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9 夕ご飯

 湊斗と心春、それぞれ夕ご飯やお風呂を済ませて時刻は午後11時を過ぎる。

「お、雪積もってるー」

 心春が部屋のカーテンから外を眺めると、依然として雪が降り続けており道路にも雪が降り積もっていた。

 『いつでもいいよ』と湊斗のLINEが来たので、少し緊張しつつもこれから2人で話す。

 心春は自分の部屋で、ベッドに座って準備をする。

 湊斗も自分の部屋で、ベッドに座って連絡を待つ。


 そして、心春が電話をかける。

「湊斗、風呂入った?」

「うん、もう入ったよ」

「ふーん……」

「……」

「別の高校に行くんだね」

「うん。正式な手続き済んだら2年生から通信制高校に転入学しようと思ってる」

「そっかー」

「……心春に、すぐ相談できる勇気がなかった」

「すぐに話さなくて正解だったよ。多分、文句が止まらなかったと思う」

「ごめん」

「謝るのはもうやめて。陽向に相談できただけも十分だと思うよ」

「……」


「約束ってほどまでではないけど、中学卒業したときに言ってた『3人で高校卒業しよう』って話、私が勝手に押し付けていただけかもしれない。私も陽向と同じようにこれまで動いてきたけど、結果何もできなかった。謝るのは私の方だよ。ごめんなさい」

「そんな全然、動いてくれてた話も聞いていて。嬉しかった」

「湊斗は、これまで学校に対していろいろと思うことがあるかもしれないけど、転入学することで問題は解決できるの?」

「解決はしないよ。これからも。他にも事情はあるけど、正直疲れたなって感じた。学費なんてもう言ってられない。世間に広まれば問題視されるのは間違いないだろうけど、自分はこれ以上の行動力がない。もう、本当に疲れた。それに尽きる」

「そう──。よく、ここまで乗り超えたね」

「うん。心春と陽向のおかげで、なんとか」

「……」

「……」


「何回も言うけど、湊斗の自然な髪色好きだな」

「ありがとう」

「──ねぇ、やっぱり考え直せないかな。高校も同じで最後一緒に卒業できないかな」

「……難しい」

「そっか。できないか……。寂しいな……」

「自分も寂しい。でも、学校離れても、住む場所は同じだからいつでも会える」

「そうだね。会える。会えるけど、でも、そういうことじゃなくて……」

「……」

「ごめん、今日の話はここまでにするね。聞けて良かった。ありがとう」

「うん……」



 心春から電話を切った。

 心春は湊斗に対してまだ泣いた顔を見せたことがない。

 たとえ顔が見えない状態でも、決して泣くことはしなかった。

 話している最中は泣かなかった。ずっと我慢していた。その涙が話し終えた今、一気に溢れ出した。


 湊斗は小さい頃から泣き虫だった。

 人前でも泣いてばかり。3人の関係でいうと、心春に怒られては泣いて、ケンカしては泣いて、そして陽向が仲介に入るのがよくあることだった。そんな湊斗は、徐々に2人の前でも泣かなくなった。言い合いになることはあるけど、ケンカなんてもう今はほとんどしない。

 湊斗の両親は、3人が小学5年生になる頃に離婚した。泣かなくなった時期は、ちょうどその時期と重なる。


 3人での話し合いや、片方が陽向と相談する機会は今まで何度もあったが、湊斗と心春の2人で今回のように真剣な話をするのは初めてだったかもしれない。





 翌日の土曜日。湊斗は朝7時ごろに目覚めた。

 家の外に出て確認すると雪は少し降ってる様子で、地面や木々には昨晩より雪が積もっている様子。道路には10㎝ほど積もっている。温かい気候の地域なので、全体が雪に覆われる景色をみると今でも気分が少し上がる。

 一方、時間を同じくして今日は朝6時半ごろに起床した心春は外に出ており、小さな雪だるまを作っていた。



 お昼過ぎ。天気は晴れてきて道路に積もった雪が少しずつ解けていくころ。

 湊斗のLINEに心春からメッセージが送信される。

『家1人で寂しくない?夕ご飯一緒に作ろ?おいでよ』

 土日は家でゆっくり過ごす予定だった湊斗だが、昨晩のこともあるので気を遣ってくれているのだろうと察する。

 高校生になって心春の家に行くことはまだないけど、雪は止んでいてせっかくなので向かうことにする。

 ここで『陽向はどうするの?』と返信しようとしたが、これは心の中に閉まっておくことにした。

『行く』

『おっけい!じゃ夕方4時ね』

『了解』

 今日の夜は山中家での夕食が決まった。



 夕方、湊斗は山中家に向かった。

「お邪魔します」

 心春は両親と中学2年生の妹の4人家族で、家に来たときは変わらず温かく迎えてくれる。

 しばらくリビングでゲームを楽しんだあとに夕ご飯の準備をする。

 今日の夕ご飯はカレーライス。

 湊斗は心春の4人家族に囲まれながら食事を取る。

(こんな温かい食事、久しぶりだなぁ)

 和やかな雰囲気で食事を取るなか、心春のお父さんが声をかける。

「そういや、湊斗くん。今日は泊まらなくていいの?」

「ちょっと、お父さん」

 心春のお母さんが止めに入る。

「ほら、外はまた雪が降り出して今晩も大雪らしいよ」

「いえいえ、このくらいの雪は帰れますよ。お気遣いありがとうございます」

 湊斗が返しているその間、心春は赤面しながらカレーをばくばく食べていた。


「ごちそうさまでした」

 湊斗は食器の片づけまで手伝って、帰宅の準備をする。

「また食べにおいで」

「いつでも来ていいからね。お母さんには私が連絡しておくから」

「まったねー」

 心春のお父さん、お母さん、妹が帰り間際に声をかけてくれる。

「今日は本当にありがとうございました。ごちそうさまでした」

 3人はリビングの出入り口付近で湊斗を見届け、玄関から外までは心春が見届ける。

 夜21時前。外は再び雪が降っており、地面には少しずつ雪が積もり始めるころだった。

「じゃ、気をつけてね」

「うん。ありがとう」

 心春が急に湊斗の手をガッと掴む。

「うん?」

「もう手が冷えてる」

 心春は左ポケットからカイロを手渡す。

「え、いいの?」

「あげる」

「ありがとう」

「来週末はまた3人でゆっくり話そうね」

「うん」

 湊斗は温かいカイロを右手でしっかり掴みながら、振り向いて心春の家をあとにする。

 心春はポンっと湊斗の背中を押すように軽く叩いた。

 カイロに手書きで描かれた雪だるまの絵にまだ気づくことなく、自宅へと向かう。


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