3-27 Shallow Blue〔P2〕
side八参
俺と目が合った奴は警戒するような小走りから徐々に速度を上げ、向かって来るシロさんへと迷い無く槍を突き込んだ。
ーパシッ〜グルン〜
しかしシロさんはそれを半身で避けながら掴み取り、その勢いのまま身体を翻し捻り上げると、2人は互いに槍を頭上で掴んだまま背中合せに…
対新美のリュウコウさんみてぇ
なった瞬間シロさんはそれを即座に離し、コマ送りのような速さで身体を戻し背後を取ると、敵の右脇から通した手にいつの間にか握る刃物で人質を取った格好に。
す、スンゲェ早業。
これで敵の出方を…
が次の瞬間
ーーシュッー
もう一人の敵はそれを意にも介さず槍を突き出す。
ー「ッー〜っ」
焦るシロさんは敵ごと身体を引きズラしなんとかそれを避ける。
おいおい兜をしてるとは言え、今のは兵士の顔まで刺しそうだったぞ。
「問答無用かよッ」
そう言うと同時、シロさんが掴む兵士はビクリとした後前へ強く押し出され、敵はそれを避けようと槍を横へと動かすと
「ッ‼︎ 」
一瞬で懐に飛び込まれ面食らう敵…の鎧兜の隙間には既にシロさんの腕が伸びていた。
ボトっ
手から落ちる槍。
「ぅグッ⁉︎ 」
「シロさんっ」
しかしそのまま力尽きるかと思われた敵は両手を伸ばし、首を絞め道連れにしようと足掻く。
「〜〜ッ」
突き込んだ刃物を抉るよう動かすシロさん。
けど敵は離そうとしない。
助け…
フィー ー ー ー ー ー ー っ
なんだ?風?
耳を掴むような不思議な音に戸惑った瞬間
『バキンッ‼︎ 』
何かが割れる硬質な音が上に被さる。
その元はシロさんの掌底で突き上げられ、折れた割り箸みてぇに曲がった敵の左肘だった。
ぅんげ…エっグ〜
更にシロさんは折ったその肘辺りを掴み、ホールドしていた左手首と合わせ巻き込むように敵を投げ落とす
『『ドザンッ‼︎ 』』
『ゴズッ』
とそのまま顔面へ容赦無い踏み付け。
この人マジで強ぇな…ハハ。
そしてグッタリした兵士の首から抜けた刃物を拾い、それを直ぐさま腰に仕舞うと敵の槍を回収。
「八参、…走るぞ」
その一本を俺に手渡し向かって来る後続の一団を睨むシロさんは、旅客機へ戻る洞穴へと走り出した。
「ォシッ」
すかさず全力で追い掛けるけど、一歩毎に背中は離れて行く。
早ぇっ
ザッザッザッザッザッ…
「ハッハッ先っ、行ってくれっ」
そう言うと更に加速する背中。
俺も早い方だったんだけどっ
「〜ゥッハッハッハッ」
フィー ー ー ー ー ー ー っ
またこの音。
コイツらが出てきた穴からか?
ザッザッザッザッザッザッ…
「…ハァハァッ…、……ハァハッ… 」
黒い穴の前にはそこを守る様に立つ4人の兵士が居る。
いや、それよかシロさんだけならギリ抜けられそうだ。
行けっ
間に合ぇ…ぇえっ⁉︎
行く手を遮ろうと走る敵たちを振り切れそうな所で、針路を急激に右へ変えたシロさんは先頭の敵目掛け突っ込んだ。
面食らう敵は慌てて槍を構えようとする。
その定まらない槍先をシロさんは穂先で外側が巻き込んで跳ね上げると
「オラァァァッ」ー『ボゴンッ‼︎ 』
敵は上段から思い切り振り下ろされた一撃を頭に受けドサリと倒れる。
ー『ブゥンッ』
そして腰を落としたシロさんは威嚇するよう槍を横に振り、それにより敵の一団は気圧され網目状に広がった。
ザッザッザザァ…
「ハァハァハァハァ、何で… 」
「ハァハァ何度もっ、ハァッ言わせるなっ。3人で帰るんだよっ」
腹は括った。
何があろうとシロさんに従うって。
「ハァハァっけどっ」
仲間の中での自分を考えるのはムズい。
特にここじゃ一つの選択ミスが命に関わっちまうんだ。
「ッ…オレだって心中する気はないっ」
クドイとばかりにイラ立ちを露わにするシロさん。
「ハァハァ、すまねぇ… 」
けどそうだよ。
俺だって3人で一緒に笑いてぇんだ。
「それにあのこ…いや今はいい」
そう言ってシロさんは目の前の兵士たちへ視線を戻す。
「そう…か、んじゃどうする?どうしたらいい?」
「どうしようなァっー『ガキィッ』後ろの壁、何とか登れそうだよな?」
横から伸びた敵の槍を弾きつつ、シロさんは雰囲気を切り替えるようあっけらかんと言う。
登…れるか?かなり垂直に見えるけど。
でも6〜7m上には段差が見える。
あそこまで登れたら一旦助かるかもだけど…
「なぁ、〆縄の穴なんか謎いよな?守ってる風だし。中行ったらよ、帰れたりとかしねぇかな?」
ーシュッ
「ツお⁉︎ 」
間合いを測り隙あらば伸びてくる槍をバタバタと不恰好に避ける。
ーシュッ
ちょ⁉︎
格闘技すらまともにやったこと無いってのにっ
ー『ガキっ』
武器で殺しに来る集団の相手とか厳し過ぎんだろっ
「お前も聞こえ『ガキィガキンっ‼︎ 』たんだなっ。流石に帰れるは無いにしろ…でも今は無理だなっ」
「ハァハァっ、そうだよなぁ… 」
多勢に無勢。
常に取り囲もうとする敵にシロさんですら思ったように攻められず、俺たちは徐々に後ろ側の通路近くまで押し戻されてしまった。
「ハァハァ、とにかく焦るな…それと、ハァッハァ脚にだけはっ、傷を負うなよ」
そうやって常に俺を気にかけるシロさんだけど、こっちのフォローまでするせいで肩が跳ねている。
「…ハァハァハァ、あぁ」
動きが鈍れば即終わるもんな。
返事と共に顎から垂れ落ちる汗。
「ハァハァハァハァ… 」
けどジリ貧だ…
今んとこ飛び道具が無いだけマシだけど、壁…
コイツら前に悠長に登れるわけねぇし。
フィー ー ー ー ー ー ー っ
まただ…
と、か細く響く音へと気を取られた時
ーシュッ
しまっ‼︎
反応がワンテンポ遅れた俺は
〜「〜〜ッ」〜
避けることには何とか成功したものの、体勢を崩し片膝をつく…と両サイドから畳み掛けるよう槍が伸びてくる。
〜〜『ドっズサァ』
『カシィィッ‼︎ 』
考える間も無く身体を倒すと、今いま自分の居た場所で交差する鋭い槍。
容赦ね〜…
「八参ッ」
ー『バキィ‼︎ 』
シロさんの声と共に交差していた槍の一本が消えるけど、頭の後ろ側からも複数の土を蹴る音がする。
右?左?と選択が定まらない内に身体を左へ。
ゴロッ〜
『ザスッ』
〜ゴロッ〜
『ザスッザスッ』
〜〜ゴロッ〜
一回転二回転?で硬い地面に両手を目一杯つき、足を畳みながら上半身を起こ…
「避けろォォーーーーーッ」
すと視界の右上から首の付け根目掛け落ちて来る刃。
マジか槍…
ーブォッー
手放しちまっ…
避けようがない俺は両腕を咄嗟にそこへ。
「〜ッっ」
ー『ズガッ‼︎ 』
だが来るはずの衝撃は無く、その音は足下の地面に突き刺さった。
「ー〜っ『ザクッザクッザクッ』
そして目の前の兵士は何者かに背後から掴まれ、必死に捥がくも首と脇腹を何かで突き込まれ
「ンァぁラァっ」
ーー『ドサァッ』
その掛け声と共に股から持ち上げられ兵士の方へと投げ飛ばされた。
「何でお前が… 」
助けに…と唖然とする俺。
突然の加勢に狼狽する兵士たち。
そこへ間髪入れずタックルをブチかます芝木は捉えた兵士の1人を軽々持ち上げると、横で身構える兵士の方へ倒れるように押し込む。
「おい後ろッ」
即座に反応する芝木は振り返り様下から拳を振り上げると
「フンッ」
ー『ドゴッ‼︎ 』
背後に迫っていた敵の顎は首がもげそうな勢いで跳ね上がりドサリと大の字で倒れる…がしかし、そこで先程押し倒された兵士の1人が芝木の腰にしがみつく。
マズイっ
「ウオラァァァアァア」ーー
だが芝木は少しも動じずにその腕を掴み剥がし、樽の様な上半身を回転させダンボールでも放るように敵を投げ捨てる。
ー〜『ドッザシャァァーー‼︎ 』
横に飛ばされた兵士は顔面を強打。
地面に突っ伏す。
ス…ンゲェパワーー、つか芝木シロさんにはあんな苦戦してたのに、メっチャクチャ強ぇじゃねぇか。
「フゥーーーー〜っ、お前らなら自力で抜けるかとも思ってたんだが……『ドスッ‼︎ 』でも流石だな」
そう言って足元に転がる槍を拾う芝木は殴った敵にトドメを刺すと不敵に笑う。
このタイミングを逃す事なく1、2、3人目を倒そうとしているシロさんを見て。
ーズキッ√「ッゥ⁉︎ 」
そんな間隙を待ってたかのように走る痛み。
反射的に触れたTシャツの袖はグショリと濡れていた。
チっ、避け切れてなかったんか…
ザっザっザっザ…
「ハァハァハァ助かった芝木さん、最高のタイミングだっ。けど… 」
「××ァーーーーっ」
ルボァ?
「ハァハァ、こっからが本番のようだ」
突然向こうから怒声のような音が響くと、残った数人の兵士らはビタっと動きを止めゆっくりと後退って行く。
ザっザっ…
「みたいだな。…あれはちと手が掛かりそうだ」
そして集まった俺たちが睨む先からは、あの4人の内の2人がこっちへと向かって歩き出した。
フィー ー ー ー ー ー ー っ
「なぁシロさんこれ… 」
手放した槍を拾い尋ねる。
「あぁ何だろうな、この声」
声?
" それにあのこ…いや今はいい "
ぁぁ、だからあん時方向変えたんか。
けどそう言われると確かに声に聞こえなくもねぇ……のか?
「なぁ、声って何の話だ?」
「声っつか今いま甲高い音が聞こえただろ?風の音みたいなよ」
「…?そんな音したか?」
「してんだろ何度も、お前ツンボか?」
「……いや、俺は霊感とかない。やめろ信じないぞ」
急に何言ってんだよこのおっさんは…
「霊?なもん俺だって信じてねーよ。けどここじゃ何が起きてもおかしかねぇ。だろ?」
「ッ………はぁ、確かにこの兵士らもか…ってお前」
『ドフゥッ‼︎ 』ーーードザッーゴロっーゴロっゴロゴロ〜
「「「「「「ッ‼︎⁉︎ 」」」」」」
突如〆縄の穴の前に陣取る兵士が地面を跳ねるよう転がって、敵も俺らも全員が一斉に釘付けられ固まった。
何だありゃまた蜥蜴?
いや…
ー『バシィッ‼︎ 』ーズザザァーーーー
だがソイツはそんな空気など御構いなしと回転ししならせたた尻尾を薙ぎ払い、吹っ飛んで立ち上がれない兵士に近づき踏みつけると
『『シュバァァァアアーーーーッ‼︎ 』』
うぉぉ…
独特の咆哮を天井へと叩き付けた。
そこで漸くハッキリとした闖入者の全容は、真っ黒な体色のアリクイの様なフォルム(体長4〜5m)の怪物。
んまーた出て来やがったよ厄介そうなのが〜〜
グイッ
「ッ何す… 」
突然傷を押さえる手が退けられる。
「いいから見せろ……、動くなよ」
『パツッパツッパツッパツッ』
「イッて痛ぇっ痛ぅっ…イっ」
乱暴に袖を捲る芝木は手際良く傷口を処置すると、軽く頷いてステイプラーを腰に仕舞った。
「ちゃんと医療用だから安心しろ。洗浄と消毒は後回しだ」
「っ…なんか余計に痛ぇぞっ」
「……まぁ自分を殺そうとした相手に礼なんか言いたくないよな」
芝木はガキでも相手するように少し目を緩める。
「いやありがとう芝木さん。流石本職」
「…何だ、アンタに言われるとそれはそれで引っ掛かるな」
「フ…、八参大丈夫か?」
そう言って芝木と軽口を交わすシロさんはずっと前を向いたまま。
大丈夫か?
" 耐えれるよな " って念押しにしか聞こえねーぜ。
「へッ、こんなん血さえ止まりゃ問題ねーよ」
「なら敵が襲われてる今がチャンスだ、行くぞっ」
そして振り向きもせず怪物の向こうに走り出す。
「なン、そっち?ってオイってぇっ‼︎ 」
動揺する芝木は口から泡を飛ばす勢いで俺を見るけど、その声は反射的に駆け出している背中が置きざる。
こうやって引っ張られんだよな。
自分でも思ってもみない奥の方からスルって容易く。
…ザ、ザ、ザっ
「〜ぁあッも… 」
だよなぁ解る解る…クッ〜〜っ
だってこの魔法みてーに吹き抜ける上昇気流は、死の近いこんな場所ですら軽やかでココチイイ。
どこに運ばれたって、すぐに落ちたとしたってきっと笑えるほどに。
ザダッザッザッザッザッ
ー「死ぬ気かクッソォォっ」
だから諦めろ…と俺は喚きながらも離れない足音に、湧き上がる場違いな笑みを噛み潰す。