人望あるなぁ。こんなにもたくさんの人が説得に集まってくれるなんて」

「・・・・・・・・・当然。未空はやさしいから」

「あれ?君ももう到着してたんだね。じゃあ、会いに行ってあげなさい。さて、これからは自由行動です。いつも通りの日常を楽しんでくださーい。あ、あと高松ちゃん」

「なんですか?」

「君はどうするのかな?僕はそれが気になるんだ」

「・・・・・・・・どうもしませんよ」

「その笑顔。無理してるようにしか見えないんだけど、でも七実くんがなんとかしてくれるか。じゃあ、またね、先輩のお節介もこれでおしまいだ」









 世界が砕ける。

 俺は気がつくと地面に足がついていた。

 そう、ここは現実。ここが現実だ。

 しかし不思議なことにその足は片足だけしかついていなかった。なぜだ?と考えることもできないまま体は動く。

 あぁ、そういえば数夏を探すために走っていたなぁ。

「ってえぇええええええええええええええええええ!!!」

「あれ?七実さん?なんで、なんで止まらないんですか!?」

 俺は急ブレーキをかける。

 なんとか勢いを殺して、数夏に怪我をさせないようにしなければならない。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 なんとか最終回みたいな叫び声をあげて止まることができた。

 ただ顔は数夏の胸に突っ込む形になってしまったが。

「七実さん」

「・・・・・はい」

「弁解をききましょう。言い訳をしてください」

「えーと、実は先ほど異世界に飛ばされまして・・・・・」

 ばちーんっとビンタをされた。

「さて、で、なんの用ですか?」

「お前・・・いまどきほっぺたにびんたって流行らないぞ・・・。全面的に今のは俺が悪かったが」

「で、何の用ですか?」

「こいつ・・・さっきまでのことをなかったことにしようとしてやがる・・・」

 俺はとりあえずたたずまいをなおした。

 それと乱れた服装もなおす。

「な、なんですか急に・・・」

 と、いいつつも数夏もなぜか制服をなおす。

 そのせいでなんか変な雰囲気になってしまった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 なにこれすごくはずかしい!

 世界を繰り返してきてはいたけれどわがままを言うのは今が初めてだ。しかも俺の身勝手な理由で。

 そう考えると緊張する。

 それがうつったのか数夏も顔を真っ赤にしている。

 いや、お前は何を想像しているのかしらんが赤くなりすぎだ。

「あれ?」

 何かがおかしい。

 そういえば俺は世界を何回も繰り返してきているはずなのになぜかこの世界に体がなじんでいる。

 別の世界から時間を遡ったどこか異質な感覚がふだんはするはずなのだが。

「・・・・・」

 妄想の世界が崩れるときに言った津神坂先輩の言葉を思い出した。

『プレゼントを君にあげる。これがわたしなりの謝罪だ』

 という言葉を。

 ってことは今まで世界を繰り返したということがなかったことになっている?

 そうしてくれたのか・・・数夏と同等に立たせてくれるために。

「あのさ、数夏」

「は、はい!」

「その・・・お前、アメリカに行くんだろ」

「えぇ、まぁ。そちらの大学に行こうと思っているので。ってこれ七実さんにきちんと話しませんでしたっけ?」

「そう、だな。今のはただ確認したかっただけだ」

 頑張れ、俺。

 ここでいつものように帰るか、とか言ったらそれはただのへタレだぞ。

 勇気を出せ。

 俺はこいつにどうしてほしいんだ。俺はこいつのことをどう思っているのか。

 頑張れ。

「数夏、そのことで話したいことがある」

「は、はい、なんでしょう?」

「俺は数夏にアメリカにいってほしくない。俺はお前と一緒にいたい」

「へ?」

 数夏がさらに真っ赤になる。

 しかしそれは俺も同じだった。

 体が熱くなるのが分かる。これは純粋な照れだ。

「なななな、何を言っているんですか!?」

「そのまんまの意味だ」

 真剣に言う。

 いつものふざけた調子ではなく、真剣に。これが本気だと伝えるために。

「七実さん・・・・・でも私は・・・・・私はどうすれば・・・」

 そう、俺はこうなるから言いたくなかったのだ。

 優しいこいつなら相手がだれであろうと悩むと、そう思っていたから。

 無駄なことを考えずに将来にむかっていってほしかった。でも、それは俺の本心じゃなくて飾ったかっこつけた思いだった。

 俺にはない将来の夢をもったこいつのことを応援したかったのも事実だ。

 でも、それ以上に俺はこいつのことを。

「やっぱりお前は悩むよな。でもそれでも一緒にいたい」

「えっと・・・それはなんでですか?」

 お互いに赤くなった顔が戻らない。

 それでも数夏は理由をきいてきた。この反応はきっと俺のこの言葉の意味に気付いているんだろうな。

 だからこそ言わないといけない。

 俺の口から、きちんと。






「それは・・・数夏のことが好きだからだ」







 

 気温の低いある冬の日。

 俺はそう思いを告げた。

ほんと終わる終わる詐欺なんじゃないかってぐらい最終回間近!って言っている気がします。


でもそれは最終回まで間近!って言うのがはやすぎただけで概ね予定通りだったりします。


あと、少しだけ続きます。


とかいいつつ、実は最終回後用にいくつか書いているのでそれを公開するんじゃないかなぁと・・・。


い、いや、そのでも大筋は終わるんで大丈夫です、はい。


短編がいくつかあるだけなので。あと本編では公開するのをやめたような話もあるので内容的には不安ですが、最終回まで読んでくださった方にはぜひ、読んでいただきたいお話となっております。


では、また次回。

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