4p【町の英雄】
アーレイは優秀過ぎる科学者であり、発明家だ。俺の細胞を採取して自身も不老になることなんて、彼女にとっては造作もないことかもしれない。そんなことを考えながら森の中を進むと、町が見えてきた。
町の外観は古めかしく、しかし活気に満ちていた。人々が行き交い、商店や居酒屋からは美味しそうな匂いが漂ってきた。太陽が照り付け、町は生気に満ち溢れているように見えた。俺は幼い姿のディアと共にその町へと歩を進めた。
ふいに狂気が襲い掛かり、俺は頭を抱えた。胸に広がる焦燥感と、無念さが心を揺さぶり、理性が揺らぎ始めた。
「先に魔物を狩りましょうか。」
息を整え、自分の中の狂気を抑えながら、俺はディアと共に魔物のいる方向へと歩みを進めた。
周辺には弱い魔物しかいなかった。しかし、その数が多かったことが助けとなった。何体も倒していくうちに、心の奥深くにあった狂気が少しずつ和らぎ、衝動が収まっていった。頭がクリアになり、深い呼吸ができるようになった。
森の中での戦いが、俺にとっての癒しのように感じられた。
俺が戦っている間、ディアは魔物の死骸を解体して戦利品を集めていたようだ。終わった頃には、二人とも魔物の血でドロドロになっていた。それでも、彼女の顔には満足そうな表情が浮かんでいた。
「今はまだ、半日は戦っていないと辛いようですね。」
「すまない。綺麗な髪を汚させてしまった。」
「良いんです!これだけあればお金持ちですよ!」
(たったこれだけで、お金持ちだと?随分とぬるい世の中だな…。)
俺とディアは町に入り、まず、換金所へ向かった。
換金所は賑やかな中心街に位置し、多くの人々が行き交う中にひっそりと佇んでいた。建物の外観は古びた石造りで、扉を開けると中には多くの窓口があり、店員たちが交易に携わっていた。
「ディア、その姿のままで良いのか?」
「はい!ユベル様が大人なので私が子供の姿でも問題ありません。」
俺たちは魔物の戦利品を持ち込み、店員に換金してもらうために並んだ。小さな荷物袋から大量の素材を取り出して渡すディア。荷物袋には見た目以上に大量な物が入っているようだ。魔法の荷物袋といったところだろうか。
ディアが一つ一つ素材を丁寧に並べ、店員がそれを確認する。金や銀の輝き、魔物の毛皮や鉱物の光沢が、換金所内に幻想的な雰囲気を漂わせる。
店員は素材を一つずつ確認し、その価値を見積もる。一方、俺はディアの様子を見ている。彼女は自信に満ちた表情で素材を並べ、何度も微笑みながら待っている。金属の音が鳴り響きながら、店員が戦利品を丹念に検査している。待つ間、俺はディアの隣で静かに立ち尽くし、周囲の活気ある雰囲気に身を委ねた。
「き、金貨1000枚です。」
店員の言葉を聞いた周囲のハンターや冒険者たちは派手に驚き、ざわめきが広がった。金貨5000枚という巨額の報酬に、彼らの目は見開かれたままだった。
驚愕の中で、俺も目を見張る。周囲のハンターや冒険者たちの驚きの声が響き渡る中、俺たちは得意げな笑顔を交わした。
夕暮れの街を歩きながら、俺とディアは宿屋へ向かった。
「その荷物袋は魔道具か何かか?」
「はい!これはアーレイ様の発明品の1つです。異国の魔法が組み込まれた、なんでも入る袋です。」
(そういえば、俺がアーレイから聞いていた外の世界とは少しかけ離れているな。この町の発展が遅れているだけか?)
「この町、昔からこんな感じだったのか?」
「わかりません。私は異国の地に住んでいたので。」
「そうか。」
(ディアが異国育ちとなると、アーレイも異国から来ていたのか?それなら納得だな。)
町の中心部に到着すると、古風な外観と居心地の良さが特徴の宿屋が目に入った。 扉を開けると、中は賑やかな雰囲気で溢れていた。
木のぬくもりを感じるカウンターに向かい、宿泊を申し込んだ。 宿屋の主人は笑顔で俺たちを迎え入れ、快適な滞在を約束してくれた。
部屋に案内されると、シンプルで清潔感のある内装が目に飛び込んできた。
「素敵な部屋ですね!」
「部屋を別にしなくて良かったのか?」
「はい。」
(まぁ、何歳かは知らんが、見た目が幼い少女だ。そういう趣味がなければ問題はないだろう。)
部屋のベッドに腰をかけ、疲れた体をやわらかな寝具に預ける。 心地よい疲れと安堵が体を包み込む。 静かな部屋の中で、外の喧騒から解放された安らぎを感じながら、しばし深いため息をついた。
「そういえば、金貨1000枚って凄いのか?」
「はい!町1つ買えてしまいます。」
「は?そんなに価値があるのか?」
「はい。」
「そんな馬鹿な…。少し狩っただけだぞ?」
「この国は、長年平和が続いていたので、戦い方を忘れた人が多いんです。なので、ユベル様はこの国最強の冒険者という事になりますね。」
(俺は牢に入る前から英雄と言われていたんだ。それだけ衰えているのなら十分ありえる話か。)
突然、静かな夜の空気を打ち破るような大きな鐘の音が響き渡り響いた。 その重い音色に続いて、悲鳴のような大声が遠くから聞こえだす。 町の中で騒ぎが広がり始め、人々の慌ただしい足音や叫び声が響き渡っていた。
「ユベル様!倒しにいきましょう!」
「そうだな。」
人々の波をかき分け、ユベルとディアは外へと急いだ。 町の中心部からは慌ただしい様子が伝わり、多くの人々が街路を駆け抜けてく。
「倒せる奴はいないのか?」
「強い方はもっと先の町や村に滞在しています。町に入る前に倒した魔物を1匹倒すのがやっとな人が多いかもしれません。」
「そうか。急ぐぞ。」
「わっわわ!」
ユベルはディアを抱きかかえ、そのしっかりとした肢体で彼女を守りながら、急いで走り出した。
「こっちの方が早い。」
人々の波が薄まると同時に、数人の魔法使いたちが町の周囲に結界を張っていた。 彼らは必死に魔物を町の中へ侵入させないように奮闘しているようだった。 色とりどりの魔法が空中に舞い、結界を構築するための魔法陣が次々と現れていた。
ユベルはディアを地面に降ろし、その場で結界の先に向かって走り出しました。
「君!!この先は危なっ…!!」
ユベルは躊躇せずに目に映る魔物たちに向かって突進しました。ユベルの手は鋭く、魔物たちの体を切り裂き、次々と倒していきます。 彼の動きは美しく、そして危険なほどに迅速だった。
「おいおい…嘘…だろ?」
ユベルの驚異的な戦いぶりに、周囲の人々はその場に立ち尽くし、ユベルの凄まじい戦いぶりを目で追いました。
ユベルは戦いの中で、腰にぶら下がっていた剣を思い出しました。 彼は素手での戦いに飽き足らず、剣を手に取ることを決意した。
彼は剣を抜き、魔物に向かって進み、疾風のように振り下ろす。その一撃は確実に命中し、魔物たちは次々と倒れていく。正確で、無慈悲な剣技。彼は剣を振るうたびに、その姿は美しくも凛々しく輝いていた。
ユベルが目に見える全ての魔物を倒し尽くすと、周囲からは称賛の声が響きました。人々は彼の勇気と力、そして優れた戦闘技術に感銘を受け、喝采を送りました。
「子連れの兄ちゃんやるなぁ!!」
「あんな強い魔物が一瞬で倒れるなんて、驚きだ!」
「すごい!あの剣さばき、まるで伝説の勇者のようだ!」
ディアがせっせと魔物の素材を回収している間、ユベルは周囲からの称賛に戸惑いながら立ち尽くしていました。
しばらくすると、ディアが魔物の素材の回収を終え、隣に戻ってきた。彼女は満足げな笑顔を浮かべながら、手にした袋に最後の素材を詰め込んでいました。
「ユベル様、宿へ戻りましょうか。」
「あぁ。」
宿に戻ったディアとユベルは、疲れた身体をベッドに預けて休むことにした。窓から差し込む月の光が部屋を優しく照らしていた。
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