ステージ 1-9
裏切り、は万死には値しない。
裏切りと嘘だらけで生きてきた僕が言っても説得力は微塵も無いだろうけど、それでも、裏切りにさほど意味が無い。
この事を論理付けで説明する事は出来ない。
けど、僕の経験上から言うと裏切りはやっぱり、万死には値しない。
現に僕は、死んでいない。
神相手に嘘をついても、彼女を裏切っても、僕はまだ死んで無い。
その光景は、まさに珍妙としか言い表す事ができなかった。
なぜなら深夜、つまり今、学校に肝試し目的で侵入した学生がいるからだ、
いや、別にそんなことは無いんだけどね
ただ深夜の赤柳高校に集まっていたのは小学生、中学生、高校生、大人、お爺さん、ホームレス。
色んなの背格好をした人たちがこれまた色んな場所に居た。
ざっと数えて百人ってところかな……
「……5分の一になってるね」
「ああ、そうだな……」
「そういえば、ナイフは持ってきたか?」
「ああ、一応持ってきてるけど……」
「じゃあ大丈夫だね」
「?」
「ん、これから僕は裏方だから一応確かめようと思ってね」
「……」
「んじゃ、ちょっと参加者に見回っていくよ。一応、情報集めとかないとね」
「分かった。まあ、気をつけろよ?」
「ああ」
僕はそのまま校舎へと向かった。
それにしても、気をつけろよか……
まったく、これから僕は裏切りの準備をするというのに呑気なもんだ。
僕は1年3組の教室へ向かった。
ガラガラと最近の学校では鳴らないはずの音を出しながら僕はドアを開いた。
そこには……
「やあ!」
サラリーマンのような格好をした男は軽く手を上げた
手を下ろした跡、サラリーマンのような格好をしたそいつは僕に握手を求めてくる
「それは僕を殺そうとしているのですか?」
僕は相手が年上で敬語を使っててもはその左手の握手を拒む。
「あれ? ああ、ごめんごめん」
そして新たに出された右手を僕は握った。
「こんばんわ。内海さん」
「こんばんわ。智梨君」
「早速ですが、その左手が本物かどうか確認させてください」
「はは、本当にいきなりだね……。でもこの前、見てなかったけ?」
「ええ。ですが念のために」
「仕方ないね……」
内海さんは左手を軽く上げて……
次の瞬間、左手はもはや無くなっていた。
そして変わりに生えているのは、刀だった。
内海さんは肘から先のその刃で
ストンツ!
と金属製の教卓を切った。
一度、切り離された教卓を内海さんはくっつけ……
元に戻っていた。
「能力ですか?」
「いや、戻し切りだよ」
「そうですか」
「あれ? 驚かないの?」
「いえ、超電磁砲とか瞬間移動を見たことがあるので……」
「あ、そうなの? それは失敗したな……」
「あなたもできるんでしょう?」
「そうだけどさー。ま、いいか。そんな事より君、凄いね」
「何がですか?」
「この大会のことだよ」
「ええ。ちょっと知人に手伝ってもらいましたから」
「その知人って能力者?」
「いえ、能力者ではありません」
「へえ……。普通の人間でそんなこと出来る人がいるんだ……。凄いね……」
「ええ。正直僕もあいつが本当に……」
「あ、知人じゃなくて君の方ね」
「?」
「聞いたところによると、君、情報屋なんだよね?」
「……どこでそれを?」
「やだなー。この左手さえあれば何でも出来るって知っているくせに」
そう言って、男は元に戻っている左手を見せた。
「本当に何でも出来るんですね。その左手」
「まあね。一応、『現象殺し』だからね」
「そうでしたね。じゃあ、今回、手を組むにあたっての約束を確認しましょう」
「お、いいね。そういうの」
僕は内海さんの戯言を無視して続ける
「まず、僕はあなたと手を組むにあたって、戦闘行為に参加しなくてもいい」
「うん。いいよ」
「その代わり、僕は手に入れた参加者全員の能力の情報をあなたに伝える。もちろん、コピ-能力のコピーした能力も出来る限りあなたに伝えます」
「いいよ。いいよ」
「そしてこの事であなたがトーナメントに勝ったら、僕の願いを出来る範囲で一つだけ叶える」
「うん。そこで質問なんだけどさー」
「はい、なんですか?」
「何を願うつもり?」
「それは、その時に決めます」
「ふーん。じゃいいや」
「これでいいですね」
「うん。全然OK」
「じゃあ、そろそろ時間なので戻ります。準備お願いしますね」
「ほーい」
こうして僕は大会優勝候補がいる教室を後にした。
ガラガラと扉を閉めるとき、振り向くと内海さんは教室から消えていた。
「はいー、はいー! 皆さんー!! こっち向いてくださいー!!」
運動場で白羽と合流してから、数分。
普段、校長先生が立っている朝礼台には仮面をつけた男がいた。
「はーじめましてー! 僕がこのゲームを主催している魔王ですよー!」
いや、内海さんだ
しかし、誰もそのことには気づかない。
当たり前か、白羽はカラオケボックスの時、声を聞いてなかったんだから……
さて、一芝居うつか……
「あんたが魔王の証拠はなんだ?」
それを聞いて、周りの人たちがざわめきだす。
そして、白羽が余所見をしている間に、メールを猫に送る。
「皆さんー。落ち着いてください! 今、見せますからー!」
その瞬間、ブルブルと辺り一体の人たちが持っている携帯が震へ、ぴぴぴぴぴぴ! と鳴り響く。
そしてそのメールには……
『今、朝礼台に立っている僕が魔王です』
ま、パソコンから一斉に猫に送ってもらったんだけどね
勿論、そんな事に気づくものはいない。
「これでいいでしょう? では、そのメールにあるトーナメント表を確認してください」
さて、これで、やっと、面白い事になってきた。
勿論、白羽を裏切っていることは悪いと思う、
いや、別にそんな事は微塵も思ってないんだけどな
微塵もだ。
でも、どこか、僕自身の思考が僕に語りかけてくる。
『本当にこれでいいのか?』
と