五章 三日目
翌日、目を覚ますと東の水平線には既に太陽が顔を出していた。時計を見ると時刻は六時半。いつも起きる時間からはだいぶ遅い。
「ふぁ〜」
大きく欠伸をして伸びをする。そして一息。
「ふぅ……。……あんまり寝た気がしないな」
結局、真白と話した後はあまり眠れなかった。
昨日の話はいくら考えても答えの出ない問題だ。それはわかっている。なのに一晩中、頭の中で思考がぐるぐると回っていた。
……まさか真白も……。
同じ夢を見るなんて思ってもいなかった。
だからこそ、あまりにも現実味がない。まるで漫画や小説、創作の中の出来事のように感じる。
しかしこれは紛れもなく現実だ。
……ともあれ、これは偶然か?
前世?で出会っていた二人が、今世で再び巡り会う。
創作ではありふれた話だが、現実ではそうじゃない。前世があることを前提に考えても再び同じ時代に生まれ、再び巡り合う確率は限りなく零に近いだろう。
「……作為的なモノを感じざるを得ない……か。一体俺は何者なんだ?」
自問自答するが、やはり答えは出ない。
自分は何者か。
この答えを知るには失った記憶を取り戻す必要がある。
だけど現状、思い出すのは神代の記憶だけ。
生まれてから岩戸で目覚める間の空白期間の出来事は何一つ覚えていない。
……もしかしたら神代の記憶と関係しているのか?
……いや、ないか。
ふっと浮かんだ疑問を即座に否定する。
神代の記憶は少なく見積もっても今から数千年も昔の話。師匠や超越者ならまだしも、ただの人間だった俺がそんな昔から生きているはずがない。
前世の記憶と今世の記憶障害は別問題と考えたほうが自然なことのように思える。
「……はぁ」
昨夜と同じだ。
考えれば考えるほど思考がドツボにハマっていく。
「……っと。そろそろ支度しないと、か」
再び時計を確認すると、時刻は六時四十分。今日の集合時間は七時なため、そこまで余裕はない。
俺はベッドから出るといつものように身体の調子を確かめていく。
「……問題ないな」
あまり眠れなかったため、寝不足といえば寝不足だ。
だけど半神の身体は数日程度なら寝ずに行動できる。
考えたように身体は動くし、思考と感覚には少しの誤差もない。
全く問題はなく、万全の状態だ。
「まずは目の前の調査をしっかりと……だな」
記憶のこと、前世のこと、真白のこと、あの子のこと。考えなければならないことは山積みだ。
しかしそれは目の前にある御霊島の調査を疎かにしていい理由にはならない。
死の気配がある以上、御霊島は死地だ。
今のところ何も起きていないが、一時の気の緩みが生死に直結する。
……それに、このまま何事もなく終われるなんて思ってない。
そんな直感があった。
あれだけの気配があって「何も起こりませんでした」なんてことはあり得ない。
だからこそ、何が起きてもいいように警戒を続ける。
おそらくそれは死の気配を感じ取れる俺にしかできない役割だ。
きっと俺以外はそろそろ緩み始める。それだけ慣れというものは恐ろしい。
「……行くか」
俺は立ち上がり、ベッド脇に置いてあった二振りの愛刀に手を伸ばす。しかし途中でその手を止めた。
「白帝、虚皇」
代わりに銘を呼ぶ。
銀光と漆黒の光が溢れ、姿を現すは二振りの魔剣。
昨日、一昨日は念のため持って行っていたが、ここから先、何かが起こるのであればただの刀でしかない愛刀では荷が重い。邪魔になる可能性すらある。
俺はそう確信していた。
「さて! 今日も張り切っていきますか!」
御霊島に上陸し、初日に発見した柱へと辿り着くと颯斗が声を上げた。
「元気だね……。颯斗」
「本当だよ……」
対する智琉と天音さんは三日目とのこともあり、表情に疲労が見える。
……まあそりゃそうか。
昨日、一昨日と俺たちは二日間、無人島を歩き回った。いくら魔術師と言えど俺以外は普通の人間、それも学生だ。
身体強化を使って負担を和らげているとはいえ、疲労が蓄積されているのは当然。
おかしいのは俺だ。
……ここら辺は注意しとかないとだな。
俺が問題ないからと言って仲間たちも問題ないわけではない。俺の感覚で動いていたら、他のみんなは動けなくなってしまう。
改めて考えてみれば当然のことだ。
だけど霊峰富士では常に一人だったため、そこまで気が回っていなかった。
その点は反省だ。
「明日は白河さんに頼んで休暇にしてもらおう。流石に連日歩き詰めだとキツイだろ」
理由を言えば許可されるはずだ。
調査日程が延びることになるのは授業の遅れという意味で非常にマズイが、身の安全には変えられない。
「そうだね。そうして貰えると助かるよ」
「オレはまだまだ行けるけどな!」
「勘弁してくれ……」
「わたしも……それはちょっと……」
智琉と天音さん頬を引き攣らせながら苦笑していた。
……真白は……。
隣にいる真白に視線を向ける。
見たところ顔色は悪くない。昨日みたいに欠伸をしているといったこともなく、体調は良さそうだ。
俺と同じで眠れていなかったらと少し心配だったが、どうやら杞憂だったらしい。
俺の視線に気付いたらしく、真白と目が合った。
「……あっ」
しかしすいっと視線を逸らされる。
「……ん? 真白?」
「えっと……あの……ごめんなさい。なんでもありません」
「……?」
どことなく顔が赤い……気がする。
さっきはなんともなかったのに何故だろうか。
「まあいいけど、昨日はよく眠れた?」
「……は、はい。眠れました。小夜さんのおかげです」
「天音さんのおかげ……?」
疑問に思っていると、天音さんがおずおずと手を挙げる。
「それはわたしが……その……ちょっと怖くなっちゃって真白ちゃんのお部屋にお邪魔させてもらっちゃいました」
「私も小夜さんが居て助かりました。色々と考えてしまいそうでしたので……」
最後の方は俺にしか聞こえないような小声だった。
「真白ちゃん……。そんなに露骨だとバレちゃいますよ?」
「いや、ですからそういうのでは……。変に意識させないでください……!」
なんて二人だけで小さくやり取りをしていたが、半神の耳にはしっかりと届いていた。
聞いてはいけないような話な気がしてとても気まずい。
なるべく意識しないように視線を逸らす。
ともあれ天音さんのおかげで余計なことは考えずに眠れたようだ。
天音さんに関しては昨日の遺跡で感じた恐怖が尾を引いていたのだろう。
昔、岩戸に居た頃。
夏のホラー特番を見た咲希たち女の子組が眠れなくなり、俺と和樹の部屋に忍び込んできたことがあった。
本人たち曰く、怖かったらしい。きっとアレと似たようなものだ。
……とはいえ真白ちゃんと小夜さん、か。
どうやら二人は名前で呼び合う仲になったらしい。距離が縮まったようで何よりだ。
智琉と颯斗も気付き、二人して柔らかい笑みを浮かべていた。
「よし! それじゃあ刀至。今日は柱を探す、でいいのかな?」
「ああ。それで問題ない」
今日の俺たちの任務は柱の座標記録だ。
昨日白河さんとの話に挙がっていた通り、柱を探せるだけ探し出し、その座標を端末で記録する。
この記録は白河さんたち研究者とリアルタイムで共有されているらしい。
通信がどうとか説明されたが、そこら辺はよくわからなかった。
「なら刀至の感覚が頼りだね」
「ああ。だけど大体アタリは付けてある」
「アタリ……ですか?」
真白の問いに俺は頷く。
「ああ。多分昨日の感覚だと、あの遺跡を中心にして円形に並んでる……と思う」
すでに発見している二つの柱。そして死の気配の変動。そこから導き出される予想がソレだ。
「円形……。意味ありげな配置だね。概念的な結界かな?」
「そうですね……。ナニカから守っているのか。それともナニカを封じているのか」
「あるいはそのどちらも……、だな」
神妙に頷く颯斗。その言葉に俺以外の全員が頷いた。すこしだけ疎外感を感じる。
「概念的な結界ってのは普通の結界とは違うのか?」
「刀至くんは知らなくて当然ですね。これも現代では解明できていない技術なのですが……」
そう前置きしながら真白が説明してくれた。
どうやら古い時代、それこそ神代では祭具や魔導具の配置によって魔術やそれに類する現象を引き起こしていたらしい。
各地にそういった痕跡が残されているのだとか。
しかし実際にどうやって魔術や現象を引き起こしていたのかはわかっていない。
それが概念的な結界。
実際に効果は定かではないが、概念的には存在する結界。というわけだ。
「あれだね。現代だと風水に近いかな」
そう言って真白の話を智琉がまとめた。
「なるほど風水か。聞いたことあるな」
岩戸に居た頃にテレビ番組で見たことがある。
たしか風水特集と銘打って放送されていた番組だ。影響を受けた年下の男の子が「玄関に鏡を置いたらいけないんだよ」と騒いでいたのを思い出す。
……結局先生には正面に置かなきゃ大丈夫って言われてたな。
それを聞いた咲希たち女の子組がケラケラと笑っていたんだったか。当然男の子はむくれていた。
今となっては懐かしい思い出だ。
「とはいえ、俺は魔術的なことには疎いからそこらへんは気付いたら教えてくれると助かる」
いくらか授業で学んだとはいえ、まだまだ日が浅い。魔術師として育ってきたみんなとは理解に大幅な差がある。
だからそこらへんは素直に任せることにした。
「はい。任せてください」
「僕も協力するよ」
「わ、わたしも……!」
「……オレはあんま自信ない」
先ほどの元気な姿とは打って変わってバツの悪そうに視線を彷徨わせる颯斗。智琉と小夜はそんな颯斗に半眼を向けていた。
「よし! これで三つ目だな?」
「今の所、俺の予想通りか」
目の前に聳え立つ柱を見上げながら呟く。
先ほど仲間たちにも話した通り、見つけた柱は遺跡を取り囲むよくに配置されていた。
「座標、送信したよ」
「ありがとう智琉。助かる」
手早く端末を操作した智琉にお礼を言ってから、俺は白帝で軽く柱を斬りつける。
当然のように剣筋は逸れ、擦りすらしなかった。
今まで発見した柱全てに攻撃しているが、今のところどれも同じ結果に終わっている。
「うん。これも同じだな。次は……いや、一旦休憩にするか」
空を見上げれば、太陽は中天に差し掛かっていた。
警戒しつつ進んできたため、かなり時間がかかっている。
それに仲間たちの表情を見ると、疲労の色が朝よりも濃いように見えた。朝は元気だった颯斗の表情にも翳りが見えている。
「ごめんね刀至。僕たちに合わせてもらって」
智琉は申し訳なさそうに言ったが、自分が特殊なことぐらいは理解している。だから何も問題はない。
「それが普通だよ。だから気にするな」
幸い、柱の近くでは死の気配もない。だから俺にとっても休息を取るにはうってつけだ。
「警戒は俺がする。だから休んでてくれ」
「ありがとう。申し訳ないけど任せるよ」
みんなから少し離れた位置に移動し、地面に白帝を突き刺す。
それから目を瞑り、感知範囲を広げていく。
視界を閉じることにより、他の五感をより鋭敏に。
すると木々の葉擦れ音やみんなの話す声がよく聞こえてくる。
本来ならば鳥の鳴き声なんかも聞こえたりするのだが、現在御霊島に生物はいない。
それがひどい違和感を残している。
するとみんなの輪の中から近づいてくる気配が一つ。
「刀至くんは休まなくても大丈夫ですか?」
片目を開けると、真白が立っていた。
「これぐらいなら問題ないよ。実際、全く疲れてないしな」
言葉通り、疲労は全く感じていない。
今朝から変わらず万全の状態を維持している。
「すごいですね……。私も人より鍛えてきたつもりでしたが刀至くんには遠く及びません」
「身体のおかげだからな。ズルしてるようなもんだよ」
「それでも努力しないとそこまでにはなりませんよ。だから誇っていいと思います」
「……ありがとな」
面と向かってそんなことを言われると少し気恥ずかしい。頬が熱くなってくる。
「いえ……。食事はどうするんですか?」
「食べないつもりだ。半神の身体は燃費がいいからな」
「……無理していませんか?」
真白がどこか心配そうな色をした瞳で見つめてくる。
「心配しなくても無理はしてないよ。霊峰じゃ数日ぶっ通しで戦い続けるなんて日常茶飯事だったし」
「そうですか……」
すると真白はどこか寂しそうに視線を逸らした。
「……? まあ食べるに越したことはないけど、あるのは携帯食料だからなぁ」
懐から取り出すは個別包装された携帯食料。
ついため息が溢れてしまう。携帯食料を食べるぐらいなら食べないほうが遥かにマシだ。
それほどまでに携帯食料は不味い。
……そういえば、三人は食ってんのかな?
警戒は継続しつつ、智琉、颯斗、天音さんに視線を向ける。すると談笑しながら食事を摂っていた。
……談笑?
携帯食料を食べるのに談笑できるとは。率直に「すごいな」とを思ったが、口に運んでいる物は別の形をしていた。
……あれは……。
見覚えのある三角形。
すると真白に服の裾を引かれた。
「あの! これを……。物足りないかもしれませんが……」
頬を赤くした真白がポーチから控えめに何かを取り出した。手の上にあったのは銀色のアルミホイルに包まれた三角形。
それは今まさに三人が食べているのと同じ物で、日本人ならば誰でも食べたことのある物だった。
「……おにぎり?」
「あっ……。人が握ったものとか大丈夫ですか?」
「……? 俺は気にならないよ?」
「よかったです」
真白がホッと息をつく。
……そんなこと気にするヤツいんのか?
率直に不思議だ。
なにせ岩戸ではみんなで料理の手伝いをすることもあった。
当然、その中にはおにぎりも。
だけどそんなことを気にしている子はいなかった。
……俺たちが特殊なのか?
とは思ったが、そういう人もいると思った方がいいのかもしれない。
「食べていいのか?」
「はい。刀至くんのために作ってきたので……」
まさかの手作りだ。
すこし、いやかなり嬉しい。
……さっき寂しそうな顔をしたのはコレか。
食べないなんて愚かなことを言ったものだから無駄になると思ったのだろう。
補足しておいて本当によかった。本当に……。
そんなことをしみじみ思う。
「ではどうぞ……」
「ありがとう。嬉しいよ」
お礼を言ってからアルミホイルを剥いて一口。
するとほどよくしょっぱかった。塩気が身体に染み渡る。
「おいしいな」
「よかったです。お邪魔じゃなかったら隣、いいですか?」
「ああ。いや、少し移動しようか」
真白に立ったまま食べさせるのは忍びない。
俺は白帝を引き抜き、根が座りやすそうな形をしている木のそばに移動した。そして俺はその隣に立ち、再び白帝を地面に突き刺す。
「俺に合わせずに真白は座ってて」
「ありがとうございます」
真白は微笑むと、木の根に腰を下ろした。
「じゃあ、私もいただきますね」
真白もポーチからおにぎりを取り出すと、小さな口でぱくぱくと食べ始める。
「それにしても塩むすびなんて久しぶりに食べたよ。わざわざ作ってくれてありがとな」
「本当は色々な具を入れたかったのですが、昨夜小夜さんと急に決めたもので……。簡単なものになってしまいました」
「充分過ぎるよ。それに俺、塩むすび好きだから」
「そうなんですか?」
「ああ。……岩戸に咲希って年下の女の子がいてな。なぜだか俺に懐いてくれてたんだ。その子がよく作ってくれてたんだよ」
きっかけはなんだったのかはわからない。
唐突に咲希が料理をしたいと言い出したのだ。
今になって思えば、おそらくテレビ番組に影響されていたんだと思う。
無謀にも初っ端から凝った料理を作ろうとしたため、先生が即座に阻止。初めは簡単なおにぎりにしよう。ということになった。
何を言って納得させたのかは忘れたが、口が上手いなと思ったのは覚えている。
ともかく、そうして出来上がったのは塩が塗りたくられたおにぎりだった。凝った料理を阻止した先生の決断は英断だったと言える。
――はい! 召し上がれ!
と言われて差し出された塩まみれおむすび。
何が来ても美味しいと言うつもりだった俺と和樹もつい眉を顰めてしまった。
結果、咲希は拗ねた。拗ねたが、次の日にはちゃんとした塩むすびが出てきた。
その塩むすびはちゃんと美味しかったのを覚えている。
懐かしい思い出だ。
俺はそんなエピソードを真白に話した。
かつてあった日常を知ってほしい。なぜだかそう思ったのだ。
真相を知っているのが俺と師匠の他に真白しか居ないからかもしれない。
「……っと、わるいな。こんな話。困るよな」
曖昧に苦笑しながらも真白の表情を見ると、少しだけ曇っていた。
しかしそれも当然だ。真白はすでに咲希が亡くなっていることを知っている。
反応に困るのも仕方ない。
「……いえ、困るというよりも悲しくて。他にどんな子が居たのか聞いてもいいですか?」
「……いいのか?」
「はい。刀至くんの『家族』の話なら聞きたいです」
「……」
俺は驚きに目を見開き、真白を見る。
まさかそんなことを言われるとは思っていなかった。
胸の中心に暖かい感情が灯る。
「……刀至くん?」
「……あ、ああ。わかった。まずは和樹からかな。和樹は親友なんだ……。周りをよく見ていて面倒見が良くて……。優等生を絵に描いたような存在だったかな。そういえば、どことなく雰囲気が智琉に似てるかもしれない」
俺が智琉と早く打ち解けられたのはそれも一つの要因なのかもしれない。
それから俺は一人ずつ『家族』の性格や人となり、エピソードを話していった。
詳細に話していたら時間がいくらあっても足りないため、手短に。
だけどそれでも真白が作ってくれたおにぎりを食べ終わるには充分過ぎるほどの時間だった。
気付けば想定していた休憩時間を越えている。
「って感じだな」
「ありがとうございます。色々な方がいたんですね。特に和樹くんと咲希ちゃんの話は想像がつきます。あっ……、写真とかはないんですか?」
「あぁ。写真、か……」
今の今まで思い浮かびすらしなかった。たしかに持っていない。
それ以前に俺はあれから一度も岩戸には戻っていない。
おそらく俺の私物も置きっぱなしだ。
そしてその中には『家族』が写った写真もある。
墓参りは復讐を果たしてからと決めていたが、岩戸には一度戻ってもいいかもしれない。
「……夏休みにでも取りに行こうかな」
正直なところ、再びあの場所に戻るのは心苦しい。
だけど岩戸は元々古い建物だった。このまま放置していたら老朽化し、最悪倒壊する可能性すらある。
……いや、その前に解体されちゃうかもな。
今となっては大量虐殺が起こった事故物件だ。
廃墟になっていることは間違いないだろうし、もしかしたら心霊スポットとかになっているかもしれない。
と考えるといつ解体されてもおかしくない。もう手遅れの可能性すらある。
そうなったら俺と家族の思い出が詰まった数々の品が無くなってしまう。
それはとても悲しいことだ。
「あの、ご迷惑じゃなかったらご一緒してもいいですか?」
「ん? いいけど、別に楽しいもんじゃないと思うぞ?」
「それでも刀至くんが育った場所です。だから行ってみたいな、と」
真白の言葉は胸に込み上げるものがあった。
胸に灯った熱がじんわりと身体に広がっていくのを感じる。
「……わかった。夏休み、一緒に行こうか」
「ありがとうございます」
柔らかく微笑んだ真白の笑顔は向日葵のようで、少し眩しかった。




