表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/17

序章 黄金の夢

 その夜、私は夢を見た。

 黄金の稲穂が揺れる。辺り一面、黄金の絨毯。そんな息を呑むほど美しい風景の中で――。


 ――()は泣いていた。


 誰にも見つかりたくない。

 誰にも見つけてほしくない。

 こんな出来損ないの()を。


 しかし()の願いは通じず。黄金の波をかき分けて一人の青年が現れた。


 黒い髪、黒い瞳。麻で作られた服を纏った青年。

 今時、田舎者でもこんな格好はしない。なんとも時代錯誤な服装。

 私はこの人を知っている。だけど()は知らない。

 

「だれ!?」


 ()は涙を拭うとキッと青年を睨みつけた。

 しかし青年は特に気分を害した様子もなく、優しげな笑みを浮かべる。


「俺は██。ただの██だ」


 彼はゆっくりとしゃがみ込み、うずくまっている()に目線を合わせてきた。

 怖がらせないようにしてくれている。私は彼の気遣いを感じ取った。

 彼はそういう人物だ。


「キミは?」


 彼は爽やかな笑みを浮かべ、問い掛けてきた。

 そんな優しい顔を見ても、()の涙は止まらない。

 すると彼は困ったように眉をへの字に曲げると、隣に座り込んだ。

 ()は鬱陶しいとばかりに距離をとる。

 彼はそんな()の対応に苦笑したが、そのまま居続けた。居続けてくれた。

 何を話すでもなく、()が落ち着くまで居てくれた。


 私が泣いてしまったときと同じように。

 

 やがて日が落ちて辺りを闇が覆う。そこで彼は立ち上がった。


「そろそろここも危ない。最前線じゃなくても()()()()はどこからともなく湧くから」


 彼は()に手を差し伸べる。

 私にはなんのことかがわからない。だけど()には彼の言葉が正論だとわかっていた。

 既に涙は止まっている。鬱陶しいという気持ちも消えている。

 だから()は彼の手を取った。すると彼は柔らかに微笑む。


「じゃあ行こうか」

 

 ()は引かれるようにして立ち上がった。


 

 

 目が覚めると、そこは自室だった。

 目覚ましはまだ鳴っていない。暗くて時間はわからないが、今はそれどころではなかった。


「なに……いまの……?」


 胸が締め付けられる様に苦しい。

 ()()()のように意図せず涙が溢れ出す。

 

「あんな話を聞いたから?」


 私に似ている誰かの話。

 刀至くんから聞いたことで感化されてしまったのだろうか。

 自問自答するが答えは出ない。


 ……でも、夢にしてはやけに現実性(リアリティ)が……。


 こんな夢は初めてだった。他の夢とは何かが違う。

 しかし時間が経つにつれ、その現実性(リアリティ)が薄れていく。


「言わないと……」


 焦燥感が込み上げてきて私はベッドから抜け出した。

 駆け足で襖へと向かう。

 しかし引き手に指を掛けたところで私の足は止まってしまった。


 ……なんて言えばいいんだろう?


 先ほど感じていた現実性(リアリティ)は既に消え、今はただの夢だったのではないかと思いつつある。

 焦燥感も既にない。


 私は一度大きく深呼吸をし、窓辺のカーテンを開けた。東の空は明るくなりつつある。


 ……一旦落ち着きましょう。


 あれがただの夢でないのなら、また見ることになるだろう。

 流石に同じ夢を二回も見たら偶然とは思えない。


 ……言うのはそれからですね。

 

 目覚ましが鳴るまであと一時間。

 だけどもう一度寝れる気はしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ