11p【重い思い】
「にーちゃんの病気。早く治ればいいね。」
ナリウスは退屈そうに、ユベルの発作による魔物狩りをディアと座って眺めていた。次の町への道中、ユベルは3回目の発作を起こし、その度に3時間は狩りをせざるを得ないのだった。
「そうですね。」
「次の町、大丈夫かな?ドラゴンがでたら一発、いや、一瞬で町なんて無くなっちゃうよ。」
「私の持つ情報では奥へ進むほど、強い方が集まっているそうなので、そう簡単には無くなりはしないはずです。ですが、ドラゴンを倒せる人がいるかどうかは分かりません。」
ディアは定期的に立ち上がり、ユベルの倒した魔物から落ちる戦利品を拾い集めていた。
「俺も、もっと訓練したいなぁ。」
ユベルに指示された通り、ナリウスは旅の途中で訓練を控えるようにしていた。その結果、彼は予想以上にスタミナを残してしまい、退屈を感じることが多かった。
「もう少しの我慢です。明日には次の町に着きますよ。」
ユベルが狩りを終えて、退屈そうなナリウスの前に戻ってきた。ナリウスは立ち上がって、自分の荷物を背負う。ユベルはそんなナリウスの頭にポンと手を置く。
「待たせてすまないな。」
「ううん。仕方ないよ。」
流石に申し訳なく思ったユベルはナリウスとディアを担いで走りだした。
「町と町の間って結界とか張らなくていいの?」
「そうですね。それはきっと町の人達がやってくれると思います。私たちがそこまでしてしまうと、最果てのイレーア村まで辿りつくのに数十年はかかってしまいますからね。」
馬と同じくらいのスピードで進んでいるおかげで、予定よりも早く町へついた。しかし、町はほぼ壊滅的だった。公爵領と同じ光景にナリウスはぎゅっと拳を握りしめる。
「始めよう。」
ディアは荷袋からスコップを2つ取り出してユベルとナリウスに渡した。
「私は町の人達を治療して回ります。万が一、発作でナリウス君を切り刻んでしまった場合はこの石で私を呼んで下さい。ナリウス君もユベル様に何かあれば、私を呼んで下さいね。」
ディアは杖をトンと地面に突き、宝石のような赤い石をユベルとナリウスに渡した。
「うわ。嫌だな。」
「俺の為にも早く強くなってくれ。」
(早く強くなれって、あんな一瞬でやられたら反応できるわけないじゃん)
赤い石をポケットにしまい、二人はスコップで堀を作り始めた。
ディアは大人の姿に変身して、死んでいるのか生きているのか分からない人達に回復魔法をかけて歩く。その姿はまさに物語の中にでてくる聖女のようだった。周囲の人々も口々に「聖女様だ…。」と呟いていた。
「もし、宜しければ、この町に結界を張りたいので東にいる私の仲間と堀を作って頂けませんか?」
そう言って神々しい微笑みを浮かべながら、スコップを渡して歩くディア。
―――――――
――――
「わ、にーちゃん、なんか人が来たよ。」
「ディアの仕業だ。」
「おーい、聖女様のお仲間様!手伝いにきましたよー!」
手伝いに来た人たちに堀作業の説明をして一緒に掘っていくこととなった。次第に人が増え、ユベルは堀作業をする手を止めて魔物退治を優先した。ユベルの魔物を狩る姿を見て町の人達は勇気を貰えているようだった。ナリウスも掘り作業を中断して、倒せそうな魔物を倒した。
「にーちゃんが掘ったら、すぐ終わるんじゃないの。」
「俺もそれは分かってる。だが、町の人達を鍛えないといけないからな。」
ナリウスは「そっか」と笑って言ったが、その裏では、こんなに優しい人がどうしてあんな発作を起こすくらいに壊れてしまっているんだろうと考えていた。どうして誰もユベルを守ってあげなかったんだろうと少し怒りを覚えていた。
「きゃぁっ!!」
女性の少し甲高い声が聞こえて振り向けば、羽の生えた赤いトカゲの魔物が町の人に噛みついていた。
ナリウスは狙いを定めて剣で一突きして倒した。
(的が小さいと大変だな。)
「よくやったナリウス。」
巨大な魔物をよそ見しながら相手をするユベルを見て溜息をつくナリウス。
(俺も早くにーちゃんみたいに強くなりたいな。)
その後もナリウスは魔物を倒して回った。もっと早く、もっと正確に。そんな思いで無我夢中で倒し回っていると、いきなり目を隠され、彼は驚いて身を震わせた。
「!?」
「ナリウス。今日はそこまでだ。」
「にーちゃん。」
ナリウスはユベルの声に驚き、身を止めた。
「戻って休もう。焦る必要はない。」
「うん…。っ!?うわぁっ!!」
ユベルはナリウスを優しく抱き上げ、自分の肩に乗せるようにして肩車をした。ナリウスの体を支えるために、ユベルは注意深くバランスを取りながら歩いた。
「ナリウス!俺は子供の頃、こうされたかったんだ。」
「にーちゃんには…その、肩車とかしてくれる人はいなかったの?」
「いなかったどころか、戦時中で子供でさえも戦争へ行かされるのが普通だった。幼少期から残酷な教育を施されて育つ。」
「あんまり甘やかさないでよ。俺は今まで十分甘えてきたから、もうちょっと厳しいくらいがいい。」
「そうか、じゃあ寝る前にスクワットと腹筋を300回ずつ増やそう。」
「うげ。」
しばらくそのまま進むと、ディアは町の人々に炊き出しを提供していた。その姿は穏やかで優しく、一人ひとりに笑顔を振りまいていた。鍋から立ち上る温かい香りが、周囲に広がり、人々の心をほっこりさせている。彼女の優しさと温かさが、町の人々に希望と安らぎを与えているようだった。
「ディアって大人の姿だと本当に物語とかに出てくる聖女様みたいだね。」
「そうだな。」
「にーちゃんは、ディアの事好きにならないの?」
「ん?」
「だって、凄く美人じゃんディア。」
「そうか?」
「…だめだ。にーちゃんも顔が良いから分からないやつだ。」
「ははは。顔が良いって本当に良く言われるな。でも、ディアにはそういうった感情は一切湧かないんだ。不思議とな。その変わり、癒される。」
「やっぱ、にーちゃん変わってるよ。あれに惚れない男って、にーちゃんくらいだよ。」
ディアがユベルとナリウスの姿をみつけて笑顔で手を振ってきたので、二人も手を振り返した。
その後、みんなで食事を取り、魔物の毛皮を敷いて休息をとった。ディアは周囲に聖水を撒き、簡易な結界を作り上げ、皆は安心して休息を取ることができた。
ユベルはぼんやりとナリウスの言っていた惚れるについて考えていた。
―――確かに、俺の古い記憶からしても男女が二人きりで寝屋を共にすれば必ず間違いが起こる。けれど、ディアは幼いし…いや、幼くはないか。これっぽっちも恋愛感情が湧かない。これまではどうだったかな。
ユベルの脳裏には常にアーレイが浮かんだ。
―――まさか。この俺があんな変態科学者に惚れていた…のか?いや、唯一接触してきた人間がアーレイだったからなはずだ。それに、今更アーレイを好きになってどうする。生きているわけでも……いや、生きてるのか。俺と同じく不死になっている…のか?だとしてもだ。今更俺は彼女とどうにかなりたいのか?
ディアが立ち上がると同時にユベルは発作が起きて体を起こした。
ユベルは敏感な鼻を頼りに、近くで漂う魔物の匂いを辿った。彼は執拗に魔物を追いかけ、その匂いが強くなる方向へと進んでく。彼の体は震えを止めることができず、内なる衝動が彼を駆り立てる。自分の体の震えが収まるまで魔物を次々と狩り続けた。
ユベルは魔物の狩りの中、ふと自分の体が静まっていることに気づきいた。その衝動が収まったことに安堵し、彼の心はひとときの平穏を取り戻す。
しばらくの間、彼は立ち尽くし、自分の感覚を確かめるように静かに立ち尽くしました。
「衝動は収まったみたいですね。」
「ディア…。」
ディアはまたもや戦利品を荷袋に詰めて歩いていた。
「ナリウス君が心配するといけないので、早く戻りましょう。」
「あぁ。」
―――ディアは…何者なんだろうか?
読んで下さってありがとうございます!
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GW中更新できなくてすみませんでした!作品を書くにあたって勉強せねばと、他の方が書いている作品を20作品ほど読み漁っていたという…。怠惰なのか勤勉なのかw




