6p【ドラゴン現る】
ユベルは翌日から、堀を掘る町の人々の護衛だけでなく、彼らに筋トレを教えることにも取り組んだ。彼は町の人々に、強くなるための基本的なトレーニング方法や姿勢の正しい使い方を教え、彼らの筋力を向上させる手助けをした。
「ユベル様の不思議なダンスのおかげで、旦那の体が逞しくなりました。」
「ユベル様!うちの息子がこんなに重い物を持てるようになりました!」
町の中で、女性たちは男性以上に力を発揮していることが目立った。これは、彼女たちが毎日の家事や育児に従事していることから来るものだろう。彼女たちは日々の労働によって鍛えられ、強靭な体を手に入れていた。そのため、堀を掘る作業でも、男性に引けを取らずに活躍していた。
「王命とは言え、ここまで男を弱らせて、戦争が起きたらどうするつもりだったんだ。」
ユベルの独り言にディアが答えた。
「起きませんよ。広大なイナレスワ王国には、ユベルという不老不死の化け物を飼っているという伝説がずっと周辺国に影響を与えているのですから。」
「…俺の事か?」
「はい。千年牢獄というのも、伝説を本当だと確信させるためのパフォーマンスの1つでしたから。ユベル様は知らないと思いますが、あの牢獄の中にはユベル様を写す監視魔法が施されてまして、王城内に、その姿を監視する特別な部屋が設けられていたんですよ。」
「まじ…か。」
「まじです。」
ユベルにとって、その事実は驚愕であり、同時に猛烈な恥ずかしさがこみあげていた。
ディアはユベルが顔を赤らめるのを見て首をかしげました。
「どうされましたか?」
「俺の毎日の筋トレを誰かに見られていたのかと思うと……猛烈に恥ずかしい。」
「ぷはっ!あはははっ!ユベル様でも恥ずかしいと思う事があるのですね。」
ユベルはふと視界に複数の女性がこちらを見ているのに気付いた。目が合うと、女性たちは急いで壁や木の陰に身を隠してしまう。
町に入って以来、ユベルはその熱い視線を何度も感じていた。今日が初めてではなく、どこかでその視線が彼を追いかけてくるような気がしていた。
「なんだ?」
察しの良いディアは、ユベルの表情やその視線から、彼が何について疑問を抱いているのかをすぐに察した。
「ユベル様のお顔やスタイルは国宝級に素敵ですから、女性の方々はみんな興味があるのでしょうね。」
(……あぁ…そういえば、昔アーレイが似たようなことを言っていたな。顔が良いから助けてやりたいってな。顔ねぇ…。)
ユベルは自分の隣にいるディアを見つめた。彼女は今は少女だが、それでも誰にも負けないほど美人だ。その姿を見て、ユベルは自分が特別にはとても思えなかった。
「わからんな。」
町の人を狙って飛び出してきた魔物を素早く手だけ動かして切り刻んだ。
「どういう剣捌きをしているんだ?」
「筋肉を鍛えれば、これくらいできる。」
「おぉ!!」
昼になり、町長の奥さんが大量のおにぎりを乗せたタライを手にしてやって来た。彼女は優しい笑顔で、手作りのおにぎりを温かく提供しました。その温かみに満ちたおにぎりは、まるで母の手料理のような優しい味わいがありました。町長の奥さんの心遣いに、ユベルとディアは感謝の気持ちで一杯でした。
「おや、ユベル様、今日は奥さんと一緒じゃないのかい?」
その言葉に、口に入れたおにぎりが思わず喉に詰まってしまった。ユベルは必死に咳き込み、町長の奥さんは心配そうな表情で彼を見つめる。しばらくして、ユベルは咳き込むのをやめ、深呼吸をして落ち着きを取り戻しました。
「すみません、あれは…」
「あれは私のママです!!ですよね!パパ!」
「お、おい…。何を…。」
ディアの唐突な言葉に、ユベルは驚いた。焦って口を開こうとすると、突然ディアが手を伸ばして彼のお尻をつねりだした。ユベルはびっくりして、振り返ってディアを見た。ディアは真剣な表情で彼を見つめ、「黙っていなさい」というような意思を込めた眼差しを送っていた。
「そんな照れなさんなや。ユベル様とディアちゃんが親子なのは顔を見れば誰だって分かるさ!」
(赤の他人だぞ?全く、適当な事いいやがって。)
ユベルはディアの無言の圧力に押され、黙っておにぎりを食べ続けた。
掘り作業の終盤に近づく頃、町の外れから一人の少年が血相を変えて駆けてきた。少年は豪華な貴族のような服を着ていて、その服は血まみれで汚れ、泥で覆われていた。彼の顔には恐怖の表情が浮かび、身に何か恐ろしい出来事があったことを示していました。周囲の人々は彼の様子を見て、魔物に襲われたのではないかと心配していた。
「早く非難しろ!ノタナア領にドラゴンが出て壊滅した!!ここにもすぐにやってくる!!」
少年の叫び声に、村人たちは一斉にパニックに陥りました。驚きと恐怖の表情が彼らの顔に浮かび、騒然とした状況が広がりました。
町は一瞬にして混沌とし、村人たちは慌てふためき、安全を求めて駆け回りました。
「結界の完成まで後少しですのに…。」
「ドラゴンってなんだ?」
「今はそんな質問してる場合かよ!!逃げろよ!!早く!!」
「いや、俺倒せるから。特徴だけ教えてくれ。」
「馬鹿いうなよ…。父上も母上もアイツの吐く息にやられて死んだんだぞ!!!無理なんだよ…。絶対に勝てない!!!」
「では、あの伝説の勇者ならどうですか?」
「悪魔を千年牢獄にぶこんだっていう勇者ユベルか?」
(なんだ、その話は…。)
「はい。」
「あんなのでっち上げだろ?俺を子供扱いするなよ。」
「そうですか?でも実際に千年牢獄は実在しています。王都へ訪れた事がある人なら誰でも実在している事が分かるはずです。」
「あぁ、俺も見た事はある。だが…。」
ユベルはやさしく少年の頭を撫でました。
「ドラゴンの吐く息は毒でもあるのか?」
「火を吐くんだ。」
「火を吐く…か。なるほどな。」
耳をつんざくような鳴き声が町に響き渡りました。地面が揺れ、周囲の人々は驚きの声を上げて逃げ惑います。
「き・・・きたっ!!!」
ユベルは落ち着いた表情で剣を抜き、周囲の混乱に紛れずに地面を揺らす鳴き声の方向に歩みを進める。
ユベルはドラゴンの姿を目にした瞬間、まず最初に感じたのは空を飛んでいるという驚きだった。彼はその大きさや威容に圧倒されながらも、空を自在に舞うその姿に深い感動を覚えていた。
「飛んでるのか?」
ドラゴンの羽ばたきの音が耳に響く。
次にユベルはテップを踏むかのように足をタンタンと跳ねさせました。次の瞬間、彼は驚くべき敏捷性で地面からジャンプし、まるで魔法のようにドラゴンと同じ高さまで舞い上がった。
ユベルはドラゴンに向かって剣を振り回しました。その振り回す速さは驚異的で、目にも止まらぬ速さで剣が舞い、まるで光のように煌めいていた。
周囲の空気が剣の速さによって乱され、その音が空間を裂くかのように聞こえる。
そして、一瞬の隙も与えず、剣を振るい続けた後、軽やかに地面に降り立ちました。
「浅い…か。まるでワニだな。いやそれよりも硬いか。なら、本気でいかせてもらおう。」
ユベルは再び空高く飛び上がり、その身を宙に浮かせながら剣を横に構えた。次の瞬間、息を止めて、剣を一気に振り下ろし、ドラゴンの翼を一刀両断しました。その衝撃的な一撃に、ドラゴンは悲鳴を上げ、バランスを崩し、ドシーンッと大きな音と、強い地響きと共に地面に落下する。ユベルの剣技の素早さと正確さは、まるで神話の中の伝説の勇者のようだった。
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