サイドステージ
朝、白い目覚まし時計の音と共に、僕は布団を片付けた。
まあ、たまたま朝早く起きただけなんだけどね……
さて、今日の夕食は何にしようか……
と考えながらも、朝食の用意をする。
焼きあがった三枚のトーストを皿に乗せ、テーブルへと運び
卵を油を敷いたフライパンに割る。
片手でも割れないことはないけど、もし卵の殻が入ってたら猫に引っ掻かれるので両手で割る。
しばらくすると、臭いにつられてか猫が居間に現れ、その数分後に白羽が現れる。
皿に盛り付けて、テーブルに持って行くと同時にバターとジャムを運ぶ
「「「いただきます」」」
と手を合わせて、むしゃむしゃとトーストを食べながら会話も無いまま時間が過ぎ、パンが半分になったところで思い出したかのように、猫がテレビをつけた。
『現場の臼井さん! どうですか?』
『はい、こちら現場の臼井です。警察関係者の話だと、どうやら体がバラバラにされているようです。まさに猟奇的殺人でしょう』
…………と、忘れていた……。
「なあ、白羽」
「なんだ? とっしー?」
「これ、いる?」
そういって僕は数百枚に及ぶ書類を出した。
「なんだそれは?」
「大会の参加者の個人情報だよ」
「……どこでそんな物調べた?」
「言わなかったけ? 僕の副業は情報屋なんだよ」
「…………で、それを私に渡してどうさせるつもりだ?」
「どうもしないさ。ただ、もしも君が、魔王の力で参加者を生き返らせたいんだったら、そのまま活用すればいい。活用しないんだったら、この場で破り捨ててもいい。まあ、この厚さを破れるほど僕の力は強くないんだけどね」
「……貸せ」
僕はテーブルの上に書類を置き、白羽に渡す。
「…………」
白羽は手に力を入れそのまま書類を破り捨てた、
いや、別に破り捨ててないんだけどね
そのまま、無言で書類に目を通した。
「本当に全員のようだな」
「だろ?」
「…………」
「あ、そうそう……」
僕は白羽に向かって手を出した
「何だ?」
「代金」
「…………後払いで」
「ちゃんと払ってくれよ?」
「ああ、分かってる」
そして、また食事を始める。
そして
「「「ごちそうさまでした」」」
の声と共に白羽の姿は消えた。
「あれ? 柚姫ちゃんもう行っちゃったの?」
「ん、ああ」
「じゃあさ、とっしー」
「ん?」
「やらないか?」
僕はすぐさま猫に近づいて
頭に拳骨を落とす
「う~。ひどいよとっしー」
「年頃の乙女がそんな事言うものじゃありません」
「うう~。言葉のあやだよー」
「じゃあ、何て言おうとしていたんだ?」
「忘れたー」
「…………そうか、忘れちゃったか~?」
「うん、忘れたー」
…………。
頑張れ、僕。
台所から包丁を取るために向かう足を気力で止めながら、質問する
「なあ、猫」
「何、とっしー?」
「あいつ、猫が神様って事に気づいてなかったのか?」
「? ああ、そういやあたし神様だったねー。信仰してくれる人が一人しかいないから忘れてたねー」
「…………。で、白羽はお前が神様だって気づいていたのか?」
「気づいてたと思うよ?」
「だったら、なぜ……」
僕はとある資料を思い出しながら、疑問にぶつかる。
「さあねー。神様に人の気持ちが分かるわけ無いよー。あの時に殺された人間の親族の気持ちなんて分からないからねー」
「まあ、そうだけどさ……」
「まあ、べつにいいんじゃないのー? どうせ魔王ごときがあたしをころせるわけないからねー」
「…………まあ、その通りか」
「うん、だからねー。とっしーはこのままいてねー」
「ん? どういう意味?」
「たとえ世界が終わっても、友達を殺しても、好きな人が出来ても、魔王のゲームに参加してもとっしーはあたしだけのとっしーでいてねー?」
そんな残酷な注文をしながらも、笑顔で聞いてくる猫。
その笑顔はどこまでも普通で、声色も普通で、いつもどうりだ。
だから僕は答える。
「分かってるよ。僕は猫の物だよ。誰にも取られたりしないさ」
「それならいいんだよー。あ、あとはあたしもとっしーの物だよー」
「…………」
「だから、とっしーはあたしにあんなことやこんなことができるんだよー」
「ちゃんと雰囲気ってものを考えながら発言しような?」
「分かったー」
うん、分かってなさそうな顔だけどスルーしとこう
「あ、猫、一つ聞きたいんだけど」
「なにー?」
「楽しかった?」
「うん、楽しかったー」
そりゃよかった。