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1-2.どうでもいいから何でも言える

 


 で。


 それで……私がそんなヤバい奴の取り巻きとか、まじ無いわ〜。


 ほんとこれ、どうにかしてほしい。これだけだから、ほんとに。


 これさえ無ければ、ほんと最高の環境なんだから。


(まじ萎える……あ〜あ……)




「ねぇねぇ、冴桐君聞いた?」

「なんだい?」


 唐突に取り巻きの中の一人が話し出した。


「神山君、ま〜だ懲りずに姫崎さんの事追いかけてるんだって〜」


 神山君とはこのゲームの主人公で、姫崎さんは攻略キャラのうちの一人。


 懲りずに追いかけるってか、話しかけに行かないとストーリーが進まないからだと思うんだけど……この場では言わないでおく。


「なんだって!?まだそんな事してるのか!?」

「そう!もう二回も誘って断られてるのに、まだ毎日アタックしてるの!」

「なんと諦めの悪い……!全く、これだからモテない男は……!」


 その言い方。


「姫崎さん、可哀想!そんなんじゃノイローゼになっちゃうわ!」

「そうだな……分かった!女の子のピンチは放っておけない、僕が助けに行ってあげよう!」


(うわ〜……)


 姫崎さんほんと可哀想。

 定期的にこんな奴の相手させられるなんて、地獄じゃん。

 むしろその方がノイローゼになりそう。




「キャー!さすが冴桐君!」「素敵〜!」


 正気か……?


 いや、ごめん……そもそも正気じゃないからファンクラブなんてやってるんだよねあなた達。

 聞くまでもなかったわ、ごめんごめん。


「よし!じゃあ早速、僕が助けに行こう!」

「でも、大丈夫?神山君がまた嫌がらせをしてくるかもしれないわ」

「平気さ、僕はそんなヤワじゃない。それに、念のため仲間を連れていくから大丈夫だ」


 嫌がらせしてんの、コイツな?主人公じゃなくてコイツな?

 向こうのは嫌がらせじゃなくて正当防衛な?


 それと、コイツめっちゃいい笑顔で答えてるけど……『仲間連れてくから大丈夫』ってなかなかのチキンよ?


『僕一人じゃ行けません』って事でしょ、つまり……

 え、普通にダサ……




「それで……冴桐君、誰を連れていくの?」

「そうだなぁ……」


 そう言って、自分のファン子達一人一人の中をジロジロと……


(うえ……)


 露骨な品定めの目。

 ここはアイドルのオーディション会場か。


「う〜ん、誰がいいかな……」


 どうやらこの中から誰か連れていくつもりらしいけど……


 ……っていうか、仲間って女子かよ。同性の友達いないんかコイツ。




「決めた!君と一緒に行こう!」


 彼がビシッと指差した先には、私。


(うげっ!?)


 最悪だ……なんで私がコイツの手伝いせにゃいかんのさ。


 え、どうしよう……まさかご指名を受けるとは。


(え、これ……行かなきゃ駄目な感じ?)


 うわ……みんなこっち見てる。

 駄目だ、これは何かしら答えないと駄目なやつ。


 いやいやいや……でも、でもよ?

 ここでいいよなんて言ったら、コイツと一緒に姫崎さんにウザ絡みしなきゃいけないって事でしょ?


 え、普通に嫌……

 コイツと一緒にされるなんて嫌だし、姫崎さんって子に迷惑かけるなんてもっと嫌。




「さぁ、早速行こう!僕と一緒に助けに行くんだ!」


 嫌なんだってば。

 そんな爽やかスマイルで手招きされても、嫌なもんは嫌。


(でも、ここでそれ言う……?)


 いざ口にして空気乱すの嫌だしなぁ……あんまりここで波風立てたくないしなぁ……




「ほら、早く……」


 手招きウザっ。


「どうしたんだい?ほらほら……」

「嫌」


 悩んでたら本当に言っちゃった。とうとう口から本音がポロッと。




「え……君、今なんて……?」


(もういいや、本音言っちゃえ)


 さっきの発言がさらっと受け入れられた事で、私の中で何か吹っ切れた感じになっていた。


 厳密に言うとまだ聞き返されてる状況だし、完全に受け入れてもらえた訳じゃないけど……でも、その言葉自体はちゃんとこの場に受け入れられていたから。

 私自身の意思として、ちゃんと。




「嫌、私は行かない」

「「「えええ〜っ!?」」」


 彼も、周りの取り巻き達も……みんなポカーンと口を開けたまま、固まっている。


「……だって、別に姫崎さんに助けてって言われた訳じゃないし。実際そこまで困ってないはず」


「行ったってただ二人の邪魔になるだけだから……私は行かない」


 前世じゃ絶対こんな事言えなかった。異性相手ならなおさら。

 単純に相手の反応が怖いっていうのと、嫌われたくないって気持ちがあって絶対無理だった。




 でも、この彼……冴桐が相手の今なら余裕で言えた。


 コイツなら言ってもいいやって思って。

 実際本当に嫌われたとしても全然痛くも痒くもないし。


 それとなぜか、言って良い相手だって感覚的に感じる何かがあった。

 本音をそのままぶつけても大丈夫だって。


 それがなんでかは分からない。けど、『大丈夫な感じ』がすごくしていて。

 意味不明だけど、なんでだかやけにはっきりと確信があった。


 もしこれが好きな人とかなら、すごい!そこまで相性が良いんだ!運命の相手!なんて喜ぶところだけど……相手、冴桐だしなぁ……


 まぁ、本当にどうでもいい相手って事なんだろう……うん、きっとそう。




「え……?『行かない』……?」

「うん」


 奴はどうして?と言わんばかりに青い目をパチパチしている。


 まるで私がとんでも事を言ったかのようなリアクションだけど……とんでもない事を言ったのはあくまでコイツの方である。


「え……この僕が誘ったというのに?」

「……」

「僕の誘いを、君は……断るっていうのかい?」

「そうだけど?」

「この、僕の誘いを……!?」


 しつこいな。そうだよ。


「この、僕の……!?」


 その、『んぼぉく』みたいな発音やめて。耳がしんどい。

 溜めないでちゃんと僕って言って。日本語喋って。




「ひどいわ!」「冴桐君可哀想!」「なんて事言うのよアイツ!」


 これまで呆気に取られてか、うんともすんとも言わなかった取り巻きが……ここで急に一斉に騒ぎ出した。

 やっと状況を理解できたらしい。


「ファン失格だわ!」「冴桐君を悲しませるなんて!」


(そもそも私はファンでもなんでもないっての)




「え?え?君……どうしてだい?」

「え、なんか言った?」


 ごめん、周りがうるさくてよく聞こえない。

 もうちょっとボリューム上げて?


 コイツの声、音圧が弱いのよ。いかにも優男って感じでトーンが優し過ぎて。


「この僕のお願いを断るなんて……きっと何か理由があるんだろう?」

「理由……?」

「ほら……怪我してて歩けないとか、何かそういった重大な理由が……」

「いや、無いけど」

「なっ……!」

「単純に、やりたくないってだけよ」

「僕のお願いを……『やりたくない』……!?」


 ザワザワしてた取り巻き達がまた静かになった。忙しいねあなた達。


「や、やりたく……ない……だって……?」


 また目をぱちくり。可愛いとでも思ってんのかそれ。


「そう。だから手伝いなんてごめんだわ」


 言い切った。

 言ってやったぞ、私。今ここで、初めて本音を言い切った。


 もしかするとこれ、生まれて初めてかもしれない。

 そう思うくらいにはかなり珍しい出来事だった。




 一方彼はというと、とうとうウザやか……じゃなかった、爽やかな笑顔がすっかり消えて真顔に。


(あれ、ちょっと言い過ぎたかな……?)


「そ、そんな……そんな……嘘だ、そんな……」


 そんなこの世の終わりみたいな顔されましても。


「僕のお願いを……拒否するというのかい……?」

「そう」

「どうして……?」

「それはこっちの台詞」

「だ、だって……みんないつもすぐOKしてくれるのに……」

「残念ながら私は違う。あなたに盲目的に従うつもりなんてないから」

「え……」

「私も私で考えがある。断る事だってあるわ」




「なんですって!」「アイツ、冴桐君に……!」「ひどいわ!」


 ここでまたざわつき復活。おかえり。


「君としては……今のが不本意だったと?」


 だから、ボリューム。


「だから、断るっていうのか?」

「ええ」

「くっ……」


 苦虫を噛み潰したような顔。

 一応それでもそれなりに様になるんだから、ほんと腹立つ。


「あの女、調子に乗ってるわ!」「追放しちゃいましょうよ!」


 調子に乗ってるのは……いや、もういいや。

 突っ込むのもめんどくさくなってきた。


「みんな、ありがとう。でも……ここは一度許してやることにする」


「さすが冴桐君!」「なんて優しいの!」




 ここで奴がバッと私の方を向き……そして、互いの目が合った。


(……!)


 これが初めてかもしれない。


 これまで会話はしてたけど、いまいち視線が合わなくて……だけど、今ここで初めてパチっと目が合った。


「……」

「……」


 奴はようやくここで初めて、私の姿をちゃんと見たらしかった。


 瞳孔がいつもよりやや大きめ……つまり、注視している。

 ファンなんだし普段から見慣れた顔のはずなのに、こんな動きをするって事は……つまり、いつもはあんまり見てないって訳で。


 周りに女の子が多過ぎて、いちいち一人一人見てやれないってか。

 それはそれでまたなんかムカつくけど……




「……」

「……な、なによ?」


 しばらく無言で頭のてっぺんからつま先まで、品定めするかのようにジロジロと見た後……


「そうだな……まぁ、今回は許してあげよう」


(コ、コイツ……!)


 それだけとか!ほんとムカつく!


 しばらく溜めた分嫌味っぽさが増して、余計になんか腹立つ。


「でも、その代わり……『次の作戦』には君がメインで動いてもらうよ」

「は?」

「なに驚いた顔をしているんだい?『次の作戦』だよ、昨日話したじゃないか」


 は?


「はぁ〜……もう忘れたのか?」


 わざとらしくクッソでかいため息ついてるけど……いや、全然知らないよ私?


「この後、体育の授業がある」

「……」

「神山が姫崎さんにかっこいいところを見せようとしてるところに、バナナの皮を置いて転ばせるんだ」

「えっ……」


 バナナの皮で滑らせるって……小学生か。


「君にはその一番大事な役……バナナの皮を設置する係を任せよう」

「……」

「バナナの皮を持って行って、走ってる神山の前で転んだふりをして皮を置いて、立ち去るんだ」

「……」




 は?



 は???



 はぁ??????




「ふふふ、羞恥心と姫崎さんを失望させた悔しさで奴の心はズタズタだ……」

「いや、私行かないけど」

「ああ楽しみだなぁ、ふふ、ふふふふ……って、え!?」


 ノリ突っ込み?ノリ突っ込みなの?


「やらないよ、私」

「なっ……!」

「向こうは何も悪くないんだもん」

「君、まさか……!神山のスパイか!?」

「スパイも何も……」

「神山を庇うって事はそうだろう!?」

「いや、正直タイプじゃないし」

「なんだって……!?」

「ただ単に、やりたくないから断ったってだけ」

「ぼ、僕のお願いを……また断るつもりなのか……!?」

「うん」

「僕の……この僕の、お願いを……!?」


(イラッ⭐︎)


 だから発音!んぼぉくやめい!


「ファン失格よ!」「そもそも仲間として認めないわ!」


 外野もうるさい!

 むしろアンタらの仲間だなんて思われたくもないわ!




「だから!やりたくないって言ってんじゃん!」

「くぅ……っ!」


 とうとう声すら出なくなったか冴桐。


「く、くそ!こんなところで計画を邪魔される訳にはいかない!」

「……」

「本当はやりたくないが、仕方ない……ここは一旦退こう」


 いや、一旦じゃなくていいって。永遠に来るな。


「この後、国語の授業がある……体育はその次だ」

「……」

「一度頭を冷やしてじっくり考えてみるといいよ」


 そう言うとこちらに背中を向け、スタスタとどこかへ向かっていった。

 何か言いたげな取り巻き達と一緒に。


(いや、冷やすもなにも……結論変わりませんけど?)



明るく元気なケンカップルの話にするつもりが、口の悪い主人公と癖強男がギャースカ言ってるだけになってきちゃった……もうどうにでもなぁれ⭐︎\( °ω。)/

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