2P【不死の巫女】
「やはり、千年牢獄の化け物をどうにかして古城を突破させる他ないか…。このままでは国は、いや、世界の人類は全滅だ。」
王はひとりつぶやきながら、彼の眉間には深いしわが寄せられていた。彼の言葉は重々しく、その声には希望と絶望が入り混じっていた。
「千年牢獄の化け物を!?正気でございますか!?先代の王の姉君を素手で殺したという化け物ですよ!?どうにかできる訳がありません!!」
宰相の声は憤怒に満ちており、彼の表情も厳しいものであった。彼は王の決断に対して懸念を示し、その危険性を強調した。千年牢獄に封じられた化け物が解放されれば、その脅威は計り知れないものであることを彼は知っていた。
「祖父から聞いた話だが、千年牢獄の化け物を閉じ込めておる鍵は不死の巫女が所持しておるそうだ。確かこの国の北の森の中に聖なる泉があるじゃろう?その泉の中に住んでるそうだ。」
「泉の中ですと!?泉の中なんかに入ったら窒息して死んでしまいますよ!?」
王と宰相が口論している最中、側近の執事が急いでやってきた。彼は慌てた様子で王に面会したいと言っているヒーラーがいると伝えた。王はもしかするとと思い、面会を許可した。
しばらくの間を待った後、玉座の間に神々しさと不思議なオーラを纏った女性が姿を現した。彼女の存在は圧倒的であり、王国の玉座すらもその神聖な光に比べれば何もかもが小さく思えるほどだった。
「私は北の森から参りました、ヒーラーでございます。またの名を不死の巫女と申します。」
その神聖な声が玉座の間に響き渡ると、王と宰相は顔を見合せて喜びました。彼らは不死の巫女の到来を心から歓迎し、彼女の力に期待を寄せました。
次に、不死の巫女は持っていた杖を一振りして、美しい白い陶器の水差しを取り出し、それを宰相に渡しました。その水差しは、まるで聖なる泉の水を宿したかのように輝いていました。
「その水差しの水で国を覆うと良いでしょう。魔物はその水を恐れます。」
不死の巫女の言葉は王と宰相の耳に響き、彼らは一瞬にしてその意味を理解した。彼女の持つ力が魔物を撃退し、国を救う鍵であることを理解したのだ。
王は深く頭を下げ、感謝の意を表しました。
「ひとつ、お願いがございます。」
「何でございましょう!貴方様のお願いとあれば何でも聞きましょう。」
「千年牢獄の地下100階に投獄されております、ユベルを解放しても宜しいでしょうか。」
「なんと…我々も丁度その事で討論していたところだ。しかし、奴を手なづけられるのか?」
「はい。お任せください。私は不死の巫女。彼の為だけに存在する化け物でございますから。」
この交渉が行われる中、不死の巫女の言葉が王と宰相の心に響いた。彼女がユベルの手なづけに成功すれば、それは王国にとって大きな希望となるだろう。王は重い決断を下し、ユベルの解放を許可したのであった。
◇◆◇◆
牢獄の扉が開いたというのに、外に出ずに再び牢の中に入ったユベル。彼は自らの内なる葛藤に苦しんでいた。肉を切り裂きたい欲望はあるが、人間に対する恨みはない。そのせいか、罪悪感のようなものが彼の心を押しつぶすように迫っていた。
彼は自分の行動を後悔し、我慢できなかったことを悔やんでいた。その時、彼は自らを振り返り、初めてヒトであることを感じた。
(もう、ほっといてくれ…。この欲望を抑える事は俺にはできないんだ。)
暫く女の死体を眺めていると、突然その死体がムクリと起き上がった。ユベルは驚きと恐怖に満ちた声を上げて後退した。「わぁっ!!」と掠れた声を出し、身を引き離そうとした。
しかし、女は微笑んでいた。その微笑みは優しさと安堵の表れであり、彼女の目には静かな光が宿っていた。
「やっぱり。ユベル様には心があるのですね?」
その質問に一応コクリと頷いた。
「では、私と一緒に旅に出ませんか?ユベル様も良く知るアーレイ様を救う旅に。」
「あー…、え…い…あ…うぅ…ああ…。(アーレイを救う…?)」
ユベルは上手く声が出せなくて途中で口をつぐんだ。
「アーレイ様は最果ての古城におります。一緒に救いにいきましょう。それから…今の世界はユベル様にとって、とても心地の良い環境ですよ。」
(俺にとって心地の良い環境だと?また戦乱の世という事か?しかし、年数的にもアーレイは亡くなっているはずだ。俺と同じく生きているのか?確かにアーレイは優秀な科学者だった。俺を実験して不老不死になっていてもおかしくはない。)
彼女に導かれるまま、俺は約千年ぶりに外へと出た。太陽の光が眩しすぎて、目が痛んだ。それでも、久しぶりの自由な空気と光景に心が躍る。良い匂いが漂い、風が心地よく肌を撫で、空気が清涼で美味しい。しかし、この女は俺がここで逃げるつもりだとは思っていないのだろうか。
俺はもう自分が何の罪で投獄されていたか思い出せないけれど、人を殺しまくったのは確かだった。
「先ずはそのボロボロの服をどうにかしないといけませんね。ですが街に入ればユベル様は人を殺めてしまうかもしれません。ですから、先に鬱憤を晴らしに行きましょう。」
彼女の提案の意味は理解できていないがコクリと頷いた。
暫らく森の中を歩いていると、普通の犬の4倍は大きい犬のような生物が迫ってきた。その犬が襲いかかってきたので、俺は殺られる前に殺った。しかし、それが終わりではなかった。狂暴な犬たちは一匹ではなかった。次から次へと襲い掛かってきた。俺は激しい戦いの中で生き延びようと必死になり、日が暮れる頃には全ての犬を倒しきった。
日が暮れる頃には、俺は全ての狂暴な犬を倒し尽くした。その戦いは苦難の連続であり、俺の体は傷だらけになり、血に塗れていた。武器があればもっと早く終わっていたかもしれないと、俺は思った。しかし、俺の生存本能と執念が、この苛烈な戦いを乗り越えることを可能にしたのだろう。
「どうですか?まだ人を殺めたいですか?」
そう質問されて、不思議と殺したいと思わなかった。かつてはあれほど肉を切り刻みたいと思っていたのに、今はそれが満たされていた。俺は飽きるほど今、肉を裂いていた。そうか、俺は…ヒトでなくても良かったんだ。ただ…戦っていたかったのかもしれない。
俺は狂暴な犬たちとの闘いの中で、自らの存在意義を見つけたようだった。彼らとの生死をかけた戦いが、俺の内なる本能を満たし、彼の欲求を満たしてくれた。
「い…や…。」
「ユベル様はただ、戦争による酷い後遺症を患っていただけなのです。アナタはまだちゃんと人間です。」
そうか、俺はまだ…ヒトだったのか。何年も化け物だと言われ続けてきたし、無差別に人の命を奪ってきた。自らが化け物であると信じて疑わなかった。
しかし、狂暴な犬たちとの戦いの中で、俺は自らがまだ人間であり、心の奥底にはその本質が残っていることに気づいた。
「誰がなんと言おうと、例え自分自身が己を化け物だと決めつけようと、私からすればアナタはヒトです。」
夕陽の光が差し込み、彼女に後光が射していた。その光の中で彼女の姿はまるで神聖な存在のように輝いていた。
脳裏にアーレイの姿が浮かんだ。彼女は金髪の美しい長い髪を持ちながら、顔はとても普通で、そばかすがあった。その優しい笑顔と、やさしい眼差しは、俺の心に深く刻まれていた。
目の前の女性をよく見ると、彼女はアーレイに少し似ているような気がした。同じく金髪の長い髪が風に揺れ、顔立ちは優しくて美しい。
やはり気のせいか。アーレイはお世辞にも美しいとは言えなかった。
読んで下さってありがとうございます!
お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)