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RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ  作者: neonevi
▽ 二章 ▽ 明日は今日を嗤い昨日は今日を憫んだ
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2-14 Lose Control〜 轍

sideジョウゴ


ーシューーー

「…〜ッ⁉︎ 」バッ


隙を窺うセガツが石段の影に慌てて頭を引っ込めた。


ズサッ

「おいジョウゴっ、本当に矢の発射動作が見えないぞっ」


今知ったみたく驚くバカに呆れもするが、覗き見る鏡越しのあの姿はこの距離でもボヤけやがる。

全く卦体(けったい)通り越して奇っ怪だぜ。

こりゃ不利な地形で行くのは無ぇな。


「くくくっ」

「な、何が可笑しいっ」

「あ?黙れ」

「………… 」


やっぱ任務ってのはこうじゃなきゃぁな。


鈍い痛みを放つ肩の疼きを撫でつけていると、朧気なヤツの気配が靄のように消えた。


「ここからが本番だけど見ての通りの相手だ。おっ死にたくなけりゃ先走るなよ?」

「お、おぅ」


俺の真剣な声音に吃るセガツと頷く面々。





『ザザッ、ザッダダダっダっ』

「フゥッフゥッフゥッフゥッ」


煮え滾る殺意を抑えつつも早まる足。


待ちきれねぇぇええっ


っ⁉︎

『ザザァァッ』


断崖が見通せる少し広がった道の先、待ち構えていたヤツらを見ると吹き下ろしの風が顔を扇いだ。



「……… 」


確かにこの広さなら数的不利は消えるか。


目にした防具にその圧…

この女完全に殺る気だな、分かり易くて好きだぜ。


…ない


…ない


何処からでも反応出来るよう腰を(せくぐ)めた俺は、待ち構える奴らの周囲を確認する。


伏兵は勿論目に付く罠は無さそうだが、弓野郎が女の背後で動いている。


トクっトクっトクっトクっ


得体の知れない相手を前にした緊張感が、久方振りに心地良く身体を揺らす。


イイ感じだぜぇクソ弓野郎。

小賢しいテメェの全部を食い破ってやる。

始まった瞬間が終わりだぞ?


一瞬。


一瞬で殺す。



殺す

殺す

殺す殺す

殺す殺す

殺す殺す

殺す殺す殺す

殺す殺す殺す

殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す


押し寄せる殺意の波で視界がクリアになり、指先がジンジンと熱く痺れてくる。


イイぜぇ、いつでもイケるっ


さぁさぁさぁっ

どっちだ?どっちから来る?


男と女っ

男と女っ

男と女っ

男と女っ

男と女っ

男と女〜〜〜〜〜〜ぁ?


殺る気満々の女が横に飛び、突如崖下に消えた…


は?


「×××××××××ーーーーーっ」


そして叫んだ弓野郎は何かを蹴り上げ


「っっ……キャアーー〜ァ〜〜〜〜…〜…… 」


女の悲鳴が遠去かる。


しまッ

ーー『シュゥッ』

『ゴロゴロゴロッ』

「グアァッ」


咄嗟に転がって避けた俺の背後のセガツが叫ぶ。


だが1人しか居ない仲間を何故?


ザっザっザっ…


近付いてっ


ズザッ

「…っ⁉︎‼︎ 」


そして身体を起こし見たヤツは特殊な面当てをし…


風下ッ‼︎


両手に持った何かをこっちへ向け…


「全速で後退しろォォーーーッ」

『ザッザザッーザザザッ』ーー


ブシューーーーーーーーーー〜〜〜ッ


それを勢いよくばら撒いた。






「ハァハァ、ハァハァっ」


石段を登り切った場所まで戻るとあの煙は届かない。


「…っゥ」

「セガツ、すぐに処置する」


痛みを堪えるセガツにタオリが寄る。

右胸外側か、あそこなら後々も問題無いだろ。


「ジョウゴ、あれは何だ?」

「ンなこと知るわけねぇだろ。けどアイツは1人しか居ない仲間を崖に突き落とした。って事は余程の何かなんじゃねぇのか?」


それならば突き飛ばされたあの女の表情も頷ける。


「「「「……… 」」」」


追えない苛立ちから重苦しい雰囲気を醸す仲間達。

それを横に様子を伺うトジョを見ると、トジョはまだだと首を横に振る。


だがここから目的地までは一本道、どんだけ気配が薄かろうが逃げられると思うなよ。





それから少ししてトジョが俺達を呼んだ。



プシュ…シュ…シュゥゥ……


地面には頭に針金の突き立った香水入れの様な容器が置かれ、今にも消え入りそうな情け無い音を立てている。


「「「「「「「……… 」」」」」」」


ザっザ…

「スンスン、やはり薬剤の臭いがするな」


しゃがみ込んで確かめる頭領は俺を見て頷いた。



してやったつもりなんだろなぁ、クソ靄々野郎ォ。

最早加減は出来ねぇからな。








sideシロ


「ハァハァッハァハァッハァハァッ」


" ここ登り切ると木々がある。そこまで進む "


この山の地図を指差したミレによれば岩山はこの先一本道。

断崖の上まで登り切ると西側に疎らに木々が生える緩やかな斜面が広がり、そこから見える尾根を越えればいよいよ衛都(レィレン)へと続く橋がある。


待ちに待ったゴールが目前に迫って来たと言うのに、今オレの精神は目が回りそうな程に乱れている。


「ハァハァッ…ハァハァハァッ」


一つは勿論崖から突き落としたミレの安否。


" キャアーー〜ァ〜〜〜〜…〜…… "


アイツの覚悟には申し訳ないけど、殺人未遂(あれ)は緊急避難として呑み込んで遂行()った。

それに男が二度も女を盾に出来るかよ。


だからこの心中を掻き乱すのはその直ぐ後、虚を突いて仕掛けたあの瞬間の所為。

目に見えて狼狽えるヤツ目掛け矢を放ったオレは、続け様に握った右手の催涙スプレーを噴射し後続を牽制し、その後短剣に持ち替えて一撃かましてやるつもりだった。


なのに、あの野郎はあの距離から放った矢をギリギリで躱しやがった。

殆ど勘で…


圧倒的な場数の差を見せ付けられたあの瞬間、一矢+a報いてやろうとしたオレの熱は一気に冷め、左手の虫除けスプレー(ハッタリ)で戦闘を回避すると言う方向に転換せざるを得なかった。


ギュゥゥッ


だから逃げる。

逃げるしかない。


実力不足の弱いオレに今出来る事は、この任務を完遂し奴等の鼻を明かしてやる事だけ。



「ハァハァッハァハァハァッ、プゥッ」


腹立たしさと口惜しさ、そして逃げ切れるのかと言う焦りを紛らわす様に唾を強く吐き捨てる。







sideホルス



『『ビュオォォォォーーーーーーーーーー』』


吹き付ける風が上着の裾をバタバタと揺らす。

強風に煽られる自分の身体は余りにも頼りない。


ガシっガシっ

「…………… 」


後少し、目の前の蔓だけを見て上がるんだ。


ガシっガシっ、ガシっ…ザッドタっ…

「はぁっはぁはぁっ、はぁっふぅ〜っ… 」


辛爛華の球根を摘み崖上に無事戻ったボクは、地面に転がったまま素材の入った肩掛けカバンを撫でる。


一応目的は達成した。


けど南西の風が強く雲を押し流す空に包まれながら、頭を埋めるのはジャロネラとのこと。

あの落石の後ジャロネラは直ぐに何処かへ消えてしまった。

もう通って良いと言わんばかりに…


「はぁはぁ、はぁはぁ、ふぅーーーー〜〜」

ザッ


考えても仕方ないな。

今は一刻も早く戻ろう。


気持ちを入れ替えたボクはスッと立ち上がる。




ザっザっザっザっザっザっ…

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ… 」


とは言えあのクラスの獣に遭遇すれば無事(ただ)では済まない。

だからこれでもかと周囲に気を配りつつ、慎重に慎重にと山を降りていくと…


ザっ…

「…っ‼︎ 」


下山途中の道を阻むのは、またもあの薄い体色のジャロネラ。


何だよコイツ、また何かあるのか?

それとも結局ボクを狙っているのか?


「「…………… 」」


長い身体をうねらせるジャロネラは、舐めるようにこっちを見ているよう。


はぁ…


でも二度目という事もありボクの危機感は幾分か薄らいでいた。


ズゾゾゾゾッ


「ッ⁉︎ 」


すると突如ジャロネラはクルクルと身体を動かして頭を(もた)げた。


ザ…ザ…


マズイ、あれは確実に攻撃態勢だ…

どうする?戦って…勝てる訳が無い。


ザ…ザ…


逃げ…ても向こうの方が間違いなく早い。

崖下に飛び降りる?いや自殺行為だ。


ザ…ザ…


頭を回転させながら少しずつ後退るボク。


あっ‼︎


『ザッダタタタタッ』


ズゾゾゾゾーーーー〜〜ッ


うわわわァァァァーーーーッ


背中を向けると同時に迫り来る気配。


『ダタタタタタタタッ』

「ハァハァハァハァハァ… 』


ズゾゾゾゾゾゾーーーーーー〜〜ッ


数秒後には餌になる死の連想を振り払い、来た道を死に物狂いで駆け戻る。


あと少しっ


『ジャボジャバババーーーーーーーーーーーーーー』


山頂からの水が絶えず流れ続けて出来た渓谷の水路。


『パラパラ…ドポンッ‼︎ 』


横幅2mも無いそこは今も石が落ちてくる脆い岩の滑り台。


『ダタタタザッダタタタタッ』

「ハァハァハァッハァハァッ」


ズゾゾゾゾゾゾーーーーーーーー〜〜ッ


何処に出るかも判らないこんな所に絶対入っちゃダメだけどでも…


『ザダタタタタッダンッ』ーー


喰われて死ぬくらいならァァ「ァァァアッ」


『ジャバァァッ‼︎』

「うわぁぁーーーー〜〜」ーーーーーーーーーーーーバシャーーーーージャーーーーーーーーー『バシャッバシャッ』

「うわっぷっ」ーーーーーーーーーーーーーーーー


見た目以上の水流に揉まれながら、急激な傾斜で落ちて行く様に右へ左へ滑り降りる。


ーーーーーーーーージャバーーーーバシャっーーーーーーーーーーーーーー〜〜

『ドシャッ‼︎ 』

「ウッっ」ーーーーーーーーーーー〜〜

『バシャンッ‼︎ 』

「ー〜ッ」ーーーーーーーーーーーー


1m程の段差を続け様に落ち


ーーーーーバジャーーーーーーーーーージャパーーーーーーーーーーーーバシャーーーーーーーーーーーーーーー〜〜


更に勢いよく流された先で飛び出したボクは


「うわぁアアッ⁉︎‼︎ 」〜〜〜〜


一瞬の浮遊感の後…


『『ドシャァンッ‼︎ 』』


「わぶァっ⁉︎ 」


1mもない浅い水溜まりに落ちて尻を打った。


「ぃっ痛つぅ… 」


そして尻餅をついたまま3mくらいある滑り降りて来た場所を見上げるけどジャロネラは来ない。


なんとか撒けたか。

落ちる先も止まれるかも判らなかったけど、開けた先で運が良かったな…


バシャ…バシャ…

「ハァハァ、ハァ…はははアハハっ」


立ち上がってビショ濡れの前髪をどかすと、無事に逃げ切った歓喜で笑いが(こぼ)れる。


バシャバシャ

「ハァハァ、っし急ご」


バシャザっザっザっ


と落ちた水場から出て現在位置を確認しようと崖の淵へと進んだ。


((…〜ァ…〜〜ォ… … ))


ん?


途端、不意に耳を掠める音。



ザっザっ

「…………、……… 」


広がる景色を見て直ぐに居場所を把握したボクは、足下に広がる疎らな樹木の生える斜面を望遠鏡で確認して行く。


ん〜

あっ‼︎


「……2、45… 」


視界が捉えたのは斜面を走り登ってくる人影達。


何か叫んでるな。

追われているのか?

でも一団の背後には何も居ない。


あれ?


疑問を浮かべつた望遠鏡を動かして行くと、50mと離れずに先行する何かが草木を揺らして走っている。


何か…いる……けど何だ?


朧げなそれはどれだけ目を凝らしても捉えきれない。


獣?……いや、あれは人…なのか?

よく判らないけど背後の一団とは雰囲気が違う。


けどどう言うことだ?

荒れた山道しかないこの山を登って来るなんて………でもこの方向は間違いなく衛都(レィレン)だし。


追っている一団の服装は統一されているけど、衛士(レィヴ)らのそれとは違う…か。


さてどうしようか…

肝心なのはどちらに正当性があるのかを見極めるって所だけど、ここからそれを確かめる術はない。

となるとこのまま戻りがてら関の衛士(レィヴ)に報告するのが順当なんだけど、もし追っているのが賊だとするならば逃げている人を見殺す事になる。


ふむ、決めた。

この辺の岩を幾つか間に落として分断牽制してみるか。

上手く行けば当面人死には出ない。


これにするか。


『…ズズゥ… ゴロっ… 」


ぐっ重っ


直径1m近い岩は想像以上に重いけど、御誂え向きに形が丸い。


「っんっしょぉぉおいィっ」

『ゴロっゴロっゴロゴロゴロッ 』


動き出したら一気に転がった岩はそのまま崖下へとダイブした。


ーー『ゴロッドッガッガッガッゴロッ』


「ふぅ… 」『パンパンッ』


上手く間に行ってくれよ。


ーーーー『『バガッゴッゴッドゴッガゴッゴロンゴロゴンロゴロンドゴッゴロンゴロッゴロゴガッ』』


「……ふぁ?」


っっっ、5、6、7、8、9ってあぁ〜〜めっちゃ連鎖…


「ら、落石だァァーーーーーーーーっ‼︎ 」


自分でやっておいて注意喚起するとかバカかっ

でもうおおおぉ……人助けしようとして人殺しとか嫌すぎるよっ


ーーーーーー『『『ガラッガッガラガラゴロゴロゴロゴッゴガッゴロドゴンッゴロゴロッゴロンゴロドドッゴロンドガンッゴロゴロゴロゴロッゴロンドゴッ』』』


急いで走ってっ


やばいやばいやばいやばいっ神様ーーーーーーーっ


「……ぁ…〜ぁぁぁ… 」


あっ⁉︎ 良しやったっ


ギリギリのタイミングで先頭の人は無事に通り抜け、斜面を転がる無数の岩は狙い通りの結果を齎した。


「ぶふうぅ〜〜〜〜〜ぅっ」


安堵した途端、ボクは崖の淵でへたり込んだ。


パラパラ…


やっぱり慣れない事はするべきじゃないな。

ビショ濡れで冷えてるのに一瞬で変な汗が噴き出たよ。

とっ…とにかくやれる事はやった。


「良しっ」


急いで帰らなき『ガラッ』〜〜


うわっ、ちょ落ちっ……


崩れた足下を見たボクの目に、20mを超える崖下の地面が映った。


ーーーードッ、ガッ


痛っ、フワッ〜〜


途中の斜面にぶつかって視界が回る。


ーーー空の青崖の茶。


ーー遠くの緑。



『『ドズゥンッ‼︎ 』』

「オゴッぁァっ… 」


衝突した全身が地面で跳ねる。


「……ゥ、っ…ぐ… 」


ぐうっ、息っ、息が…吸えな、いっ…


「ヒュッ…ヒュッ… 」



あ、あ、あ、くっ苦しっ……


「ヒュッ…ヒュッ…ヒュッ」


うあっ、くっ苦し、苦しっ…


「っっっヒュッヒュッヒュ…スゥーーーーッ、ゲッゲホッ、ゲホッ、スーーーーハァーーッハァッハァッ」


やっと吸い込めた空気を必死に取り込む。


けど目になんか入って…


ゴシゴシっ


あれっ血?


「……〜ッ、うぐグッ」


立ち上がらなきゃ…


固い岩の地面を押し掴み、腕の力で無理矢理に身体を起こす。



ズザっ…〜〜ザ…

「ハァ、はぁ、ハぁ… 」


ガクガクと今にも膝が折れそうになる。


でも、帰らないと…



〜ザ…ズザ、ズザ…

「ハァ、はァ、ハァ… 」



父、上… …




姉さ……ん… … …










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