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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath
76/115

3-17 Maybe True〔P3〕

side宇実果


「元殺人犯が乗ってるんです」


動き易そうなジャケット&スニーカーに色味の強いメイク。

私の後を追うように走って来たショートヘアの女性は、そう言って振り動かす手に小振りなカメラを握っていた。


「はぁ?何て何て?」「殺人犯って言ったぞ今」

「私もそう聞こえたけど…冗談でしょ?」

「でも現に人が死んでるし… 」

「てかあれマジで死んでんの?」

「ヤバくない?」「あの女は何者なん?」


そして突然発生した事件にまだ追い付けて居ない私達は、更なる予想外の色付けに混乱が加速する。


「ちょ…貴女っ、確証も「誰ッッ‼︎ 」


確証も無く変なこと言わないで…と続けようとした私の言葉は、髪を振り乱した梓の叩き付けるが如き誰何に遮られた。



「…絹針八参。あのモンスターと戦った内の1人」


その名を告げる艶やかな赤い唇。


「絹針八参……絹針八参… 」


ボソボソと呟く梓の目は焦点が定まらず、女性らしい爛漫な雰囲気はどこにも無い。



「〜〜っ」


言葉が出て来ない。


本来八参君は犯罪なんて犯すタイプじゃない。

それは彼の為人に少しだけ触れて理解した。

でも、同時にあの人は踏み越えられてしまう。

理由さえ有れば。

過去のあの事件のように。


でも…


「あれ?その顔は…もしか客室乗務員さんは知ってた?なら絹針とあの男性の関係は?」

「無いわよ私の知る限りっ。それより貴女… 」


そう言って唇に手を当てた女に文句を言おうとすると


「貴女の言う通り確証はないけどでも、彼が人を殺めたのは事実よね。こんな事件が起こってしまった以上私はそれを伏せてはおけないの。芳川薗女、ジャーナリスト」


彼女はそう言って少し長い前髪の隙間から私を睨み、颯爽とカメラを手に下げ離れて行く。


ジャーナリストだからって何?

ううん、寧ろ本職としてのジャーナリズムを履き違えている。

何年もの贖罪を終えやっと出て来た人に、こんな決めつけるみたいなレッテルを貼るのは絶対に違う。


「ちょ… 」

「落ち着きなさい宇実果」


モワモワと体内を蒸らすこの感情を彼女に返そうとした時、それを吹き飛ばす風みたいな一言に私は止められた。


「過去云々は関係無く、機外に居た彼も容疑者の1人には違いないわ」


それは…


「でも彼は自分がやった事を隠すタイプじゃない。そしてさっき出発する前の彼にそんな素振りは感じられなかった。でしょ?」


" んじゃちっと行ってくるわ "


そうだ。


「あず…『グイっ』

「待って、これは彼とその過去の出来事を知らない他の人には理解されないわ。それに証明が出来ない以上貴女が…私達が今、誰かに肩入れをしてはダメだと思う」


いつも理知的な真黎さんは剣道と合気道の有段者でもあり、そこらの男性よりも余程心身共に鍛えられている。


「それよりも今するべきはこの事態の収拾。どんな思いがあるにせよ今は、被害者である彼女に寄り添ってあげて。友人として。そしてその上で彼女が落ち着いたら経緯を聞いてみて」


そんな事実も含めた真黎さんのその声は、周囲に聞こえない程度に抑えられていても私の背中をグッと支えてくれる。


「っ…分かりました」


そう答えた私にゆっくりと頷いてから真黎さんは息を深く吸い込むと


「大変勝手な事を申しますがお願いが2つ御座います。今この場にお見えになる皆様方には暫しここでお待ち頂きたいと思います。それと、私がこれから順に回って行きますので皆様のお名前を伺わせて下さい」


そう言って周りを見渡した。


そして十数秒の沈黙…

誰も反対の無いことを確認した真黎さんはポケットからメモを取り出すと、お客様方のお名前を1人ずつ記帳して回った。



「それじゃ宇…松宮さん、私はこれからこの事を機長に報告し指示を仰いで来ます。私が戻って来るまでの間皆様のご対応を」


「はい、分かりました」





ー5分後ー


( 3-13 二日目…の続き )




「ごめんね松。……もう、…大丈夫だから」


「………うん」


やっと落ち着いて来たと言うのか、目の前の現実を受け入れるしかない梓に対し、なんと答えたら良いのか分からない私にはそれしか言えない。



そして何も言えない時間が刻々と経過して行く。



ザッ、ザッ、ザッ…


それから更に5分程が経った頃か、近付いて来た軽快な足音に振り返ると、そこには予想通り真黎さんの姿があり


「皆様ご協力ありがとうございました。機長とも相談しました結果、この様な場所でこれ以上お客様に不都合をお掛けしてはならないと相成りましたので、只今を持ちましてご自由にお過ごし下さい」


周囲の人達それぞれに向かって3回頭を下げた。


でも下げられた人達は一様に事件(これ)をどう扱えばいいのかと、隠せない困惑が浮かんだままだった。


「真黎さん、警乗… 」


員の方は?と聞こうとした時、余りにも驚愕した真黎さんの表情を見て私は固まった。


「直ぐに湖から離れて下さいッ‼︎ 」


ビクッ⁉︎


「うわあぁぁ」

「何だ何だっ⁉︎ 」「キャーーーッ‼︎ 」


そして真黎さんが突然緊迫感の込められた声を上げ、幾人かの悲鳴が反射的に上がる。


「何だよ、何も居ないじゃないか」

「あれ、波?」

「津波じゃ… 」「逃げるぞっ」


慌てる皆んなの振り返る先、ずっと穏やかだった湖の奥からは、青白い光が波打つ様にこちらへと押し寄せて来ていた。


「いや大丈夫だろ、そんな焦らなくて」

「そうだよあれくらいの波なら…つか待ってろとか離れろとかどっちだっての」


活発そうな男性2人組がそう言う。


確かにそれなりの傾斜となっているこの湖畔なら、あの程度の波は問題無さげに思えるけど…


「本当?」

「いやでも分かんないだろ。二波三波があるかもだし行くぞ」


でも近くのカップルの男性が彼女の手を引き動き出すと、半数以上の人が続々と洞穴の方へ上がり出した。


『『ピィーーーーーーーィッ‼︎ 』』

「っ…皆様早く、早く上へッ」


なのに血相を変えた真黎さんは早く早くと急かす。


「真黎さん?」

「宇実果、ご友人を早くっ」

「え… 」

「いいから急いでッ」

「あ、はい、梓」


真黎さんの勢いに圧された私が座り込んでいる梓の腕を引くと、彼女は混乱したままに彼の頭を地面に下ろして立ち上がる。


『『ピィーーーーーーーィッ‼︎ 』』

「皆様危険ですッ‼︎ 早く向こうへ、奥へ避難して下さァァいッ」


再び目一杯笛を吹き鳴らす真黎さんは傾斜を上がり切った所でも叫ぶ。


「なぁ、あのCAマジで大丈夫か?」

「おぉ…逆に怖ぇって」

「もしかして津波のトラウマかもですよ?」


私と梓が傾斜を上がり切ると、そこに居る人達は怪訝な顔で話している。


確かに真黎さんらしくない取り乱しよう。


「皆様ァァッ、早く下がってッ、ー〜ッ…早くっ」


私と私の背中の向こう地底湖を一瞬見た真黎さんは泣きそうな顔で訴えているけれど、その必死さの原因にピンと来ない人達にはいまいち伝わらない。


「梓もついて来て」

「あ、…うん」


ザッザッ

「真黎さんっ」

『グイっ』

「っ⁉︎ 宇実、果」

「行きましょうっ、皆様急いで下さァァい」


駆け寄った私は真黎さんの腕を掴み、そのまま走り出しつつ叫ぶ。


「宇実果も見えるの?あの白い、雪の結晶みたいな光る(モヤ)


白い靄?

光る波じゃなくて?


「いえ、でも兎に角私達から動くしかないですっ」


そう言って私に抗おうとする真黎さんの手を更に強引に引く。


正直私もこの状況の差し迫り具合は理解出来ないけど、真黎さんがこうなっているのだから問い正している場合じゃない。


" 旅客機(セーフエリア)と水、最低限の安心が得られた今だからこそ動かないといけない。状況は突然変わるから "


「私は最善を尽くしてる真黎さんを信じてますっ。だからシロさんの言葉を思い出してっ」


" 忘れちゃいけないよ?オレ達は死の瀬戸際にいた事を。もしまた誰かの為に、なんてやってたら次は……ね?"


八参君が酔い潰れた後のこの苦言は、我が身を顧みず行動する真黎さんを案じた言葉。


「私は自分の命が大切ですっ。真黎さんの命も同じくらいっ」

「ッ…そうよね、ゴメンなさい」



そして動き出した私達を中心に周囲の人達も走り出した時、地底湖に現れた波は浜辺の目の前へと迫って来ていた。











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