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「さやうなら」
僕は、嬉しかった
お義父さん
それは、本当だ
母はいつも、塞ぎ込んでいた
知ってる
親に勧められて行った場所は、
彼女が思うほど、いい場所ではなかった
じいさまの、博打の借金の為に
売られるように、行った場所だったのだもの
『お嬢』と呼ばれていたプライドの高い貴女を
組み敷き、僕を産ませる事も
多分、僕の父は喜びに満ちていた事だろう
それでも、貴女はそれを良しとしなかった
これ見よがしに、産ませられた男の子を連れて
平気で離縁して帰ってきたのだから
お母さん、
僕は、僕を邪魔者だと思っていた事を知っていたよ
だけど、新しいお義父さんが
とても、とても
僕の事を考えていてくれたから
釣りの日は楽しかったね
だから、僕はその日を亡くなる日にした
お義父さんが、わざと溺れる僕に手を伸ばす
僕は、その手を振り払う
『さやうなら』
拙い字で書いた
メッセージは届くかな?
彼の書き記したものは、世に出る事はなく
彼の死は、事故として処理された
彼の義父兄弟は10人近く育ったと聞く