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「来たね」

「お前が来いって言ったからな」


俺は言いつけを守り、プリンの指定した屋上に参じた。

教員の目を盗んで、普段は入れない屋上まで辿り着くと、金属製の扉を一息に開く。

すると、だだっ広い屋上の隅で仰向けに寝転がっている元天使サマがいらっしゃったのだった。


「いやぁキモチいいな。やっぱりこの季節はモコモコのコート着て、寒い外で転がるに限るね」

「スゴい趣向だな」


今の季節は十二月。

ただでさえ吐く息の白い屋外で、冷気に晒されたコンクリートに寝転がるなんて正気の沙汰では無いーーーイヤ、そもそもコイツは正気では無かったのだった。


「オイ、寒いから早く本題を聞かせろよ」

「ありゃりゃ?昼休みとは違って、何だか態度が変わったね?どうしたのサ」

「お前が授業中に、俺のブリーフパンツを脱がせて、宙に浮かせたからだろが!!!」


そう、俺はコイツが天使サマであると信じるしか無くなった。何故なら、コイツの持つ天使力とかいう能力的なヤツで、授業中に辱めを受けたからだ。


「だってェ〜? 田中がァ〜? 全然信じてくれないからァ......?」

「その喋り方止めろぉ!ムカツクから!」

「もぅっ......ツレないんだから。パンツ見せ合った仲じゃないかボクたち」

「お前が一方的に見ただけだろ!」


くっ......コイツと一緒にいるとペースを乱される。は、早く本題本題ホンダイ!

俺は、プリンに近づいて早口でこう言った。


「ハイ余興オワリ! で? 隕石、食い止める方法は?」


プリンも嬉しそうに応じる。


「ふっふっふ......信じてくれるんだねーーーズバリ!あと一時間もすれば降ってくる隕石を止めるための方法は......」


ごくり、と生唾を飲み込んだのは俺だ。


「ボクをーーー隕石にブツけるんだ」


低い、そして余りに苦しそうな声が響いた。


「......え?お、お前を......?」

「そうーーーボクの天使力を纏ったおパンツをあの隕石にブツけて痛い痛いイタぁぁい!」

「お前ぇ!一瞬でもウルった俺の涙腺を返せよ!」

「あ、頭グリグリすんのやめろ!うあぁあああぁっ!」




そこからは実に簡単だった。

天使スペシャル道具とかいう都合のイイアイテムが、プリンの通学カバンから出てきた。道具の名前は《カタパルト式パンツ砲》。


「ホントにパンツ撃ち出すのかよ」

「そうだよ。天使の持つ天使力はね? パンツに集まるんだよォ」

「もう何もツッコまないからな」


プリンは、続けてこう言った。


「この《カタパルト》ーーー発射には、人間のある言葉が必要なんだ。天使語で《今、撃ち出せ》って意味なんだけどね、日本語での発音はーーー」


《プリンたんのコト、だーいちゅき》


「そんなの言えるワケねーだろ!俺は帰らせてもらう」

「待ってよ!地球が粉々になってもイイの?ねえ。ねえ。ねえ」

「《ねえ》の度に顔を十センチずつ近づけてくるの止めろ!あと一回ねえって言ってたらキスしちゃうところだったぞ」

「ご心配なく。天使と人間がキスしたら、人間は天使の柔らかい唇の情報を処理しきれずに脳が爆発してしまうから」

「うッわ!!!コワ!」

「嘘だよんワッハッハ」

「もう何もツッコまねぇ」



それから俺たちは《カタパルト》を設置すると、その上部にあった《パンツ装填口》にプリンのパンツを詰めた。


上空には、真っ赤なデカい隕石が確かに見える。もう十五分もすれば、この街へ落下してくるだろう。

夢の溢れた、この街を守るんだ。

俺は口をあんぐり開けてこう叫んだ。


「プリンたんのこと、だーいちゅき!」


しーん。

渾身の俺の叫びは、ただ冬の冷たい空気をやや震わせただけだった。


「......オイまさかこれも嘘なんじゃねぇよな?」

「違うよ、ボクへの愛が全然足りないんだよ。見てここ!《プリンたんへの愛 十五パーセント》って書いてある。もっとボクへの愛を叫んで」


無理だと思った。

コイツとは今日会ったばかりだと言うのに、どうすれば愛を叫べるんだ。


「ホラ、手ぇ握っててあげるからボクに叫んでみてよ......?」

「は?はぁ?」


翡翠色をした髪がさらりと揺れ、雪のように白い手が俺の右手を握った。さらに、俺の目を見つめてくる。


「ほら......愛、叫べそ......?」

「うっ......」


クソっ......なんでドキドキしなくちゃいけないんだコイツにっ......!


「ホラ、時間ないよせーの!」

「クソぉぉっ!!! プ、プリンたんだーいしゅき!」

「イヤ、プリンたん《のこと》だーいしゅき!だよ!二度と間違えんなコラ!」

「怖!何この人!」

「ボクは人じゃないよ?」

「イヤ今のは比喩的なことであって......」

「ウーン......何ならキスでもすれば《プリンたんへの愛ゲージ》上がるかも......」

「イヤそんなことしたら俺の脳が情報を処理しきれずに爆発しちゃうだろ」

「アレは嘘だってば」

「そうだった」


クソ、こんな茶番早く終わらせてやる!

俺は目の前にいる、人か天使か元天使の少女を見つめた。


さっき手を握られた時にうっかり感じた《ドキドキ》を、言葉に込めろ。俺ならできる!


「プ、ププ......プリンたんのこと、だーいしゅきぃぃぃ!!!」

「ブフーーーッッッ!!!」

「お、おい何笑ってやが......!?」


ツッコむべく、プリンの顔を見て真っ先に気づいた。

ーーープリンが。


「ありゃ、透明になってるね」

「ありゃじゃねえだろ!どうなってんだよそれ!?」

「まあ、当然の帰結とも言えるね。ボクは元々、隕石着弾地点の計算をミスって堕天させられたんだしネ。こうして役目を果たせばーーー」


《消える》のも当然だよね。


「ま、待てよ。そんなの俺が許さねえぞ。アレだけ愛を叫ばせといて......俺のちょっとしたドキドキはどうなるんだよプリン!」

「えへ......初めて、名前呼んでくれたね......」

「オイ映画のラストシーンみたいなセリフやめろ!」

「サヨナラ......」

「まっ......待てプリン!」


プリンが別れを告げたと同時に、プリンのパンツを乗せた隕石破壊装置《カタパルト式パンツ砲》は、天使力をエネルギーに変えて人間には辿り着けない高出力エネルギー波を撃ち出した。


その軌道は、隕石をただ真っ直ぐに貫いてーーーやがて消えた。

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