2-10 Unknown Go All
sideホルス
・・・衛主の館。
深夜。
う〜〜ん…
これ、多分生育環境によっては効能が変化するなぁ。
カリカリカリカリカリ…
既存の書籍に実験で判明した注釈を書き加えていく。
「ンーーーーっ〜〜…フゥーー… 」
凝り固まった背筋を伸ばしながら窓辺に置かれたガラス細工へ視線を動かす。
それは昔エスランで貰った思い出の品。
7、いやもう8年か。
今はもう子供の頃みたく出掛けたりはしないもんな。
ラキシミリー…
元気にしてるのかなぁ。
『『ダーンダーンダーーーーーーンッ‼︎ 』』
ッ⁉︎
突如として鳴り響く音。
『『ダーンダーンダーーーーーーンッ‼︎ 』』
いつもの夜を叩き壊す二度目の銅鑼の音で、ボクは椅子を跳ね除ける様にして部屋から飛び出した。
ペラペラペラ…
タッタタタ…
「ハァハァっ、ハァハァハァ… 」
館のエントランスでは使用人達がバタバタと動き回っていた。
「坊っちゃま、お部屋にお戻り下さいっ」
「何事なのっ」
「分かりません。ただ… 」
「…ッ」ダタタタッ
「坊っちゃまっ」
『ガチャ』
ダタっ…
「…………… 」
((ドンドン来るぞ急げ急げーーーーーっ)) ((受け入れ準備は出来てるなーーーーーっ))
((そんなのは後回しにしろォォ))
館の敷地に隣接した軍本部の方からは、ウチの慌ただしさが静かに思える程の声が飛び交っていた。
まさか…
ダタタタッ
ダっタっタっタっタっタっタっタっ
「ハァっハァっハァっハァっハァっ… 」
軍本部の裏へと通じる通用口へ走る。
「…っ、ホルス様っ」
「開けてっ」
『ガチャンっ、ギィィーーーーつ』
扉番の近衞騎士は何も言わずに開けてくれる。
スタ、スタ、スタっスタスタスタスタっ…
軍本部内の廊下を足早に歩き、騒がしいの声のする医療区画に向かう。
スタスタスタ…
『ガラガラガラガラッ』
「急げっ、傷が深いっ」
「コボッ」
「内臓に傷が付いているっ直ぐに縫合するぞっ」
スタスタスタスタ…
戦地の様な第一処置区画は、ロビーまで負傷者が溢れてしまっている。
っ…
また来た。
『ガラガラガラガラガラガラッ』
「どけっ道を開けろっ、奥は空いてるかっ?」
「大丈夫ですっ」
スタスタスタスタ…
まだ来る。
『ガラガラッガラガラッ』
『ガラガラガラガラガラッ』
「出来たらそっちは第三に運んでくれぇっ」
「分かりましたっ。行くぞっ」
「はいっ」
治療の邪魔にならない様に隙間を通り抜け、特別治療区画へと向かう。
スタスタスタスタ…
「…………、……… 」
『ドゴッ』
「わっ⁉︎」
さっきの喧騒から遠ざかった途端、廊下の向こうから鈍い音が響き渡った。
「おいおいおいおい、お前が付いてて何やってんだぁゴラァアっ」
壁が壊れそうな音の先には揉めている風の2人。
スタスタスタスタ…
「すまんっ… 」
違う、第2近衛隊隊長がブレィに掴み掛かってるんだ。
タっタっタっタっ
「ちょっとデウドルフっ、何して…っ」
「ホルス様っ……いやこれは… 」
ボクを見て咄嗟に襟首を離すデウドルフ。
「…スマンっホルス坊ちゃん、俺が悪ぃんだ」
けど離されてもまだ壁に背を預けたままのブレィは、ボサボサに乱れた髪を垂らし俯いている。
スタスタ…
「ホルス、落ち着いて聞いて」
すぐ先の部屋から出て来たレリーシア姉さん。聞き慣れた優しい声のその張り詰めように、ボクの中の嫌な予感が確信へと変わる。
「父上が……意識を失っています」
っ…
「ムーアロゥ師によると今日明日が峠だそうよ。今はシュリーンが居ないから、バルハトと貴方はもしもの時の覚悟をしておきなさい」
「「「………… 」」」
淡々と事実を話し続ける長女さんには、このフラエを治める衛主の子としての覚悟があった。
「ブレィアスト、デウドルフ。貴方達近衞騎士隊隊長の仕事は、ここで無意味な小競り合いをしている事なのですか?」
「…っ、あぁ、そうだな。こんなザマじゃ後でおやっさんに殴られるな」
そう言って乱れた髪を掻き上げたブレィ。
「ブレィっ‼︎ 」
呼び掛けに振り向けたブレィの顔は血と砂で汚れ、さっきまでの戦いの激しさを有り有りと想像させた。
「父上は死んでいない、生きているよ。それはブレィ達が居たからだ」
ボクの言葉を聞いたブレィアストは目を眇めると、一呼吸置いてから小さく頷いてデウドルフと走り去った。
「…ホルス、来て」
そう言った姉さんについて治療室へと入る。
「…来たか」
室内には白衣の2人。
1人は部屋の隅で使い終わったであろう治療器具を静かに片している。
「バルハト様は?」
「呼びに行かせたけどまだ」
しわがれた声に答える姉さん。
「ロゥ師、父上は」
「…やれるだけはやった。後はオージン様の体力次第よな。だがこのまま熱が下がらなければ……… 」
白い眉毛越しの目には相当な疲労が垣間見える。
「子供達が居れば心強い筈だ。出来るだけ側で見ててやってくれ」
ロゥ師はそう言うとボクの横を通り、片付けの終わった助手と共に部屋を後にした。
父上…
身体を包帯で覆われたその身体は痛々しく、精悍な眉は今も歪められ苦しそう。
ギュっ
母上…
どうか父上にまだ来るなと、そう言って追い返して下さい。
ゴツゴツした大きな手を握りながら、目を閉じたボクはひたすらに祈り続ける。
sideミレイン
「なぁ…… 」
" スオルは大丈夫か "
「…あの星スゲェな。CGみてぇ」
続けられた言葉は予想とは違った。
胡座をかきながら両手を後ろにつくシロは、背中を目一杯倒す様に夜空を見上げている。
「表面の凹凸までしっかりと見えるなぁ、過去か未来の地球とかなら笑えるけど」
「××××××。×××××××××××××××××× (心配しなくていいよ。スオルは少し抜けてるけど第3隊の対人戦闘No2だから) 」
その隣に座る私は曲げた膝の裏から両脚を抱えている。
「知らん顔だよなぁ。遠くの星からしたらオレらの事なんてさぁ」
「×××××××××××××××、…××××××××××× (乗り物に装備まで渡して送り出すなんて、…何だかんだとお人好しよね) 」
「何してんだオレ…フフ」
「××…××××××××××、××××××××××× (そうね…でも明日には終わるから、2人でヒロの所に帰ろう) 」
「ボフォ…フォン、ブルブルブル」
そんな風に吐き出される真夜中の二人言+一(体)。
今だけは無理に顔を上げなくていい。
疲れ切った私達は程なく地面に横になり、そよぐ草木に見守られつつ束の間の眠りにつく。
現在地=★ 山道=≡
衛都
◎→→関→↓
蓮冥≡山 ◎ロエ
〜〜 ★ ↓
〜〜〜↓ リプ ↑
深紅山 →→→◎→→↓→◎→→→→→◎→
↓ イファ フエン
第二砦街 ] [
↓←←←←←◎→→→
GS←←←←← ↓ ↓
……
…
翌朝。
『ドガラッドドッドドッドドッドザッ… 』
3、いや4時間くらいは眠れたかな。
馬の背に揺られつつ、確認する身体の調子は悪くない。
カシッカシッカシッカシッ…シャーーーーーーーー…
昨日と同じように走っているシロはどうだろう?
昨夜眠る前は抜け殻みたくも感じたけど、今朝起きるとそんな雰囲気は消えていた。
うん、大丈夫。
あの人はここまで何とかして来た。
だから最後まで信じよう。
『ドザッドザッドドッドドッドドッ… 』
……
…
1時間後。
蓮冥山山頂の険しい岩肌の連なりは、雲を突き破り空を押し狭めるほどに聳え立つ。
『ドザッドドッドドッドドッドドッ… 』
あっ
衛都へと続く山道の入口が、すぐそこまで近付いて来た。
『ドザっドザっドザ… 』
「シロっあそこ、ついた」
馬を止めた私は振り向いてシロに言う。
シューーーーージジュッ
「ハァ、ハァハァっ…ハァっハァっ…ハはははっ… 」
「もう少し、あの先が衛都」
そして嬉しそうなシロに詳しく教えてあげようと、ゴールである岩肌の根元辺りを指差した。
「…………え?高過ぎてよく分からんけどもうちょい下じゃなくて?」
「うん、あそこだよ」
「……そうか、うん分かった」
シロの元気は急速に萎れてしまった。
『ドザッドザッドザっドザ… 』
「シロ、ここからは馬でいく」
シャーーージジュゥ
ガサっバサっ…
ザサっ
「…ッ」
打合せをしていた通りにそう伝えると、シロは降りた自転車を草むらに隠した…直後慌てて双眼鏡を覗く。
「……、……っ、おいマジかよ。…昨日の奴らだ」
そして切羽詰まった表情で双眼鏡をこっちにも渡して来た。
((……ド…ドッ…ドドッドガッドドッ))
敵は騎兵7。
内先頭と後ろ2人が弓。
「ったく、ここまで来て失敗出来るかよ」
するとシロは即座に肩紐に手を掛け背中のクロスボウを取り
キリキリキリキリキリキリキリキリッ
「さぁ、やるぞッ」
ついさっきとは一転した目付きで前へと出た。
((ドガラッドガッドドッドガッドドッ))
「……、…… 」
ドンドン近付いて来る敵達と、片膝をつき的を絞るシロ。
ドカラッドガッドガッドドッドガッドドッ
『シュゥッ』ーーー
ーー「っ⁉︎ 」ドザンっゴロゴロ…
「ゥっシャァッ」
目測50mの先頭の騎兵に命中し落馬。
凄いッ
と喜んだその時…
ザダダタタタタッ
「ウォォラァァァーーーァァッ」ーー
受け身を取った敵兵が猛然と駆け出して向かって来る。
な、なんて速さッ
キリキリキリキリキリキリ…
「シロ止めるッ、それ乗ってさき行って」
「…ッ、必ず来いよッ」
「うんッ」
ガサガサバサっ
一瞬迷ったシロはそう言ってすぐに馬に掴み乗り、茂みから山道へと駆け入った。
シロのこう言う判断の良さは本当に助かる。
あとは私が…
「フゥッ」
ザダダターダタッーー
10mを切った敵の左肩には矢が刺さったまま。
ーーダダッ
「ウォラァッ」
敵はその左手で右の背の剣を抜…かず
ビュッ
右手で隠し持っていた短剣で突いて来た。
『ガギギィィ〜っ』パっ
それを両手の剣で挟みズラすと瞬時に敵は剣を手放し背の剣に持ち替える。
「シィッ」 「ラァッ」
『ドフッ‼︎ 』『ガギィィ』
頭上から振り下ろされる剣を交差させた剣で受け止め、同時に股間を蹴り上げる。
「ッォンーー〜〜〜〜〜っ…くそ痛ぇじゃねぇかよォォ」
『ギリギリギリィィ… 』
「ッっ……〜ッ」
金的はまともに決まった筈なのに、男は受け止めた剣を力で無理矢理押し込んでくる。
「〜〜ッ… 」
何て力っ
ドンドン押し下げ…られるっ
「今の内にもう1人を追「セガツゥゥゥウッ‼︎ 」
ー〜っ⁉︎
怒鳴り声と共に目の前の男から熱が噴き出した。
「コイツは1人で足止めしてんだぞ?テメェは先に死にてぇのか?」
「ッ…… 」
酔狂にも敵を止めてくれた男。
で…も…
『ギギィィ〜…ブシ』
「…〜ぁぐゥ⁉︎ プゥッー」
押し込まれた刃が左肩に食い込んだ瞬間に唾を飛ばし
ー「ッっ⁉︎ 」
「シィアァァッ」グリィっ
同時に左膝を曲げ落としつつ右脚は踏み込み
フッー『バゴォッ‼︎ 』
右半身を反転させた勢いで肘を顎へ叩き込む。
「ゥっグゥ〜… 」
そして蹌踉めいた敵の胴へ
「イァアッ」『ドフッ‼︎ 』
「ッ…… 」
右の足刀蹴り…は固いっ
「……ツぁハァ、いや〜引かずに前へ出るかぁ。タイミングがズレてたら肩が削げてたぜ?山にイチャつきに来た女かと思いきやぁとんでもねぇジャジャ馬だなぁお前」
男は顔を拭いつつ首を動かしているけど、蹴りは大して効いていないか。
「ハァハァ…ハァッハァ… 」
大丈夫、傷は浅い。
「しかも俺じゃなかったら最初の金蹴りで男卒業してんぞ?お〜っ痛ってぇ〜〜」パンパンっ
そう言って今度は下腹部を叩く。
「……ッ」
ダザザッ
そこで私は背を向け全力で山へ。
「ちょ、クっソ… 」
ガサガサッバサバサバサッ
そして胸まである茂みに飛び込んで突き進む。
バサバサッバサッガサガサ
「ハァハァッハァハァハァッ… 」
余裕そうに見せていた男だけど、あれは急所蹴りがかなり効いていた。
けどそれでもあの力と身のこなし。
アイツ、もしかするとクライオス副団長レベルかも…