第100片 理系少女と文系少年の日常③
急にドアの開く音が聞こえる。
案の定ドアは開けはなれていてそこにいたのは知り合いだった。ただしそれはあじさい荘の住人ではまったくない人であったのだが。
「お前・・・・・鈴木大和か・・・?」
「七実・・・未空・・・・・・あー、疲れた・・・・・」
そこにいたのは息絶え絶えな鈴木大和。俺が少しだけひねくれた原因である人物がそこにはいた。
金髪になってはいるが確実にそうだろう。
「なんでお前がここに・・・」
「俺は!」
といきなり叫ばれた。と、その声に呼ばれたのか高松や柏部、最上が部屋から出てきて集まってくる。
「ど、どうした・・・お前がどうしたんだ・・・?」
「俺は!俺は・・・・・・・岸島さんが好きだ!」
「・・・・・・・・・・・・・え、えーと」
告白する相手を間違っていないだろうか。俺は七実だし、岸島なんて名前じゃない。
「あいにくだが、今、数夏はいなくてだな・・・ってお前数夏と知り合いだったのか?」
「そんなことはどうでもいい!聞いたぞ、岸島さん、アメリカに行くんだってな」
「あ、あぁ・・・そうだけど」
「お前はどうすることにしたんだ?」
「どうするって・・・・・・応援することにしたが」
やっぱりな、というような顔をする鈴木大和。
「お前はそれでいいのかよ。少しでも寂しいとか思わなかったのかよ!お前のことだからあいつを止める理由なんかないとか思ってんだろうけどな・・・何、かっこつけてんだよ!」
「かっこつけてなんか・・・」
「最後なんだろうが!止めてみせろよ!無理でも・・・恥ずかしくても醜くても泥まみれでも屈辱的でも邪魔になろうともうっとおしくてもしつこくても!」
「お前何を言って・・・」
「岸島さんはそのうち大事なことに気付く。その時、お前は必ず岸島さんの話を聞いてやれ。そして今すぐにでも会いにいけ。お前の姿を見ることが今の岸島さんに必要なことだ」
さっきからこいつは何の話をしているのか。
でもなんとなく伝わってきた。俺に我儘を言えということか。
「数夏は今、どこにいる?」
「学校だ。学校のどこにいるかは分からない。で、そんなお前はここで待っているのか?」
「・・・・・・・・・・いいや、今から行く」
「そうか・・・・・頑張れ未空」
「さんきゅ、大和」
大和は力尽きたように倒れこむ。俺は立ち上がり玄関へと向かう。
「七実くん!」
そこで声をかけてきたのは高松だ。
ものすごい大声でこんな声が出せるのかとこんな状況でも驚いた。
「頑張って数夏ちゃんを連れ戻してきて!」
「ああ、みっともなくあがいてくるよ」
今度は靴をはいて、ドアノブに手をかける。
「七実くん!」
また後ろから高松の声が聞こえた。
「なんだ!」
「七実くん!大好きだよ!」
「へ?」
「さぁ、はやく数夏ちゃんのところに!」
「あ、あぁ・・・・・・」
外に飛び出して走り出す。
なんかさらっと好きとか言われたような。でも落ち着け自意識過剰かもしれない。
とりあえず今大事なことは数夏のところへ行くこと。
かっこつけずに素直に俺の気持ちを伝えることだ。
〇
「ジジ・・・・・・・・ジ・・・・・・・ジジ・・・・・・・・・」
〇
「あいつどこにいるんだ!」
学校中を走り回っているが一向に見つからない。あいつどこに行きやがった。
そんな俺の目に飛び込んできたのは数夏ではなく、下野さんだった。
「あ、七実くんおっすー」
「下野さん、数夏・・・・・岸島数夏知らない!?」
「岸島数夏・・・って理系少女の?うーん、双葉は知らないな。どうしたの?」
「いや、ちょっと探してて・・・・・」
その時思いついたのは鈴木大和だった。
「俺は!俺は・・・・・・岸島さんが好きだ!」という言葉。あれが本当だとしたら。
「下野さん」
「ん?どしたの?」
「今年中に大事な話がある。できればはやめがいいんだけどいつか少しだけ時間とか空いてない?」
「うーん、再来週ならあるかも」
再来週。数夏がいなくなってしまう週。
これは偶然なのか。それとも・・・・・・。
「じゃあ時間わかったらメールするね」
「ありがとう!」
お礼を言いながらまた走り出す。
あいつこんな時に限って見つからない。
〇
「ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ」
〇
「選挙が中止になった・・・!?」
俺、愛実は生徒会室へ行くとそのような通達を生徒会長から受けた。
「厳密にいえば中止じゃない。選挙は行われる必要がないということだ」
「それはどういう・・・」
「まず、途中乱入してきた小森についてだが・・・あいつはもう元の学校へと戻ったらしい。転校生というのがどうやら嘘だったようでな。理由は分らんが辞退した」
「はい・・・?」
辞退?
あの乱入者が辞退?あんなすごい登場をして、さらにあんなすごいメンバーを応援責任者にしておいて辞退だと・・・。
それにあいつにはどうやら好きな人がどうのこうのって言ってた気がしたんだが・・・それももうどうでもよくなったということなのか?
「でもまだ伊藤先輩が」
「伊藤書記・・・いや、伊藤も辞退した。3年生になったら生徒会を辞めるそうだ」
「なっ・・・!?」
そんな・・・そんなことってあるのか?
「こんな俺に都合のいいことばかりおきて・・・いや、伊藤先輩が辞退したのは納得できません。俺はあの人とちゃんと戦って勝ちたい。それじゃあ生徒会長になっても喜べない」
こんな不戦勝ばかりの選挙など意味がない。
「まぁ、確かに少しばかりおかしいな。さっき愛実立候補者は自分に都合のいいことばかり起きていると言ったが・・・見方を変えれば選挙がなくなったということが誰かにとって都合のいいことだということにもなる・・・」
生徒会長は少し考える。そうして静かに口を動かした。
「わからん」
「えぇ!?」
「というか俺はもう生徒会長じゃない。すでに引退した。次の生徒会長はお前なんだ、愛実立候補者。まだ少しばかりはやいが学校のために初仕事といってくれないか?」
「・・・・・・・・・まだ俺は生徒会長じゃないです。でも生徒会であることは確かだ。できることがあればなんでもやります」
「あー、じゃあ、待機しててー」
急に女の子の声がした。その声の主は生徒会室の扉によりかかっている。
「津神坂先輩・・・・・」
「ここからは少しわたしに任せてほしいんだよね。だから邪魔になるんで待機しててくれ」
「でも俺は」
「俺は生徒会だから?とかそんな感じのことを言おうとしたのかな?まぁ、でもこれは君の手に負えるようなものじゃない。あんまり変なこと言いたくないけれど世界そのものを抱え込む覚悟がないと無理だ」
この先輩は何を言っているんだ・・・?
世界?なぜ急に規模がでかくなる?話が飛躍していないか?
「今、この学校に起こっていることはそれほど大事なことなんだよ。ま、何もわからないだろうからただの中2セリフとして受け取ってもらって構わない。もとより君たちには関係がないからね」
だから、と区切り。
「だから動くな、探るな、勘付くな。もう何もせず、黙っていればそれでいい」
そう言ってその先輩はどこかへ言ってしまった。
「会長・・・・・」
「俺は会長じゃないぞ。さて、愛実次期生徒会長。どうする?」
また更新に間があいてしまい申し訳ありません。
どうやらパソコンの調子が悪いようなのでなかなか思う通りにかけませんでした。
言い訳ですけれど。
ではそんな中書いたものではありますが、記念すべき100話(番外編を抜けば)なので読んでいただけると嬉しいです。
当初はもう少しはやく終わるつもりだったのですが、みなさんのおかげでここまで続けられました。
ありがとうございます。
あと少しではございますが、これからもよろしくお願いします。
他作品、これからの作品はまだまだ続きますのでそちらもよろしくお願いします。
ではまた次回。