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2.ファンクラブ追放だそうです

今回のあらすじ:冴桐にコンプレックス指摘されて、我慢できずブチギレてビンタしたら、ファンクラブから出ていけと言われました。


そらそうだ(真顔)

 


 冴桐の言う通り、次は国語の授業だった。


 優しそうなおばあちゃん先生が、何かの小説の一部をフニャフニャ読み上げながら丁寧に解説してくれていた。


 肝心の内容はというと……

 申し訳ないけど……ずっと眠気と格闘するのに必死で内容はほとんど覚えてない。







 授業終わるなり眠気覚ましにトイレに行き、自分の席に戻ると……


(え……)


 机の上、それもど真ん中に……バナナの皮が鎮座していた。


 それも適当に置くんじゃなくって、テトラポッドみたく皮の先までまっすぐ綺麗に立てちゃってまぁ……


(ご丁寧に……あらまぁ……)


 せめて閉じて(?)置こう?皮の内側を下に置いちゃ駄目だって。


 バナナを手に取ると、案の定置いてあった所がなんかべちゃっとしていた。


(うわ〜……)


 後で拭かなきゃじゃんこれ。

 むしろなんだかこっちの方が嫌がらせな気がする。


 でも、そんな意味不明なことが起きてるのに周りのモブ生徒は平気な顔……え、これノーツッコミ?




(で……これを次の授業に持ってけと?)


 見ないけどさっきから視線は感じている。

 誰のって、そりゃあもちろん奴の視線。


(まぁ、行かないけど)


 仕方ないので、ゴミ箱に捨てた。

 ゴミ箱近くの席の人ごめんね、しばらくなんか甘い匂いするだろうけど我慢して……


「はぁ……なんなんだよもう」


 なんなん?マジなんなん?

 ドッキリ番組真似てるつもり?テレビ局就職でも目指してるの?あの人。







「……おい」


 誰かが私を呼んでいる……やたらキラキラしたオーラと共に。


 キラキラしてる割には声が不穏なトーンなのがちょっと気持ち悪い。

 チグハグになるくらいなら、最初からどっちかにすればいいのに。


「おい、そこの君」


 ん〜?誰を呼んでるのかな〜?

 私、『そこの君』なんて名前じゃないしな〜?


「おい」


 無視だ無視。


「聞いてるのか!おい!」


 聞いてません。聞く気ありません。


「そこの地味な奴!」


 好きに言ってどうぞ。


「運動音痴!」


 なんで知ってんだよそれ。


「暗くて笑顔のない女!」


 悪かったな暗くて!


 ……って、聞き流しちゃったけど普通に悪口だなそれ。


「おい!そこの……『可愛げのない奴』!」


(……!)




 また、その言葉。

 あの時苦しめられた言葉が、またここで飛び出してくるとは。


 どうやらどう足掻いても逃げ切れないらしい。もはや呪いなのかもしれない。

 向こうの世界で苦しめられた言葉が、この世界でも……いつまでも追いかけてくる……




「……」

「おい、返事!」


 本当は内心それどころじゃない。

 けど、声は止まない。


「そこの奴!おい!」


『可愛げのない』……それはつまり私にとって、魅力がないっていう事と同じ意味に聞こえて。


 彼はその反対、対極にいる者……魅力溢れる男。

 まるで比べ物にならない相手。はるか格上の相手。


(……あれ?)


 だけど……なんか、変な感じ。

 なんでだか、今は悲しみよりも怒りが勝っていて。


 さっき、言われた直後は……ショックを受けて絶望のどん底に落とされたような気分になってた。


 でも、それから一呼吸置いて少し気持ちが落ち着いてきたら……なんだか悲しみが縮んでいってしまって。


 その言葉を言う相手が相手だからか……あるいは、絶対勝てそうもない相手だからヤケになってるっていうのもあるかもしれない。




「おい!聞いてるのかそこの『仏頂面』!」


 悲しみが怒りに変換されていく過程で、トドメのこの一言。

 カチンというか、ブチンというか、頭のどこかで何かが切れる音がした。


「はぁ!?それ私の事!?」

「そうだよ君だよ!いつ見ても無愛想な、愛嬌のカケラもない奴!」

「そんな言い方される覚えないし!私、何かした!?」

「あるだろう!?君には前科が!」

「何それ!?」

「しらばっくれないでくれよ!どうしてくれるんだ!」

「何がよ!」

「僕が与えた任務を放棄するなんて!」

「はぁ〜!?」


 だから、やりたくないっつったじゃん!!!


「せっかくチャンスを与えてやったというのに!」

「はぁ!?チャンスくれなんて言った覚えないんですけど!」

「わざわざチャンスを与えてやったのに、僕に恥をかかせやがって!」

「何それ!?意味分かんない!」

「リベンジの機会だぞ!?僕に反抗した事を謝る良い機会だったというのに!」


 声を限界まで張り上げてブチギレてる。


 さっきまでのキラキラなオーラは、いつの間にかすっかり消えてしまっていた。


「だから何それ!謝る気なんてないし!」

「まさか、謝らないつもりだったのか!?」

「謝るも何も、悪い事何もしてないから!」

「僕の計画を散々めちゃくちゃにしておいて、それか!」

「知らないよ!アンタが勝手に自滅してるだけでしょうが!」

「あ〜もう!うるさいうるさい!」


 顔真っ赤にして怒り狂う冴桐。

 そう言う私も似たようなもんなんだろうけど、今は認めたくない。




「本当に可愛げがないんだな、君は!」


(……!)


 そして、間髪入れずに飛んできた次の()撃は……またあの言葉だった。


(く……くるし……!)


 息がうまくできない。

 胸の奥にグサグサと針を刺されてるような痛みで息が上手く吸えない。


 キンキンに凍らせた針でも刺さってるかのような冷たく鋭い痛みがあって……

 息を吸っても吐いてもすごく痛い……


(く……!)


 さっきまで、奴がすごい剣幕で訳分かんない事言ってくるもんだから悲しみが紛れてたけど、また絶望が戻ってきてしまった。




「こんな……まるで男じゃないか!」


(……っ!)


 瀕死の私には充分過ぎるくらいの、深い一撃だった。


 でも、涙は出そうになかった。

 泣きそうだけど泣かなかったんじゃなくて、全然泣きそうな感じにもならなかった。


 あの時できた大きく深い傷口を……一度のみならず二度も抉られ続けた心は、それはもう大声で悲鳴を上げている。


 相手がもし向こうの世界の『あの人』だったら、多分すぐさまこの場でへたり込んで泣いてたと思う。




 でも、そうじゃない。今の発言の主は奴。


『あの人』だって相当イケメンで、私なんかより格上の存在だったはずだけど……なんでだか、冴桐に言われるとそれとはまた違った感じで。


 悲しみよりも遥かに強い怒り……轟々と燃え盛る炎の中にさらに燃料が投下されて、悲しむより『お前が言うな』の気持ちが強くて。




 どうしてそこまで怒るのか、自分でも分からない。


『お前が言うな』ってつまりどういう事なのか。なぜなのか。

 それもまた分かってない。


 多分今、極度の興奮状態にあって混乱してるというのはあると思う。


(……)


 でも、似たような状態に少しだけ心当たりはあった。


 なんかで聞いたことがある……『分かってほしい相手だからこそ人は怒る』んだと。

 身近な相手だからこそ激しく主張して、本当の自分を認めてもらおうとするんだと。

 駄々をこねる子供みたいに。


 似たようなというか、むしろこれなんだろうなと薄々感じてはいる。

『嫌いな相手なのにどうしてここまで分かってほしい気持ちになるのか』という肝心な所だけ説明つかないけど、それ以外はこれで全部説明がつくから。


 でも、そうは分かっていてもそれを死んでも認めたくないから……今はそうだと断言したくないから、はっきりその通りとは言わない。


 あくまで『似たような』状態。今は。







 一応周りに人いるし、なんとか理性を保とうとしてるけど……


(でも……!もう、そろそろ限界……!)


 極限まで膨らんだ怒りの感情は、もはや自分でも抑えきれないほどになっていた。


 もうこれ以上は持たない。次また何か衝撃受けたら絶対持たない。

 それに、何もなかったとしてもあと数秒で大爆発してしまいそうな……




「ふん、少しはもっと女らしk……」


 スパァァァァァン!


 教室に響き渡る、甲高い音。


 ヒリヒリする手のひら、もみじ模様を頬につけた奴の間抜け面。


 そして、シーンとなった教室。




 爆発してしまった。とうとう。


 みんなの前なんだし、自重しようって気持ちはあった。そりゃあめちゃくちゃあった。迷惑だし、恥ずかしいし。

 私のこの気性の荒い性格だって、品のない態度だって……今ので露呈してしまった訳だ。


 でも、それ以上に怒りが強くて……今の私はもはや暴走状態だった。


 脳内には、彼に言われた事に対する怨言やら、クソだのなんだの下品なワードでいっぱい。


 今ここで全部言って良いなら……多分、無限に吐き出せると思う。

 一応人前だからギリギリ留まってるけど、本当はこの勢いのまま全部吐き出しちゃいたいくらい。


「……」

「……」


 ドス黒いオーラが溢れ出まくりの私を奴はポカーンと見つめている。


「……」

「……」




 そうしてしばらく唖然としていたけど、突然ハッと何かに気づいた顔をして。

 そして元のウザや……じゃなかった、穏やかな表情に戻っていった。


「……そうか、そうかい。それが君の返事か」


 収まらない怒りを抱えたまま、奴を睨みつける私。


「分かった分かった。もういい、やめだ」

「……」

「僕の方が大人だからね。また、退いてあげるよ」


 イラッ。


「みんながいる前でこれ以上やり合うつもりはないしね」

「で?まだなんか?」


 炎はまだ燃え盛っている。


「最後に……ちょっと言いたい事がある」

「手短にね?」

「ああ、単刀直入に言わせてもらおう。君……ファンクラブから出ていってくれないか?」

「は……?」




 メラメラ燃え盛っていた炎が一瞬で引っ込んでいった。訳が分からなさ過ぎて。


(は?今、何と……?)


 え、ファンクラブから出ていけって?

 えっそれ……今更?いやむしろやっと?




「どうだい?今度は僕のお願い、聞き入れてくれるかい?」

「え?いいけど?」


 ってか、そもそも入ったつもりすらないんだけど。


「おや……随分あっさりしてるね」

「え、何?私が泣いて縋りつくとでも?」

「いや、君はそういうタイプじゃなかったか。失礼」


 わざとらしいその言い方。腹立つわぁ。




「アンタなんてファンでもなんでもないわ!」

「敵よ敵、私達の敵!」

「調子乗るんじゃないわよ地味メガネ!」


 取り巻きうるさっ。


 ってかどっから生えた。

 さっきまでいなかったぞ。目の前コイツ1人だったぞ。


(よく分かんないけど……ご都合主義的なやつ?)


 やっぱりここはゲーム世界なんだなぁ。




「仕方ない、『可哀想な子』は置いておいて……じゃあ行こうか、みんな」


(ケッ、まだ言うか!)


 さようなら、『可哀想な奴』。

 可哀想な頭の可哀想な奴。もう二度とこっち来んなよ〜。


 な〜にが『じゃあ行こうか、みんな(イケボ)』じゃい。

 うっかりイケボとか思っちゃった自分に吐き気がするわ。


「ここでのんびりしてる暇はない、まだまだ次の作戦があるんだからね」

「「「は〜い、冴桐君❤︎」」」


 とかなんとかほざいて、冴桐は取り巻きの女子達引き連れてまたどこかへ消えた。



取り巻きの女の子引き連れてるタイプのキザ男、ああいうの結構好きなんですけど最近あんまり見ないような……絶滅した……?

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