6-2.はい、あ〜ん
あれからあっという間だった。本当に一瞬だった。
登校して、普通に授業して、家に帰って……を繰り返し、ふっと気がついた時には当日になっていた。
奴は相変わらずジロジロ見てきたけど、比較的大人しかった。
ファンの子達ときゃっきゃしてるのは正直目障りだったけど、それくらいだった。
姫崎さんがお昼にお弁当2個持ってどこかへ向かった時も、何があったんだか彼シャツならぬ彼ジャージしてた時も、奴は動かなかった。
誰かに牽制でもされているかのような大人しさ。
もしかしてあの後、姫崎さんが神山君になんか言ったのかもしれない。嫌がらせを受けたと。
あくまで冴桐はライバルキャラ、どうしたって主人公には勝てない。
きっと私が見てないところで何か色々あったのかもしれない。いいぞ、もっとやれ(๑•̀ㅂ•́)و
で、今は……奴とどのアトラクション乗ろうかって話しながら、遊園地の中を歩いてるところ。
少し心配だった、遊園地までの道のりはほとんど迷わなかった。
何よりこの辺りだと有名な遊園地らしくて、あちこちに看板とか案内板が出てて、ほとんど何も考えずそれに従うだけ……むしろ迷子になる方が難しいくらいだった。
「さてさて、どこから行こうか?」
「……」
「僕、実は遊園地に来るの初めてでね。映像でしか見た事なくて」
「……」
「どれから乗ろうか?絶叫系?それとも他の乗り物?」
めっちゃワクワクしてるやん。ノリノリやん。
「あ……お化け屋敷のところ、封鎖されてる。調整中だって……残念」
「……」
「できるなら全部乗りたいよな。せっかく来たんだから、完全制覇したい……」
「……」
「うわ!?今、そこの植木が動いたぞ!?そういう演出か!?」
「……」
「……いや、違った。気のせいだった……動いてなかった……」
「……」
「……どうしたんだい?さっきから黙って……」
いや、さ。
無邪気に目キラキラさせて、あなたは楽しそうだけど……
「はぁ……」
こっちは絶望よ。
嫌いな奴とデートとか、正気の沙汰じゃない……
「はぁ〜ぁ……」
時間経過でどんどんテンション上がってくるアイツに対してどんどんマイナスに……
「どうしたんだい?そんなにため息ついて」
「……」
「もしかして、緊張……してるのかな?」
一歩間違ったらおじさん構文だぞ、それ。
かな?じゃねぇよ。
「うん、じゃあ……まずあれに乗ろうか」
「乗りたきゃ勝手にどうぞ」
「え?やだなぁ、君も乗るんだよ?」
「え……」
「勝負するって言ってたよね?」
「……」
はいはい、乗りますよ。乗ればいいんでしょ、乗れば。
という訳で、まずはメリーゴーランド。
私のすぐ隣で上下に動く奴の顔。
メリーゴーランドのあの独特なリズムで。
見たくなくても、ちょこまか動くせいでつい視界に入る……ほんと最悪。
「あははっ、楽しいね⭐︎」
「わざとらし」
「そりゃあ、だって恋人同士っていう設定だからね」
「だからって、そんな空元気みたいな……」
「君を落とすためだからね⭐︎さぁそれより、楽しもうじゃないか⭐︎」
いやそれ本人に言う?
「では、気を取り直して……楽しいね⭐︎」
「◯す」
「も〜、そんな事言って⭐︎本当は楽しいんだろう?素直じゃないんだから⭐︎」
「SHINE⭐︎」
伏せ字にしてないけど、シャインなのでセーフ……だと思ってる。
シャインって何って?それは聞いちゃいけないよ。
「そんな事ばっかり言って……せっかく可愛いのに台無しだよ⭐︎」
「今すぐ爆ぜろ」
「全く恥ずかしがり屋さんだな〜⭐︎せっかく来たんだしほら、スマイルスマイル⭐︎」
「◯ね(にっこり)」
「うん、可愛い可愛い⭐︎」
駄目だコイツ、全然効いてない……
鋼のメンタルというか、なんというか……
次はコーヒーカップ。
「おらっ!◯ね◯ね◯ね◯ね◯ね◯ね◯ね◯ね!」
ギュルギュルと音を立てて爆速回転。
(そりゃあもう、今までの恨みつらみを込めて……!)
「あははっ、すごいパワーだね⭐︎」
「◯ね◯ね◯ね◯……おえっぷ……」
「あ……」
「……」
「休憩……しよっか」
「よ……よく平気だな、アンタ……おええ……」
「ハンドルずっと見てたらそりゃ酔うよ」
「ごめん、無理かも」
「えっ」
「で……出る……」
「出るって……?」
「うっ……」
「わあぁぁ!?待って待って!それはトイレに……!」
カップが止まるなり、奴が猛スピードで近くのトイレにぶち込んでくれたおかげで無事でした。
人間としての尊厳は守られた……多分。
今まで見たことないような緊迫した顔で、しかもすごい速さで動く冴桐……側から見たらなかなか面白い絵面だったと思う。じっくり見たかった。
そうして、落ち着いたところで最後。
帰る前に一旦休憩って事でカフェに入った。
この前に観覧車の側通ったんだけど……それはパス。全力で拒否して事なきを得た。
狭い空間でコイツと二人きりとか……想像だけでもほんと無理だから。
で、話を戻すと。
奴が頼んだのは紅茶のシフォンケーキ、私はチョコパフェ。
(うんま!)
疲れた時にはやっぱり糖分でしょ。
奴の相手でくたびれた心を、チョコレートの濃厚な甘みが癒してくれる……
「美味しいかい?」
せっかく美味しくてテンション上がったのに、一瞬で台無しになった瞬間だった。
「はぁ?何、いきなり?」
「美味しそうな顔してたから、美味しいのかなって⭐︎」
「……」
「せっかくだし、一口ずつ交換しようよ⭐︎」
「え、嫌」
「え〜。冷たいなぁ、もう⭐︎」
「そろそろやめたら?それ」
「ん?何がだい?」
「だから、わざとらしいんだって。見てて白々しい」
「……チッ」
チッって。チッってお前。
「はぁ……君、なかなか頑固だね」
急にいつもの感じに。切り替え早いな。
「なにがさ?」
「あれほどやっても自分の気持ちを認めようとしない、相当な頑固者……」
「え?認めてるよ、めっちゃ認めてる。コイツ絶対無理だわって」
「はあぁ〜……」
おい、ため息つきたいのはこっちなんですけど。
「はい、あ〜ん❤︎」
(うおっ!?何事!?)
急に甘い声が聞こえてきたと思ったら、すぐ隣の席でカップルがお互いに食べさせ合っていた。
そりゃそうだよね、遊園地だもんねここ。
自分らだって一応デートしに来てるんだしね。
(しっかし、すごいな……)
今更ながら辺りを見回すと……
カップル、カップル、そしてカップル……ここがおしゃれなカフェって事もあってか、周りはカップルだらけ。
家族連れもいるにはいるけど、ほとんどが若いカップルばかり。
(なかなかすごい所に来ちゃった……)
もしかしたら、結構有名なお店なのかもしれない。何も考えずに来ちゃったけど。
何も知らないで来てるような奴があんまり長居してても悪いし、食べたらさっさと出る事にしよう。
(……)
不意にここで、奴の食べかけのシフォンケーキが視界に入った。
見た目からしてしっとりふわふわで……しかも、その上に艶々のフルーツがたくさん乗ってて……
「……あげないよ?」
イラッ。
「べ、別に欲しいなんて言ってませんけど!?」
「あ、そう?」
「いらないし!」
「ふ〜ん?」
奴がここで一瞬ニヤリと笑った。なんか嫌な予感。
「もしかして……『あ〜ん』して欲しかった?」
「はぁ!?そんな訳ないでしょ!?たまたま視界に入っただけ!」
「ん〜?ならいいけど」
そうは言ったけど……
ああ……でも、美味しそうだな……
「仕方ないな……今回だけだよ?」
「えっ」
ふかふかのシフォンケーキの、その一口分がフォークで削り取られ……
「え?いや、いいよ。自分で食べなよ」
ふわふわの塊がゆっくりとこちらへ向かって……
「いいっていいって。私、チョコパフェ食べるから……」
「ほら、あ〜ん?」
「え、え、え……」
こちらに向かってきている一口分のシフォンケーキ……とそれを運ぶフォーク、さらにそれを支える程よく骨ばった指、そしてその向こうに端正な顔が……
「あ〜ん、して?」
絵に描いたような美青年が……こちらを向いて優しく微笑んでいる……
ときめかない女なんていないんじゃないかってくるいの、まるで王子様のような美しく柔らかい表情で……
(え、まさか……この時を狙ってたって事……?)
「ほら……」
「え、ちょっ、何言って……」
目の前の光景に、心拍数が勝手に上がっていく。
見えないけど……今多分、顔真っ赤だと思う。
でも、これはきっと奴の罠。こんな所でやられる訳にはいかない。
そう思って目を逸らすと……
「どうしたんだい?ほら……」
うっ、今度はイケボ……
いつもとちょっとトーンが違うあたり、『そういう時用の声』だ。
(これ……やっぱり罠だ……!)
狙われてる……!
狙って攻撃されてる……確実に落とそうとしてきてる……!
「ほっぺた、赤いよ?」
「ば、馬鹿!」
あ〜もう!そんなの言われたら、余計に赤くなるに決まってんじゃん!
(くっ!ま、負ける訳には……!)
「ほら……口、開けて?」
「……」
「ほらほら……」
「あ……あ〜ん……」
とうとう負けてしまった。
奴の甘い誘惑に負けて、口を開けてしまった。
(ぐぬぬ……!)
完全敗北だ……悔しい。
悔しいけど、本当に負けた。大嫌いなはずなのに、雰囲気に飲まれてついドキドキして、挙げ句の果てにあ〜んとか……
信じたくないけど、でも完敗だ……負けた……
でも、その次の瞬間……ヒュッと勢いよくフォークが引っ込んでいって……
「あ!」
パクッと奴の口の中へ。
「あ、あ、あ〜!」
絶望顔の私をニヤニヤ見ながら、もぐもぐと美味しそうに……
さっきまでの美青年はいつの間にか消え……いつもの腹立つ顔した男がそこにいたのだった。
「ん、美味しい❤︎」
(はぁ!!!???)
な〜にが『ん、美味しい❤︎』だ!
女子みたいなリアクションしやがって!
「よくも……!からかったな……!」
「からかってなんかいないさ、君が勝手に勘違いしただけだよ」
「人の口開けさせといて、何を言うか!」
「『あ〜ん』がしたかったんだろう?だからやってあげたじゃないか?」
「して欲しいなんて言ってない!それに、人の口の前まで持ってきてといて自分で食べるか普通!?」
「美味しかったからさ、君によく見せてあげたかっただけだよ」
よく言う……
「すまないがこれは僕の好物なんでね。見せてあげるのはいいけど、あげられないよ」
「別にいらないし!」
周りは恋人同士で仲良く食べさせ合い。
こっちは、嫌いな相手同士でいがみ合い。
(何してんだか……)
周りのラブラブムードも相まって、なかなか虚しいものがある……
「はぁ〜……アンタさ、他の女の子にもこんな事してるの?」
「え、まさか。君相手にしかやらないよ」
おい!
「姫崎さんは?」
「そりゃ当然こんな事しないよ。真面目にやるさ、君とは違うからね」
うん、知ってた。一周回って清々しい。
(ん?)
ここでふと、とある疑問が湧いてきた。
あ〜……いいや、聞いちゃお。
こんな奴のために悩むのも馬鹿馬鹿しい。
「……ねぇ」
「なんだい?」
「そういえばさ……姫崎さんに告白、するの?」
「え……?まぁ……うん」
奴が告白するしないなんて、何でそんな事気してるのかって?
いや、別に真面目な話でも何でもない。単純な興味だ。
このゲーム、最後は卒業式の後に主人公が告白して終わるんだけど……よく考えたら、ライバル達のそういうのってないなって思って。
告白はするつもりだったけど主人公に先越されたのか、あるいは雰囲気を察して自ら退いてるのか……ちょっとだけ興味があった。
今さっき姫崎さんの事本気で考えてるっぽい事言ってたから、奴の場合どうするんだろうって。
コイツの性格上、自分から退くとは思えないんだけど……どうなんだろ?
「そんな事聞いて……どうするんだい?」
「どうもしないよ。なんとなく聞いただけ」
「君の方こそ、誰か好きな人は……あっそうかごめん、僕だったね」
「聞いといて勝手に決めるな!あと好きじゃないから!」
「ふふっ、照れちゃった?」
(イラッ)
調子狂うわ〜。
「……っていうか、話逸らさないでよ。私の質問の答えは?」
「質問……?なんだっけ?」
え……まさか忘れたの?さっきまでの会話。
「惚けないでよ、『告白するのか』って話」
「告白……?」
「うん。卒業までにいつか、するのかって」
「『告白』は……する、かな」
「え、相手は姫崎さんじゃないって事?」
まさか……他にいるって事?
他に誰か、隠された大本命が……
「え、それってつまり……」
「お冷のおかわり、いかがですか?」
おっと、ここで店員さんが。
「いえ、僕は大丈夫……君は?」
「私もまだ大丈夫」
たった数秒だったけど……おかげで、会話が変に途切れてしまった。
「あ、えっと……」
「……」
「まぁ……いいや。それより、いつ告白するの?卒業式?」
「……」
いつもみたくうざい笑顔で、『そうだよ!卒業式の後告白するんだ!まぁ告白する前から結果は決まってるけどね!』みたいな腹立つ回答が来ると思いきや……何も言わずスッと下を向いてしまった。
なんか予想外のリアクションだった。
「え……え……違うの?」
「……」
「卒業式、じゃなかった……とか……?」
何やら神妙な顔でテーブルを凝視している。無言で。
もちろん食べかけを落としたとかそういうのじゃなくて……何か悩んでる様子。
(いや、悩むんかい)
まさかここで悩まれるとは思わなかった。即答だとばかり思ってた。
卒業式じゃなかったにしても、それはそれですぐ答えただろうしな……
人によっちゃ、恥ずかしいとかで言いたくなくて黙るってパターンもあるけど、それはコイツの場合考えられないし。
むしろ自分からどんどん言っちゃうタイプ。
何かわざと、最高に嫌味ったらしい言い方でも考えてるのか……あるいは……




