口から謎の光線が出る侯爵から求婚されました
「リュシエル、俺と結婚してくれ!」
ルックスがイケメンで品性完璧。爵位も高く、皆に認められる優等生。一見すると完璧な侯爵様。
本来はここで私の生活がハッピーになっていきそうなのだけれども、私はその求婚に頷けずにいた。
理由は単純だ。
「ルキアス。結婚するのはその口のすっごい怖い光線を封印してからって言ったよね?」
……そう、彼は口から変な光線が出るのだ。
嘘偽りない、本気の光線だ。
「そ、そんな! それは勘弁してくれ!」
そう抗議するルキアスの口元に光が宿る。
外の庭で会話してるとはいえ、正直怖い!
「それ! その光怖いから!」
「か、感情が高まるとつい、光るんだよ! 吐き出したくなるほどにな!」
「こわ!? さっさとなんとかしてよ、それ!」
「わ、わかった! ウォォォォォォ!」
真上に向かっておもいっきり光線が飛ぶ。
強烈な一撃!
光線の先にあった雲は一瞬で吹き飛んでしまう!
殺意があったらやばそうな光線!
こわー……。
「ねぇ、ルキアス。急にウォォォォォォとかいって、空に変なの吐き出す女性とは付き合いたい?」
「真実の愛があれば付き合える。俺は否定しないよ」
キリっと爽やかな態度でそう言葉にするルキアス。
机の上の紅茶も揺らさず、穏やかな態度を示す彼の姿はまさしく紳士、理想的な侯爵だ。
……いや、そういうところは好きだよ? ルキアス、好きなのよ。でもね、でもね、それでもキツイものがある!
「……その、ね? ええっと、あの、キスとかする時、あるじゃない?」
「う、うむ」
「その時に、口から光が漏れてたら……怖いじゃん?」
「大丈夫、俺の光線の火力は調整できるから」
「いやいや、調整できるからって言われても怖いからね!?」
というか、集中できなくなる。
ムードが台無し、ヤバいくらい台無し!
「というか、ルキアス。なんで口から光線が出るのよ」
「魔法の鍛錬をしてる時に、口から放つことを意識しろって言われたからそのようにしたら出るようになった」
「……ええっと、誤解してない? それ」
魔法は呪文を詠唱することによって発動するものが多い。
だからこそ『口から放つことを意識しろ』といわれることが多い。
それこそ、私なんかも教育係から魔法の鍛錬を行う時に言われたこともある。
気になって聞いてみる。
「いつから魔法の鍛錬やってる?」
「幼少期からといっていいだろう」
「光線が出たのはいつ?」
「学問を身に着ける前からだな。強大な魔物を光線で撃墜するのに成功してからは、父上からその技を一層鍛えるように言われた」
「まさかの筋金入りだった……!」
そうなるともう変えてもらうのは諦めるしかない気がする。
いや、お父様からもそう言われてるとかそういう話になってくると流石にやめてっていうのは忍びない。
「……コホン。ま、まぁ、そうなるともう割り切るのは仕方ないかもしれないわね。口から光線が出るのも貴方の魅力ということにします」
「本当か! じゃあ、婚約も……!」
「こ、婚約は正直いいのよ? 婚約は、ただ、実際に結婚するとなると……ええっと、うん、まだ、ね?」
「ダメなのか?」
「光線怖い」
「うぐっ!」
私の言葉でダメージを受けたのか、再び口元に光が集まっていく。
それでも駄目なのか。なかなか難儀な体質だ。
「……ねぇ、ルキアス」
「なんだい」
「ルキアスって本当に人間?」
ふと、気になったので聞いてみた。
「突然凄いこと聞くな!? リュシエル!」
「いや、だって、その……やっぱり口から光線が出るって凄いじゃない? 竜の一族とかじゃないかなぁってふと思っちゃって」
「いやいやいやいや、俺はれっきとした人間だぞ!? 普通に父上も母上も人間だ!」
「……人間として口から光線が出るっていうのは結構人間離れしてると思うけど」
「酷いな!?」
「ご、ごめん。悪気はないの、本気でそう思ってるだけ」
「それもそれで酷くないか!?」
「こ、コホン。ええっと、もし嫌いになっちゃったら申し訳ないわ」
「いや、それで嫌いになることはないな。本音をぶつけてくれる存在というのはありがたい」
突如キリっとした表情でそう言葉にするルキアス。
やっぱり理想的な性格をしている。光線さえなければ本当にオッケーを即出したくなるのがもどかしい。本気でもどかしい。
「と、とにかく、今回は一旦お流れということで……」
やっぱり心の踏ん切りがつかない。
光線と向き合わないと、婚約もうまく行かない気がする。
そう思って庭の席から立ち上がろうとした瞬間だった。
「お嬢様! 空からドラゴンが迫っています!」
「えっ、えっ、ドラゴン!? なんで!?」
突如として、私の庭の空にドラゴンがやってきたのだ。
……いや、竜の話をしてたとはいえ、急すぎるでしょ!?
「ドラゴン襲来の理由は?」
「おそらく先ほどの光線を見て、同族がいたと勘違いしたドラゴンがやってきたのかと」
「……ルーシーアースー!」
これはもう、彼の失態だ。
私は怒っていいだろう。
このままでは私の庭が大惨事になってしまう。そうなったら流石のの私も婚約を破棄したくなってしまう。
彼に怒りの目を向けながらも対応をどうするか考えていた時だった。
「……すまなかったな、リュシエル。トラブルを引き起こしてしまったこと、深くお詫び申し上げる」
頭を下げて、私に跪くルシアス。
その目はまだ凛としていた。問題を解決するという意思を感じさせられる。
「だが、俺の光線でおびき寄せてしまったなら……同じように光線で対応できるということだ……!」
立ち上がり、口の中の光源を集めて、彼が覚悟を決める。
そして、おもいっきり解き放つ。
「ウォォォォォォ!」
標的は上空のドラゴン。
鋭い閃光が空に走り、ドラゴンの身体を包み込んでいく。
その光はどこか柔らかい印象を与える。
温かく、優しい光に包まれたドラゴンはやがて私たちの方を向いて語りかけてきた。
「……ウム。そうか。邪魔してしまったようだな」
「喋った!?」
光に包まれた瞬間、ドラゴンは人の言葉を喋り私たちに話しかけてきた。
「同族を見つけたと思いついやってきてしまったが、誤解だったようだ。だがいいものを見ることはできた。我は立ち去るとしよう」
大きな翼を羽ばたかせ、ドラゴンが去っていく。
「そうだ、淑女よ。あの侯爵を逃すと後悔するだろう。間違いなくな。それは肝に銘じておくといい。では、さらばだ」
そう言い残し、突如やってきたドラゴンはすぐさま帰っていってしまった。
「ルシアス、何をしたの?」
「対話の為の光を放ったんだ。臨戦態勢だと思われないように淡い光の魔法を放った」
「……口から?」
「光線としてな」
侯爵としてのトラブル対応能力に素養。
実力者であることは改めて感じられた。
だからこそ、私は決心した。
「……結婚は前向きに考えるわ」
「いいのか!?」
「えぇ。ただ……光線の使い方、間違ったりしたら怒るから」
「間違うっていうのはなんだ?」
「付き合ってる時に光線を派手に放出したりしたら絶対怒るっていうこと!」
「……それは難しいかもな」
「難しいってなに!? そこは克服するって言ってほしいわね!?」
それでもいずれ、きっとなんとかなるだろう。
彼はそういう人間だ。
「……うっ、すまん、気持ちが高まりすぎてまた光が集まって来た」
「ま、またやるの!?」
「ウォォォォォォ!」
「また変なの呼びそうだしやめてぇー!」
ただ、なんていうか強みでもあるけど、変なところでもある光線については、これからも末永く付き合わないといけなそうだ。
空に向けて照射される光線はどこまでもまっすぐ、綺麗な閃光を放っていた。




