第96片 理系少女と文系少年の各々
目覚ましの音。
ピピピピという軽快な音が俺を不快にさせる。
布団から出ようにも出られないのは恐らく眠いというせいだけではないだろう。
冬。
冬が訪れていた。
11月。かなりの寒さが俺を襲う。寒すぎて布団から出れない学校に行きたくないだるい。
しかし時は無残にも過ぎていく。もうこのままじゃ遅刻するんじゃないかというギリギリの時間まで寝る。しかし携帯のバイブ音。
「な、なんだ・・・」
携帯を開いて見てみるとそれは香織さんからだった。
珍しいな。普段なら母親みたく階段を上り部屋をノックするというのに。
『遅刻するよ。あと今日はちょっと用事で遅くなるから夕飯よろしく』
なるほど。
もうすでに出かけていないのか。
いないにも関わらずよく俺がまだ寝ていると分かったな。
本当にそういうところも母親同然である。
「しゃあない・・・」
寒がりながらもとりあえず布団から出て着替える。
学ランっていうのはなんでこんなにボタンが多いんだと変なところにイラつきを感じる。
人間とはわがままで夏は冬が冬は夏が恋しくなる。本当にどうしようもないな。
着替えをすませて、歯磨きをすませ、そしてみんな共通のリビングへと降りていく。
さて、今日も頑張るかな。
〇
学校の休み時間。2年生廊下にて。
「告白するよ」
「ひゅーやるじゃん鈴木」
この先輩は本当にめんどくさい、と先輩に使う言葉ではない感想をもらす。
確かに恐ろしくてすごい先輩とは思うけれど素直に尊敬できないのはなぜだろうか。
「津神坂先輩。俺はそんなはやしたてをしてもらうために言ったわけじゃないんですけれど」
「あぁ、そうだそうだ。ごめんごめん。わたしが聞いたのだったね。いやーほら、少女漫画って先が気になるじゃないか、少年漫画もどうやらそうらしいけれども。だから、ね。人の恋ばなって楽しいものだろう」
「はぁ・・・そうなんですか」
「そうなんだよ。それと共に君の覚悟を聞きにきたわけなんだがね。ここにきてわたしにその言葉を言えないとかっていうヘタレならわたしは告白を止めていたよ」
「・・・・・・・」
どうやらテストのようなものだったらしい。
危なかった。この人に邪魔されると一生告白なんてできそうにないからな。
「試すようなことをしてしまってすまない。だが経験豊富なわたしの意見は大事にしたほうがいいぞ」
「あれ?先輩って恋愛感情を抱くんですか?」
「なんだい・・・その微妙に失礼なセリフは・・・。初恋はまだだがね」
「・・・・・・・・」
「はっはっはっ。そんな目で見ないでくれ。うんうん、君がこいつめんどくせぇと思ったことは重々承知しているつもりだぞ。ただ忘れないで欲しい。わたしの言葉はどれが嘘で本当かなんて分からないということをね」
「いや、まぁ、そういうところも含めてめんどくせぇって思ってるわけなんですが・・・」
だがこの人のアドバイスは本当に聞いたほうがいいと俺は思う。
そして。
もう1つ気になること。
「七実のことだね」
「・・・・・・・・えぇ、そんなところです」
「七実に内緒で告白するつもりかい?確かに岸島は七実のものではないからそれは自由だが、お前はそれでいいのか?これはテストではない。真実を答えてくれ」
「・・・・・・・・内緒になんかしません。ここいらで接触した方がちょうどいいでしょう。だから俺は七実に伝えるつもりですよ」
「・・・・・そーかい。ま、喧嘩だけはやめてくれよ。七実くんは荒っぽくないけど、君(の外見)は荒っぽいからね」
「かっこの中が丸見えですが」
「冗談だよ。じゃあ、頑張れ」
「・・・・・・・・頑張る」
〇
「えーと未空お兄ちゃん・・・じゃなくて七実未空っていますか?」
「・・・・・・・・・いないわよ」
「えぇ!?そんな・・・あたし頑張って早起きしたのに・・・・・」
あじさい荘1階のリビングに来ていたのは確か・・・・・神子ちゃんと言ったかしら?
その女の子の相手をしているのが私、柏部である。
「早起きって・・・今もう10時すぎよ。どう考えても学校に行っている時間でしょう。というかあなた学校はどうしたの?」
「にっしっし!今日は開校記念日なのです!」
「受験生がこの時期に何をやっているのとも言いたいのだけど」
「あれ?そういえばなぜ柏部さんはこの時間に家に?」
「・・・・・・・・・・それが仕事なの」
「へぇー!そんな仕事があるんですか!あたしもその仕事に就こうかなー」
「・・・・・・なるのは大変だけど頑張ってね」
「そ、そうなんですか・・・・・うぅ、できるかな・・・」
何か勘違いしているみたいだから放っておこう。
だけど。
「あなたは何をしに来たの?」
「だからお兄ちゃんに会いに・・・・・」
「そうじゃなくて。お兄ちゃんに会って何をしたかったの?」
「はい、あたしはお兄ちゃんに会って桜を見せてもらいに来ました!」
「桜・・・?」
桜というと桜浪高校の桜ということかしら?
それにしては少し早い気がするのだけど。さすがに11月には咲かないはず。
「神子ちゃん、まだ桜は咲いていないような気がするわ」
「え?そうなんですか?でもちょろっと見たらもう咲いていたような気がしますが・・・遠くからだったんで見間違いですかね?」
「・・・・・・・うーん」
見間違いって桜をこの季節に?
間違いようがないと思うけど、でもこの季節に桜はいくらなんでも。
「みんなでお花見行きましょうね!」
「いや、寒くてそれどころじゃないんじゃないかしら・・・」
〇
「ははは、うけるー。超うけるー。七実あんた最高」
「最上・・・馬鹿にしてんだろ・・・」
昼休み。
弁当を食っていたらクラスメイトの最上キララ。名前が驚くほどファンシーであり、見た目もふわっふわ。本当に全体的にファンシーなやつが雪玉をぶつけてきた。
しかも口調は品がない。なんとかですわ!みたいな顔してんのになぁ。
ちなみにヤクザの娘なのでキレるとすごいこわい。本人はそれを気にしているようだが。
「お前、大体教室に雪玉を持ってくんな!」
「なんでー?せっかくの雪じゃん。楽しまないと損だよー!」
「今は弁当食ってるんで勘弁してもらえませんかねぇ!」
「いてっ」
「あ、ごめん」
と話している最中に橘くんが思わずぶつかってしまう。
「橘てめぇ!何してんだゴラァ!」
「ひぃっ!」
最上キララ本性あらわす。
本当に怖いなこいつ。
「でも、あじさい荘メンバーだしなぁ、付き合いも長いし」
最初からメンバーだった最上キララ。
しかし、でもなぜか最近会ったばかりのような気もする。この不思議な感覚はなんだろうか。
「黒曜石」
「はーい、不可能を可能にコンバート!あなたのアイドル黒曜石でーす」
「なんだ、そのキャッチフレーズ」
「で、なんですか?七実未空。教室に呼び出すなんて珍しい。クラスメイトにバレちゃいますよ」
「どうせ見えないよ。で、だ。最上についてなんだが、なんか知り合ったばかりのような気がするんだ。それに」
「それに?」
「山梨と緋色。この名前?かどうかは分からないがこの言葉が頭から離れない。何か知らないか?」
「・・・・・・・・・知るわけないですよ、黒曜石が。知っているとしたらあなたしかいませんよ。あなたのことはあなたにしか分からない」
「そうか・・・気になるんだがなー」
「ではこれで」
「ありがとな」
黒曜石は消えてしまう。
こうなったら数夏だな。というか弁当一緒に食ってるんだがこいつに聞いとけばよかった。
「数夏」
「・・・・・・・」
「数夏」
「・・・・・・・」
あれ?数夏?
「数夏!」
「あ、え?あ、はい、はい。えっと、なんでしょうか?」
なんだ?
様子がおかしいって感じどころじゃないんだけど。
「どうかしたのか?」
「い、いえ何も!べ、別に何も隠してませんよ!」
「隠してんじゃねぇか」
そんなもんに騙されるのは漫画の中だけだ。
でも話したくないのなら無理に聞きださない方がいいかもな。
「えぇ!?七実さん、雪ついてますよ!」
「そっからかよ!」
〇
「行きますよ、黄味」
「ほいほーい、そりゃあ行きますよ。黄味の尊敬する先輩ですからね、かんざし先輩」
「色花と何度言ったら・・・あぁ、でももうその名前は」
「いいじゃないですか、その名前は綺麗で。色花先輩」
「そうですか・・・・・」
「で、今日はどこに行くんですか?」
「どこにってもう少ししたら生徒会選挙が始まるでしょう?そこに行くんです」
「もう少しってまだあと1時間以上あるじゃないですか。ロケじゃないんだからそんなまえのり的なノリじゃなくてもいいのに」
「何か嫌な予感がするんです。これ以上ないぐらいに恐ろしいことが起こるような気が」
「アニメの見すぎですよ。黄味も非日常ものは大好物ですが」
「そうならいいんですがね」
「えぇ!?そうならいいんですか!?色花先輩実は中2病に憧れていたり!?」
「違いますよ。生徒会選挙・・・特に生徒会長選出には気をつけなければ」
〇
「やあ、ようこそ」
「何の用ですか?私は明日の朝食の準備とかあるんですけれど」
「そうだよ、用があるんだ。香織さん」
「あなたが下の名前で呼ばないでくれるかしら、校長」
「おっとすまん。だが、君はあまり上の名前を言わせたがらないじゃないか。自分の寮の子たちにも教えずに。昔はそんなことなかっただろ」
「あなたも昔は校長ではなかったですよね、大上校長。出世おめでとうございます」
「皮肉かな。だが君が大学に行かなかったのは本当に残念だ。なぜあれだけの才能を持っていながら大学に行かなかったのだ」
「別に理由はないですよ」
「ほぉ・・・そうか。ではそれはいい。だが1つ教えてもらいたいことがある」
「・・・・・・」
「あの早く咲く桜。あれはなぜあんなに早く咲くんだ?」
「私が知っていると思いますか?そういうのは生物の先生に聞いたらどうです?」
「仕組みが知りたいんじゃないんだよ。生物の先生もお手上げらしいしな。問題はそこじゃない。なぜ急にあの早く咲く桜、『早桜』があの校庭に現れたのかだよ」
「知りません」
「・・・・・今年はもう咲いているらしいけどね」
「!?なっ、どういう・・・・・!」
「さあな。君なら知っているんじゃないかね?」
「・・・・・・・」
「だから教えて欲しい、その理由を。教えてくれ、香織・・・・・桜浪香織。私のクラスの元生徒よ」
〇
「あー驚いてやがりますね。ですよねですよねー気持ち分かりまくりですよ。ですが、まぁ、でも私も好きな人のために頑張りたいという素直な思いがありますからねーだからやらせてくだせー」
生徒会長選出。
伊藤書記と愛実会計の2人の決意表明を終えると急に壇上に上がってきた女の子。
「ってなわけで転校生でーす。みなさんよろしくおねげーします。生徒会長に立候補する小森沙紀です。あぁ、好きな人ってのは先輩で、先渕先輩っていうんですけど、私がボコボコにしたんでしばらく起きれないかなー?まぁ、じゃあそんなわけでよろしくです」
そのあいさつは会場にどよめきを与え、そして同時に恐怖も与えた。
しかし。
だが。
ただでは上手くいくはずのない曲者ぞろいのこの学校。
津神坂というわたしももちろんその曲者みたいなものなんだが。
もし、この現実が作品だとしたら、わたしは間違いなく、こういう煽りを付けるだろうね。
最終章開幕。
遅れましたが投稿です。
最後に書いたとおりこの物語の最終章へと入りました。
ですが最終章、であり最終話ではありません。最終章でもどれだけ時間がかかるのか、何話分あるのかそれはまだわからなかったりするんですよね。
・・・・・・・作者なのにこの体たらく。
本当に申し訳ないんですがたまに、たまーに思いつきみたいな感じで投稿したりするんで、はい。
気をつけます。
そしてもう1つ。番外片もいれてこの話で100話目です。
本当に皆さんのおかげです、ありがとうございます。
本編はまだ96話ですし、この先もあるので見ていただければ幸いです。
ではまた次回。