4-1.隙がある人は魅力的なんだって
そして、翌日。
平穏に1日が過ぎて……今、放課後。
今日は当番だから、教室に残って学級日誌書いてる。
中身は大人のままだから、作文はそれなりにできるつもりだったけど……最後の感想の欄がやたら大きくて苦戦中。
(う、埋まらない……)
「そう!そこで達也のあの台詞よ……!」「キャー!」
さっきから女子数人で固まって、なにやら熱く語ってらっしゃる。
そこそこボリューム大きめの声で。
聞こえてくる発言を総合すると……どうやら昨日やってたらしい恋愛ドラマの話っぽい。
「『よそ見してんじゃねぇよ』!これよ!」
「そう!それ絶対陽子の事好きって事じゃんね!」
「そのくせ『俺は恋愛なんか興味ねぇ』とか言っちゃってさ!」
「そんな事言うからなかなか進展しないんだよ!自分で自分の首絞めてる!」
「それもう他の人に譲ってるようなもんじゃん!ほんと不器用なんだから!」
「でも素直にはなれない……っていうかなっちゃ駄目……」
「そこで素直になっちゃったら、またなんか違うのよね……別人っていうかさ……」
「ハッピーエンドになって欲しいけど……キャラは変えて欲しくない……この、ジレンマ……」
(分かる……)
本人達にそのつもりはないだろうけど、地味に作業用BGMになってくれててありがたい。
ずっと机に向かってると眠くなってきちゃうから……
で……奴はというと、まだ帰らないでファンの子達とお喋りしている。はよ帰れって。
喋っていながらも視線はすごく感じる……けど、昨日の事を気にしてるのかちょっと距離がある。
でも距離を置くと言っても前とは違って、離れたところから定期的にチラチラ見てくる感じ。
何考えてんだか。
前みたいに、完全に視界からいなくなってくれた方がこっちとしては嬉しいんだけど……
(……)
まぁでも、見てくるってだけで関わってはこないから平和っちゃ平和……
「隙がある人、かぁ〜」
不意に声がして、内心ちょっとびっくり。
「へっ?」
「ねぇねぇ、さやちゃん」
声の主は同じクラスのモブの子だった。
名前は正直分からない。
むしろ名前なんてないのかもしれない、そういうレベルのモブ。
「ねぇさやちゃん、隙がある人ってモテるんだって」
そう言いながら、流れるような動作で私の前の席の椅子を反対向きにし……そして、その上に座った。
一つの机に向き合って座るスタイル。ものすごく放課後って感じ。
いや、実際放課後なんだけども。
(う〜ん、この青春感……ノスタルジー……)
「……さやちゃん?」
「あ、ごめん。なんだっけ、隙がある人?」
「そうそう。ほら、これ見て」
そう言って、読んでいたらしい雑誌のページを広げて見せてくれた。
いきなり過ぎて何の事やらだけど……開いたページの雰囲気と彼女の話からして、とりあえず雑誌の恋愛特集の話って事だけは把握。
「あ〜。よく聞くもんね、そういうの」
「やっぱり親近感とか?話しかけやすい感じが大事なのかな〜?」
「そうかもね〜」
「確かにチカちゃんって天然っていうか、ちょっと抜けてるもんね。そりゃモテモテな訳だ〜」
「ね〜」
(チカちゃんって誰)
とりあえず適当に話を合わせておく。
「ユリちゃんとかもうさ、駄目元の告白だったのにむしろ今は向こうの方がゾッコンらしいじゃん?」
知らないじゃん?
「下に妹いるし、しっかり者だけど……言われてみればたまにそういうところあるよね」
「それも隙があるってやつだよ〜」
「そっか〜」
視界の端で何か動いた。
(げっ)
注視しなくても分かる。
なんとなくの雰囲気だけでもう分かる……アイツだ。
しばらく離れてだと思ったら……今度は何?
嵐の前のなんとやら?
(うわ……こっち来てる……)
またあれか?『戻ってきなよ?』って?
「でも、じゃあ……隙って作れるのかな?」
「えっ、隙を作りたいの?」
「うん」
スタスタと歩いてきて、奴は私のすぐ隣に止まった。
わざとらしくそっぽを向いて見てないフリしつつ、横目でこっちを見てる。
(うわぁ……)
露骨に不審者だ。どう見てもやばい人。
そしてなにより、なんの用もなく真横に立たれるこの気持ち悪さ……まじなんなんコイツ?
「私だって、モテてみたいよ〜」
目の前で話すクラスメイトは、奴の襲来にまだ気づいていない……お喋りに夢中みたい。
「え〜。モテてどうすんのさ?」
「チヤホヤされたいじゃん?何人もから告白されてみたいじゃん?」
「ん〜、まぁ……」
口には出さないけど、※ただし好みのイケメンに限るってテロップが出るやつな。
苦手な人に言い寄られても、気持ち悪いだけだからね。
「ほら……漫画みたいに大勢の中から選んでみたいじゃん」
「あ〜」
分からなくもない。
乙女ゲームみたいに大勢のイケメンに言い寄られて、さらにその中の一番を選ぶみたいな……そんな贅沢なシチュ……いいよね。
(まぁ、妄想する分には自由だからね。現実は……うん)
「でも私、そこまで天然ってタイプじゃないし……見習ってできるもんなのかな?」
「う〜ん、どうだろ」
「なんかコツとかあるのかなぁ?」
「うっかり感を出すとか?」
「うっかり……持ってた物を落としちゃうとか?」
「そうじゃん?」
ちなみに適当に言ってる。
脳みそ一ミリも使ってない感じの会話。
「あ〜なるほど、分かってきたかも。なんかちょっと頼りない感じだ」
「それそれ〜」
知らんけど。
「守ってあげたいみたいな、そんな感じか〜」
「そうそう。そういう時とかにできるんだよ、隙が」
「むっずいなぁ。私にもできるかなそれ」
「生まれつきみたいなのもあるだろうしね」
「ね〜。難しいなぁ」
奴の体の向きが……ゆっくりとこっちを向いた……
間に割り込んでくるつもりか……最悪だ、こっちはまだ喋ってるっていうのに。




