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3p【気の良い店主】

彼女の後ろを従いながら歩くうちに、辺りには静まりかえった雰囲気が広がっていった。夕陽の光が徐々に西に傾き、影が長く伸びる中、周囲の景色はどこか神秘的な趣を帯びてきた。


やがて、ポツンと孤立した一軒の家が目の前に現れた。家の扉を開け、中に足を踏み入れると、そこは防具や武器を売っている店のような雰囲気が漂っていた。店内にはさまざまな武具や鎧が陳列され、壁には様々な武器が飾られていた。光がそこかしこに反射し、金属の輝きが部屋を満たしていた。


その時、店の店主がこちらに気づいて、パァっと笑顔を浮かべた。


「お!女神様じゃねぇか!アンタのおかげで魔物は寄り付かなくなったよ。ありがとな。」


店主は驚きと感謝の表情で彼女を見つめ、深く頭を下げた。彼の言葉に対し、彼女は微笑みながら応えた。


「今日は彼の防具と武器を見繕っていただきたいのです。」


店主は言葉に驚き、彼女の指し示す相手を見つめると、口を開いて驚嘆の声を漏らした。


「彼ってーと…どひゃー!!なんてボロボロの服を着てやがるんだ。いったい何年前の布切れだ?野生児か?しっかし、あんちゃん。どえらいべっぴんさんだなぁ。男でも惚れちまいそうだぜ。」


店主の驚きと褒め言葉に彼女は微笑みながら、控えめに頭を下げた。彼女の存在は店主の心を打ち、彼の心に強い印象を残していたようだった。



「ぅ…。」


「彼は今はまだ言葉が話せません。ですが伝わりはします。」


「なるほどなぁ。訳ありってわけかぁ。いいぜ!見繕ってやるよ。」


店主は理解を示し、彼女の説明にうなずいた。ユベルの言葉がなくても、彼の姿や表情が物語っていることを理解し、その訳ありの状況に同情的な様子だった。


暫くすれば、店主は店一番の自慢の防具と長剣をユベルに手渡してくれた。その防具は鍛冶職人の熟練の技によって作られ、堅牢ながらも軽量であり、ユベルの動きを妨げることなく、同時に彼を守ることができるものだった。長剣は優れた鍛冶技術で作られた刃が鋭く光り、その柄には高貴な装飾が施されていた。


「こ…あ…ぃ・・・お・・・ぃ・・・ぃ・・・ぉぁ。(こんなに良い物をいいのか?)」


店主の慈愛に満ちた心遣いに、ユベルは口ごもるように感謝の言葉を呟いた。彼は思わず疑問符を持ったが、その気持ちが言葉にはならなかった。


「まぁ、なんとなく伝わったぜ。いいぜ持っていきな。こっちは無限に湧く聖水が入った水差しを貰ったんだ。足りないくらいだぜ。」


店主は軽い笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。これで長旅ができそうですね。」


「そうだ。今晩はもう遅い。うちに泊まっていきな。うちのカミさんは隣町に行ってて、明日にならねぇと帰ってこねぇからな。」


「まぁ、ではお言葉に甘えさせていただきます。」


俺と彼女は同じ部屋で眠ることになった。店主の親切な提案に感謝しながら、二人は同じ屋根の下で一夜を共にすることとなった。


彼女は部屋に入るなり、突然小さな子供の姿に変わってしまい、その光景に俺は驚いた。

少女の容姿は金髪の長い髪に、俺と同じ青い瞳をしていた。俺の目の色は普通の青い目よりも宝石のように煌めいているのが特徴なのだが、少女も俺と全く同じ瞳のタイプをしていて、その輝きはまるで星空のような美しさを放っていた。


「ふぅー。見た目が子供だと何を言っても信じてもらえないので、魔法で変装していたんです。」


「ぁぅぉぉ…。(なるほど。)」


彼女は深いため息をつきながら、その理由を説明した。その一方で、俺は理解しながらも、彼女の突然の変化に戸惑いを隠せなかった。先程は昔の友人であるアーレイに似ているような気がしたが、少女の方がアーレイの3倍は美しい容姿をしているような気がした。


「ユベル様、久しぶりのベッドですよ!早く寝てみて下さい!」


ユベルは少女の心遣いに感謝しながら、ベッドに寝そべることを決めた。その心地よい寝床に身を預け、彼の心には穏やかな安らぎが広がっていった。


「……ぇ…ぉ…ぉ…ぃ・・・ぃぁ。(ベッドもいいな。)」


「ふふふ。もし、何かを殺めたい衝動に駆られたら、真っ直ぐ森へ向かって下さい。衝動が収まるくらいには魔物がいます。」


「ぁ…ぉぉ?(魔物?)」


少女の言葉に、ユベルは驚きを隠せずに声を上げた。彼女の言葉には奇妙な魔法のような響きがあり、それはユベルを一層不思議にさせるものだった。


「昼間に倒していた獣です。あれはビッグワンという名の魔物です。最果てから離れたこの地域はとても弱い魔物しか生息していません。最果てに近づけば近づくほど魔物は強くなっていきます。」


「な・・・ぅ…ぉぉ(なるほど。)」


「そうだ。発声練習に魔物を倒す時に声を出してみてはどうですか?やぁ!とか、たぁ!とか!」


「ぁ…ん…ぁぇぉぅぉ…。(考えとくよ。)」


「ふふふ。そろそろ寝ましょうか。おやすみなさい。ユベル様。」



久しぶりに深い眠りについた。硬くて冷たい床ではなく、雲の上で寝ているかのような感覚が広がっていた。心地よい安らぎに包まれながら、俺は深い眠りに浸っていた。


しかし、突如として、切り刻みたくなる衝動がやってきて目が覚めた。眠りから覚めた瞬間、その衝動が俺の心を襲った。恐ろしいほどの欲求が全身を支配し、心を乱した。


咄嗟に窓から外へ出て森の中に入った。闇夜の中、身を包む冷たさと静寂が俺を迎え入れた。早速、森の奥深くで熊のような生物と遭遇し、俺は素手でそれを切り刻んだ。凶暴な魔物の姿が次々と現れ、俺は巧みな動きでそれらを迎え撃った。二体目が後ろから襲いかかってきたが、俺は敏捷な身のこなしでそれを避け、後ろに回り込んで切り刻んだ。


それから三体目、四体目と次々と沸いてくる魔物を打ち倒していく中、時は静かに過ぎていた。闇が次第に淡くなり、やがて朝日が東の空に昇っていた。俺は一夜の間に、自らを取り巻く闇を断ち切るべく、魔物たちとの戦いに身を投じていたのだ。




「ユベル様、もう朝ですよ。」


いつの間にか大人に化けた彼女が側にいた。俺は彼女の存在に気付き、少し驚いたが同時に安心も感じた。しかし、そういえば、この人は何て名前だろうか?と思った。聞くにしても俺のつたない喋り方では聞けないかもしれない。


「名前は?」


ユベルはしっかりと発音できたことに驚き、思わず喉を触った。


「ユベル様!?言葉が…。」


「あ…。そういえば、声を出して戦っているうちに喉が開いてきたような気がする。」


「そうですか。まだ名のっていませんでしたね。私、名をディアと申します。」


ディアという名前を聞いて、ユベルはほっとした表情を見せた。


「ディア。君はどこか、アーレイに似ているな。」


「アーレイ様ですか?」


「あぁ。アーレイに良く似ている。」


俺とディアは店に戻り、荷物をまとめて次の町への旅支度を整えた。店主からの温かい見送りの言葉を受け、俺たちは心地よい朝の風を感じながら店を後にした。



しっかりと喋られるようになった俺は、ディアから質問攻めされるはめになった。彼女が興味を持ったのは、どうして不老不死なのか、そしてなぜアーレイと仲が良かったのかということだった。


森の中を歩きながら、俺はできるだけ事実を伝えるように心がけた。自らが不老不死となった経緯や、アーレイとの出会いについて語った。ディアは興味深そうに俺の話を聞き入っていた。


俺は王国の領土を広げるために日夜戦い続け、国を滅ぼし、ついに全てが王国のものとなった。俺は国から英雄だと担ぎ上げられ、その栄光に浸ることができた。しかし、戦争が無くなってからというもの、体の疼きが抑えられず、かつての戦場の情景が脳裏に甦ってきた。


無意識のうちに、俺は街を徘徊し、人々を襲ってしまった。理性を失い、血にまみれた暴力の渦に巻き込まれていく自分を嘆きながらも、その衝動を抑えることはできなかった。内なる闇に苦しむ俺は、かつての英雄の姿からは程遠い、孤独で哀れな存在となっていった。


肉を切る快感に自然と頬が緩んでしまうほどに楽しかった。俺はその快楽に身を委ね、ついには制御を失ってしまった。しかし、その行為が発覚し、すぐに取り押さえられて牢にぶち込まれた。王は俺に恩があった。だからこそ、俺に対する処罰は死刑ではなく、終身刑とした。


だが困ったことに、俺は歳を取らなくなっていた。終わりのない牢獄生活が続き、俺の周りには次々と世話係となった兵の死体が積み重なっていった。時が経つにつれ、数十年、数百年が過ぎ去り、俺はまだ変わらずにそこに囚われていた。


そして、ある日、俺の為だけに作られたという牢獄に案内された。その牢獄は時の流れが異なる場所であり、俺が永遠に独りぼっちで過ごすことを意味していた。


それが千年牢獄だ。不老不死である俺を代々恐れる王は300年かけて絶対に壊れることのない牢獄を完成させたのだ。移送される際にも、数人が切り刻まれた。そして、その時に俺に薬を投与して牢にぶち込んだのがアーレイだった。


アーレイは俺を牢にぶち込むだけでなく、俺が気絶している間に血液採取や実験を行っていたらしい。目が覚めると、俺は無慈悲な牢の中に身を置いていた。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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