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8-1.ふわふわと包み込むような

 


 またその翌日。


 奴は朝から静かだった。

 ずっと真顔で、機械のように淡々と授業をこなすだけ……気持ち悪いくらい静かだった。


 ファンの子達も奴のただならぬ雰囲気に何か感じ取ったのか、今日はちょっと離れた所から様子を伺っている。




 でもこれまでの感じだと、またおそらくこの後放課後あたりに何か奴からアクションしてくるだろう。


 昨日の謝罪か、あるいは余計に何か吹っかけてくるか。何回かあったからもう学習した。


 まぁどちらにせよ嫌だし、今日もまたわざと遠回りして帰ろう。

 とはいえあんまり遅いと、もし間違って奴に見つかった時に、女が一人でどうのこうの〜みたいな事言ってくるかもしれないからそこそこ明るいうちに。







 放課後になってすぐ、奴がトイレに行ったのを確認して私は足早に学校を後にした。


 本当は学校終わってすぐ帰りたかったけど、それだと奴がそのまま追いかけてくる可能性があって。

 奴がトイレから戻ってきた時に私がいないってなれば、行方を一瞬悩むだろうから……多少は時間稼ぎになったと思う。


 まぁ部活やってないから、トイレ寄ってるか帰ったかの二択なんだけどね。

 それでも多少でも悩んでくれたらいい。


 さてさて……遠回りするとはいえ、昨日と全く同じ道だと奴にバレるかもしれないから……今日はわざとちょっと離れた大通りを通っていこう。


 人混みでうまく誤魔化せるかもしれないし。







 交通量の多い太い道路、街路樹が鬱蒼と茂る広い歩道……


(こんな所……あったんだ……)


 所狭しとお店が立ち並び、人が大勢行き交う……なんだか賑やかな感じ。

 夕方でこれだから、昼間とかもっと活気があってすごいんだろうな。


 これまで住宅地ばっかり歩いてたからちょっと新鮮だ。

 確かに、ゲーム内で攻略対象の子とショッピングデートする時の背景がここだったような気もするけど、こんなマジマジと見る事はなかったからすごく新鮮。







 ププーーーーーッ!


(わ……!)


 突然辺りに甲高い音が響いて……


「危ない!!!」


 知らない誰かの叫び声、そして……




 キキーーーーーッ!


 今度は急ブレーキの音。




 音の方を振り向くと、幼い女の子が歩道の柵の開いた所から車道に向かって身を乗り出していて。


 車がその手前スレスレで止まってくれたおかげで事故にはならなかったけど、危ないところだった。


「もう!危ないでしょ!」


 すぐさま母親らしき女性の声がして、女の子はサッと歩道へ引っ込んでいき、車はまたゆっくりと走り出した。




(……)


 なんだか落ち着かない。どこかムズムズする。


 ただのクラクションの音って言ってしまえばそれまでだけど、私とっては忘れられない音。


 この世界に来る、きっかけというか……始まりの音であって……


(あれ?)


 何かが頬をスーッと撫でていく……これは……




『僕には……君がかなり無理しているように見える』


(……はっ!)


 いきなり奴の声がした。


 といっても脳内で、だけど。本人はここにはいない。




 なぜか今、ぼーっとしていた私の脳内に昨日の冴桐の話が浮かんできていた。

 理由は分からない。何の前触れもなく急に出てきた。


(……)


 でも思い出せば確かに、あれはその通りだった。

 奴の言う通りだった。


 私一人じゃきっと、この先生きていけそうもない。

 生きるのも不器用過ぎて、年取ったらきっと相当ハードモード。

 いつか絶対、誰かの助けが必要になってくる。


 でも……助けを求めたとしても……

 私を助けてくれる人なんていない。


 私なんて、どうせ誰も助けてくれない……

 誰も見てくれない……


(誰も、愛してなんかくれない……そんな人間……)







「わっ!?」


 突然ポンと肩に衝撃が。


「だ、誰……っ!?」

「……僕だよ」


 振り向くまでもなかった。声だけで分かった。


「……って、あれ……?」

「な……泣いてないし!」


 潤んだ目をしたまま、さらに自ら発言する事で墓穴を掘ってしまった。


「どうしたんだい?」

「別に!何でもない!」

「で、でも今……」

「泣いてないって言ってんじゃん!」

「……」


 どう見ても嘘だけど、突き通すしかなかった。


「それより何?また喧嘩売りに来たの?」

「いや……」


 いつも以上になんだか弱々しい声。


「あの時は……その、すまなかった」

「……今更謝ったって遅い」

「怒ってる……よな?」

「そりゃそうよ」


 こうしている今も正直イライラMAXよ。


(あ〜も〜!早くどっかいってくれないかな……!)




「あの、こんなタイミングで言うのも……なんだけど……」

「何よ?」

「好きだ」

「は?」

「君の事が……好き、なんだ」

「……はぁ?」







 今まで生きてて、『なんで今それを言う!?』みたいな会話はそこそこあるにはあった。


 でも、その中でもダントツで今のが一位だ。

 他にも意味不明な時はあったけど、今ほどじゃない。




「は……?え……?」


 あまりに唐突すぎて、頭が追いつかない。


「だから、その……僕と……付き合ってほしい」

「え?」


 何言ってるか分かんない。

 音声としては聞こえてるんだけど、言葉としての意味がうまく解読できなくって。


「え……えっと?」


 頭が完全にフリーズしてしまっていた。


「何度も言わせるな、君が好きだって言ってるんだよ」

「え……?す、き……?」

「ああ」


 好きって……私を……?コイツが?


「え、あ、え……な、なん、急に何?ってか何で今?」

「御託はいい。で、返事は?」

「え、えっ、ちょっ、待っ……ええっ?」


 早く答えろと視線が言っている。


(いや、だからってそうは言われても……)


「な……なんで、急に……そんな……」

「……」

「私の事、好きだなんて……そんな……いつから……」

「いつからなんて、僕だって分からないよ。ただ……」

「ただ?」

「気づいたら、好きになってたんだ」

「……」

「君には本音でぶつかり合える。素直に自分を見せられる。君の方も……おそらくそうだろう?」


 まぁまぁ図星だった。

 でも、今は色々新しい情報が多過ぎて頭が回ってなくて……ただ無言で頷く事しかできなかった。


「君が僕の作戦を断ったあの時……お世辞とかごますりとかじゃなく本音で接してくれてるって感じられて、それがすごく新鮮で……すごく嬉しかった」

「え……でも、あの時怒ってたんじゃ……?」

「あれは……本当にすまない。今までにないような人が現れたから、動揺してしまって……」

「動揺……」

「今まで、みんな僕の事を褒めるばかりだったから……お世辞とかごますりとか、機嫌取りとか。気に入られたい一心で」

「……」

「だから、あんなにはっきり拒否されるなんてびっくりしてしまって……でも同時に、ちゃんと僕と向き合ってくれてるって思うと内心ちょっと嬉しかった」

「……」

「その上、僕の等身大の情けない姿も受け入れてくれてて……本当に嬉しかったな」

「……」

「それこそ無意識で顔がニヤけてしまうほどに、ね」


 意味ありげにこっちをチラッと見た。

 何が言いたいのかは分かってる。


「……」

「……」


 けど、私は分からないフリをした。


「いや、なんでもない。

「そうしているうちに……なんだか、真っ直ぐ付き合ってくれる君の事が愛おしく感じられてきて……」




「で、でも……だって……私、男だよ?」

「はぁ?」


 訳が分からないといった顔でポカーンとしてる。

 さっきまで私がそんな感じだったけど、今度は彼の番。


「いや、性別は女だけど……その、男みたいって意味……」

「ああ、びっくりした……」


 言葉が足りなくて、危うく性別の壁越えちゃうところだった。


「愛嬌なんてないし、可愛い格好だって滅多にしない……むしろすぐ怒って食ってかかる……」

「それは知ってる」

「それに……その……あんまり自分じゃ言いたくなかったけど……」

「……」

「胸が……全然無いし……」

「それがどうした」

「え……そんなの、男と付き合ってるみたいじゃん」

「僕は男と付き合うつもりはない」

「だから、私は……!もう、何度も自分で言わせないでよ!」

「何度も言わなければいいだろう?」

「なんでよ!」

「必要がない」

「どうして!」

「君がどうであろうと……僕の言う事は変わらない」


(え……)




「で、でも!」

「……」

「わ、私は……付き合いたくない。だって、私は……「僕は付き合いたい」


 突然言葉が被ってきて、思わず彼の方を見てしまった。


 見たところで、いつもの澄ました顔があるだけだったけど。


(あれ?)


 ほっぺたが……赤い?


 いや、それどころか……

 耳が……耳の先が真っ赤っか……


(まさか。いや、まさかね……)


 そう思いつつ、私の顔もカーッと熱を帯びていく。


「おい、返事」

「ま、待って……まだ気持ちの整理が……」


 そうは言われたって、私に魅力があるとは思えない。


 一応この彼はモテる部類で、私なんかとはレベルが違う。天と地ほどの差。


(そんな私を好きって……)


 本当かな?なんのメリットもないのに。


 まだ何も私の事知らないだろうに、勢いで言ってるだけ?

 あるいは何か勘違いしてる?




「……君の事は、正直まだよく知らない」

「……!」


 まるで私の脳内を読んだかのような発言に、思わずドキッとしてしまって。


「こうして君に向き合うようになったのはつい最近……まだまだ全然知らない事ばかりだ……」

「……」

「でも……いや、『だから』か……」

「……」

「君と……もっとずっと一緒にいたい。君の事をもっともっと……知りたい」

「私と……私なんかと……この先一緒に……?」


 視界はうるうると潤み、目頭が熱くなっていく。


「君が……好きなんだ」

「……!」


 うるうるどころじゃ終わらなかった。

 目からぼたぼたと大粒の雫がこぼれ落ちていく。




「……ほら」


 ぼやけた視界でも、差し出されたハンカチだけははっきり見えた。


 無駄に質の良さそうな、触り心地のサラサラのハンカチ。

 それを受け取り、両目にぐしぐし押し付ける。


「まったく……強情だなお前は」

「え?」

「さっきから僕にばっかり喋らせといて、自分は返事をしない」

「あ……ごめん。ちょっと混乱してて……」

「ふん、ここまで言わせておいて……まだ納得いかないとは言わせないよ?」

「だ、だけど……」


 ようやくちょっと涙が退いてきて、彼の方を見ると……


(……!)


 そこには穏やかに微笑んでいる男性(ひと)がいた。

 こちらを向いて、優しく見守るような目で。


 私の全てを暖かく包み込んでくれそう……いや、多分包み込んでくれるであろう、男性(ひと)がそこにはいた。


 彼といるこの空間には……暖かくって柔らかくて、ふわふわとした何かで溢れていて。


 そんな彼との空間に、心の底からホッと安心してる自分がいた。


(あ……)


 これ、この感じ……

 もしかして、好き……なのかも……



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