表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

7-2.白馬の王子様なんている訳ない

 


「君、一人〜?」

「え?」


 不意に後ろから声をかけられ、何も考えずに反射的に振り向いてしまった。


(うげ)


 冷静に考えて、振り向いちゃ駄目なセリフだ。

 でもそのことに気づいたのは、完全に声の方に向いた後だった。


「ってかさ〜。今、暇?」


 生地が薄くて安っぽいジャケットを羽織った、茶髪のなんかヘラヘラした男が立っていた。


 香水か何かの甘ったるい匂いと、薄っぺらい笑顔、そして全身を舐め回すような気持ち悪い視線……

 多分この後の事考えてるんだろうけど……私、まな板よ?残念ながら。


「へ〜。よく見ると可愛いね、君?」


(よく見るとって……いや、いいけどさ)


 人気のない道、それもそこそこ遅い時間に一人でフラフラ……そりゃあ狙ってくださいって言ってるようなもんだ。

 そりゃ、狙われるわな。


 その上、急いでる様子も無いもんだから絶好のカモだ。

 ワンチャンあるかも!なんて考えるのも無理はない。




「で、どう?ちょっとお茶してかない?」


(おお……!ザ・常套句……!)


 って、違う違う。リアルでテンプレ台詞聞けたからって、感動してる場合じゃなかった……

 現在進行形で変なのに絡まれてるんだった、やべ。


「え……」

「いいっていいって。奢るよ〜?」

「いえ、結構です」

「そんな、遠慮しなくていいって〜」


 結構キッパリ言ったつもりなんだけど……

 効いてない……いや、聞いてないか。


「いや、その……」







「その人、嫌がってるみたいだけど?」


 不意にどこかから声が。


(マジ救世主……!ありがてぇ……!)


「あ?んだよ、お前」

「ただの知り合いだよ」


 やっぱありがたくなかった。


 最初、不意打ちだったっていうのもあってすぐ気づけなかったけど……この声、奴だ。最悪だ。


「知り合いって……この子の?」

「ああ、そうだけど?」


 さっきから目の前にいるのと、背後から新たに増えたのと……ウザいのが二人に増えてしまった。うわ。


「ところで、そう言う君は……?君も彼女の知り合いなのかい?」


 知らない男だって分かってて言ってるだろそれ。

 いつもの営業スマイルが、今はもはや煽ってるようにしか見えない。




「チッ!んだよ、コイツ男いたのかよ!最悪!」


 それ、どういう意味?ってチャラ男に聞きたかったけど……


「話しかけて損した!時間無駄にしたわ、くそが!」


 とかなんとか、一人でワーワー暴言吐きながらどっか行っちゃって、聞きそびれてしまった。


 冴桐は知り合いって言ったけど、あの人的には彼氏とか男友達とかそういうのに見えたんだろう。


(って、そんなに距離感近かったかな……)


 もしそう見えてたら最悪。

 そもそも私が奴の彼女だなんて、いくら勘違いでも死ぬほど嫌なんだけど……


 とはいえ、なぁ……ほんとは違うってちゃんと弁解したかったんだけど、もうどこ行ったか見えなくなっちゃった。

 足早いねあの人。







「大丈夫か?」

「あれ、そういや今日は一人なんだ?ボディーガードは?」

「今日はいない」

「なんで?」

「ついさっきまで一緒にいたんだけど、君を見かけたから帰らせた」

「え?どうして?」

「たまたま君を見かけて……変な奴に絡まれてるみたいだったから助けようと思って」


 え〜?

 たまたまって……結局またストーカーしてたって事なんじゃないの?怪し〜。


「でも、彼らと一緒だとまた騒いで通報されかねないから……今度は一人で来た」

「一人でもいけるって?えらい強気ね」

「何がだい?」

「『念のため仲間を連れていくから大丈夫だ』」


 我ながら完璧な声真似だった。

 声色、雰囲気百点満点。ウザさは本人に負けるけど。


「とか言って、この前私一人でやらせようとしてたじゃん。次の作戦とか言って」

「それは……反省したよ」

「反省て」

「いつも仲間にばかりやらせていては、僕自身の実力を軽く見られてしまう……それではいけないと反省したよ」


 あ〜……うん、もういいや。

 色々あるけど、突っ込むのめんどくさいんでもういいよそれで。


「そうは言っても、あの後喧嘩になったら勝てないじゃん」


 少し前まで入院してた奴がよ?もし殴り合いなんてなったら……絶対勝ち目ないって。


「それを言うなら、君こそどうして助けを呼ばない?」

「呼ぶ必要ないし、呼ぶ相手もいないし」

「相手がいない事はないだろう?選択肢は他にも……」

「友達だって親だって暇じゃない。みんなそんなすぐ来れる訳じゃないから」

「だけどここ、近所じゃないか。僕の家なんかこの先すぐだし」


 前も言ったけど、だから知らんて。

 現実じゃ、マップ画面なんて出せないんだって。


「だから、必要ないって言ってんじゃん」

「相手は大人の男……君一人じゃ勝ち目がない」

「それはアンタが来たところで同じでしょ」

「いや違う」

「同じよ」

「全然違う」

「変わんないって」

「違う!」


 なんかイライラしてる、アイツ。


「そうじゃなくて!君が一人なのが問題なんだよ!」

「なんでよ!?」

「それくらい分かるだろ!?」

「なにがよ!?」

「分かってくれよ!そのくらい!」

「分かんないよ!」

「あ〜もう!そもそも、どうしてこんな遅い時間に一人で出歩いてるんだよ!」

「いいでしょ別に!」

「僕が用事で出掛けてなければ、助けに来れなかったんだぞ!」

「んなの、知らないよ!どうだっていいでしょそんなの!」

「よくない!」

「なんで!」

「君一人じゃ、その……」

「一人じゃ、なによ!?」

「……」




 こういう時に限って黙る。

 普段ベラベラ喋るくせに、肝心な時はこれ。


(ずるい奴……)


 でも、言いたい事はなんとなく分かる。


 女だから一人じゃ危ないって事が言いたいんでしょ、つまりは。


(あれほど女らしくないだなんだ言って、今更女扱いとか……!)


 いつも男っぽいって言われてイラッとしてるのに、今度は女だって言われてまたイライラしてる。


 自分でもその意味不明な矛盾は分かってる。どのみちどっちでも怒ってるじゃんって。


 ここで怒るのは理不尽だって事も分かってる。

 けど、頭で分かってはいても……やっぱり相手が相手なせいか、無性に腹が立つ……




「別にあんなのどうって事ないから。あの後、適当にあしらってやるつもりだったし」

「あしらうって、君が?」

「そうだよ。他に誰がいるって?」


 はぁ〜とここで大きなため息をつく冴桐。

 一挙一動がいちいち腹立つ。


「はぁ〜……君、もう少し自分が女って事を自覚したらどうだい?」

「はぁ!?それ、馬鹿にしてる!?」

「馬鹿にしてる訳じゃないけど……」

「じゃあ、何よ!?」


 語気が勝手に荒くなっていく。


 強く言うつもりはなくても、感情の昂りがそのまま口から漏れてしまって……


「うまくやり過ごせる自信があるのかもしれないが……それでも相手は男だぞ」

「それが何!?」

「もし力づくで何かされたら……終わりじゃないか」

「ご心配どうも!でも私もそこまで馬鹿じゃない、そうなる前になんとかするから大丈夫!」


 そもそも前世だってずっとそうして来てたんだから!

 馬鹿にしないでよ!


「なんて可愛げのない……はぁ〜……」

「うっさい!それくらい自分でできなくちゃしょうがないでしょ!子供じゃあるまいし!」


 なんか今さっき、あの嫌なワードが聞こえたような気がした。


 でも、なぜかそあの言葉にあまり反応していない自分がいた。

 別に克服できた訳じゃ無い。けど、そこまで感情は動かなかった。




「まぁ、そうだけど……」

「でしょ!」

「……」


 ほらみろ!反論できないじゃん!


「でも……それは君には無理だ」

「は……?」

「君には少し……ハードルが高いと思う」

「なんで?」

「これまで見てきて……そこまで人あしらいが上手いようには……とても思えない」

「……」


 今度は私が黙る事に。


 確かにそう。口はそんなに達者じゃない。

 それに、あしらい方だってうまくない。


 不器用な性格の悪い面が全部出て、本当はそういうの苦手。


 でも、世の中うまく立ち回っていくにはこうするしかないから……




「僕には……君がかなり無理しているように見える」

「……!」

「そうだろ?」


 図星ではある。

 けど、コイツ相手にそれは言いたくない……


(あ〜ほんとムカつく〜!も〜!)


「だから!?だから何よ!?」


 苛立ちがモロに分かる口調。

 だけど、もはや気にする余裕なんて全然ない。


「いや……これは僕の単純な疑問なんだけど」

「何よ!」

「そこまで無理するくらいなら、諦めて人を頼ったらどうなんだ?」

「そうね!咄嗟に頼れる人がそこにいればね!」

「いないのか?」

「そうそう都合良く行く訳ないでしょ!」


 友達だって家族だって、みんな都合があるし!

 そんないきなり呼ばれたって困るだろうし、来てくれたらラッキーってくらい……


「友達だって女子だし、お母さんも……助けに来ても、被害が増えるだけかもしれないじゃない!」

「男を呼べばいいだろ?」

「男兄弟なんていないし、お父さんは仕事で遅くまでいない!」

「いや、もっとこう……身近というか……こう、すぐ来てくれるような……」

「アンタと違って、ボディーガードなんていないから!」

「そうじゃなくて……危険にすぐ駆けつけてくれるような……」

「白馬の王子様が颯爽と駆けつけてくるってか!?」

「なんか違うけど、まぁ……そういうやつ」


 はぁ!?んな訳あるか!


「いる訳ないじゃん、そんな人!」

「そうか……」

「当たり前よ!」

「だ……だけど、その……」

「なによ!」

「本来の性格ならまだしも、無理して振る舞うくらいなら……もっと素直になってもいいんじゃないか?」

「はぁ!?急に何!?」

「もっとこう、人に頼った方がいいと思うんだ。その方がきっと、君らしくいられる……」


 ああそうだよ!

 本当はもっと穏やかに静かに、のんびり毎日暮らしたいよ!

 そう、それができるもんならな!


 できないから、こうして必死に生きてる!

 頑張って自己防衛してるんでしょ〜が!


「頼れる人いないのに、頼れって!?アンタ自分が何言ってるか分かってる!?」

「……」

「頼れる人を新たに作れば……」

「頼れる人って、つまり誰?」

「そ、それは……」

「そんなのいないって言ってるじゃん!誰もいないんだって!」

「……」

「男友達とか恋人とかいればいいけど、私にはいないから!誰も頼れないから!」

「……」


 ほら、さっきから何も言えてない!

 いくら正論だって、できない事はできない!




「うるさいなぁもう!もういいでしょ、いい加減帰ったら!?」


 助けてくれたのはありがたいけど……今は怒りが勝って感謝したい気持ちはもうほぼゼロだった。


「こんな所で油売ってないでさ、帰れば!?」


 あまりのひどい言いように、奴はポカーンとしている。


「なによ、助けに来たフリして私に喧嘩ふっかけに来たって訳!?」

「ああ、いや……違くて……」

「違う!?何が!?」


 言葉の全てに噛み付く私に、とうとう彼も堪忍袋の緒が切れたらしい。


「そういう所だよ!そうやってすぐ怒る、認めたくないってだけで!」

「うるさい!どうしようもない事指摘して、マウント取ってるつもり!?」

「どうしようもなくない!君が考えるのを怠っているだけだ!」

「いない人はいくら考えたっていない!ゼロは1にはならない!助けなんて来ない!」

「来るかもしれないじゃないか、白馬の王子様とやらが!」


 だから!そんなのいる訳ないでしょ!


 イケメンが私の肩抱いて!?『僕が君の事守ってあげる(イケボ)』って!?


 そんな夢物語、ある訳ないでしょ!


(コイツ……!ああ、もう……!)




「消えて今すぐ!口も聞きたくない!」


 もっと汚い言葉が出そうだったけど……ここは外だし、周りに人いないとはいえ一応外だから……一番綺麗な言い方で。


 充分ひどいって?うん、でもこれでもマシな方。


 怒りでIQ落ちまくりの脳みそからどうにか捻り出した、◯ねの柔らかい言い換え。


「消えて、私の前から!さっさといなくなって……!」




 もう限界だった。色々と。







「……」

「……」


 奴はというと、しばらくキョトンとした顔をしていた。


「……」

「……」


 いつもの如く、キョトン顔すら無駄に整ってるのがこれまた腹立つ。


「……」

「……」




 けど、すぐにいつもの顔に戻っていって……


「ふん!言われなくてもさっさと帰るさ!」

「ああそう!」

「せっかく助けてやったのにな、お礼の一言も無しか!」

「助けてくれなんて一言も言ってないし!」


 結局いつもの感じに。




「「ふん!」」


 そして……お互い鼻息荒く、それぞれの家へ駆け出すように帰っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ