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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath
93/128

3-34 アップアップTO〔P2〕

side九鬼


。。。機内



「あの、ありがとうございましたっ」

「ありがとうございますっっ」「アンタ凄い

よ、本っ当ぉにありがとうっ」


俺を見るなり立ち上がり、血や泥で汚れたまま顔を綻ばせる面々が一斉に駆け寄ってくる。


「ありがとうございましたっ」「ありがとうございますっ」

「あぁ〜イイイイ、もうイイから。ついでだついで」


そう言って狭くなった通路を通り過ぎようする目の前に、スッと差し出されるタオルとコップ。


「これ、どうぞっ。さっきはすみませんでしたっ」


「〜…いや、俺こそ悪かったな。急に引っ叩いて」

「〜っ〜っ」


危急の事とはいえややバツの悪い俺に対し、女は取れそうな勢いでブルブルと首を振った後


「ってお前(それ)血塗れだぞ」


「ぁ、これは私のじゃなくて… 」


俺の指摘に対し哀しげに目を伏せた。


ダダダダッ

「テメェェェーーーーッ『ドンっ』っく〜」


その時突然叫び出し、俺の横を走り抜けようとした男の胸を軽く小突き止める。


〜ドサっ

「ーゴホっ、ゴホっゴホっ〜なん、で… 」


それにより尻餅をつく男は、驚きに目を見開きながら咳き込んだ。


「あれぇ?もしか俺ぇ?…ってことは(さっき)のかぁ。じゃ〜怒るんじゃなくて褒めてあげなよ。お友達の活躍で無事だった人が居るんだからね〜」


「か、活や……く?あ、アイツはお前のせいで死んだんだぞっ」


「えー〜、あのままならどっちみち死んでたのに?俺のせい?」

「ッ、けどお前がアイツを押さなきゃ助かってたかもだろっ」


「あぁーハイハイもういいよ、気持ちは分かったか〜らさ。んで?それを俺に言ってどうすんの?」


「どうって… 」


「はぁ…、てかアンタそれだけ文句言えるならさぁ、あの兵士共にも言ってやったら良かったじゃん?お前らやめろ、犯罪だぞ、って万歳でもしながらさぁ。ブぷぷっ」


「そ、そん……く、クソっ、クソぉ」


少しも悪びれない新美は嗜虐満面の笑みで答えると、男は周囲の人間と俺を見たのち、悔しさを嚙み殺し床に爪を立てた。


「ゴクゴクゴクっ、アンタらも今の内に休んでおいた方が良い。残念ながら先行きはまだ、まだ、暗いままだからな」


コップの水を一息に飲み込んで返し、集まった人間らにそう言って奥へと進む。


「新美」

「へ?なに?」

「一般人相手にいちいち構えるな。大人げないぞ」


"あれぇ?もしか俺ぇ?" などとトボけていたが、さっき咄嗟にあの男を止めていなければ、コイツは容赦の無い反撃をしていた。


「えぇ〜知らないよぉ、俺は大人じゃないし一般人だし。そもこれだけ人が死んでんのにさぁ、現実見えない能ナシなんて要らないって」


「はぁ… 」


確かにコイツが居なければ被害はもっと増えていたし、あの状況での囮も効果的な手段だった。



「…ー〜ッンっ、ぃ痛い、痛いぃ… 」


面倒な空気に嫌気がさしたそこへ割り込んだのは、切迫した苦悶の声と息遣い。


見ると真っ赤な血が滲み出る上腕を針と糸が往復し、傷を負ったCAが、ギュッと瞑る目尻から滴が溢れ出る。


負傷箇所を麻酔無しに縫合する。

一般人では当然の反応。


「ゴメン景織子、あともう少し、だから……頑張って」


だが手先を赤く染めるこのCAは、血の感触(ヌメリ)にも、独特のニオイにも、一切臆すことなく手を動かし続ける。


「日比谷、来月の海、絶対行こうね」

「…ンっ〜、っ緑川…先輩、私、行けますか?」


痛みを堪えるCAは傷口を不安げに見、青褪めた唇でたどたどしく答える。


「大丈夫大丈夫、私泳ぐの苦手だからさ…一緒にビーチでゆっくりしよ?ね」

「はい」


この出血量…結構深傷だな。


「あとは糸をコッチから回して、そう、うんオッケー」

「フゥーー〜」

「お疲れ様。後は包帯を巻いて終わりね」


看護師(負傷)の指示があるとはいえあの女、大将が褒めるだけはあるな。


「頑張ったね、景織子」


「…看護師さん、チーフ、ありがとうございました。あっあの、さっきは、ありがとうございました」


新美に気が付いた景織子と言うCAが、慌てて身体を起こしつつ礼をいうと、他のCAも揃って頭を下げた。


「おい新美」

「へ?あぁ、イイイイついでついで…なぁんて?ニャハハ」


新美はワザとらしく俺を真似ると、小バカにするようふざけて笑った。


「緋芦花、ねぇ緋芦花」


心配する母の呼び掛けにも目を覚まさない娘。


「あの娘、負傷してるのか?」

「あの子はないよ。俺が助けた時もケガをしてたのはCAだけ」


となるとあれは極度の疲労、あるいは爆発による心因性の昏睡か。


「おい、泉水さん」

「は、はい、あっありがとうございました」

「それより心配なのは分かるが外傷はないんだろ?脈も呼吸も問題ないのなら、今は静かに休ませてやった方が良い。アンタ自身も」


「そう、ですね」


泉水は疲れた顔で頷くと、何かを抱き締めるようにしている娘に手を重ね、自身も目を閉じた。


「…っ、ーー〜…クっぅ〜嘘だ… 」

「〜んな、なん、であんなっ… 」「うぐっ、ゥゥ〜…お父さぁぁぁん〜」


そして声を押し殺し咽び泣いているのは、今回新たに親しい者を喪った者達。


はぁ…久々のこの感覚。

こんな形で戦場に戻されるとはな。


「んじゃ俺、自分の席に戻るからね〜バイっ」


そんな機内において唯一、旅行始めのような陽気さの新美は、両手を頭の上に乗せこの場を後にする。



カシャっ、カシャっ

「良い横顔頂きっ、お疲れ様っ」


「お前もこの雰囲気で相変わらずだな」


「今の所私にやれるのは撮影(これ)だけ。他に出来る事もない私が沈んでちゃダメでしょ」


そう言って笑うカメラ小僧も年頃の女。

平静を装ってていても、内心は不安や恐怖と闘っているんだろう。


「ねぇ、さっきのあの人は知り合いなの?」

「そう見えるか?」

「だよね」


「気になるなら話し掛けて来たらどうだ?アイツも凄かったろ?」


「ヘラヘラして見えるけどさ、目付きが…物凄く冷たいし……。なーんかちょっとね」


「ほぅ。ただの図々しい見境無しかと思っていたら、少し見直したぞ」

「バカ、当たり前の遠慮をしてちゃ私の仕事は成り立たないんだよっ」


そう言って鼻筋にシワを寄せるカメラ小僧。


「フ、それでご自慢のそのカメラはあの爆発を捉えられたのか?」

「九鬼さんを追ってたから撮り逃した」


「そうか」


俺は小僧の頭を軽く撫で、自分の座席へ向かう。




「任務、完了したぜ大将」


「御苦労。良くやった」

「あぁ、まぁ見ての通り運にも助けられた形になったがな。それであの爆発、あれは一体何だったんだ?」


「あの水面にあった青白い光だ」

「青白い光?」

「そうだ。それが渦巻くよう宙空に吸い寄せられていき、一箇所に凝縮。やがて弾けた」


何だそれは。

戦いに集中していたとは言え、俺にはそんなモノ少しも見えなかった。


「それで九鬼、お前はアレをなんだと思う?」


この人はこの洞察力を超える優れた感性で、過去起きた様々な危機を幾度も救ってきた。


「俺にはサッパリだよ。だが無視して良いものじゃないとだけは思う」


「…………… 」


「…なぁ、大将にそんな顔されたら不安になるぜ?」


だが今回は旅客機ごと起きた神隠し。

こんな奇異な厄禍なんてのは、人知を超え過ぎていて対応なんて出来るはずもない。


「私に、何か変わりはないか?」

「変わり?まさか体調でも悪いのか?」


「いや違う。渇き、疼き、震え、悪寒、潜む不慮の調べ、その一切が消えてしまったのだ」

「それは状況がクリアになっただけだろ?それともこの極限状態で細胞が活性化して、超絶健康体になったとか?」


それでも俺は、俺達は、下を向きはしない。


「九鬼、今回お前を強引に現場に連れ戻しておいてなんだがな、もしかすると私も役目を終えたのかも知れん」

「やめてくれ、作戦途中にらしくない物言いは。それにさっき使えそうなのが1人増えたんだ。御役御免の話しなら、お互い無事に戻ってからゆっくりすれば良い」


人生を懸け生き方を教えてくれた大将。


「そうか、そうだなすまん。では引き続き…いや、これまで以上に油断をせず気を引き締めろ」


「あぁ分かってる、了解だ」


貴方を無事に帰すまではな。



そうして再度準備を整えた俺は、もう行くのかと面倒がる新美を連れ、アレの調査のため機を後にした。








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