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6-1.嫌いな奴とデートとか斬新すぎる

 


「や、やめてください……!」


 またまた次の朝。

 登校して教室の前に着くなりこれだった。




「少しくらい、いいじゃないか?ちょっとだけ話を……」

「わ、私……ちょっと用事が……」


 ねっとりしててイラッと来る声と、鼻にかかったちょっと甘くて可愛い声。


「用事?もうすぐ授業始まるっていうのにかい?」

「そ、それは……ちょっと……今すぐ行かなきゃいけなくて……」




 扉を開けて中に入ると、そこには思ってた通りの光景があった。

 何一つびっくりしない。ああやっぱりって感じの。


「ごめんなさい、私……本当にそろそろ……」

「待ってくれよ。どこへ行くって言うんだい?」


 急いでどこかへ行こうとする女子と、そこに話しかけて邪魔する男。


(もう退院したのかアイツ……)


「だって、一限はこの教室だろう?」

「その……ええっと……」


 どうやら怪我は治ったっぽいけど、思考回路までは治らなかったらしい。残念ながら。


(頭も治してもらえばよかったのに……いや無理か)


 姫崎さんは多分この後何か主人公とのイベントがあるんだろう。

 だから急いで向かってる。


 ……んだけど、奴はそれをシナリオ通り邪魔してると。

 ある意味自分の仕事を全うしてるとも言えるけど……やってる事がなぁ。


 好きな女の子と主人公が会うのを阻止したいからって、ひたすら話しかけて引き止めるとか……どんだけ必死なのさ。

 気持ち悪い通り越して……もう、なんか可哀想。


 姫崎さんも姫崎さんで……可哀想に、こんな朝っぱらからウザ絡みされて……


(あ!もしかしてここで助けに……!?)


 辺りを見回してみたけど、主人公の姿は見つからず。


 お〜い、主人公!好きな子のピンチだぞ!

 こういう時に駆けつけてなんぼじゃないのか!


 今こそ好感度爆上げの良いチャンスだぞ!お〜い!


(駄目だ、来そうにない……!仕方ない、ここは私が……!)




「ちょっと!姫崎さん困ってるでしょ!」

「おや?誰かと思えば、君か」

「退院したと思ったら、またそんなしょうもない事する!」

「しょうもないとは心外だな。ただ楽しく喋っているだけだというのに」

「どの口が言うか!行く手を遮ってまで話しかけるか普通!」

「分かった分かった、そう興奮するなって……」


 やれやれみたいな態度が余計に腹立つのよな。


「それなら、勝負しようじゃないか」

「は?勝負?」

「そうさ。君が勝ったら僕は退く、君が負けたらこのまま」


 退くって。いやいやいや。


 やっぱり嫌がらせしてる自覚あったんだ……余計にひどい。


「どうだい?この話」

「いいよ……その勝負、受けて立つ」


 ワンチャン、リアルファイトで永遠に黙らせるまである。

 武道とかなんにも習ってないけど、相手はなにせ治りたてホヤホヤ(?)だし……


 あ、でもそしたら警察のお世話になっちゃうか。

 そりゃまずいな。


(せっかくの良いチャンスだけど……残念……)




「で、具体的には?なんの勝負?」

「う〜ん、そうだなぁ……」


 いや、今から考えるんかい。ノープランかよ。


「あ、良い事を思いついた」


 うわ。良い事ってわざわざ口に出して言うって事はつまり、大体の場合こちらにとって悪い事な訳で。


(うげ……勘弁してよ)


「今週の日曜日、空いてるかい?」

「日曜?」

「うん」

「ああ、うん……まぁ……」

「そうか。なら……僕と一日デートしてほしい」


 は?


「ん?聞こえなかったかい?」


 違うって、アンタが何言ってるか分かんなさ過ぎて困ってるんだって。


 姫崎さんだってほら、フリーズしちゃってる。




「デートだよ、デート」

「でぇとぉ!?アンタと!?」

「そう」

「付き合ってもいないのに!?」

「別に付き合ってなくともデートはデートだろう?」


 そりゃそうだけど。

 そうだけど、そうじゃない。


「恋人同士という設定で一日過ごすんだ。それで、うっかり本当に惚れた方が負けさ」

「はぁ!?」


 なにそれ。ガチで意味分からん。


「どうだい?やるかい?」

「……」

「日本語、通じたかな?」

「うるさいな!意味不明な事言われて呆れてるだけ!」

「意味不明?」

「惚れた方が負けって……そんなバラエティ番組みたいな……」

「そうなのかい?僕はあんまりテレビを見ないからな」


 バナナの皮といい、今のといい……芸人目指してるのかなこの人。

 もはやそうにしか見えなくなってきた。


「え、で……そんなので丸一日……アンタと……?」

「ああ」

「え……」

「どうかな?悪い話じゃないと思うんだけど?」


 普通に悪いわ!最悪だわ!


 嫌な奴と一日一緒、しかも恋人同士のフリとか余計なオプション付きで……!


(じ、地獄……!)




「嫌かい?なら、仕方ないな……」


 そう言ってまた姫崎さんの方を向く冴桐。


「という事で姫崎さん。話は戻るけど、僕と……」

「え……」

「少しくらいいいだろう?」


 当たり前のようにウザ絡み再開。

 これじゃあ制止かけたのがまるで無意味……


「で、でも私……あの……急いでて……」


 そう言って後退りする姫崎さん。よくよく見たら手に救急箱を下げていた。

 急いでる感じからして、主人公が怪我したのかもしれない。


(なるほどな……それで助けに来れない訳か)


「わ、私……本当に急いでるんです……どうか……」

「そんな、逃げないでくれよ。それだと僕が危ない男みたいじゃないか」


『みたい』じゃなくて、危ない男なんだってアンタは。


「でも、その……」

「ちょっと喋るだけだからさ……ほら……」


 まずい。このままだと姫崎さんが……




「わ……分かった!私、アンタとデートする!」

「おや?嫌なんじゃなかった?」

「いい!この際いいから!その代わり、姫崎さんを引き止めるのをやめて!」

「いいよ」


 もう少し抵抗するかと思いきや、案外あっさり。


「六浦さん……!」

「姫崎さん、急いでるんでしょ?行って!」


 早く逃げて。この場にいたら何されるか分かんないから。


 奴と私だけで揉めてるならまだしも……他の、それも無関係でまともな人まで巻き込む訳にはいかない。


「六浦さん……でも……」

「私は大丈夫!行って行って!」


 なんだかまるで化け物退治でもしてるかのようなセリフだ。

 ここは私が食い止める!君は先へ進め!みたいな。


(いや……実際化け物みたいなもんだし、合ってるか)


 ……とかなんとか変な妄想しながら、姫崎さんの姿が完全に見えなくなるまで見送った。

 奴が変な動きしないか監視しながら。


 一ミリでも追いかける素振りを見せようものなら体当たりでもして全力で止めるつもりだったけど、無事杞憂で終わった。







「ふふっ。なんだか正義のヒーローみたいだね」


 さっきからなんか黙ってるなぁと思ったらそれ。


 っていうか、お前もか。

 同じような事考えてたみたいで、なんか嫌な気分……


「悪い?」

「いや。結構正義感強いタイプなんだね、見直したよ」

「気持ち悪っ」

「せっかく褒めてるというのに、ひどい言いようだな」


 言い方が気持ち悪いんです!アナタは!




「それで、デートの話なんだけど……」

「それさ……私の事男みたいだなんだ散々言っといて、デートする気?」

「あれは……そうだね、正直すまなかった。撤回するよ」


 ここで急にトーンダウン。

 眉を下げてなんだか申し訳なさそうな顔。


「あ……うん」


 次の反論をしようとして勢いよく口開けたけど、なんだか肩透かしというか……空かされてしまった。


 もっと嫌味ったらしい事言ってくるかと思ってたから……


「君……一応女だったんだな」

「ま……まぁ……うん……」


 なんか変な感じになった。

 こう来るとは微塵も思ってなくって。


「すまなかった」

「……」


 どんな風の吹き回しだか知らないけど、ようやくお分かりになったようで。


 一応の部分がちょっと気になるけど……とりあえずはいいや。




「ふん、何を今更。遅いくらいよ」


 本当はもっと別の事が頭に浮かんでたんだけど……

 恥ずかしくて、つい……口が勝手に……


「そうだな、なんで今まで気づかなかったんだろうな僕は。男よりよっぽど気性が荒くて口が悪いというのに」

「はぁ!?」

「とてもじゃないが同性には見えない」

「え、それ……さっき言ったのって……」

「消去法だよ、消去法」

「はぁ〜!?」

「男でこんな奴、いる訳がない。いやぁ、勘違いしてたよ……僕としたところが」


 はぁ〜!?何それ!?


 あたかも正論言ったみたいにドヤ顔してるけどそれ……女がどうこうっていうより、男以下って言いたい訳でしょつまり!


 理解してもらえたどころか、余計に悪化してる……!


(ほんとにコイツは……!)




「で、ともかく……当日まず君の家に寄って、車に乗っけていけばいいかな?」

「は!?現地集合でしょ!」

「え?道は分かるのかい?」

「知らないから、後で誰かに聞く!」


 遊園地なら、きっとクラスの誰かしら知ってるでしょ。


「けど、電車で行くとしてもそんなに駅は近くなかったはず……」

「どのくらい?だってほら、電車で来る人だっているでしょ普通」

「う〜ん……20分くらい?」

「それなら送迎バスとか出てるでしょ、流石に」

「バス……?」


 そんなの想像もつかなかった、みたいな顔。

 はいはい、そうですよ。どうせ庶民の乗り物ですよ。


「車でも結構かかるのに、どうしてそこまでするんだい?」

「え?」

「だって、大変じゃないか。一緒に行けば楽なのに……」


(違うわい!一緒だから嫌なんだよ!)


 車って、つまりあの黒い高級車でしょ!

 確かにその方が座り心地とか良くて、長時間の移動にはいいのかもしれないけど!


 少しでもアンタと一緒にいる時間を縮めたいんです!こっちは!


「いや、無理強いはしないけど……ほんとにいいのかい?」

「だからいいってば!遊園地の入り口の辺りに集合!」

「……いいの?」

「はい決定!はい、じゃあね!」

「で、でも……僕としては……」


 なんかまだウダウダ言ってたけど、時間の無駄だと思って。

 さっさとその場を後にした。



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