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7 現実

 3人で話し合った翌日。

 放課後に心春は単独で生徒指導の古賀のいるもとへ向かう。職員室前の廊下で他の生徒と話し終えるのを待機していた。

 事前にあれほど陽向から単独で行動しないよう言われていたが、気持ちが抑えられなかったのだろう。今日も部活をお休みしている。

「ほら心春、やっぱり残ってたか」

 心春の動きを呼んでいたのか、しばらく経って陽向が駆けつける。

「邪魔しないで」

「心春は気持ちが強くなるとそのまま突っ走ってしまう癖あるから心配してたよ。俺も一緒に付くよ。部活は大丈夫?」

「今日は全体が休みだから問題ない」

「そうか。なんか重要なことになりそうだから念のため録音していいか」

「勝手にしたら」

 古賀の手が空いたタイミングをみて、2人で校則の件について声をかける。

 最初は「君たちには関係ない」と相手にされなかったが、ここは陽向も引き下がらずに交渉し続けると別室で少しの間、話を伺えることになった。


 生徒や保護者などの面談にも使用されるこの部屋は、入ってすぐ左側に面談のスペースが設けてある。

 160㎝ほどある仕切りの先に長椅子がそれぞれ左右に設置されており、その間にテーブルがある。

 それぞれ椅子に座り、早速本題に入る。

「──話ってなんだい?10分くらいしたら終わるからね」

 心春の普段は周りの友人にさえ見せないような険しい表情で、質問を始める。

「校則について伺いにきました。特に黒髪じゃない生徒に対しては厳しくされているようですが」

「それは当然」

「黒染めを強要されてますよね?」

「黒染めを強要?証拠は?」

「ある生徒に話を聞きました」

「うーん、タイミング的に田上かな」

「……はい」

「あのね、確かに田上は黒に染めてくれたけど、これは強要でもなく話し合いの末の判断なのよ。周りは校則を守った黒髪の生徒ばかりで、1人だけ茶髪なのは周りの視線が気になるだろうし、今後いじめに遭うようなことは起きてはならない。本人もそこは気にしていたから、生徒への配慮だといえばわかるかな?」

「視線は、確かに本人は気にしてたかもしれないです。ただ、周りの黒髪じゃない生徒に黒染めするよう促したから、結果的に黒髪じゃない生徒は校則守ってないというような空気にさせているんじゃないですか。そこまで個性潰すようなことしておかしいです。地毛証明書は受理されてないのですか」

「いやいや、そういう空気といってもねぇ。その田上って片親よね?仕事で普段は家にいないらしいな」

「片親ですけど、それがどうかしたのですか」

「この学校はスポーツにも力入れていて特待生が多いのも知ってるよね?その他に一般の生徒も1年ずつ評価があって、普段の真面目な素行や成績がある程度認められれば学費が免除される。この学校はそういう魅力的なところもある」

「だからなんですか」

「一般で入学した片親の田上にとっては、助かるんじゃないかな」

「学費でいえば、免除は助かると思いますよ。ただ……」

「おとなしくして、ただ勉強に集中して学力保っていればいい。従えないなら自ら辞めるか退学処分するしかない」

「ちょっと、そんな言い方ないじゃないですか!」

 徐々に、心春の目が涙で溢れる。

「それだけで学費が免除される。そのひとつの免除だけでいうと大した額にはならないが、卒業までいけば多少は違う。いじめは起きないし、家計に助かる。従ったから彼が最近提出したアルバイト許可証も承認した」

「田上くんは、片親で私たちの知らないところでも苦労してます。でもだからって、田上くんに限らず個性をなくすのは違いますよ!『なんのための地毛証明ですか』って田上くんも言ってたかもしれない」

 心春は視界がぼやけるほどの涙を流す。

「そりゃ言ってたよ。ちなみに他の生徒といってもね、保護者も理解される方が多くてね。やはり親御さんは話分かってくれる人が多いよ。金のない家庭、いや、私立に通わせる親御さんの立場になればわかることよ」

「本当にありえません。黒染め強要も今の発言も含めて、教育委員会に報告すれば──」

「あぁどうぞどうぞ言えばいい。ここは公立の学校じゃないぞー。それと他の生徒やSNSに拡散するような余計なことしたらどうなるかわかるよね」

「心春、もう十分。話はここで切り上げよう」

 このタイミングで陽向が割って入る。

「おぉ川原。話がわかるね」

「ちょっと陽向!邪魔しないでって言ったよね?」

「古賀先生、そろそろお時間だと思いますがここは自分からも言わせてください。自分のクラスで辞めた生徒もいます。田上くんにも話を伺ってますが、これは生徒への配慮を超えてやりすぎです。学校を良くしたいという想いは分かりますが、生徒主導主任という立場を利用しすぎていますよ。この学校で学びたいことがあって受験した生徒も数多くいるはずです」

「あーわかったよ。もう時間ないから戻るけど、先生はね、この学校での経歴は長くて校長先生とも付き合い長くやらせてもらってる。これまで生徒への対応の評価あっての今の立場だからね」

「そうなんですね」

「じゃ戻るから、鍵はそのまま開けといて」

 古賀は立ち上がり、ドアを開けて廊下へ出ていった。



 心春は座ったまま、まだ止まることのない涙をティッシュで拭っていた。

 隣に座っている陽向が声をかける。

「湊斗には余計なお世話かもしれないけど、心春はよくここまで動いた。勝ち負けや結果ではなく、他の生徒も想っての対応がすごく良かった」

「結局何もできなかった……。私が、湊斗の話したこと勝手に漏らしてしまったから。湊斗に何かあったらどうしよう……」

「そこは大丈夫。一応、その対応も含めて考えがあって。自分も動いてみる」

「……」

「しばらく1人の時間がほしいと思うから、今日はもう帰るね」

「うん……」

 陽向は立ち上がり、その場をあとにする。

 


 湊斗は、普段は1人で生活している。

 両親が離婚後、母のもとについている。母は仕事の都合で自宅に帰ってくるのは年に数回ほど。

 近くに祖父母が住んでおり、月に何度か様子を見に来ては食べ物を持ってきている。

 幼なじみの陽向と心春は、もちろんこの状況を把握している。


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