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8 雪予報

 2人が生徒指導主任に話を聞いた翌日以降、湊斗に対して特に変化が訪れることはなかった。

 生徒指導や担任に対して物申す様子もなく、静かに学校生活を送っていった。

 現実を知るもこの状況に納得しきれない心春だが、陽向とその後も何度か学校以外で連絡を取り、しばらく湊斗をそっとしておこうと話が進んだ。連絡も特に用がない限りは控えていた。

 廊下ですれ違ったり、帰りが一緒になったときはいつも通りに振る舞い、校則に関することは触れないように気を遣っていた。



 〇



 月日は流れ、20×7年2月。

 最近、湊斗が学校を休み始めていていた。

 学年末のテスト期間は3人一緒に帰っているのでこの時期は間違いなく出席しているが、姿を見ない日が増えている。

 心春は気になって放課後、教室からちょうど離れようとしていた湊斗の担任である浦野先生に尋ねてみた。

「田上くん、最近休んでないですか。体調不良ですか」

「あー、田上はね、最近少し体がきついと言って休んでるよ。」

「そうなんですか。テストのときはいつも通りに見えたんですけど、以前からなんですか」

「うーん、風邪気味とも言ってたけどどうだろうね。転入学する話は今年に入って聞いていて何度か話してるけど、いろいろと彼も抱えていることがあると思うよ。フォローは継続してるつもりだけどね」

「ちょっと、え、転入学するんですか?!」

「いや、まだ確定ではないよ。出席日数や単位のこともあるから最後まではね。ただ話は進んでいる。聞いてなかったの?」

「そんな、私聞いてないです。では失礼します」

 陽向が転入学する話を聞いて動揺する心春の頭は一気に混乱する。向かう先はまず陽向のもとへ。しかし、陽向が見当たらない。もう部活に行ったのだろう。

 ただ、心春は成長している。陽向の助言を何度も受けた。この勢いで湊斗にいきなり連絡するようなことや家に向かったりすることはしない。ひとまず、陽向にLINEを入れていつも通り部活へ向かうことにした。


 心春は陸上部で短距離を得意としている。

 部活中は切り替えて走ることに集中したいが、なかなか集中できない。

「心春、どうしたん?なんか元気なくない?」

「え、そう?多分寝不足!平気」

 心春に心配して声をかけるのは同じ短距離の坂本紗菜(さかもと さな)

「なら良いけど。いや、寝不足もよくないけど。きつかったら休んで」

「うん!ありがと」

 部活前に湊斗の転入学の話を聞いたばかりなので、まだ落ち着かないのも無理はない。


 しばらく経ってグラウンドの校舎側階段付近で小休憩していると、同じく休憩中でお手洗いから戻っていくテニス部の陽向が近くを通る。心春はすぐさま陽向のもとに駆け付ける。

「陽向、LINEしたけど気づいてないよね。湊斗のことで」

「うん?あ、心春か。LINE?ごめんまだ見てない」

「湊斗が転入学考えてるってさっき浦野先生に聞いた。陽向知ってたの?」

「あー、それは……。心春に言えなかったけど最近知った。湊斗の話をこまめに聞くようにしてたんだけど」

「知ってたならなんで言わなかったの?私に黙っておいて勝手に話進めて」

「いや、話を勝手に進めるようなことはしてなくて。ただ、湊斗が心春には伝えないでほしいってずっと言われてて……」

「湊斗が?なんで」

「その理由は深く聞いたりしてないから分からないけど、気を遣ってたんだと思う」

「……そっか。私、部活のあとに連絡取って湊斗の家に行こうと思ってる。休みがちだから顔だけでも見ようと思って」

「そうか。うん、むしろ今日は行くべきだと思う。ただ俺も行きたいけど、部活はこっちの方が遅れるかも」

「わかった。だけど今日は2人の時間も少しほしい」

「じゃ、今日は俺行くの辞めておくか?」

「いや、来ても、えーっと……。うん。そうしてほしい」

「了解。じゃ湊斗をよろしくね」

 話を終えて、それぞれ練習に戻る。

 心春は休憩から戻る前に、湊斗に部活終わったと家に向かっていいかLINEを入れる。

 今日の天気は夜から雪予報。だんだんと外が冷えていく。



 18時過ぎ、部活を終えた心春はすぐさま学校をあとにする。湊斗のLINEはまだ未読のまま返ってきていない。

 ひとまず自転車に乗った心春は、湊斗の家へ向かう。

 季節はまだ冬真っ只中の2月下旬。外はすでに暗い時間帯で、気温は3度。ジャージの上に厚着して手袋やネックウォーマーを着用しているとはいえ、真正面から受ける風の冷たさは変わらない。そして徐々に雪が降り始める。今日は金曜日だが、土日は大雪予報で部活はすべてお休みとなる。

 寒さを感じる以上に頭の中は湊斗のことばかり。小学校からずっと同じだった湊斗の転入の話を放課後いきなり知ることになって頭の整理が追いつかない。受け止めきれない。

 そう考えているうちに、湊斗の家の前まで到着した。


 自転車に降りてスマホの画面を確認するも、まだLINEの通知はない。

 家の前に立ってインターホンを押してみるも、出る気配はない。部屋の明かりも付いていない様子。

(寝てるのかな……)

 ──すると、LINEの着信音がした。

 湊斗から『ごめん。買い物中だった。今から帰るところ』と返信がきた。

 湊斗が帰ってくるまで待つのは寒すぎるので、心春は『一旦帰るね』と湊斗に送信して帰ることにした。



 心春は帰宅した。

 赤くなった手をしばらく温水に当てる。

 部屋に戻り、荷物を定位置に置く。ベッドに座って左手を付きながら、右手に持ったスマホを眺める。さきほど送ったメッセージは既読がついたままの状態。

(今日はもう、いいかな)

 とは心の中でつぶやきつつも、落ち着かない。

 そんななか明日から大雪で外に出るつもりはないので、寒いがもう少し外で走ることにした。走ることで少しは気分が変わるかもしれない。


「心春、どこか出かけるの?」

 玄関前で心春のお母さんに声をかけられる。

「うん。土日は大雪だから、今のうちに軽く走ってくる」

「寒いのに元気ね。暗いから気を付けてね」

「はーい」

 心春は玄関の扉を開けて、軽めに走る。

 外の雪は先ほどと変わらず、少しずつ降り続けていた。時刻は19時ごろ。


 向かう方角は湊斗の家。やっぱり気になってしまう。

 走る。

 寒さなんて今は気にしない。

 走れば数分でたどり着ける距離。

 湊斗の家の近くまできた。

 家の明かりは付いていないことに変わりはないが、自転車に乗った人影が見える。敷地内に自転車を止め、カゴから買い物袋を取り出している姿が。

(間違いない、湊斗だ)

 心春は、全力で湊斗のもとへ走る。

「?!」

 湊斗は玄関へ向かおうとするなか、奥から走ってくる人影に気づいた。

「え、心春?帰ったはずじゃ……」

 湊斗のすぐ目の前にたどり着いた心春。立ち止まって、ゆっくりと吐く息は白い煙のように口元から離れていく。

「はぁ、もう……、心配したよ」

 少し息切れをしながら湊斗に近づいて、持っていた買い物袋に手をかける。

「荷物、持つよ。重いでしょ」

「あ、いや、いいよ自分で持つから」

「いいって」

 湊斗は手に持っていた買い物袋を心春に託し、詳しい事情はすぐ聞かずにひとまず玄関の鍵を開ける。


 玄関に入り、心春は持っていた買い物袋を湊斗に返す。

「はい。ごめんね、勢いのまま勝手に玄関まで入って。じゃ帰るね」

「え、もう帰るの?」

「うん。最近、休みがちだったから顔見に来ただけ。それとも帰ってほしくないの?笑」

「いや、そういうわけじゃないけど。ここ最近のこと話すタイミング難しかったな……と思って」

「おっけい。じゃあとで電話してね!ばいばーい」

「え、今日?」

 湊斗が驚くのも無理はない。大事な話をする際に心春は電話や文章でのやりとりを嫌っている。これは小学生のときからで、今でもできるだけ直接話を聞くスタイルにこだわっている。以前、理由を聞いたことがあるが、会える距離にいるときは対面を好むらしい。だからこそ、そんな心春の口から『電話してね』と返ってくるとは思っていなかった。

 心春は少しずつ成長している。今までだったらそのまま部屋に押しかけて、気の済むまで問いただしていたかもしれない。幼なじみでもここまでしないのが普通なのかもしれない。だけど今は違う。まだまだ勢いよく行動してしまうことはあるけど、いきなり強く言ったりなんかしない。玄関まで走ったのは、正直喜びが強まっての行動だったのだろう。

 心春は湊斗の顔を見れたことにひとまず満足し、自分の家に走って帰っていく。雪はさきほどよりも少し強まっている様子。


 湊斗は玄関の扉を閉める。

 気を遣いすぎて、心春に転入学のことを今まで内緒にしていた申し訳なさを感じながらも、わざわざ「顔を見に来た」といって家に来てくれた嬉しさを感じながら、夕ご飯の準備を始める。


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