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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath
70/115

3-11 Lily Ray〜 憐嗟反応

side宇実果


「何?誰か殺したい奴でもいんの?」


八参君らしい皮肉った顔。


「ん〜〜居ないな、ただの興味本位。消えた方が良いと思う野郎は沢山いるけどね」


イジメをしていた連中には過去八参君も嫌がらせを受けた事があり、それが犯行に及んだ動機とされているけど…


「ハハっ、だろうね。結構執念深そうではあるけどさ、今のシロさんはそういう囚われた感じがねーもん」

「ふふ、間違いでは無いね」


即座に同意するリュウコウさんに、ほんの少しだけ口をへの字にするシロさん。

でもその表情は分かってますよ的なもの。


「んじゃま引っ張るもんでもねぇし答えるわ」


こうして話してみると余計に違和感が増す。

正直この人がイジメられる想像がつかない。


「まずはアイツらが席に着く時をバレねぇように何度も観察するっしょ?んでそん時の動きから椅子の触れる箇所に毒を塗りたくった。給食にパンが出る前日の深夜にタップ〜リとな。何をってのはまぁ詳しくは言わんけど、時間の経過でも性質や残留濃度が変化し難い無味無臭のやつを粉末状にしてね」


でもこんな事を思い付き、しかも実行する中学生って時点で変わってるのは間違いない。


私が動機について考えている間に話は進んでいく。


「まぁ効果は出なきゃ出るまで繰り返すつもりだったよ、やり方を変えて何度でも。あと学年主任のクソは車のドアノブだったから運要素が強かったんだけど、バチってのはちゃ〜んと当たるもんだなぁ。ここも俺のした事が善行だと思える重要ポイントな」


善行善行だと殊更に強調する八参君の中では、きっと今も消化し切れていないのだろう。


そしてこの事件以降薬品類の取り扱いが厳格化厳罰化され、様々な業界からの不満が彼に向けられた。

しかし同時に八参君のした復讐は多くの人達(妹含む)から天誅と支持されて、彼の減刑を求める署名は第一回公判までに10万を超えた。


ホントただの優等生だった環があれ以降人が変わっちゃったもんなぁ、攻撃力が高くなったと言うか何と言うか…


「んじゃ今度は俺からも良い?」

「オレ?」

「腕相撲してくれよシロさん。あの化け物相手に1人で踏ん張ってたろ?ムショって鍛えるくらいしかやる事ねんだよ〜」


身長もあるし脂肪が無いから細めに見えるけど、そう言って袖を捲り上げた八参君の二の腕は言うだけはある太さと隆起が見てとれる。


「いやそう言う腕自慢的ノリはちょっと苦手なんで、代わりにお見せします」

「シロ君飲んでるけど大丈夫?」


空かさず心配するリュウコウさんだけど…見せるって?


「まぁまだそんな酔ってないんで。んじゃ行きまーす」


そう言って両手を上げたシロさんは


「ほっ」ザックルッザックルッ


えっスゴっ

身体柔らかっ


その場から少しも前進せず、回る歯車の様に前転を繰り返し


ザックルッザックルッ


「…ンッ」

ザッーーー


そして四回転目が終わった所で止まって膝を折ると、今度は両手を勢い良く振り上げて真上にジャンプ


ーーグルンーー


からのバク宙。


た、高っ


「「「……‼︎ 」」」


ーー『ズザットットト」

ーー「ッウぉっとぉ」


回り過ぎたのかシロさんは着地でよろめき数歩下がった。


ちょっと今私の頭くらいの高さあったくない?


「それもだけど32って本当なのかしら?職業が気になる… 」


高さを確かめようと手を掲げた私を見て真黎さんが言った。


確かに……何かのアスリートとか?


パンパンパンっ

「…とまぁこんな感じの身体能力って事でどうかな?」


手を払うシロさんは八参君に言う。


「……ぉぉ、スゲェバネだわ。体操部?」

「いやサボりがちな元サッカー部。ちなみにあの時は踏ん張ってたってよりも振り回される力に逆らわず、とにかく噛ませた車椅子を吐き出させない事に注力してた」

「へぇ〜〜」


そう言ってシロさんはウェットティッシュで手を拭くと、八参君とコップを当てて酒を飲む。


「ぷはァっ、こりゃ良い感じに盛り上がって来たくね?けどこのままだとなんか負けた気分だな。あ〜〜、あぁ〜〜〜〜」


そう言って喉の調子を合わせる様な声を出した八参君が目を閉じる。



「フゥーーーーーっ……〜〜♪ 」


そして一呼吸置いて…



「〜〜♪ 」


歌い出した。



「〜〜、〜〜〜♪ 」


その歌声はとても力強く空気を震わせて、次々と周囲の人達を引き込んでいく。



「〜〜〜〜♪ 」


「…凄い、喋ってる時の声と全然違う」

「……うん、メチャ上手だね」



「〜〜〜、〜〜〜〜〜♪ 」


「いやこの太い低音と掠れるがなり声、マジでどうなってんの?」


驚きと賞賛をする真黎さんリュウコウさんシロさんの言う通り、彼の声は普段とは真逆と言っても良いくらい。



「〜〜〜〜〜、〜〜〜♪ 」


だから、到底気付ける筈なんてなかった…



「〜〜〜〜〜〜♪……以上お粗末っ。いや〜久々歌ったけどアカペラって難いなぁってなんかリアクションしてくれよ」


「「「「「うぉぉおーーーっ‼︎ 」」」」」

『パチパチパチパチパチっ』


そう言って気恥ずかしそうにする八参君に応えたのは周囲の人達。


何一つ私達を照らすもの無い暗く沈んだこの場所で、何者にも縛られない彼の声と紡ぐその旋律は、まるで篝火みたいに竦んだ心を奮い立たせるよう。


「上手いっ」「サイコーーっ」


「あはは、ありがとありがと。まぁちっとばかり人生踏み外す前はさ、マジでバンドでもやりたかったんだよな。いや友達おらんかったけど」

「ハハハ、今からでも遅くないでしょ」

「うん、私もそう思います。ね、宇実果?」


" 何聴いてるのよ環 "


「…宇実果?」

「あ、はい、そうですね」


" ん?これね、最近話すようになったクラスの子に教えてもらったんだよ。歌ってるの私らと同い年なんだって?凄くない?この声、めちゃくちゃ癖になるからお姉ちゃんも聴いてみてよ、ホラっ"

" ちょ、分かって分かったって "


" 〜〜♪ 〜〜♪ "



「……流石に前科持ちじゃ厳しいって。いんだよ、夢は夢のままで…………さ………… 」


突然瞳孔を開いているみたいな目で固まった八参君。


「……、……、…… 」


それを見て真黎さん、シロさん、リュウコウさんが "え、どうした?"とキョロキョロする。


「……〜〜」バタっ


「キャっ⁉︎ 」

「や、八参君大丈夫っ」


「さ、酒、…こんな飲んだの、初めて……らぜ… 」


呂律の回らない八参君を見て、シロさんだけはケラケラと笑っていた。







side八参



←←←←←←←←←

14年前のある朝

←←←←←←





『ドンっ‼︎ 』

「っ… 」


「ご、ごごごめんなさいっ」プチッ

『〜〜♪ 〜〜♪ 』

「ぁわわわわっ⁉︎ すみませんっすみませんっ」


ソイツは慌てて抜けたイヤホンのソケットを挿し直し、心配になるくらいに真っ赤な顔で走り去った。



「…………… 」


けどぶつかられた事も謝罪も頭には無い。


ただこんなにも身近に俺の歌を聴いている人間が居ることに驚いた。



[ ギターかなり上手くなった ]

[ つかその声、どっから出てる? ]

[ 誰とも違う声、低音が中毒性高い ]


登録者が1000人を超えた時やリスナーのコメントも嬉しかったけど、ここまで頭の芯には来なかった。



ーーフルフルッ√


「っ… 」


目の前の生身に届いていると言う実感は、得も言えない感情を揺り動かす。



これ、感動、してんのか……俺は…





……





『ガチャ、バタン』


親父帰ってんだ。


「お〜八参ぃ、ビールが切れちまう。今からちっと買って来てくれ」

「早かったじゃん…ていきなりそれかよ」

「悪ぃな、あと夜飯は弁当で良いだろ?一緒に頼む」

「ういよ」


千円札を二枚渡された俺は鞄を廊下に投げ捨てて、脱いだばかりの靴を履いて外へ出た。





カサカサと揺れる袋を下げ、団地が立ち並ぶ川沿いを歩く。


" そんな一生懸命やったって意味ねーぞ?歌なんて趣味にしとけ "


なんて親父には小馬鹿にされてるけど、始めて5ヶ月で登録者は6000人を超えた。


見てろよダメ大人。

何も出来ねぇガキの下克上を。



" ぁわわわわっ⁉︎ すみませんっすみませんっ "


この中に多分あの女も居るんだろうな。


「ハハっ」




……





それからは登下校時や学校の廊下で何となくあの女を探していた。


そして気が付いた。

ソイツがいつどこで見ても一人きりだと言うことに。


バイトでいつも眠いし人に合わせるのが苦手な俺も友達と言える程の奴はいない。

けど、それでもあんな風に周りから隠れる様に肩を窄めて歩いたりはしない。



別に性格も悪くなさそうなのになんなんだろな…


クラスも違う俺の疑問はそんな程度で終わっていた。

自分の毎日に精一杯のつもりだったから。




……





なんだあれ。


校門前の風景はいつもと違い、男女5人もの教師が登校する生徒に何やら言っている。



「全員このまま体育館へ行きなさい」

「上履きに履き替えたら教室には行かず体育館に行けよーー」


体育館?

なんだ?


そんな疑問を浮かべつつ教師の脇を抜け、校舎に入り上履きに履き替えると


「なんかうちの生徒が自殺したらしいよ昨夜。電車に飛び込んだって」

「え、嘘?あれうちの生徒?昨日親父が足止め食ったやつじゃん」


廊下を歩く生徒の会話が耳に入る。





……





『ガチャ、バタン』


「お〜おかえりぃ」


スタスタスタスタ…

「あれ親父の言う通りだったわ」


「あん?何?飯…は… 」


スタスタスタスタスタ…


『ガチャ、パタン』




部屋に入ってすぐにデスクへと座りPCを立ち上げる。


するとアイツの痕跡を探す前にメッセージに目が止まる。


[ 初めまして。私はまだ登録して2週間の者ですが、このチャンネルを教えてくれた友達が先日この世を去りましたーー ]


何だよそれ。



[その子はまだ登録者が10人台の時からファンだと言っていました。貴方の声を聴くと毎日が頑張れるってーー ]


全然元気付けれてねぇし。



[ リクエストを聞いて貰った時は泣きそうになったって言っていましたーー ]


もしか俺が能天気に歌に没頭せず、アイツに一言でも話し掛けてたら…



[ だからお願いです。何年後でもいいので、いつか貴方自身の曲を聴かせて下さいーー ]


こんなことにはならなかったのか?



[ 貴方が絶対に有名になると嬉しそうに言っていた彼女に、どうか聴かせてあげて下さいーー ]


" おはよーさん "

" ………〜っ " タタタタっ


なんて最初は走って逃げられるんかなぁ?



[ 私もあの子と一緒にいつまでも応援しています ]



「ハ、はは… 」



ぽた…


「ずずゥーーーーッ、ハァ〜〜ぁ」



ホント歌だけ届いたってよ、何にもならねぇじゃん…









………………


一ヶ月半後


………






一方的な願いと言うか頼み?ではあったけど、昨夜日付けが変わると同時に最後の投稿をした。



title 「彼方此方の陽と月犯」

穴から漏れ出る惨めな声

3.5万 回視聴・19時間



投稿してすぐとここまで伸びたのは初めてだった。

快挙とも言えるべき結果なのに、こんなにも喜びが湧いて来ないってのはそう言うこと。


この中にアイツはいない。

この世から消しさられたから。



『カチっ、カチ』

「…………… 」


俺は登録者数10000人を目前にしたチャンネルを削除した。





絶対に認める事の出来ないこの不条理を、押し付けられたまま終わらせやしない。









あっという間に師走となってしまいました。

2023も色々とあった年となりましたが如何でしたか?

この作品をお読み下さっている皆様のご健康を心より願っております。

という感じでもしかすると今年最後の投稿になるやもしれません。

来年も頑張れよと思ってもらえる様に頑張りますので、どうぞ評価やご感想を宜しくお願いします。


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