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7-1.世界変わっても未練たらたら

 


 せっかくの休日は奴の相手で潰され……またやって来た月曜日。


 の、今は授業終わって家に帰るところ。

 だるい身体引きずって、通学路をノロノロ歩いてる。


(はぁ……だる……)


 休日って本来休むためにある訳で。

 なのに、誰かさんのせいでいまいち疲れが取れてない……


 前日の土曜日だって、ずっと明日やだなぁとか思っていまいち気分が休まらなかったし。

 あ〜あ……誰かさんのせいでさ、ほんと。


 だから、授業ほんとだるかった〜。とにかく眠くて眠くて。

 そういう意味では大変な一日だった。







「あ……」


(今、すれ違った人……)


 思わず声まで出ちゃって、ちょっと恥ずかしい。




 でも、すごくそっくりだったから……あの人に。


 本人かって思うくらい、本当にそっくりだった。

 あの人……前の世界での『彼氏だった人』に。


(そう、あの人……に……)


 目頭に熱いものを感じて咄嗟に上を向く。

 下を向いたら、勢いよく溢れちゃいそうだったから。


(……)


 見ると……夕焼け空が端からじわじわと暗くなってきていた。


 黄金みたいな綺麗なオレンジ色が……

 青みがかって、どんどん紫色っぽくなって……やがて真っ暗闇に……


 そうやってぼんやり暗くなっていく様子は、まるで……今の自分の心を表しているかのようで……




「はぁ……」


 違う世界に来てまで……まだ引きずってんだ、私。

 ほんと、情けないね。未練たらたら。


(たはは……)


 参ったな、なんか色々思い出してきちゃった。


 なんかこのままの気分で家に戻りたくないから……ちょっと回り道して、気持ちが落ち着いてから帰ろう。


 今の涙目のまま帰ったら、きっと家族に不審がられる。

 学校で何かあったんじゃないかって変に心配されちゃうかもしれないし。


(……)


 今日はいつもの道からわざと普段行かないような細い脇道に入って、ちょっとだけ遠回りする事にした。







 知らない道を歩きながらも、頭の中のモヤモヤはまだ続いている。


 彼の事は……本当に大好きだった。

 その声も見た目も雰囲気も、全部が本当に好きだった。


 でも、その分嫌われるのがとてつもなく怖くて……自分言いたい事あんまり言えなかった。

 あまりに好き過ぎて。


 友達だった頃はまだそんなに意識してなかったしそこまででもなかったけど、付き合いだしてからが顕著で。好きって気持ちが溢れ過ぎてて。


(ああ……思い出してきちゃった……)


 記憶、もう完全に封印するつもりだったのにな。

 駄目だ、思い出してきちゃった……


 彼は……とっても優しい人だった。

 車道側を歩いてくれたり、先に行ってドア開けといてくれたり、重い荷物持ってくれたり。

 当たり前と言われればそうかもしれないけど、そういった類の事を自然にしてくれる素敵な人だった。


 それに、可愛いって言ってたくさん写真撮ってくれたし……

 今ハマってるスイーツの話すると買ってきてくれたり、行きたい所言ったの覚えてて忘れた頃に連れてってくれたり……

 メイクとか服とか細かいところも褒めてくれたりして、すごくマメだった。


(懐かしいなぁ……)




 けど、なんだかどこか落ち着かなくて。


 なんだろう、野生の勘みたいな何かが違うって行ってくる感じ。

 優しいんじゃなくて、『優しくしてやってる』って気持ちがどこか滲み出てる気がして。


 友達の頃からそういうマメで良い人だったんだけど……なんか、どこかずっと違和感もあって。


 そういう自分が好きなだけなんじゃないかって、自身に酔ってるだけなんじゃないかって……変に勘繰っちゃう時もあって。


 でも、好きだったから私は見て見ぬ振りをした。

 そんなの気にするほどないって思ってた。




 でも……今思うと、あの時の感覚は当たっていた。


 ちょっと無理して演技してるっていうか、何かあればあっさりすぐに別れが来そうな感じ……結局別れる事になったんだし、実際その通りだった訳だけど。


 あれはやっぱり作られた優しさだったんだ。

 どこか嘘があるから、違和感を感じたんだ。




(作られてる……か)


 あっちも、私もお互い作ってた……って訳か。


 私は嫌われないようにって理想の彼女を演じて、彼も彼で理想の彼氏を演じる……みたいな、そんな恋人ごっこ。


 最初の頃はそんなの全然気にならなかったのにな。

 なにせスタートが友達からだったし、本当にただただ楽しかった。


 でも、お互いううまく言ってたはずの関係が……いつの間にかぐらついて、ヒビが入って……


(そして……壊れていった……)




 変化の兆候はあるにはあった。


 倦怠期というか、恋人らしい事は大体やったから……今更何をしてもいまいち刺激が無く。

 会ってもなんとなくマンネリ気味で。


 お互い学生から社会人になって考え方も変わったし、周りの環境も人間関係も違うものになって……


 彼も私も、自分達よりもずっとレベルが高くて魅力的な異性が周りに現れ出して……


 そして、何より萌絵の存在……


(可愛げ、かぁ……)


 向こうからしたら、女っぽさが足りなかったのかもな。

 男みたいで常になんか物足りなさを感じてたのかもな。


 友達としては最高でも、恋人としては不足してたのかもな。


 だから、やがて女っぽい可愛い子に惹かれてしまった……




 これはあくまでただの私の勝手な推測だ。

 結局のところ、真実は本人にしか分からない。


(……)


 ともかく……どこかのタイミングから、歯車が狂っていったんだろう。私も、彼も。


 最初はお互い作ってなんかいなくて。

 ただひたすら楽しくて続けてた関係が……いつの間にか、無理して続けなきゃいけないものになっていって。


 私が彼に気負いして色々気を遣おうと考え出したタイミングか、それとも彼の中で何か思う所があったのか。


 あるいは、やっぱり……萌絵が……


(浮気……されたんだっけ、そういえば)




 やめやめ、萌絵の話はここまで。


 これ以上は駄目、彼女は理由としてあまりに強過ぎる。


 分かってはいる。分かってはいるんだけど……それはまだ考えないでいたい。


 多分、今から何十年もずっと先の……ある程度達観して落ち着いた頃じゃないと冷静に考えられないと思うから。


 きっと、皺々のお婆ちゃんになった頃には笑い話になってるはずだから……




 いや……でも、そんな日なんて来るのかな……


 いくらこのまま年月を重ねても……やっぱり……


(だから!やめやめ、この話は終わりっ!)




 向こうも……もしかしたら本音の部分では私と同じで……嫌われたくないって気持ちが強過ぎちゃったのかもしれない。


 よく気づく性格だから私の足りない部分を補おうとし続けて、不器用な部分のフォローにどうにか回ろうとし続けて、疲れちゃったのかも。


 お互い必死に嫌われないように動いてて……でも、それにお互い疲れて破綻してしまった。

 うん、そういう事にしておこう。


 もう全て終わってしまったのをいい事に、勝手にそう都合良く取っておく。




 気を遣い過ぎると疲れるし、なんとなくギクシャクする。

 気を遣わないのは楽だけど……とはいえ所詮他人同士、どこかしら多少は配慮しなきゃいけない訳で。


 異性でも同性でもそれはそう。

 友達だって、お互い気を遣わないっていったって全然適当って訳にもいかない。




 一番自由に動けて、自分らしさが思いっきり曝け出せるのは……自分のちょうどいい配慮具合ができる相手。

 変に気を遣わないでいい相手とも言うけど。


 どうでもいい人から好かれるってよく言うけど、つまりそういう事なんだろうな。


 私も向こうの世界で昔、高校の頃……全然そんな事微塵も考えてなかった人に突然告白されて、びっくりしたっけ。


 同じクラスで同じ委員会入ってて、大人しい感じの男子だった。

 わざわざ会いに行くほど仲良しって感じじゃなかったけど、委員会活動とかで一緒になった時にちょくちょく喋ってて。

 で……ある日突然告白された、と。


 気を遣ってない感じが良いって思うような相手に好かれるというか……

 元々の、素の状態が好きって人が引き寄せられるっていうか……


 多分、こっちが緊張してたり身構えてたりすると……伝わっちゃうんだろうな、相手にも。




 あ、でもそう考えると……アウトオブ眼中って意味なら、冴桐から告白されてもおかしくないって理屈になるな。


(う〜ん……それは嫌)


 もちろん、考えるまでもなく即お断りだし……向こうも向こうで、あのいつもの態度からしてそれはないだろうけど。



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