2-6 人の行く裏に未知あり孕む罠〔P2〕
sideビダン
ドドォーーーー…ーー…ン…ォ…ン…ォ……ン…
「「「「「「「「「「…………… 」」」」」」」」」」
ロエを挟んだこの場所まで響く轟音の残響に、部下達は一斉に深い夜空を見上げた。
「…隊長、衛都へ獣の襲来を報せる救援報です」
耳を澄ましたシャルフが言う。
「あぁ、漸く始まったな」
「…オージンは動きますかね?」
「あれの性格上衛士が半数近く居ない今は自ら動くだろうな。…まぁどちらでも良いさ、戦力が削れれば問題は無い」
「そうですね」
「それでは原っぱでのピクニックはここまでにして、我々はゆっくりとロエに向かうとするか」
「「「「「「「「「「ハッ!! 」」」」」」」」」」
何故自らに危険が迫らねば動けない?
何故痛みを伴わねば理解出来ない?
ならば私が教えよう。
目を逸らせない現実を。
ならば私が教えよう。
特別な命など存在せぬことを。
今宵散り逝く罪なき命達。
喪われるその一つ一つが、やがて哀しみの刃へと成り代わる。
深く刻まれろ。
いつか喉元に突き付けられるそれが、貴様らがして来た事への代償であり罰なのだ。
sideギムント
←ー←ー←
15分前
←ー←ー
『ゴロゴロゴロっゴトゴトっゴロゴロゴロ… 』
こんな時間に関を通過して行く二台の豪奢な馬車は、現恒主の通過免状を持っていた。
俺はその後を追うように前広場を歩き、この関の本壁であり詰所なども備えた三階建の中央棟へと歩いて行く。
中央棟二階。
『パタン』
「っと……… 」
ブプゥ〜…プスゥ〜〜…
「はぁーーーー〜… 」
毎度の事ながら関番は気楽で良いわ〜
キツい訓練はないし隠れて酒も飲める。
ブリブリブリ…
これに手を挙げない連中の気が知れねぇな全く。
けど明日っからまた訓練かぁ〜
萎えるなぁ〜
ブリブ…
「……………フンっ、……… 」
嫌なこと考えたらウ○コ止まった。
ダメだ。
全部出さなねぇとすっきり眠れねぇ。
『ガチャ、バタンっ』
スタスタ、スタスタ…
2人か…
ジョロロローーーーーー〜
「フゥーーーー………… 」
「…どうした?」
「いやな、ここんとこ関に回って来る衛士の連中……いい加減過ぎると思わねねぇ?」
ドキっ
けどこの言い方だと守兵か。
ジョロロロローーーーーー〜
「関に回って来るのは遠征や外任務を望まない家庭持ちだから仕方ないだろ。それに多少ダラけられるのは平和な証拠だ」
そうそう、家庭を持つと肩身が狭〜くなんのよ。
「平和?いやお前1週間前ハーネイムで大事が有ったばっかだろっ」
恒都行きの大商隊壊滅事故(死者84、重軽傷者130以上)か。
ジョロロ〜〜…〜〜…
「まぁでも…よっ、アレは7割が他領の人間だろ?そんだけ移動するには戦力が足りなさ過ぎたんだよ」
「だから自業自得とでも言うのかよ。衛士の人らだって10人近く亡くなったし、俺達の領で起きた事故なんだぞ?守兵としてもっと無いのかよ」
ジャーーーーーバシャバシャバシャっ
「ん〜〜悪い、あんま無いな。そこそこ戦えるから守兵やってるだけで俺は死にたくないし」
「……そうかよ」
『ガチャ、バタンっ』
そう言って2人はトイレから出て行った。
んー〜〜…確かにどんな心構えや気概で臨んだとしても死ぬ時ゃあっさり死んじまうもんなぁ。
少し皮肉が効いてるが、ある意味冷静とも言える…
ブリブリブリブリっ
あっ、出た。
ジャーーーバシャバシャバシャ
けどあんま若い内から仕事への矜持を持たないのもど……いや、今の俺が偉そうには言えんな。
「フゥーーーーっ… 」
バシャバシャバシャバシャバシャっ
少し酒臭い息を吐き出して、少しすっきりしない何かを拭い去るように顔を洗う。
((…だァーー… ))
ん?
((…げぇー〜 ))
何やら騒がしい声が外から聞こえた時
『『『ドドドンッドドォォォオオーーーーーーンッ‼︎‼︎ 』』』
ガタガタガタガタガタ〜〜っ
ー〜ッうぉぉ⁉︎
爆音で建物が揺れる。
この報は獣かっ?
ダタっ
『ガチャっ』
ダタタタ…
「マジか… 」
トイレを飛び出した二階廊下から見る250m先の関外壁は、激流の様に押し寄せる獣達の影に呑み込まれていた。
シュ『ギャギ⁉︎ 』
「ギブルだぞっ怯むなァーーーーッ」
屍肉喰い?
『ギャギっ』『ギキィっ』
「死ねっコラァーーっ」ブシュ
『ギギッ⁉︎ 』
外壁から押し込まれた奴らと、中央棟から飛び出した奴らが前広場で応戦する。
本来なら群でしか動かない小型の牙獣種らは脅威じゃない。
『ヴキャ』『ギャっ』『ギィギィ』
「くんのやラァッ」
「グギャアーーーーー」
しかし今回はいつもとは違う。
体長1m強の個体が関外壁(7m)を乗り越えて来るって事は……
一体どんなけの数で来てんだよ。
「クッ…⁉︎ 」
しまった、外壁に剣を置いて来ちまった。
「ダメだァ、前広場は放棄し中央棟へ退避しろォォーーーーーーッ」
一面を埋め尽くす溢れる程の数の暴力に、抗えないと悟った仲間達は中央棟正門へと一斉に走る。
「うわぁァッ、助けっ…ギャァーーーーッ」
ダタタッ
「コノヤローッ」ザシュ『ギィキッ⁉︎ 』
馬鹿、早く自分が逃げろっ
「ぐぁアぁぁっ、コノッ」ザクッ『ゥギャ』
肩を噛まれた…守兵はギブルを引き剥がし槍を突く。
他は…
「うわぁッ⁉︎ 」ドタっ
『ギキキィっ』『ギャガァッ』
「ぐっ、痛ェーー、このっやめッギャっ」
『ギギキィッ』『ギャキキィ』
「ぎゃぁァっ、離せっこの」「くそっ、来るんじゃねぇ」
慌ててもつれる奴、逃げ遅れた奴から次々飛び掛かるギブルの餌食に…
『ギギッ』『ヴギギっ』『ギキィ』『ギギァっ』
「痛ぇぇ、助けっ」「あがぁぁあっ」
『ギキィ』『ギィっ』『ギギっ』『ギギァ』
「ギャァーー、あぎゃ… 」
『ギィ』『キキィ』
『ギギァっ』
何が起こってんだ…
ドドドォーーーーーーーォン…ォ……ン…
関内が混乱で満たされる中、衛都からの応答報が鳴る。
良し。
後は救援が来るまで耐えれば…
「急げ急げェッ、正門を閉じるぞぉぉーーーーッ」
いや待てそこまで焦るなっ
『『ゴガッ、ギギギィィーー… 』』ーー
しかし中央棟正門は徐々に動き出す。
「ちょま、待ってくれぇーー〜痛ぎィっ」
「おい待てよぉぉーーーーッ」
チッ
門兵共っ
ダタタタタっ『ガチャっ』
「……っ、……、……、…… 」
有った。
ガサガサっ
飛び込んだ備品庫で縄を手に取った俺は窓へ戻る。
カチっ
『ガラガラガラガラガラっ』
俺は開いた窓から身を乗り出して正門を見ると、閉じていく門前でギブルを牽制する守兵達の後ろの隙間はあと4m程。
「1m残して止めろォォっ」
追い縋るギブルを振り払い、必死で逃げている奴らはまだ数十人いる。
ーー『『ギギギィーーーーーーー… 』』ーー
出来る限りの声で叫ぶがしかし、目の前の敵と必死で戦っている最中の奴等には届かない。
「……ッ」
「おい待ってくれーーっ」
「ふざけるなァァーーーー」
門前の守兵達はそれを聞こえない様にして中へと入る。
ーー『『ギギギィーーーーーーー…ドンッ‼︎ 』』
そして分厚い正門は無慈悲に閉じられてしまった。
すると締め出された奴らは各々が逃げるため左右へと散る。
本壁を兼ねるこの中央棟は掴みよじ登る事は出来ないから。
シュルシュルギュゥゥッ
シュルシュルシュルーーーー〜…
「こっちだァァーーーーっこっちへ来いッ。間に合わねー奴は西の厩舎を目指せぇぇっ」
俺は近くの柱に結んだ縄を垂らし叫ぶ。
すると気が付いた数人がこちらへと走って来た。
「おいぃぃっ他に誰か居ねぇのかァァッ、居る奴は備品庫の縄を取って来いーーーーッ」
二階廊下の左右に向かって叫ぶ。
すると階段の下から足音が聞こえて来た。
ダタタタっ
良しっ
そして俺の垂らす縄へと1人、そしてもうすぐ2人目が辿り着く。
「待てッ、お前は後ろの奴が登るまでギブルを止めろッ」
「ンなに言ってんだァァ『グイィ… 』
最初に来た守兵は俺にキレつつ縄を掴む。
「テメェは負傷して無いだろぉがッ、ちったぁ仲間の為にっ… 」
ってこの声は…
" そこそこ戦えるから守兵やってるだけで俺は死にたくないし "
と思い出している間にソイツは縄を登り始めてしまった。
まんまかよっ
ガシっ、タっーーーー
クソガキィっ
ギムント(37) 177cm
*役職
衛都第10衛騎士隊隊員。
*容貌
骨太な四角顔で髭が濃い盗賊顔だがダルそうな目がそれを中和している。
*性格
面倒くさがりだが責任感は強い。




