第4話「魔法使い降臨!」
どうも、狭い所に入りたくなるにゃ…。
芽唯流のベッドの下。の、細い段ボールの中。そこで私は潜ってくつろいでいた。
「ちょっと猫くん、そこはダメ。思い出箱なんだから。」
ずりずり…箱ごと、引っ張り出された。
「あー、懐かし~。これで良く変身してたの~。」
変身だと?お前が?普通の人間が?
芽唯流は小さなスティック…先端にハートを宝石にしたようなヤツが付いている。その周りには同じくキラキラの、黄緑の宝石の花びら。
芽唯流は立ち上がり、何やらそのスティックの根元にあるスイッチを入れた。
知らないカワイイ声が、スティックから流れてくる。ご丁寧SEまで流れる。
「煌めく夢の守り手、ピュリア・ローズ!」
芽唯流がクルクル回り決めポーズ。
ああ、コイツは無駄に可愛いな。腹立つ。
…見とれてどうする。300歳よ。
私の享年は300歳だ。不老不死のため、外見は23歳のままだった。
「えへへ、どお。猫くん。カワイイ?」
みゃ。頷いてやった。まぁ、実際、可愛い。
「えへへへへ、子供の頃のオモチャ。魔法少女変身スティック!」
魔法、だと。魔法だと!?
「あ、猫くん、ごはん持ってくるね。今日は柔らかミルク&チキンだよ。なでなで。」
まま~ごはん。
いやそれどころではない。魔法スティック。ふ、ふふふふふ!
ボックスから、ヒラヒラの付いた帽子もはみ出している。これは…魔術師の幅広ハット!
「おまたせ~。あ、猫くんそれは昔ハロウィンパーティーで被ってた魔女さん帽子。」
芽唯流が私の前にごはんを置いて、帽子を手に取る。
いただきまーす。
うみゃい~うみゃいな~
「さすがにもうキツイな~。でも捨てるのもねえ?」
魔女の帽子ねえ。あの帽子は、元の世界では男女共通なのだが。まぁいい。
私は、居間にトコトコ降りて行く。
「あ、猫くん行っちゃうの~。ちぇ~。」
まあ、置いといて、居間。じーっと。
パパ殿、この無造作に置かれたトロフィーは何だろう。
「パパ。猫くんがトロフィーに興味持ってるわ。」と、ママ殿。
「ああ。あげるか。」
「あげてどおすんの」
「接待ゴルフで貰ったトロフィー。もう古いし今度捨てるか…。」
この金は、金属では無いな。オモチャか。しかし、このシリーズの中で一つだけ。奥の板みたいのにメダルがはめ込まれてる奴だけは…金属のニオイがする。
キラーん。
く、くっくっくっく!!
夜。芽唯流の布団を抜け出し、私は目を光らせて、悪行に励むことにした。
――――――――――
…爆睡してた。目覚めたら猫キャリー。
昨夜は魔法を使い過ぎた。子猫のわが身では、MDもMPもなさすぎる。
ちなみに、外に出るときは最近これに入れられる。
芽唯流の膝の上。顔を出す。
「あ、猫くん起きた。はい、オイデ~。」
芽唯流の胸に移動。
おや、またまた車か。今日の運転はパパ殿か。いいな。私も運転してみたいぞ。
本当にこのご家族は仲良し&お出かけ好きだな…山に向かっているらしい。
…というか、芽唯流、いつ学校に行くのだろう。
(秋休みなるものがあるという事を、私は後日知った。)
突然、耳障りな爆音が横を通る。
いかつい見た目の黒光りした車が、追い抜いて行った。
みゃ~。(なんだコイツは…)
パパ殿が、うわっと言った。少し車が左に寄った。揺れた。
「ひっど!」ママ殿が憤る。
だが…それ以上に慌てたのは、対向車線を走っていたバスだった。折しも我々は左カーブ。右は崖。
バスは、慌てて左へよけた。
そして、曲がり切れず、急ブレーキの音を激しく立てながら、道路をはみ出していった。
ガードレールの支柱に直撃はしなかったようだが、バスは半分が宙に浮いている。
「あああ!大変!助けなきゃ!」
「パパ、引っ張れない!?」
「無理だ!一緒に落ちるぞ!」
「ママ、助けを!電話を!」パパ殿が車を止め、降りて走り出す。
ふと見れば、原因を作った車はもう居ない。おのれ。
ミャミャミャ―。テレキネシス。私がサクッと助けてやろう。
…重い!動かない!情けない、この世界の魔素が少なすぎるのか!それとも、この体だからか!?
「ね、猫くん…猫くんこのあいだも、みゃみゃーって…。」
芽唯流。どうやら勘の良さは本物だな。
そうだな。この場で何とか出来るのは、私だけだ…覚悟を決めろ!我は魔王!
「ミャミャイ」(フライ。飛行呪。)車のウィンドウを下げ、私は飛び出す。
「猫くんー!」
私は、空を飛んで、バスの横に浮いた。
「ミャミャミャ―ミャ!ミャミャ!!」
(テレパシーで伝える。案ずるな!私に任せるがいい!)
車から飛び出した私を、芽唯流が信じられない表情で見つめている。
ち。仕方ない。遅かれ早かれだ。蜜月のような日々よ、さらば。これが、我が力ぁ!
「みゃみゃん!みゃみゃみゃー!」(サモン・オブジェクト!)
手にする、光。小さなピンクの、ハート型スティック!
頭に被る、小さな黒とレースの魔女帽!
昨夜、錬金した魔法の触媒!!
「猫くん!魔法少女なのねー!!」
誰が少女だー!
「魔法使いなのね!猫くんー!」
叫ぶな恥ずかしいー!
触媒があれば、今のこの体でも!ブーストできる!!
私は、ピンクのスティックを振りかざす!
「ミャミャミャ―!」(テレキネシス!)バスはそのまま完全に宙に浮き、道路へ静かに戻っていく!
マズイ。バスの何人かがスマホを取り出している。逃げよう。
「みゃみゃーみゃ。」テレポート。ぱっ。
ん?ほお。さっきの黒い車も戻って来たな。
スマホを向けてやがる。ちょっと聞いてみるか。
「みゃみゃんみゃみゃみゃーみゃ。」(サウンドストール。盗聴。)
<おい、やべえぞ。俺らのせいで落ちかけたんだよなぁ。>
<知らねえ!無事みたいだし関係ねえ。迷惑系が迷惑かけて何が悪い?>
<それより、これも配信しようぜ!インタビューまでしちゃうか!?>
ああ…そうか。お前達は、私を本当に怒らせた。
次の瞬間、私は黒い車の上に飛んだ。
テレポート。車を、崖下へ。
それで済むと思うな。お前らに、今後もそれで稼がせるほど、私は甘くない。
「みゃーす!」(カース。呪い。)
<死ぬまで、お前達は、“ネットを通じた稼ぎが出来ない”。あらゆる偶然に寄り、全て消滅する。>
呪いをかける黒猫か。見せたくないな。見られたくないな。この姿。オマエには。
――――――――――
さて。覚悟を決めて車へ戻った。
芽唯流は私を抱きしめ、車は走り出す。
…芽唯流も、パパ殿も、ママ殿も、無口だった。
暫く、沈黙が続く。
まぁ、仕方ない。サヨナラの時だな。
魔術師か身近に居るなど怖ろしかろう。
と、考えていた時。
「猫くん、猫くんは、魔法が使えるんだね?」
少し、迷ったが、私は「みゃ。」と答えた。
「魔法使い、なんだね?」
「みゃ。」
「すっごぉぉぉぉ!猫くんすごい~!!」
「やっぱそうか!パパもただ者ではないと思っていたんだ!」
「猫くんちゃんが魔法使い…ああ、どうしましょう、そのうち取材が来るのね…。」
家族は明るく盛り上がっていた。
私は目が点になった。いや、気を使ってくれているのかも知れない。
「パパ、新しいファンデーション買いたいからダイ〇ル寄って貰えるかしら…。」
「よし!任せろ!パパも頑張るぜ!」(何を?)
…どうやら、素で盛り上がっているらしい。
芽唯流は、じっと私を見ていた。
…夜。家でのことだ…。
芽唯流が、ねこなで声で、私にせがむ。
「猫くん、お願い!宿題、魔法でパッとっやって!」
「みゃみゃみゃみゃにゃにゃににゃー!」(の〇太かお前はー!!)