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5-2.お気づきになりましたか、自分の小物感

 


「……なるほど、そういう事」

「……」


 別に何も返事しなくてもよかった。完全スルーでも全然問題なかった。


 でも、一言言ってやりたい気持ちの方が強くて……私の口が勝手に次の言葉を紡いでいた。


「勘違いも甚だしい」


 これだからナルシストは。


「勘違い?」

「あなた、言うほど大した人間じゃないよ?」

「……!」


 そう言う私も大した事ないけど、それは一旦置いておいて。


「金持ちの家に生まれた、ちょっと顔が良いってだけの、普通の人。その程度でしょ?」

「僕が……普通?そんな……」


 えらいびっくりしてるけど……だからどこから来てるんだよ、その自信。


「自分だけ特別だなんて、そんな訳ないでしょ?」

「え?じゃ、じゃあ……君はどうして来てくれたんだい?」

「は?」

「どうして見舞いに来た?」

「どうしてって……」


 理由なんてほんとは無い。勢いで来たから。

 あんまり深く考えずノリで来てしまった。


 いつも何かと騒がしいから、怪我して大人しくなった奴の姿を見てみたいっていう好奇心、ただそれだけだった。


「な、なんとなく……気になったから……」

「気になった……から……?」


 びっくりした顔のまま、おうむ返ししてくる。


「そ、そうよ……なに、なんか悪い?」

「いや……」


 そう言って私の顔をまじまじと見つめてくる。


「ええと、つまり……君は僕を平凡な人間だと思っているという事かい?」

「え、まぁ……」


 いや、平凡以下かも。

 コイツの場合、性格のマイナスポイントがでかいから……


「優しいとか、好みのタイプとかそういうのは……?」

「え?」

「だって、僕に何かしら人より優れた点があるから、来たんだろう?顔が良いとか声が良いとか……」

「それ、自分で言う?」

「成績優秀で、モテモテで……」


 だからそれを自分で……いや、もういいです。


「そんなステータスなんか、関係ない。どうでもいいの」

「え……何もない奴の様子なんて気にしないだろう?」

「だから関係ないって言ってんじゃん」

「む……つまり、あれか?内面的なやつか?性格が良いとかそういった……」

「性格だって良くはない。それに、」

「それに?」

「器がちっさいのよ。いつも虚勢張ってるけど小物感がすごいのよ」

「……!」


 これが言ってやりたかった。ちょっとスッキリ。


「え、そんな奴を見舞いにわざわざ来たって言うのか?」

「まぁ、そうね」

「なんのメリットもないのに?」

「うん。むしろ焦って来てあげたんだし、代金もらいたいくらい」


 そう言って、わざとふざけて彼の前に両手を突き出してみせるも、いつものような返事は返ってこなかった。




「僕の……何を知っている?何を知ってて、そんな風に……」

「知らないよ。ただそういう風に見えるってだけ」

「君からはそう見えるのか。器の小さい男だと……」

「うん」

「そうか……」


 そりゃそうだ。あれほど散々小物臭させておいて、何を今更。

 何一人でしんみりしてんだか。


「僕……たまに不安になるんだ」

「不安?」

「僕が不完全になったら……僕からお金持ちだとかイケメンだとか、そういったステータスがなくなったら……存在価値がなくなってしまうんじゃないかって」

「……」

「みんな、僕自身じゃなくて『僕のステータス』が好きなんじゃないかって」

「……今更?」

「みんなステータスだけ見ていて……僕自身はその付属品……」


 お気づきになりましたか(例の画像)


「ファンの子たくさんいるし、今もどんどん増えてるけど……でも、それでもなんだか悲しい気持ちが消えなくて」

「……」

「大勢でワイワイして気を紛らわせたいのに、どこか悲しいっていうか……虚しいっていうか……」

「……」

「自分の弱さをどうにかしたくてやっているのに……かえってなんだか悲しいんだよな……」




 今の彼の話、ちょっとだけ共感してしまった。

 相手が相手だけになんか悔しいけど、でも分かってしまった。


 彼も私も、どこか劣等感がある。

 その内容は違うけど……でも、どちらもその弱さを受け入れられなくて、自分を大きく見せようとしてる。


 彼は余裕綽々のキザ男ムーブをする事で。

 私はキツい口調、けんが腰になる事で。


 今の私の口が悪いのも、元の性格に加えてその気持ちが多少なりあるからだ……自分で言いたくなかったけど、確かにそう。


 元々性格が荒いっていうのもあるけど……それに加えてこれまで前の世界で我慢してきた分、言われた通りに従うって事がアレルギーみたいになってて、その度に過剰反応して今めちゃくちゃ反抗してる。

 それこそ反抗期の学生並に。




「みんなみんな、結局肩書きや見た目ばかり気にして……誰も僕自身を見てくれないんだなって……」


 自分の欠点気にして、虚勢張ってて……でも、なんとなく心は満たされない……そんな、無限ループ。


「みんな、本当の意味では僕の事どうでもいいんだ。僕なんて、どうでもいいんだ……」

「……」

「どうせ誰からも愛されない、そんな人間なんだ……」

「寂しい?」

「……」


 彼の口がピタッと止まった。


(ああ、やっぱり……)


 図星みたいだった。私の推測は当たっていた。




 それから五分くらい待って(時計見てないから体感だけど)、うんともすんとも返事がないもんだから……

 ちょっとだけ可哀想って気持ちが芽生えて来て。


「じゃあ、私……戻ろうか?」

「え?」

「ファンクラブに……戻るよ、私」


 勝手に口がそう言っていた。


「何を言ってるんだい……?」

「寂しいんでしょ?」

「え、べ……別に……」

「ファンクラブの子、結構人数いるけど……それでも満たされないって言うなら……」

「……」

「そんなに寂しいんだったら……なら、私がいてあげる」

「上から目線?」

「あら、嫌?嫌ならやめとくけど」

「……」


 別に〜ぃ?嫌ならやめてあげても良いんですけどおぉ〜?


 奴が弱ってる今ならやりたい放題、言いたい放題だわ!オーッホッホッホ!


(うりうり!もっと言ってやろうか〜?)


 今までアンタのウザいムーブ食らってきた分、いじめてやろうか〜?




「……今の話、覚えておくからな」

「今決めないんだ?」

「ああ、少し考えさせてもらうよ……また脱退する可能性だってある訳だしね」

「まぁね」

「それに、君には別の……いや、やっぱりなんでもない」


 なんだよそれ。また机にバナナ置く気?やめてよ?


「だけど……『やっぱり無し』は無しだからな?」

「いいよ別に。最初からそのつもりだし」

「後で撤回なんてさせないからな」

「いいってば」

「ああそうかい」


 そう突っぱねる割には、顔がニヤニヤしてる。


 もうしばらく奴のしおしお顔を楽しむつもりが……何があったんだか分からないけど、段々元気になってきていた。


(チッ、面白かったのになぁ)


 そういうとこ、たくましいというか図太いんだな。


 元々悪運強そうだしね、コイツ。

 人から恨まれたりしながらも、なんだかんだ長生きしそうなタイプ。一番嫌なやつ。


 精神的に無駄にタフ、道端の雑草みたくそう簡単には弱らない……チッ、残念。




「……あ、そうだ」

「何?」

「帰る前に……それ、適当にどれか持って帰りなよ」


 それと言って指差した先には、お見舞いのフルーツ達。

 りんご、ブドウ、みかん、バナナ、メロン……盛り合わせになってるものから、単品のものまでよりどりみどり。


「これ……貰い物じゃん。いいの?」

「僕1人がそんな全部食べ切れると思うかい?」

「いや、せめて家族とか……」

「それにしたって量が多過ぎる。腐らせるよりは誰かが食べた方がマシだろう?」

「なら、他の子にもあげたらよかったじゃん?」

「そういう訳にはいかないんだよ」


 なんだか急にムッとした顔に。


「え?私にあげようとしてるのに?」

「それは……それとこれとは別だろ?」

「いや同じだろ」

「違うよ」

「同じだって」

「彼女達にあげたら、もらったもらってないで揉めるだろ?」

「あ……あ〜……なんか、めんどくさいのね」


 なるほど。人数いると管理も大変、ってか。




「……あ。間違っても自分だけが特別なんて思うなよ?」

「思ってないし!」


 いつの間にかウザさが完全に戻ってきていた。

 ちょっとは大人しくなるかな、なんて思った私が馬鹿だった。そんな訳なかった。


「君の事だから、と思ってさ」

「んな訳あるか!」


 時間経って回復したのかなんなのか……よく分からないけど、今めっちゃ元気になってる。


 最初部屋に来た時とは顔色が全然違う。

 青白くてまさに病人といった感じのげっそり顔から、いつもの栄養たっぷり艶々フェイスに。


「君の事だからね、その辺ちゃんと言っておかないとと思って」

「余計なお世話!」


 こんな元気なら、見舞いなんて来なきゃ良かったわ。

 心配して損した。


(ん?心配……?)


 なんか自然と心配って言葉が出ちゃったけど……

 あんな奴を心配するなんて……私、女神か?


 やばない?慈悲の心あり過ぎない?我ながらびっくり。


 なんかの本で読んだ事がある。

 ついぽろっと出た言葉って、無意識下で考えてる事なんだって。


 ほんとかどうか知らないけど……もしそうだとしたら、まじやばない?仏か私?




「じゃ!これ、もらってくから!」


 メロンの写真が印刷された結構大きめの箱を引っ掴み、乱暴にそう言って……

 彼に背中を向けて部屋の出口へ。


「桐箱入りメロンか。一番高いの狙ったな」

「そうよ?文句ある?」

「ううん……なんていうか、君らしいよ」


 背中向けてても分かる、哀れみの視線。


「持ってけって言ったの、そっちじゃん」

「ああ、別に悪いとは言ってないよ。正直者で良いと思うよ」

「意地汚くて悪かったね」

「別にそこまでは言ってないけどな……ふふっ」


 なんか笑ってるし。さっきまでとはまるで別人。


「何笑ってんのさ?」

「面白くて笑って、悪いかい?」

「今のそんなに面白かった?」

「ああ、とっても」


 急にまたニヤケ出す……なんだコイツ。

 いつもにも増して、今日はなんだか気持ち悪さに磨きがかかってる……




「それより……それ、重いから気をつけてね」

「お気遣いありがとうございます」

「ふふふっ」


 私の嫌味たっぷりの返事にすら、ニヤニヤ。


「なによ、ニヤニヤして」

「え、僕?」

「他に誰がいるって?」

「いや、そんなつもりはないんだけど……僕、そんなに笑ってる?」

「めっちゃニヤついてんじゃん、さっきからずっと。え、気づいてなかったの?」

「全然そんなつもりなかったんだけどな……ふふっ」


(気持ち悪っ)


 しょんぼりしてたかと思ったら、今度はやたらとニヤニヤし出す……なんなの今日。




「それじゃ!私もう帰るから!」


 そう言って乱暴に病室のドアを閉め、私はさっさと家へ帰った。



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