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6-3.爺や絶賛暴走中

 


「……アイス、溶けてるよ?」


 再び口を開いた時のセリフはこれだった。


「えっ?」

「溶けてるってば、アイス」


 確かに奴の言う通り、アイスの形が丸っこく変化し始めていた。


(おっと)


 スプーンで掬ってみると、見た目以上にサラサラ。


「ほら。もうほぼ液体じゃないか、それ」

「ああ、ほんとだ……」


 質問の返事は……結局来なかった。


「早く食べた方がいい。掬えなくなる前に」

「……」


 なんか不完全燃焼だけど……とりあえず、食べてからにするか。


(なんだったんださっきの……)


 でも……やっぱり気になる。

 気もそぞろ、パフェの味なんて全く分からない。


 あれはつまり、どういう意味?

 他の人、しかも姫崎さん以外の……誰か。でもそんな人、いる?


(誰だ……?誰なんだ……?)


 まさか、ファンクラブの誰か……?


 いや、それっぽい雰囲気の人はいなかった。


 流石に私だってそこまで鈍感じゃない。しょっちゅう見てて(見せられてて)、気づいてないとかいないはず……ほんとに誰……







「食べ終わったみたいだし、そろそろ行こうか」

「えっ!」


 気づいたら空のグラスをぼーっと見つめていた。


 考えるのに夢中過ぎて、食べ終わった事すら気づいてなかった……


「まだ何かあるかい?」

「えっ……あ、いや……」

「なら、さっさと帰ろう。暗くなる前に」

「……」


 一応、その辺は気を遣ってくれてるのかな。

 勝負うんぬんはさておき、一人の女性として……


(そこはある意味流石ね)


「……じゃないと、誰かさんに警察呼ばれるからな」


 やっぱり前言撤回。

 さっさと帰ろう、こんな奴の相手なんかしてらんない。


「それじゃ、私はこの辺で」

「え?」

「何?」

「だ、だって……帰り道一緒だろ?」

「……えっ」


 え、マジ?コイツと家近いの?


「僕だって、別に一緒に帰りたくはないけど……どのみち一緒になるじゃないか」


(まじか……)


 奴と家が近いなんて、今この瞬間まで知らなかった。


 ゲーム内ならマップで表示されるのかもしれないけど、現実じゃ分かりようがない。


 そもそもマップに載ってたっけ、コイツの家なんて。

 このゲーム、攻略対象はあくまで女の子だし……ライバルの男の家なんか載ってなかった気がする。


「だからさ……送るよ」

「……」

「家まで、車で送る」

「車って……あの車?」


 例のあの黒い車?怖いおっさん付きの?


「ほら、来た来た。あれだ」


 こんな話になる事が予想されていたかのようなタイミングで、見覚えのある黒い車がこっちに向かってきて……そして、目の前に停まった。


「え?そりゃ、ありがたいけど……帰りまでアンタの顔見たくないんだけど?」

「やだなぁ、これも勝負の一環だよ。逃げるとは言わせないよ?」


 あ〜……そういうやつ……


「めんどくさ……いいよ、分かった。ここはありがたく乗せてもらうよ」







 そうしていざ乗ってみたら……

 今日は運転席にあのおっさん……いや違うな、よく見たらもうちょっとお年の……お爺さんかな?……が一人だけ。


 後部座席はすっからかん。私たちが乗るまで誰もいなかった。


(だから何って訳じゃないけど……)


「あの、」


 ここで急に運転席のお爺さんが振り向いて、奴に声をかけてきた。


「行き先はいかがしましょうか?ぼっちゃま」




 ぼwっwちwゃwまw




「ば……馬鹿!外でその呼び方するなってあれほど……!」


 めっちゃ焦ってらっしゃる。


 え……いつもそれで呼ばれてんのコイツ……?

 ぼっちゃまなの……?


(やばw草生えるw)


 震える唇をどうにか噛んで堪え……


「んふっw」


 きれなかった。


「ああもう!」

「も、申し訳ございませんぼっちゃ……じゃなかった、仲雄様!」


 それずるいって。笑うってそんなん。


「そ、それで……あの……いかがいたしましょう?」

「いかがも何も!さっさと家に帰るだけだ!」

「えっ、いいのですか?せっかくこの辺りまで来たのですし、夜景とか……」


 夜景……?


「お、お前……!」

「ほら……最後に少し綺麗な景色でも見て、こう……ロマンチックな感じに……」

「爺やは黙ってろ!」


 えええ……ひどい。


「も、申し訳ございません……!わたくしのご提案がお気に召さなかったようで……!」

「いいから、早く家に向かえ!」

「初めてのデートという事だったので、つい……!」

「もういい!お前はそれ以上喋るな!」


 爺や可哀想……


「で、では……まずは六浦様のお宅へ向かわせていただきます」


 お願いしま〜す。


「いいか、変な寄り道するんじゃないぞ」

「は、はい……!」


 爺や可哀想……(2回目)




「「「……」」」


 それから車内はずっと静かだった。


 奴はずっと無言で窓の外見てるし、爺やはこれまでの事があってか黙ったまま、私も特に用がないから何も言わず。


 そんななんとなく気まずい空気の中、流れていたラジオに集中する事数十分……いつの間にか見覚えのある家の前にいた。


「……六浦様、この辺でよろしいでしょうか?」

「あっはい、大丈夫です。ありがとうございました」




 そうして車から降りてドアを閉めた瞬間、不意に窓が開いた。

 それまで自分がいた後部座席の窓が。


(なによもう……)


 窓の向こうにいるのはもちろん、奴。


「なに?まだなんか言いたい事でも?」

「別れの挨拶は無しかい?」

「んなもん無い」


 そらそうだ。1秒でもいいから早くアンタから離れたいんです、こっちは。


「そうか」

「うん」

「まぁいい……それじゃ、僕はこれで失礼するよ」

「おうおう、帰れ帰れ」


 いいからとっとと視界から消えてくれ。


「あ、そうだ」

「まだ何か?」

「あのさ……」


 奴の頬がほんのり桃色になった。

 そんな事されたって、キモい事に変わりないんだけど。


「何よ?言えない事?」

「いや、その……」


 何かちょっと言いづらそうにあちこち視線をウロウロさせた後……


「……け、結局……今日の勝負、さ……」

「何よ」

「……好きに……なった?」

「それはない」


 即答。


(そこかよ……)


「そうか……今回の勝負は引き分けか……」

「ああ、その話?」

「だって今日の目的はそれじゃないか」

「引き分けっていうか、どちらかというと負けじゃない?」

「負け?」

「うん」

「負けって……誰が?」

「アンタが」

「え、僕?なんで?」

「だって、今日色々仕掛けてきたのそっちでしょ?惚れさせるとかいってさ」

「……」

「私はあくまでいつも通り、平常運転。別に最初からアンタを惚れさせるつもりはなかった」


 わざとらしい話し方になったのも、カフェのあ〜んの時も……どちらも動いたのは奴だけ。


 私はハナから頑張るつもりなんてなかった。

 ただ、奴の気が済むまでやらせて……でも、かといって惚れてやるつもりはないからある程度の冷静さは保ちつつ、結局最後は奴の負けか引き分けに持ち込むつもりだった。


 そして実際、そうなったって訳だ。


「なんだそれ、ずるいじゃないか。話が違う」

「ずるいも何も、最初からまともに勝負するつもりなんてなかったわ」

「勝負するって言ったじゃないか」

「勝負はするわ。でも、同じ土俵で戦う事はしない」

「……はぁ、やられた。張り切ってたのは僕だけって訳か」

「そういう事」


 今更気づいたか、ば〜かば〜か。


「そうか……」

「何がっかりしてんのさ」

「してない!……はぁ〜」


 思いっきりため息ついてんじゃん。

 思いっきり露骨に凹んでるじゃん。


「いや、だから無理なもんは無理だって。最初から分かり切ってた結果じゃん」

「……」

「無駄な事してるって気づかなかった?」

「はあぁ〜……」


 うわ。久々に出た、クソデカため息。




「坊ちゃま……!ああ、なんとおいたわしや……!」


(うわっ、爺や!?)


 急に運転席から声がしてびっくり。


「ああ……!やはり、あの後夜景を見るべきだった……!」

「お前は黙ってくれないか」

「ですが……」

「黙れ」


 爺や……


「しかし!こんなの、いくらなんでも悲し過ぎるではないですか……!」

「黙れって言ったの、聞こえなかったかい?」


 頑張れ爺や。強く生きて。




「まぁ仕方ない……結果は結果だ。でも、次は絶対に勝つからね」

「次なんてないよ」

「ある」

「ねぇよ」


 それはない。絶対ない。


「あああ……!やはりあの時、わたくしが無理にでもお連れしていれば……!」

「そろそろ本当に黙ってくれないか」

「やはり、無理矢理でも二人きりの時間を作るべきだった……!」


 お、おう……


「女性のハートを射止めるには、やはりそういった行動が必要不可欠……!おほんっ!」


「『わぁ、綺麗な夜景ね』『そうだね。でも……』」


 急に咳払いしたと思ったら、なんか始まった。


 爺や劇場開幕。

 裏声の女性役(私のつもり?)と渋い声のイケボ男性(奴のつもり?)の一人二役……ちょっと裏声の方がカスカスで苦しそうだけど。


「『でも?』『君の方がもっと綺麗だよ』『きゃっ❤︎』……ですとか!」


「『綺麗な夜景見れて嬉しいわ』『ああ、そうだな。だけど……』」


「『だけど?』『君と一緒の時間を過ごせたことの方がもっと嬉しいな』『もう❤︎』……だとか!」


「そういうの!!!そういうのですよ!!!」


「恋にはムードが必要なのです!やはりそういったロマンスがないと!」


「「……」」


 爺や絶賛暴走中。誰か止めて。


「ああ、なんなら豪華なディナーでもご用意して差し上げればよかった!」


「夕飯前には解散すると言われて正直に受け取ってしまった、過去の自分が憎い……!」


「絶好のチャンス……せっかくの二人きりのチャンスだったというのに……!わたくしはなんて事……!」


 いらないよ?二人きりとか拷問やめて?


「初めてのデート、しかもそれも勝負事になると伺って……正直わたくし、警戒しておりました……!一体どんな一日を過ごされるおつもりなのかと……!」


 それは私も思った。


「そして同時に、一体どんな輩が来るのかとハラハラしておりました……!」


「だが、そんな事はなかった!いや、冷静に考えたらありえない事……そもそもそんなおかしな女を連れてくる訳なんてなかった!」


(あっ、車が……)


 他の車が来そうな雰囲気だったけど……でも来なかった。セーフ。

 家の前そんなに道幅広くないし、他の車来たら退いてもらわなきゃと思って。


 ……っていうかまず大前提として、用が済んだらそろそろ帰って欲しいんですけど……


「しかし……感慨深いですな……」


 駄目だ、爺やの話がまだ終わりそうにない……




「こうしてそんな風に嘆く事ができるという事はつまり、ぼっちゃまも成長されたという事……」


 呼び名戻ってますよ〜。


「ああ、ぼっちゃまにもようやく春がきたのですね……!わたくし、とても感動しております……!」

「そんな言い方しなくてもいいだろ。別に……」

「だ、だって坊ちゃま……これまで同性相手にしか、そういうのがなかったじゃありませんか!」


 ん?同性がなんだって?


「ち、違う!誤解を招くような言い方やめろ!」

「いえ!わたくしは嘘なんてついておりませんぞ!」


 ほほぅ?


「幼稚園時代は、女の子と間違えられ告白され……!小学校に上がってもまた、勘違いでラブレターをもらい……!」


(ほう……)


「中学生になったら今度は、放課後にクラスメイトと二人きりになった時に突然抱きしめられ……!」

「やめろ!」

「ちょっ、待っ、えっ!?その話、詳しく……!?」「君も聞き出そうとするんじゃない!」

「これまでずっと、ぼっちゃまはそういった風変わりな恋ばかり……」

「おい!」


 風変わりな恋……つまり、Bの Lの事。

 うまい言い換えだ。機会があったら使いたい日本語。


 コミケもないようなこの世界で、そんな機会あるのか分かんないけど。


「それも一方的に想われるだけの、情熱に欠けるような恋ばかり……」

「おい、そろそろ本気で怒るぞ?いい加減にしないと……」

「そんな坊ちゃまにも、やっと春が……!」


 残念ながら、今の暴走モードのおっさんにはもはや何も聞こえないみたい。


 奴の怒りの声すら耳に通らないレベル。相当だ。




「今日一日、わたくしはずっとお二人の後を追いかけ、陰でずっと見守っておりました……!」


「建物や植木の影などに隠れながら、全部この目で観察させていただきましたよ……!」


 最初の方で奴が植木が動いたとか騒いでたけど、爺やだったんだあれ……


「坊ちゃまのあの嬉しそうなお顔、六浦様を愛おしそうに見つめるその眼差し……!これまでに見たことがあったでしょうか!?いや、無い!」


「家族の誰といる時でもした事がないその表情……!それはまさしく、恋をしている顔と言っ「それ以上変な事を言うな!」




「んんっ!」


 わざとらし。

 コイツ咳払い下手くそ過ぎん?どうでもいいけど。


「とにかく!もう、僕帰るから!じゃあな!」

「あ、うん」

「おや……?よろしいのですか?」

「いいからさっさと帰る!お前は後で説教だ、いいな!」

「ひぇ……」


 爺や可哀想……(3回目)


「それじゃ!……ほら、さっさと帰るぞ!」


 彼のその一言を最後に、車は猛スピードで去っていった。



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