「愛の記憶」(主人公:洋子、78歳、女性、元ピアニスト)
元ピアニストの洋子は、認知症を患い、徐々に記憶を失っていた。ある日、息子の家族と一緒に引っ越しをすることになり、荷物を整理していたところ、古い宝石箱を見つけた。その中に、美しいフェナカイトが収められていた。それは、亡き夫との思い出の品だった。
洋子はフェナカイトを手に取り、瞑想を始めた。すると、意識の中に若き日の自分と夫の姿が現れた。ピアノを弾く自分、そっと寄り添う夫。懐かしい記憶が鮮明によみがえってくる。
夫は、洋子の演奏を何より愛していた。そして、洋子も夫の支えがあってこそ、ピアニストとして活躍できたのだ。二人の愛は、音楽を通して育まれていった。
やがて夫は病に倒れ、洋子は看病の日々を送ることになる。最期のときも、洋子はピアノを弾き続けた。夫を想って、愛を込めて。夫は洋子の演奏を聴きながら、静かに息を引き取った。
目覚めた洋子の目には、涙が溢れていた。夫への愛、音楽への情熱、すべての記憶がよみがえったのだ。洋子はフェナカイトを胸に抱き、夫に語りかけた。「あなたは、いつも私の中で生きているわ」と。
洋子は息子の家族と新しい生活を始めた。認知症の症状は日に日に進行していったが、洋子の心には音楽と愛の記憶が生き続けていた。そして、ピアノを弾くたびに、夫の存在を感じていた。
ある日、洋子は孫娘のために、最後の演奏会を開くことを決意した。会場は、夫と出会ったあの思い出のホールで。洋子はフェナカイトを身につけ、ピアノに向かった。
洋子の演奏は、会場を感動の渦に包んだ。指は記憶を失っても、魂が音楽を奏でていた。夫への愛、人生への感謝、すべてを音に託して。最後の音が響き渡ったとき、洋子は夫の姿を見た気がした。微笑みながら、自分を見守っている夫の姿を。
演奏会の後、洋子はフェナカイトを孫娘に手渡した。「これは、愛の記憶を守る石なの。あなたもいつか、大切な人と出会うとき、この石を思い出して」と。
洋子はその後も、夫との思い出を胸に生き続けた。そして、ある夜静かに息を引き取った。まるで、夫の元へ旅立つように。
孫娘は洋子から受け継いだフェナカイトを胸に、祖母の思い出を語り継いでいく。音楽と愛に生きた祖母の人生を、そしてフェナカイトに秘められた愛の記憶を。
洋子の物語は、多くの人々の心を動かした。認知症になっても、愛する人との絆は消えないこと。音楽の力は、魂を癒やし、人生に彩りを与えてくれること。フェナカイトはその象徴となり、愛の記憶を守り続けていく。




