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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath
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3-39 損際の背負う命〔P2〕

side比奈


日比谷(ビヤ)、ご両親の事で大橋さんに弱いから、無理にでも連れて来たら良かったですかね?」


「う〜ん、でも… 」

「必要無いでしょ。真黎さんが口火を切ってくれた上で、あの子自身が彼との今までと、この先の利や義を選んだんだから。それより今は自分達の心配」


ずっと黙り込んでいたサキが堪え兼ねるよう景織子を気遣うけど、私は宇実果の返事に被せ会話を切る。


「ヒナ先輩、相変わらずドライですぅ」


少しあざといけど、気遣いの出来る明るい咲。

縁故採用で世間知らずだけど、和を乱さない真面目な景織子。

感情が先行しがちだけど、矢面に立つことを厭わない真っ直ぐな宇実果。


各同期の中でも優位な者同士と繋がりを持った方が、色々と都合が良いと思っての友人関係だったけど、こうして長くなると知らず知らずに染まってくる。



ザ、ジャ、ザ、ザ、ザ…

「ねぇ、宇実果(マツ)

「なに、梓」


「あの人の言ってたこと、どう思う?」


小声でそう言うのは、班長から一応と聞かされていた要注意人物

(" 我が国の優秀な人材を幅広く世界へ "と言うスローガンを基に、バカな新政権が発足させた国産産業育成委員会。耳障りの良さと手厚いバックアップを謳い文句に前インチキ政権発足以来、売国方針を隠しもしなくなった外務省が推し進める肝いりの新たな1セク。そこへ堂々と入り込もうとしていた紅幇系中華人)

の連れの女。



「……梓は、どう思うの?」


尋ねられた宇実果は友人のショック度合いを慎重に見計らいながら、同じく小声で丁寧に聞き返した。


「…うん。今も戦ってるんだよね、その人。ならそんな人があんな事はしない気がする」


「うん、だね。私もそう思うよ」


「じゃああの人、どうして決め付けるみたく言ったんだろ?ポリシー云々であそこまで言う?」


そう言って友人は眉間に少しシワを寄せ、端でシャッターを切っている芳川さんを見る。


この態度は本物?痴情の縺れって線は?

いえ関係無いか。

そこに誰の思惑が有ろうと無かろうと、今回は何の命令も出されていないCA対応時に起きた事件。



「やっぱり…おかしい。時間的には拓けた場所どころか、ボチボチ川に着いてもいい頃のはず」


「ふむ。記憶違い…とかではないんだね?」

「そもそもがこの地面、こんな風に均されてなかったんですよ」


首を振る消防士の野木さんが訴えると、堤さんは後続の人達の向こう、来た道の奥に目を凝らし、極々小さな溜め息を吐いた。


それは未だに追い掛けてこない待ち人の影を追ったものかと思いきや、何も言わず静かに離れて行く2つの影。

最後尾近くにいた若いカップルに向けられたものだった。



「どうします?」


野木さんもそれに気が付くけど、無視する様直ぐに顔を戻し堤さんへと指示を仰ぐ。


「進もう。先ずはある程度身を隠せて且つ、守り易い場所まで行かないと話にならない」


その言葉に皆頷きまた、ゾロゾロと足を動かし始めるも、その雰囲気はまるで通夜の参列。


そこで周囲と同じく黙り込む私だけど、頭の中は不審な人物らの所属について捉われていた。


先ずは堤さんと九鬼さん。

この統率慣れもそうだけど、素人集団をもって捕獲網を準備させた手際の周到さ。

射撃が得意(元オリンピック候補)な私でも、あの混戦ではあそこまで正確な銃撃は多分不可能。

これら練度は明らかに本物のそれなのに、その人とその部下について、公安とも連携しているウチの上からは何の情報も来なかった。

となるとやはりの防衛省か、もしくは内調ないし公調辺りの特別部隊員とか?


次に新美とか言う男。

この状況で敵勢力に紛れ潜めるスキルから、実戦経験のあるプロなのは間違いない。

だけどあの男の雑なやり方は、裏と言うよりも傭兵か非合法の類いに違いない。

こっちに関しては情報が来て然るべきなのに…解せない。


そして最後の極め付けは猛獣に乗って舞い戻…


" ゴッガァンッ‼︎‼︎ ギャリギャリリィィ‼︎ "


フラッシュバックする巨大な怪物による体当たり。


〜ブルッブルブルッ〜


ダメだ。

武装兵士の襲撃まではまだ受け入れられたけど、あんなモンスターが出現するなんて反則。

以降、理解と言うか整理が仕切れない。

けど、けど何かしらこの現状を紐解いていかないと、袋小路に追い詰められた様で気がおかしくなりそう。



「…………フゥ〜〜」


息を吐き出しながら、痺れるような冷たい指先をこすり合せる。


思考を戻そう。


伊佐木とか言う男。

あんな目立つ格好をしているのは一般人。

なのに当初から身を呈し戦い続けている彼が、例え任務としても死ぬ気のない私にとって一番謎。




謎…


まず携えていたあの武器。

あれはどうやって手に入れた?

偶々拾ったとしたらそれまでだけど…いや、そだと連れていた猛獣の説明がつかない。

動物が人を背に乗せると言うことは、それなりの訓練を受けていないとおかしい。

つまりはそれら一式を誰かから譲り受けた。

ならその誰かは何故それを譲り渡す?

それは譲り渡す関係性が在る…か、利害関係の一致が有るから。

普通に考えて確率が高いのは後者か。

もし彼がこの世界やここに来た理由を知っているのならば、最初の調査でその誰かとコンタクトを取っていたはず。

でも最初はコンタクトを取る為の合図(なにか)をするに留まった?もしくはコンタクトを取っていたけど隠していたと言う可能性は?

だからあの光る波の襲来時、彼らは運良くそこに居なかった。

…は無いか。

隠したとするなら隠す理由が必要になる。

例えばこの旅客機内に居る誰かに害を及ぼす為とか。

だとしたら襲われている私達の為に、わざわざ戻って来てまで戦う訳がない。

あんな有り得ないモンスターを相手に。

しかも先ほど彼は、あの九鬼さん以上に前に出て、誰よりも果敢に戦い、強固なパーソナリティを持つ真黎さんに自ら友とまで言わせしめた。


彼等はまだ、生きているのだろうか…



「きっと大丈夫ですよ皆さんっ」


私の心の問いに答えた様な張りのあるその声は、集団を包む痛い程の沈黙をも同時に切り裂いた。


「実は俺、今までに三度ヤバい現場があったんです。でもその内二回は人死にが奇跡的に0。そして((玉君っ))その幸運な二回と((玉君玉君っ))ちょ、分かったから待ってろって。今日が同じ仏滅なんですっ。だからこのジンクスで俺逹は、必ず無事に生き残れますよ。で?何だよ美沙子」


奥さんに向かい、ウンザリした顔をする野木さん。


てか、めっちゃ犬っぽいのにタマなんだ。

どうでもいいけど。


「…玉君、仏滅は明日」

「え?ウソっ、今日仏滅だって」


「…今日は先負だよ」


「「「「「「…………… 」」」」」」


((な、なんでそこを先に言わないんだよっ))

「言おうとしたでしょさっきもっ。つか毎度毎度、私の話を聞けってーのこのマヌケっ」


慣れた夫婦のその掛け合いは、数日前まで誰もがよく見た日常風景を思い出させ、地面ばかり見ている顔を自然と上げさせた。


「ぉ、おぉ。そぉだよな…うん。明日かぁ仏滅……………じゃ皆さん、明日まで大丈… 」

「皆さん前方をッ‼︎ 」


奥さんの剣幕に気圧された後、子供の様な笑顔と共に拳を握る野木さんたったけど、突然飛び込んだ声に血相を変え奥さんの手を素早く取る。


また最初に気が付いたのは真黎チーフか…と思いつつ前方を見ると、奥の方から薄らとした灯りが天井を走って来る。


もしかして安全圏に着いたとか?


「なん?どうしたっ」「何?何?」


「何か、奥から明るくなって来てませんか?ボンヤリと」


そう言ったのは宇実果。


「あ、本当だ」

「ねぇ見える?」

「いや、何も… 」


そして大多数に見えていないのもまた同じ。


「アレは、赤い…絨毯か?」


灯りと共にこちらへと向かって来るそれを、私と同じ様に認識したのは、貫禄ある眉の下を眇める堤さんだった。











side九鬼


「ハッハァッ、ハッハァッ、ハッハァッ、ハッハァッ」


旅客機(ベース)から離れて間もなく30分。

ずっと走り続けているというのに、聞いていた川も先行組の足跡も見当たらない。


どうなっている?

ほぼ一本道と聞いていたし実際にそうだった。


「ハッハァッ、ハッハァッ、ハッハァッ、ハッハァッ」


いや、何かと遭遇し途中のどこかに隠れているのか?


と見落としに逡巡し、脚の力を抜きかけた時


「……っ」


あれは?


40mほど先の壁際に、人らしき形を捉えた。



一歩一歩近付く毎にそれが人だと確定。


更に壁に背を預けて座っているのは2名。



「ハァッハァッ、おいっどうし…ッ‼︎ 」


だが男女と思われるその2人は、既に事切れミイラ化までしていた。



「………、………四肢の欠損は無いな」


周囲に生き物の気配がない事を確認し、改めて服や靴を見て、大将と避難した中の誰かなのかを頭の中で照合する。


「っ…、居た、な。………、………………悪いが少し確認させてもらうぞ?」


いつもの様に問いかけながら、2人の目の前に腰を下ろした俺は、身体を支える手と繋がれた手から確認する。


「手の擦過傷ナシ爪アリ削れナシ。それに血痕もナシ。目立った外傷は……、………、……、……どちらも全くナシ…かおっと」


倒れそうになった女性の首を素早く受け止め、そっと男性の肩に乗せ、元のように寄り添わせる。

すると離した指の間に抜けた髪束が絡みつき、反対の手でそれを摘み取ると、感触も無く千切れて落ちた。


ここは本当に不可解ばかり。

もしかして新美か、あのシロ君ならば何かを知っていたか?



「……フーーーーーー… 」


そして振り返ってみても、そこにはただ静かな薄闇が佇むだけ。


だが事実だけで考えるのなら、彼等は、戻ろうとした途中でこうなった。





「ハッハァッ、ハッハァッ、ハッハァッ、ハッハァッ」


取り敢えず一団は前に居る可能性が増したことで再び走り出した俺は、さっきまでよりも一段ペースを上げ、何も考えずただ呼吸と索敵にのみ集中した。








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