1-43 Villain〔P2〕
sideウインザ
『ドカラっドカラっドガっドガっドザ… 』
「……、………、……… 」
これは、一体どう言う状況なのだ?
進み入った門には守兵が見当たらず、街中の通りには倒れている者達が何人も…
「リングマー」
「承知しました。直ぐに倒れている者らの確認に移れ。だが獣や賊が潜んでいるかもしれん、救護は後回しにしろッ」
「「「「「「「「「ハッ‼︎‼︎ 」」」」」」」」」
ドガっドドっドカラっ…
…
…
あれは…
『ドガラっドガっドガラドガラっドガラっ』
「団長っ」
近付いて来たのは第9隊隊長ビダンとその部下達。
『ドカラっドザっドザ… 』
「団長……落ち着いて、聞いて下さい」
急ぎ馬を寄せるビダンだが、躊躇っている口は直ぐに開かない。
「ビダンっ、一体何があったのだ?」
「……侵入した賊共に攫われました。団幹部の家族が… 」
ん?
顔色の悪いビダンが躊躇った様に言う。
「攫われた…だと?賊に?」
なんの冗談かと思った。
この第二砦街は衛都への関も兼ねる領内随一の防衛態勢を誇る街。
それをたかが賊に荒らされるなど…
「賊の数は?それにビダン、貴様も含めここに残っていた衛士達は何をしていたのだ… 」
震える程の怒りを押し留め、先ずはこの不可解な状況の把握に努める。
「…正確な数は不明ですが、おそらく100〜200前後かと。それと我々は第3隊隊長ベルキーの強襲を受けました」
「バカなっ‼︎ 」
声を上げたのはリングマー。
元々は傭兵だったベルキーへ声を掛けたのはコイツだった。
「それで?」
私は手をかざしてリングマーを止める。
「第3隊は突如団本部を強襲し、その混乱に合わせ賊共が街へ雪崩れ込み… 」
そう言って俯いたビダン。
背後の部下達には手当の後が見える。
確かに味方に突然裏切られては仕様も無いか…
「奴の要求は?それと居なくなった者達の再確認はしたのか?」
「これが団長宛てに。それと奥様は外出された折に… 」
レィシン…
ビリリ…パサっ
「………………フゥーーーーーー… 」
「ベルキーはなんと?」
「…お呼びの様だ。東の平原にな」
[ これを読み次第地図の場所まで一人で来い。貴方が街に入るのは確認している ]
場所は街を出て30分程か。
狙いは私と言うことになるが……ベルキーらに恨まれる覚えが一つとして浮かばん。
「………ッ」
リングマーは悔しそうに顔を歪める。
「ビダン、クライオスはどこだ?」
「副団長と第2隊の一部は現在外回り任務中です。先程の集合報が届いているとしても、戻るにはもう暫く掛かるかと」
「……そうか。待つ時間は無いな」
この第二砦街で…いや、私が一番頼りにしている男がいない。
この事実は私の心に空寒さとして現れる。
「リングマー、相手は斥候の第3隊だ。1456の精鋭を選抜し、奇襲に長けた強襲班と二重の包囲班を編成しろ。そして今から1時間後、この場所にて準戦闘距離で待機。残った衛士は全て街の防備だ。衛都への伝信も忘れるな」
手に持った手紙をリングマーへ。
「…了解しました。しかし団長、お一人で行かれるのはやはり… 」
「後手にまわった以上今は従う他あるまい。それに奴らの狙いが私の命ならそれなりに足掻いて見せる。簡単に殺られはせんよ」
「………… 」
「それとビダン、さっきの集合報でミレインが来るだろうが… 」
「えぇ分かっています。頼れる副隊長ですがご家族の事です……、残っている第2隊の連中にも上手く伝えます」
「あぁ、頼んだぞ」
「はい。ですが団長、くれぐれもお気を付けを」
「フ、危機こそ冷静にだ。…分かっている」
私はそう答え街を出た。
……
…
『ドカラっドカラっドガっドカラっドガラっドガっ… 』
街の東から出て平原を30分程走る。
そろそろ指定の場所の筈だが…
「……っ」
あそこか。
『ドカラっドガラっドガっドザ… 』
「第二砦街、団長のウインザだ」
((〜〜ぅむ… )) ((むぅむぅ… )) ((むぁ〜ぅっ…))
指示通りのそこまで行くと、人質が本当だと言う事を知る。
「…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、」
70人程の賊共に囲まれている布を噛まされた顔を確認する。
「「……… 」」
レィシン…必ず助けるぞ。
リングマー達が着くのは7〜8分後と考えつつ馬から降りる。
「ベルキーーーっ、出て来いッ」
「……なぁ、ベルキーってぇのは誰のことだ?」
そう言って1人の男が進み出て来た。
誰のことだと?
だがベルキーを始めとする第3隊の者が見当たらない。
なんだ?どうなっている?
「…ははっハハハハハハハっ、それにしても1人でのこのこ出て来るとはな。やはり自分の身内は特別だよな?」
「あぁそうだ。それで貴様らの要求は何だ?どうしたら人質を解放してくれる?」
「……なぁ団長様よ?俺らの中の1人にくらい見覚えはねぇか?」
「…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、」
見覚え?
「…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、」
誰だ?
「…、…、…、…、…、…、…、…、…、…、」
記憶力は悪くない私だが、誰1人として記憶に当てはまらない。
「フっ…いやまぁそうだよなうん、気にするなよ。どうでも良い質問だ」
その言葉通り男に気にした様子はない。
あと4分程か。
「…ならば要求を教えてくれ」
「………解放だ」
「誰をだ?人質の交換ならば可能な限り応じよう」
「そうか、それは有り難い」
本当に交換で済むのなら言う事も無い。
「ならば… 」
「全員だ」
全員?
「ここに居る俺達を含め全員の解放を約束しろっ」
ッっ……
「と言う事は貴様達は……犯罪労働者なのか?」
「そうだ。俺達はアンタらが獣の餌にしようとした、どうしようもない屑の生き残りだ」
「待てっ、確かに従事する場所は危険だ。だが獣の餌にするつもりなどある筈が無いっ。そんな事をして我々に何の得があると言うのだっ」
「さぁな。獣の調査か研究か…そんな事は知らんがな、聞いていた通りに獣が襲って来たのが何よりの証拠だろぉがァッ」
獣が襲って来た?まさか…
「ヘイドか?貴様達が従事していたのは」
「あぁそうだ。そこで助けられたのが俺達だ」
助けた…
それもベルキー達第3隊が?
いや我々がヘイドへ向かう時、第3隊は…砦街に待機していた。
一体何が起こっていると言うのだ?
私の胸の中に湧き上がる嫌な予感はどんどん増していくがしかし、今は人質の安全と奪還が何にも優先される。
回り込ませた各班が配置についた頃だがこの状況…
「聞いてくれっ」
タイミングを間違えれば多くの犠牲が出てしまうな。
「先ず命を危険に晒されたそちらの要求には応じたいと思う。だが獣の餌にしようとしたと言う事実は決してないっ。もしそれが事実であったのなら、諸君らの刑期期間分衛士と同じ報酬額を払うと約束する」
「…………… 」
初めて男の表情に動揺が走る。
この者達も…
「団長ッ‼︎ 」
後方からするその声はまさか…
「ビダンッ、まさかお前がっ」
振り返るとリングマーを始めとする部下達は、ビダンの部下である第9隊に拘束されていた。
「団長、嫌なものを見たくなければ大人しく従ってくれ」
そう言ったビダンの表情には、先程までの動揺の一切が消えていた。
……
…
ザっザっザ…
「ビダン隊長」
「どうしたシャルフ」
「それが実は… 」
連行された私達が砦街へ戻ると、駆け寄ったビダンの部下が何かを伝えた。
「…そうか。仕方があるまい」
そう言ったビダンは私を見る。
「同じ様な手を使いましたが団長、貴方の優秀な娘さんは捕らえられなかったようだ」
そうか、良くやったぞミレイン。
「違う、違うぞ団長。私は貴方も貴方の家族も誰も殺したくないし傷付けたくもない。家族を失う苦しみを誰よりも解っているからな」
「ッ…何をっ」
「事実を見てくれ。今ミレインが逃げたと言うのに、我々は貴方方に何もしないだろう?」
そう思って辺りを見るが、ビダンの部下達は誰も動いてはいない。
「だが当然このままと言うわけにはいかない。残念ですがね」
私の耳元で囁く様にそう言ったビダンは、言い終えるや否や背中を向け私から離れた。
「ミレインを追えぇぇッ。相手は第2隊の副隊長、生け捕りは難しいだろうから殺しても構わんっ」
ビダンは厳しい口調で指示を出すと、ヤツの部下達は直ぐに動き出した。
っ…
すまんミレイン、どうか衛都に…
しかし裏切りに対し何も備えていなかった私には打てる手立てが無い。
が、まだだ…
「直ぐに連れて行け」
「了解っ」
ザザっザザっザっザザっザ…
そして私達団幹部とその家族は留置施設へと連行される。
ザダタッ「〜ゥッ⁉︎ 」『バキィ』
突如として上がる呻き声。
『ドガ』ザタタタタ『バタンっ』「ぐぁッ」
素早い足音。
『ガキィッ』『ドゴッ‼︎ 』
「ガぁッ‼︎ 」ザザザッ「オゴぉ〜〜ッ」バタっ
来たかッ
ビダンの部下達を強襲したのは第2隊の精鋭。団本部前は一瞬で大混乱へと陥った。
「第9隊ッ人質を殺せェェっ‼︎ 」
殴り付けるようなビダンの声に視線が集まると、ビダンの首にはクライオスの剣が当てられていた。
「「「「「「「「「「「…ーー〜ッ⁉︎ 」」」」」」」」」」」
一瞬で凍り付く全衛士。
そこには敵も味方もない。
「ビダン、そこまでにしておけ」
「……ミレインと言いやはり立ちはだかるのは副団長の率いる第二隊の精鋭だなぁフフ。その為にここまで骨を折り一枚一枚引き剥がして来たのだが、しかし団本部前か……御誂え向きのこの場所で、苦楽を共にした者同士共に果てるとするかァッ」
静寂の中で1人踊る様なビダンの声。
そこに恐怖の色は皆無。
剣を握るのがあのクライオスだと言うのに。
「本気の様だな……がそれに部下も付いて来れるのか?」
「ハハハ、数秒後に死んでいるかも知れない私には知る由も無いな」
「…、…、…、… 」
クライオスは目だけを動かしビダンの部下達を見る。
「そうだな、一つだけ言って置くとしよう」
そう言ったビダンは相変わらず平静そのもの。
「私の目的はこの第二砦街ではない。だから貴方がこの剣を納めれば、この場の誰も傷付きはしないと約束しますよ。……さぁ後は貴方次第だ副団長」
「…、……… 」スゥ
「…賢明だ」
一瞬私を見たクライオスは、直ぐにその剣を下げて納めた。
「「「「「「「「………… 」」」」」」」」
それに合わせて第2隊の隊員達も投降する。
ザっザ…
「良いかよく聞けッ、抵抗を見逃すのは今のが最初で最後だっ。私とて出来れば被害者を出したくはないからな。だが次に誰かが私達の邪魔をすると言うのなら、私は容赦なく人質の命を奪う。 金輪際容赦はしないッ‼︎ 」
言い終えたビダンは私を睨む。
「………皆、すまない。ビダンの言う通りにしてくれ」
ーー〜〜そして私達は囚われの身となった」
「…そっか」
想像していた部分との齟齬が有ったのか、聞き終えたミレインは少し疲れた様に呟いた。