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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath
99/115

3-40 Star Trap

sideシロ



舞い上がる砂埃。


錆みたくザラつく血混じりの唾。


地面を這いずり、食いしばった隙間から溢れ出る渇いた息。




ー『バシィ‼︎ 』ードッズザザァァーー


「…はぁハぁ…っはぁ」


ザッザッザッ

「オぅラァァ」ザシュッ


『ボロォ?』

ー『バチィ‼︎ 』

ー「グゥっ…〜ー」ゴロゴロザザー


虫のように叩かれては立ち上がり、また斬り付けては叩かれる。


「はぁはァハぁはぁハぁ…ベロっプッ」


7回目?

8回目か?


意外と死なないもんだな…なんて思いつつ、ダラダラと垂れてくるしょっぱい鼻血を舌で舐めとる。


「…ぁ〜〜…っ、痛ぇなぁ〜〜くそ… 」


とにかく苦しくて、痛くて、熱い全身は、傷だらけで感覚も麻痺してきてる。

それでも未だこうして生きていられるのは、当の巨獣の戯れに過ぎない。


「ハぁはぁ…はぁっ、ゴメンな?お前にもこんななるまで付き合わせて……辛かったろ?」


とうとう後ろ脚を負傷してしまい、ひょこひょこと近寄る獣を撫で労うと


『ハッハッハっ、シュバァっ』


それでも砂まみれの顔で健気に声を返してくれる。



素直に、退けば良かった?


「ー〜っ…はぁはぁっ、八参ィィーーーーー」


いや違う。

これは一つの結果。


「ハぁはぁ、はァ…なんらよ〜」


都合の良い想いが実らなかっただけの。

だから…


「ハァはァ…はァもう無理っ、ここまでだ」


だから後悔はない。

しないっ


逃げず、立ち止まらず、挑んだ今に嘘は無いんだ。


ズズ…ザ、ズズ…ザ、ズズ…

「…そ、そう、らなぁ……ん?ダメらぜ?シロさんが、先に行ってくれらいと」


片足を引きずり、明らかに呂律のおかしな八参だが、剣を握る手には力一杯の血管が浮かぶ。


「クッ…… 」


お前……とっくに限界なんだよ。


けどボロ雑巾だろうとまだ終わりじゃない。

生き残ってるんだ。

見込み0の焦げ付いたケツなんて、気にせず捲ろうぜ?


あとは新美さんと、目の前のコイツが黙って見逃してくれるかだけど…


と、新美さんの方を横目で見てみると、肩で息をする彼は長剣を杖のように地面に突き立てながら、首ごと身体までをも大きく後ろに傾けていた。



…ン?


それに釣られて見る洞穴の高い天井近く、そこにはどこから現れたのか分からない、不自然な光を放つ白いヒラヒラが舞い始めていた。




「…雪?いや、ンなワケ… 」



と考えている間に増え広がるそこを



ーーバシュゥゥゥッ



突き破るよう飛び出て来た何かが落ち…ては来ず、それは空中にピタリと静止した。



正体不明のそれが最初に広げたのは腕。

半透明ながらも虹色に輝くその輪郭は、ややスリムな人型をハッキリと映し出す。

そして天井近くを舞うヒラヒラがその身体に吸い込まれると、振られる左右の腕から複数の光線が走り


ーコォーーーゥーバズンッ‼︎


異変に気が付いた巨獣の肩から背中を貫通。

地面まで穿つ。


「おぉ…… 」


あれは……味方?

それとも敵の敵?



『『ボロォァァアーーーーーーー』』


しかしそれでは致命とならない巨獣は怒り狂い、オレ達の落とした剣の一本を拾い上げると、空に浮かぶ人型目掛け思い切りブン投げた。


「危っ… 」


ーーフォッーー〜ー〜 ォ〜 ォ 〜 ビタっ


だがミサイルの如く放たれた剣は近付くにつれ急激に、いやスローの様に速度を失っていくと、やがて手品のようにピタリと静止…


ぺシャ


した直後、先端から潰れて見えなくなった。


硬いゴム質の皮膚すら貫くこの剣が、まるで丸めた新聞紙の剣みたく。


次にその人型は伸ばした両手を胸の前で合わせると、器のように象った手の中を宙にまくような動作をした。


フワンーフワンーーポゥッ…


するとそこから浮かんだ白い輪が、上昇しながら波紋みたく広がって…中空に消えた瞬間



ーーヒュンッーーー『『ドザァンッ‼︎ 』



「…ンな、何だこれ… 」


数メートル先、凄まじい速度で落下し地面に突き刺さったのは、道路標識くらいありそうな巨大な戦斧?らしき物体。



ーフッーズサ…


「うわッ⁉︎ ………デカ… 」


続けて目の前に突如現れた人型は、その周囲に放電?のような煌めきと、ゆっくり明滅する不定形生物(アメーバ)(掌大以下大小様々)のようなモノを纏う巨人(3m超)


ードザッードザッー

『『ボロァォオーーーー』』


そこへ待ってましたと襲い来る巨獣。


「ぉ、おい。来てるっ、来てるってッ」


明後日の方を向いたままの人型に、痺れを切らしたオレは思わず叫んだ。


すると人型は自分の身体よりも長いそれを掴み、軽々と片手で持ち上げ待ち構える姿勢。


ーードザッーードザッーー


いや、無理だろ…


ーーードザッーー


「避け… 」


そして交差


ーフッー ーフッー


はせず巨獣の振りかぶった腕の後ろに転移


ービュンー


と同時に小枝の様に振り払われた巨大な戦斧は


『ボロォッ⁉︎ 』


右腕を音もなくすっ飛ばす。


ズサァッ


そして人型は巨獣のすぐ目の前、斜め前方に着地すると


ービュォーフォー


そのまま戦斧ごと独楽の様に横回転し



ーヒシュシュシュンーーー



一閃…いや三閃?




ズズ…



『ボ……ボァ?…… 』



ーズズ



ーーズズー



ーーー『ドシャンン… 』



するとあれだけ斬って刺してをしても、弱りもしなかった巨獣のぶっとい胴が、呆気なく上下真っ二つになり地面へズレ落ちた。



「なんで⁉︎ ……ぇ?」


刃の長さ足りなく…


いや、それよか死んだ?


膨らんだ期待がハジける寸前、斬られた断面から何かが噴出。

それらは逆巻き集まって人の形をなす。


「おいう… 」


ーブシャシャンッ‼︎


オレが叫ぶよりも早く、飛び掛かろうとした敵数体が空中で細切れになり飛び散る。



ど、どう言う次元だよ…

辛うじて斧の残像が見えるだけとか。


ーバシュビシャブシャッ


新たに現れる敵を、隔絶した力で寄せ付けない人型。

しかし巨獣の亡骸はまるで開いた地獄の門。

溢れ出る亡者の如き存在は、刻まれても刻まれても際限無く発生し続ける。


な。何だよアレは。

もし、もしもこの人型がやられたらオレ達は…


「っ…い、いい加減に死ね。消えろっ」


終わり無き悪夢のような異常なしつこさは、弱ったオレの不安不吉を煽り立て、息苦しくなった喉から意図しない悪態(なきごと)を吐かせる。



ーフッー


刹那、戦斧を残し人型が消えてしまった。



「…え?……、…… 」


どこ行った?

居ない。

いないっ


すると溢れ出る亡者らも驚いたのか、周囲をキョロキョロと窺っている。


まさか時間切れ?

ンなっザケた話し…なら早く逃…


「……ぁ⁉︎ 」


狼狽えるオレの視線が止まったのは、巨獣の亡骸の直上10mほど。

そこに浮かぶ人型は、右手を伸ばす格好で逆さに降下して来る。



ー『『ズゴブシャンンッ‼︎‼︎ 』』ー


〜「うっわァッ‼︎ 」〜


前触れ無く全身を叩いた轟音と衝撃。

それは亡者の群れと乗用車数台分ある巨獣の亡骸をまとめて消した。



「……潰…した?」



さ、流石にこれは終わり…か?


終わったんだよな?


数十センチ。

陥没した地面のシミとなったヤツらから、サラサラとした灰のような物体が浮き始めると、それらは水飛沫の様に細かく舞い上がり、逆さのまま浮く人型の周囲を周回して消えていく。



「「…………… 」」



その様子を目で追っていたら、人型は逆さまのまま、階段を登るよう一歩一歩降りてくる。


この次元の噛み合わなさ……、正に宇宙人じゃね?

この剣がプシャるのを見たから、流石に指を向ける気にはならないけど。


すると立ち止まった人型は、唐突に指先を伸ばした。


ビクッ‼︎


こ、コイツテレパスなん?


キョドりつつも指を差し返すべきか迷っていると、人型はその指をゆっくりと動かす。



「……、あの岩?行け…って?」


本意の程は分からないけど、この超常の存在に逆らうのは得策じゃないと慎重に歩き出す。



ジャ、ジャ、ジャ


ジャ、ジャ…

「着いた、けど?」


と振り返った瞬間


『『グンッ‼︎ 』』

ーー「ゥンォわァアーーーーーーっ⁉︎ 」ーー


とんでもない力で吹き飛ぶよう身体を引かれ切り替わった視界。


ーーバシューーーーーーッーーー


そこは一面が真っ白。

ジェットコースターを何倍、何十倍も早くした呼吸すら難しそうな速度で


ーーーーー「ーー〜ッ」ーーーー


斜め下、かと思えば斜め上へと縦横無尽に引きずり回されて、今し方入って来た場所すら彼方へと一気に遠去かる。








どこまでも…










どこまでも…



















果てなく広がる

























白く凪いだ世界に




































「おい、おいシぉ、シロさんらい丈夫かっ」


肩を掴む感触。


「 ‼︎ や、八参… 」


目を開くと歪む視界。


「ぁ、ぉ、オレ… 」


(かじか)んだみたく揺れる声。


「急ぃどうしたまったんらよ……、顔、ぐちゃぐちゃだぞ?」


慰めるように優しく語りかけてくる八参。


それもその筈。

オレの涙腺と鼻腔は、ぶっ壊れたみたいに水分を放出していたから。


何でオレ、こんな泣いてるんだ?



「……八参、ティッシュ」


「ぁ?…〜っと、…と、()ぇっ、持って()ぇよそんらん。あ、預かった包帯なら」


「はい、シロさんどうぞ」


パタパタと手を動かし真っ黒な顔で焦る八参の脇から、脇腹を押さえた新美さんがティッシュを差し出してくれた。


「ブーーーーーっ、ブーーーーーっ、ブブーーーーっ、はぁ〜〜〜〜〜………疲れた。アイツは?」


ティッシュの柔らかな感触に安堵を感じつつ、四方八方へと視線を彷徨わす。


「最後、メチャメチャでよく分かんなかったけどさ、何とか生き残ったね〜〜全員で」


そう言ってにこやかに笑う新美さんは、人差し指を真っ直ぐに突き立てた。



「………………… 」


膝立ちのまま天を仰ぎ、視界を遮る蓋の向こうへ、一番星でも探すよう視線を飛ばす。


だがそこに何かを見つけることはなく、何かが結ばれることもなく、ただ閉店(クローズ)後のシャッターを前にしたような気分だけが残った。



「……ぁ〜〜〜ダル過ぎて頭回んね。風呂入りたい、ベッドで寝たい」

「俺は腹、減った… 」


ザ…

「八参、戻って何か食うか」


「あぁ…らな。悪ぃ」


ザっザっザっザっ

「シッバキさ〜ん?」


肩を組み、ヨロヨロと歩き出したオレ達を置き去って、大昔の少女マンガみたいな内股走りで駆けつける新美さん。



「…はぁハぁはぁ…ッグっ」


しかし起こされた芝木さんは大量の脂汗に塗れ、いつものツッコミも出てこない。


「ありゃ〜〜結構逝ってんね〜骨。俺ストレッチャー持って来るよ」

「新美ッ」


走り出そうとした新美さんは急ブレーキ。


「〜っ…しくじった、尻拭いくらいは、自分でする」


そう言って芝木さんは痛みを堪え立ち上がると、弱々しい足取りながらも少しずつ歩き出し



「……そう?なら良いけっど」


見守る新美さんを無視して追い越した。



「なぁ、シロさん」

「ン〜?御託の続きか?」


「…………、ぁ〜〜〜…、……こえで、帰れんろかなぁ俺たち」



「……ハハっ、だと良いな。お前らも行こう」

『シュバフ』


辛うじて生き残ったのは三体か。

仲間を失ったコイツらは、この戦いをどう思ってんのかな…






こうしてオレ達の挑んだ帰還の為の無謀なミッションは、人死にこそ無かったものの多くの犠牲を出しそして、最後の最後に突如顕現した人型超生物の、1分にも満たぬ活躍によりその幕を下ろした。










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