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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath
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3-16 Cherry Go Round

side御月



←←←

昨日

←←



・・・店2F(倉庫兼事務所)



『シュルシュルシュルシュルシュルーー』


窓を開け放ち10m近い細長いベランダへ出ると、足下には人工芝が敷き詰められている。

それは排水口や室外機の周りまで5mmの隙間無くキッチリピッタリと。


いつ見ても気持ちの良くなるこれはシロさんによるもの。

この丁寧さと几帳面さが流石なんだよなぁ。

丸一日中腰で作業し続けるあの根気も。



『カチッ』


パパァーーーーーーァ…


「フーーーー〜〜… 」


そして少し離れたクラクションを聞きながらタバコを咥え、吐き出した煙越しに見上げる先は澄み渡る淡い水色。


" また行って来るよ。二〜三ヶ月後?くらいに "


少し困り気味にそう言ったシロさんは、約束通りに今頃空の上。



「店長〜」


「ん〜?」

「僕コンビニ行ってきますけど何かいります〜?」


言いながらベランダに顔を出すショーア。


「そのスカジャン」


ホワイトをベースに金の日章旗と零戦と言うシロさんお気に入りの一着は、実在のパイロットの最期の文面まで入ったレア物。


「はい、無理言って譲ってもらいました」


それと合わせたワンポイント刺繍(イエロー)の白Tと、ネイビーのベルト付きワイドパンツ(白地に青と黒の細かなチェック)が抜群に上品さを醸している。


「キマッてんじゃん」

「昼間はもう暑いですけどね。で、何かいるものあります?」

「タ…「煙草以外で」


ちっ


「んじゃコン「店長。たしかにバツ子アリの無責任発射は近隣国のミサイル並みに考えものですが、そんなにお好きならホストにでも鞍替えしてはいかがですか?」


こんな時勢にホスト?バカ言え。

ってか中国系アメリカ人の癖にどんなけ日本語ペラペラなんだよ。


「つかお前って女っ気無いよなぁ…ゲイなん?」

「フ…快楽に蝕まれた性依存はただの病気です。知らぬ間に人生の主軸を失いますよ?」


しかも俺よか言い回しが高度せいか、眼鏡のブリッジを指先で触るいかにもな仕草もサマになってる。


やっぱ相当慣れてんよな、コイツ。

あんま認めたくないけどここの所女性客増えてるし。


「ならお前は?」

「当面借金の返済ですよ。シロさんには借りがあるので」

「いや、お前どう見ても良いとこの子だろ?」


色々と努力した今だからこそ分かる。

コイツは所作から何から身に纏うモノが根本的に違う。


「確かに親は…知事?州知事?の立場にありましたが…


ハイ予想の上ーーーーーーっ


僕には一切関係ありませんよ」


元でも州知事の息子とかボンボン超えてサラブレッドかよクソっ

しかも某配信者が " コイツらが居なくなれば世界の問題の殆どが解決するよな " と言う中国の血。

それが入ってるとは思えない謙虚さと温厚さの高身長(182cm)塩顔イケメン。


なんか余計にキラキラして見えて来た。



「…?どうしました?」


「てなるとさ、シロさんとはどんな繋がりなん?」


こんな好物件を釣ってくるなんて、相変わらずあの人は謎があるな。


「今まで気を遣ってたんです?」


今頃聞くのかとショーアは少し可笑しそうにした。


「フゥーーーー〜〜… 」


「ハハ、幼馴染を介してですね」


「オレ知ってる人?」


アメリカだと蓮さんが子供の頃住んでたよな。

後は米軍人と繋がりのあるリムさんとか?


「多分ご存知ないかと。それより店長の話ですよ」

「あ〜何だっけ?主軸?そんな大層なもん掲げてたら人生息苦しくてツマンネーだろ」


店も順調で日々は充足してる。

だから過去(キッカケ)とか借金(リユウ)とかそんな詮索(ヤボ)は不要だな。



「…そう言う時期なんですね」


同い年が吐く解った風な言葉だけど腹は立たない。

コイツにはシロさんとはまた違う不思議な説得力があるから。


「そうなんかもな。んじゃテキトーにチョコ買って来てくれよ、新しい美味そうなやつ」


「……まぁOKでしょう。不必要な糖分の摂取はお勧めしませんが、過剰な喫煙よりかは幾分マシなので」


虫を払う様に手を振ったオレに対し、不承不承と言ったショーアは仕方無しにと背中を向けた。



「ったく… 」


シックスパックも含めアイツはどんなけシロさんに感化されてんだ?

けど食いモン然り、S◯X(レンアイ)他人の不幸(ゴラク)も人間は香るくらいに甘〜い秘蜜が好物なんだよ。

大体シロさんだってちょいちょい遊んでるの知ってるだろアイツはよ。


「フーーーー〜〜… 」


まぁいいさ、スタンスは人それぞれ。


けどシロさん本当にあの子と何も無いのか?

言ってた予定よりも早く会いに行くのに?


それにしてもあの子可愛いのは勿論だけど、画像で分かるくらいパンパンのチチしてたよな…


チチか。

チチの力か。

やっぱりチチだよな。

チチあってこその母であり、チチとは簡単には超えられない偉大な存ざ…


((ブルルルルル、ブルルルルル))


ん?琴吹さん?


巨乳を敵視する貧乳代表からの着信に、オレは一抹の不安を感じた。


まさかシロさんが巨乳(オンナ)に会いに行ったのを嗅ぎ付けた?


((ブルルルルル、ブルルルルル))


いやでもシロさんは聞かれれば隠さないだろうから、もしその話なら知ってるまま正直に答える方が無難だよな。

あの人を敵にするのは得策じゃない。


「はいはい、どうしまし『みみっ御月君テっ、TV観てっTVっ‼︎ 』


うおっ⁉︎ ウルサっ


「え?TV?何す『いいから早くッ‼︎ 飛行機がっ、シロさんの飛行機がっ堕ちちゃったかもなのぉ〜〜』


「…はい?」


飛行機堕ちた……?



多分泣いているだろう声を少しキンキンしてる耳で聞ききながら、タバコを消し言われるがまま部屋に戻ってリモコンを取る。



「…パートの浴室で男性の遺体が発見されました。ここ数日、連絡が取れない事を不審に思〜〜」


ポチッ


「…週のバブル期最高値を更新後、40000円を目前に大量の売り注〜〜」


ポチッ


「…ースが入りました。繰り返します。緊急のニュースが入りました。先程新国際空港で、11時10分発上海行きの◯◯7便が、離陸後消息を絶ちましたっ。航空会社の発表によりますと、◯◯7便には乗員乗客合わせて132名が乗っていたとの事です。現在消息を絶ったとされる海域にて海上保安庁のヘリによる捜索が行われておりますが、◯◯7便の行方は依然として判明していない模様です。それではここで空港の方へ繋ぎます。小山さん」


「〜〜…はいっ、こちら新国際空港前からお送りしております。たった今入りました情報によりますと、第◯◯7便は管制により問題なく離陸した事が確認されており、その後程なくして突然レーダーから消失したとの事です」


顔を強張らせ早口で話すレポーターの周りには、他局の記者とカメラマンが何人も映り込んでいる。


「現在大日本航空では全社を挙げ原因の究明に乗り出しており、事前の点検でも機体に異常は見られ無かった事が確認されております」



「……この便なんですか?本当に?」

「本当だよぉ〜ぉ〜〜…携帯も全然繋がらないっしぃぃ…ふぅっ、ぅふっえぇ〜〜ん〜… 」



「またこの事故により航空各社殆どの便が運航を見合わせており、空港内には足止めをされた利用客で溢れ返っ… 」

「ただ今新しい情報が入りました。当該旅客機の機長についてですが、勤続25年のベテランパイロットのようで、最近の体調や健康診ーー」



マジ…



で…



かよ……



そこから先はTVの音が遠去かっていき、数年振りにこの感覚を再び味わった。



当たり前の日常が、突然消え去るこの喪失感を。









ーーー

翌日





((ブルルルルル、ブルルルルル))


今度はユウキちゃんか。


「はい」

「本当なの?」

「シロさんの事なら本当です」



「…………………わかった、ありがと」



昨日は皆んなが知らなかったお陰でゆっくりと落ち込めたけど、今日は引っ切り無しに携帯が鳴る。


でも余りにも動揺している人たちからの対応を繰り返していた為か、とりあえずかなり冷静になれた。



「はぁ…一服しよ」


近しい所からは一通り連絡が来たしな。







・・・2Fベランダ。





" やらなくてよくないすか?どうせスリッパ履くし "

" …人ってね、意識はしてなくても認識しちゃうんだよ。だからね、殺風景な雰囲気は極力無くすの "



「フゥーーーーーーー〜… 」


本当ですね。

日課…と言うより習慣のタバコをふかすこの毎日が、シロさんのお陰で気持ちいいんです。




車の排気音に人々の雑踏、それにタバコの煙を連れ去って行くビル風がふと止んだ瞬間


((……っー〜〜…〜〜… ))


ん?


何か話し声が聞こえたオレは入口を覗ける位置に移動した。




女の子とショーア?


両手で顔を覆っている女の子の服装や髪型は今風。



へぇ〜〜〜〜


ほぉ〜〜〜〜〜〜〜


どうもあれは泣いてるっぽいよな。

ってことは泣くだけの関係性が有るってことか…


「…………… 」


んでもどう見てもフォルムがポッチャリ気味。



「フゥーーーーーーー〜…フっ」


けどアイツはアメリカ人。

オレらとは好みが違うよな。


ある意味スカした同僚の、突然出くわした修羅場と垣間見える癖。

それはこんな状況のオレの心を少しだけ躍らせてくれた。



" 最悪戻って来れないって可能性もあるのね?"


そう言われたあの日から、ちゃんと覚悟はしてますよ…オレ。


だから、もしもそうだったとしても大丈夫ですから。






・・・1F店内。



ゆっくりと2本目のタバコを吸い終わってから下に戻ると、ショーアは店内に戻って来ていた。


「なぁショーア?」

「はい店長」


「さっき上から偶々見えたんだけどさ、あの子何?お客様?」


じゃないよなぁ?



「…何か楽しそうですね」

「いやー〜〜いやいやいやぁ?そんなことは無いよぉ?ただお前も男で安心したって感じかなぁ〜〜ハハハ」


そうだよ楽しませろ。


「僅かながらに優越感じみたものが察せられますが、…彼女に失礼ですよそれ」

「い〜やそんな気は全く無いよ。好みなんてのは人それぞれだし?」


「その言い方だと否定出来ていませんけどね」

「まぁまぁまぁ気に障ったんならゴメンゴメン。で?何があったのよ?泣いてた風に見えたけど?」


「そうですね… 」


そう言ってショーアはオレから視線を逸らした。


「深刻…なのか?」


一応真剣な声音にするけど所詮は男女問題だからなぁブハァっ


珍しく思い悩んだコイツが余りにも可笑しくて、吹き出しそうな内心の笑みに腹筋を総動員。



「…店長」


「うん」


溜めんで良いから早よ。


「勘違いしています。彼女はシロさんの知り合いなので」

『ハぁァっ‼︎‼︎⁇ 』


「ちょっ、突然大声を出さないで下さいよ」


「いやいやいや待てよおい。間違いなく泣いてたよな?さっきの子。親族とか?」

「こんな状況ですから当然ですよね。親族とかでは無いですよ」


そう言って淡々と掃除をするショーア。



" 泣くだけの関係 "



シロさん…そう言うこと?



好みは人それぞれと理解しつつも、オレは再び味わうこととなった。


普段は真面目な親父の性癖が、ゴリッゴリのSMだと知った時に似たあの虚無感を。










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